第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。
そして、大輝の受験は無事に終わった。
部活が終わり、アパートに帰ると大輝が待っていた。
私を見つけると「よっ!」と手を挙げた。
「受験お疲れ。どうだった?」
私は大輝の前に立った。
「うん、出来たような出来てないような。
分かんないけど、もう開放感がやばい!」
そう言って笑いながら、
大輝は私の手を取り、自分のポケットに入れた。
私達は、近くの公園まで歩いた。
大輝は、受験の緊張から解放されたせいか、いつもよりテンションが高かった。
私達は公園の自販機でココアを買い、ベンチに座った。
「受験も終わっちゃったし、卒業だね。」
温かいココアを握ったまま、私は言った。
「寂しい?」
大輝は一口ココアを飲んだ。
「そりゃぁ〜…まぁね。」
パキッ。
蓋を開けて、私も一口飲んだ。
温かくて、甘くて、冷えた身体にじわっと沁みた。
「俺はめっちゃ寂しいけどね。」
大輝の良いところは、こうやって自分の気持ちを素直に口に出せること。
それに引き換え、私は、
「でも、新しい出会いとかさ。きっとあるよね…」
なんだか、嫌味な言い方になってしまった。
そう思ったけれど、胸の中のモヤモヤが膨れていく。
「まぁ、そうだろうな。」
やだな。
そう思った瞬間、目が熱くなってきた。
そして、ポタッポタッとココアを握った手に雫が落ちた。
ふと、前もこうやって泣いたことがあったなって思った。
でも、あの時と違うのは…
大きくて、温かい手が私の頬を包み、上にあげた。
親指で私の涙を優しく拭いてくれた。
私は、大輝の顔を見つめながら言った。
「高校に行ったら、他に可愛い子がいるかも。」
大輝は笑った。
「俺、男子校だよ。」
「同じ駅に女子高生も降りるって。」
「見てないよ。」
「向こうは見てるかもしれないじゃん。」
ボロボロと泣く私を、大輝は笑いながら抱きしめてくれた。
「すみれも、そんな心配してくれるんだなぁ〜」
大輝は笑いながら、言った。
「俺だけなのかと思ってたよ〜」
「え?おれだけ?」
私は大輝を見た。
「すみれは、あまりヤキモチ妬いたりしないんだと思ってた。」
「それは、ちゃんと大輝は私が好きって分かってたから。」
「俺も今ちゃんと愛されてるって分かって、安心した。
大丈夫だよ。すみれが好きだよ。」
「うん、私もだよ。」
胸の中のモヤモヤがスッと消えた。
ちゃんと話して良かった。
私達は、笑い合った。
その後、アパートまで大輝が送ってくれた。
「そうちゃん来てるね。」
大輝がアパートに停まってる車を指差した。
「て言うか、いつからそうちゃんと仲良くなった?」
「あ、塾の帰りに寄ってたコンビニで、たまに会っててさ。時々、奢ってもらってたりしてた。」
「そうだったの!」
「実は連絡先も交換してる。」
そう言って、大輝は携帯の画面を私に見せた。
私より先に大輝とメアド交換?!
そうちゃん、あとでお説教だ。
「じゃあ、また明日。」
「うん、気をつけて。」
玄関を開けると、3人の「おかえりー」って声が響いた。
リビングのドアを開けて、カバンも置かずに私はそうちゃんの横に座った。
「ねぇ。何勝手に大輝とメアド交換してんの?」
「え、あれ。ダメだった??」
「ダメじゃないけど。」
「大輝は友達になった。コンビニ友達!」
やべって顔をしながら、そうちゃんは言った。
「なんだよそれ。」
私は笑った。
「そうちゃん。ちゃんと話せたよ。ありがとう。」
そうちゃんはニコッと笑って、
「総一相談室、またのご利用をお待ちしてます。」
とふざけてみせた。
きっと、またすぐ行くことになるだろう。
総一相談室。
そして、1ヶ月後。
大輝は、中学を卒業した。




