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第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。

新学期に入った途端、なんだか先生たちの雰囲気が変わった。

最高学年。中体連に受験。

イベント目白押しの1年。

この1年がいかに大切かを先生達は、熱く語った。


正直、自分との温度差があり過ぎて、少し引いた。



けれど、毎月模試があったり、塾に入る子達も出てきたり、今までとは違う雰囲気が学年全体に少しずつ出始めたのは、中体連が終わってからだ。


私たちバレー部は、元々そんなに強くない。

最後の大会だからと気合は入っていた。

一つでも多く勝ちたい。

この気持ちに嘘はなかった。


でも、予選敗退した時、「まぁ、こんなもんだよね。」って思ってしまったし、カコも同じような事を言って笑っていた。

あとは、次の代に任せよう。

あっさりと私達は引退した。



「帰ろー。」

ホームルームを終え、カバンを持ってカコに言った。

「あ、ごめん。私今日から塾行くことになった。」

カコが、渋い顔をしながら言った。

「え、そーなの?!カコ、塾行くの?!」

「一応部活終わったし、受験生やん?一昨日の三者面談で行きたい高校、今の成績じゃ落ちるってオトヤンに言われたんだよね。」

オトヤンとは、私達の担任。

音金 ゆう…。

"ゆうじ"だったか、"ゆうし"だったか

覚えていないけれど、音金先生のことだ。

「私、明日三者面談だわ。」

「オトヤン、あのフニャってした感じで、ズバズバ言ってくるから気をつけた方がいいよ。」


何をどう気をつければいいのか。


カコは、あからさまに肩を落としてみせて

「じゃあ、私は地獄に入門してくるよ。元気でね。」

と言って教室を出て行った。


私も全く何も考えていないわけじゃなかったけれど、

大輝と同じ駅のN女子校に行こうかなと思っていた。

N女子校は、この間の模試でもA判定で、今の成績で十分そうだった。




「橘高さん。N女子校行きたいんですか?どうしてですか?」

オトヤンが目を細くして笑った。

隣でママが私を見ている。

「んー…なんとなく?家からも通いやすいですし。」

「そうですね。2駅ですしね。でも、橘高さん。あなたはもう少し上の学校目指せると思いますよ?」

「上の学校と言いますと?」

ママが割って入った。

「X高校とかR大付属とかも、目指していいんじゃないでしょうか?」

「え!本当ですか?」

ママが驚いた。

「すみれさんは、大体いつも学年では10位前後ですし、模試の成績もこれから本腰入れて勉強すれば、十分間に合うと思ってますよ?」


でも、やりたい事もないしな。

X高もR付属も、大輝とは反対方向だしなぁ。


なんて事を考えて、目の前の進路用紙に視線を落としたまま、私が黙っていると、オトヤンは続けた。


「橘高さんは、良くも悪くも要領がいいように見えています。勉強も"まぁこんなもんでいいだろう"が、何となくわかってやっている。それはいいんです。

けれど、人生の分岐点を決める上で、"こんなもんでいいだろう"は、良くないと思いますよ。」


自分が要領がいいと思った事はなかった。

けれど、図星を突かれた気がした。


私は今まで、何かに必死になった事があっただろうか。


「橘高さん。とりあえず、N女子でないといけない、という明確なものがないのであれば、高みを目指しましょう。難しそうであれば、受験先を変えればいいだけですし。

まぁ、どうしてもN女子に行きたいのであれば、橘高さんの成績なら推薦も取れますので、また言ってください。」


顔を上げてオトヤンを見た。

オトヤンは目が細い。いつもフニャッと表情は緩んでいて、笑うとお多福みたいな顔になる。

そんなオトヤンが、真剣な顔で私を見つめていた。

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