第五章 そうちゃんって、聞き上手だよね。
空の雲が厚く、どんよりとしている。
まるで今の私のよう。
こんな気持ちで、私は今年を終えていいのか。
こたつの中から、ぼんやりと外を見ていた。
中学生になって2度目の正月。
「仕方ないよ〜。大輝、受験生なんだもん。」
ママが唐揚げを揚げながら言った。
向かいに座ってそうちゃんはコーヒーを啜った。
「分かってるけど!初詣は一緒に行けるように、頑張るって言うから、今まであんまり会わずに我慢してたんだよ?!」
「受験生の冬休みってラストスパートだよ?」
「分かってるけど!!1日くらい!」
「その1日すら、不安な時期なのよ。」
「分かってるけど!」
こたつの上のみかんを手に取った。
これで4つ目。
手がオレンジになってきた。
「分かってるなら、理解ある女を演じる。」
「りかいあるおんな??」
ママが振り返って言った。
「私は大輝を応援してるわ!頑張って!私はいつでもあなたを信じてる!」
「な…なにそれ。」
「ブハッ!」
そうちゃんがコーヒーを吹き出した。
私は睨みつけながら、そうちゃん目掛けて、ティッシュの箱を滑らした。
シューっと音を立てて、箱はそうちゃんの前で止まった。
「サンキュ。確かに、中学生男子には、
1番効くかもね〜」
そうちゃんは、頷きながら口を拭く。
「そうなの??」
「すみれのキャラではないけどね〜」
ママにそう言われて、なんだが私が理解がない女みたいで悔しかった。
「…楽しみにしてたのにな。」
5個目のみかんを手に取ろうとすると、
ママから弾かれた。
「そのへんにしなさい。今日はお寿司よ。」
「え?!本当に?!」
「総一の家にお邪魔するから。」
「そうなの?!なら、我慢しよ〜。」
「4つも食べれば十分でしょ。」
夕方、そうちゃんの車でそうちゃんちに向かった。
そうちゃんのお父さんが、筑前煮を作ってくれていた。
ママが作ってきた、唐揚げとサラダ。
そして、そうちゃんが持ち帰りしてきたお寿司。
りっくんの一件以来、
ママは私たちをおばあちゃんの家に連れて行かなくなった。
たまに、おばあちゃんはアパートに遊びにくるけれど、おじいちゃんの顔は数年見ていない。
紅白を見ていると、いつのまにかコンビニに出かけていたそうちゃんが帰って来た。
「すみれ、お客さん来てるよ。」
「え?そうちゃんちに私のお客さん??」
意味がわからない。
立ち上がって窓の外を見ると、
大輝が立っていた。
私は慌てて外に出た。
ガラガラっと玄関を開けると、
大輝がニコッと笑って、手を上げた。
「やっほ。」
「どうしたの?」
「塾終わりに、コンビニに寄ってたら、そうちゃんと会ってさ。すみれが来てるって聞いて、連れてきてもらった。」
「大晦日まで塾行ってたの?」
「うん、自習室が開いてるから、そこで。」
「そうだったの…」
相手をしてもらえないって不貞腐れてた、数時間前の自分が情けなくなった。
大輝は大晦日まで塾に行って。
「ごめんな?初詣も行けそうになくて。俺が日頃からちゃんと勉強しとけば、一緒に行けたのにな。
サッカーばっかしてたから。」
「ううん、そんなのいいんだよ。今は受験だけ考えて。」
本心だった。
「ありがとう。でも、受験まで全く会えないのは、俺が寂しいから、また会いに来るよ。」
「分かった。待ってるね。」
ガラガラと、玄関が開いた。
「終わったか?大輝、家まで送るぞ。」
「ありがとうございます。」
雪がチラチラと降り始めていた。
そうちゃんの車で帰っていく大輝に手を振った。
理解ある女…
そんなの意識しなくても、私は大輝を応援したい。
そう思った。
そして、ハッと我に返って思った。
いつ、大輝とそうちゃんは仲良くなったんだ??
咄嗟に振り返ったけど、そうちゃんの車は見えなくなっていた。




