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第三章 そうちゃんって、かっこいいよね。

次の日、私はママとりっくんより先に家を出た。



「りっくん、今ごろなにしてるかな」

って、何回も考えた。


そうちゃんのお家で、

ほんとに“お仕事”してるのかな。



昼休み、鬼ごっこで思いきり走って、思いきり転んだ。

ひざがジンジンして、ちょっとだけ泣きそうになった。


保健室のにおいは、いつも少しつめたい。

先生が、やさしく絆創膏を貼ってくれた。


「陸斗くん、今日は学校きてる?」


急に名前が出て、びっくりした。


「ううん。りっくんは、ママの…」


ママの……


「…お友達の家に行ってます。」

「そっか…元気?」

「はい、家では元気ですよ。」


先生は、優しく頷いた。



「りっくんはなんで学校行きたくないのかな?」


気づいたら、口が動いていた。


だれにも聞けなかったこと。

聞いちゃいけない気もしてたこと。


先生は、すぐには答えなかった。

少しだけ、遠くを見るみたいにしてから言った。


「陸斗くんはね、心でたくさん考える子なんだと思うな。だから、心が少し疲れちゃったのかもね。」


心が、疲れる。


足が疲れるのはわかる。

鬼ごっこしたら、すぐわかる。


でも、心って、どこにあるんだろう。


分かるような、分からないような。


でも。


りっくんは、疲れてる。


それだけは、なんとなく、

ほんとのことみたいに思えた。





りっくんが、そうちゃんの家に行くようになって、

ひとつきが経ったころ。


りっくんの顔は、すこし黒くなってた。

前より、まぶしくて、なんだか外のにおいがする顔だった。


夕ごはんのとき、急に、りっくんが言った。


「ぼく、あした学校行こうかな。」


おはしを持つ手が、ぴたっと止まった。


ママは、

「そっか。わかった。」

って、いつもみたいな声で言った。


びっくりするほど、ふつうの声。


でも、ママの目は、すこしだけ、やわらかくなってた。


りっくんは、

「うん。」って、小さくうなずいた。


次の日の朝。


りっくんは、本当に学校に行った。


そして、その日から、りっくんが「おなか痛い」って言うことは、なくなった。


ほんとになくなったのか、言わなくなったのか、

それは、わからない。


でも、

りっくんは、ちゃんとごはんを食べて、

ちゃんと寝て、

ちゃんと学校に行った。


それが、なんだか、

すごいことみたいに思えた。


りっくんが学校に行きだしてから、

なんだか家の空気が、すこしだけ軽くなった。


私はうれしくて、放課後まっすぐそうちゃんのところに行った。


「すごいよ!そうちゃん!!

りっくん、学校行けるようになった!

何したの??」


そうちゃんは、トラックの横でタオルを首にかけたまま、「何もしてないよ?」って言った。


「えー、うそだ。」

「仕事、手伝ってもらっただけ。」


ほんとにそれだけ、みたいな顔。


「そうなの??」

「そうだよ?」


私はちょっと考えた。

じゃあ、なんで?

りっくん、あんなにお腹痛いって言ってたのに。


「じゃあさ、なんでりっくんは行けるようになったんだろ。」



「んー、さぁな。

りくも、行かなきゃって思ってたんだろ。本当は。」


私は黙って、そうちゃんを見た。

すると、そうちゃんがちょっと笑って言った。


「それに、一番すごいのはママだよ。」


「なんで?ママ、何もしてない。」


ほんとに、何もしてなかった。

学校行きなさいって怒らなかったし。



そうちゃんは、ゆっくり言った。


「待つって、意外と一番難しい。」

「どう言う事??」


私が聞くと、そうちゃんはまた笑った。


「いつか分かるよ。」


いつか、っていつ。



でも、りっくんと一緒に行く学校の方が

私は好きだった。


そして、ママが、嬉しそうに

手を振ってくれる事が

私も嬉しかった。


そう思いながら、ふとそうちゃんを見上げた。



あれ。そうちゃんって、こんな顔だったっけ?



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