第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。
玄関の鍵を開けると、家の中はシーンとしていた。
とりあえず、「ただいま。」と言ったが返事はない。
「まだ帰ってないのか。」と呟くと、
「ママは今日遅番だぞ。」
「ギャっ!」
後ろからいきなり声がして、思わず叫んだ。
振り返るとそうちゃんが立っていた。
「なんだ、そうちゃんか。びっくりさせないでよ!」
「いや、めっちゃ駐車場に停まってたよ俺。」
「え?いつから居たの?」
「チャイム鳴らしたけど、誰も居なくて。暑いから車で待ってた。そしたら、すーと大輝が来て…なんか空気悪そうで……喧嘩した?」
全部見てるやん。
「もう。とりあえず、入ろう。暑い。」
ため息をつきながら、靴を脱いだ。
そうちゃんも、私に続いた。
ピッ。
エアコンのスイッチを入れ、台所で手を洗いながら、私は口を開いた。
「こないだ面談があってさ。」
蛇口の水が生ぬるかった。
泡を流し、タオルで拭いた。
「うん。」
そうちゃんが変わって手を洗う。
「N女子行こうと思ってたんだけど、オトヤンがさ。あ、担任ね。」
「はいはい。」
手を洗い終わったそうちゃんに、タオルを渡した。
「X高とかR付属目指したら?って言われて。」
私は冷凍庫を開け、バニラアイスを取った。
「へー、俺もアイスいい?」
「うん、いいよ?チョコ?バニラ?抹茶?」
「抹茶」
抹茶アイスをそうちゃんに渡した。
2人でソファに座ってアイスの袋を開けた。
そうちゃんがアイスを咥え、私に手のひらを見せた。
私はそこにグシャっと丸めたアイスの袋を乗せた。
「それで?」そうちゃんは袋を捨てて、言った。
「まぁ、無理だったらN女子に進路戻せるんだし、高みを目指したら。って言われて。ママもそうして欲しそうだったし、とりあえず塾行こうかってなって。」
アイスを一口かじった。
「うんうん。」
「で、それをさっき大輝に話してのね。
そしたら…なんか…」
「いい反応じゃなかったんだな。」
そうちゃんは一口で、半分くらいアイスを食べた。
「まぁ、そんな感じ。」
「んー。お!当たった!」
そうちゃんは、アイスの棒を私に見せてきた。
「ちょっと。当たり棒とかいいから!こっちは真剣なんですけど!」
「ごめんごめん」とそうちゃんは笑った。
わざとらしくそうちゃんを睨みつけ、また一口アイスを食べた。
「でも、やりたいことも別にないしさ、大輝に悲しい思いさせてまで、行きたいとかないし。N女子だったら推薦貰えるって。楽に受験終われるし、そっちでもいいかなぁ〜って。」
アイスの棒を持ったまま、そうちゃんはソファに頭を預けた。
「まぁ、そう言う考え方もあるよな。」
そうちゃんは、アイスの棒をクルクル、クルクルと指の中で回した。
「んー…俺の考えを言っても良い?」
「どーぞ。」
アイスを食べながら、頷いた。
「やりたい事がない。だったら尚更、学力の高い学校に行っておいた方がいいと、俺は思ってる。」
「どう言う事?」
「これから先、すーは人生のいろんな分岐に立つ。その時に、知らないことがあると選べない道がある。知らない道は怖いよな?
今後、すーのやりたいことが見つかった時に、あなたの学力じゃ無理ですよ。ってことも出てきたりする。」
「うん。」
「だからさ…まぁ…。将来の自分の足を引っ張らない様に。勉強は…しとけ?」
そうちゃんは、おどけてみせた。
残り一口のアイスを、私は食べた。
アイスの棒には、「あたり」の文字。
知らないと選べない道がある。
出来ない事がある。
将来の自分の足を…引っ張らないように。
勉強する。
いつか私にもやりたい事ができるのかな。
「大輝も、分かってると思うぞ?
良くも悪くも自分の気持ちが表に出る。
それが大輝の良いところだ。」
そうだなって思った。
私はアイスの棒を眺めながら、頷いた。
「私も…アイス当たり。」
頑張ってみよう。そう思えた。




