第三章 そうちゃんって、かっこいいよね。
葉が混じり始めた桜の下。
いつもの通学路を、私はひとりで歩いていた。
今日は、りっくんがいない。
朝、お腹が痛いって言ってた。
最近、よく痛くなる。
今週で二回目。
先週は三回。
夜は、元気なのに。
桜の花びらが、ひらひら落ちる。
りっくんの腹痛は、少しずつ増えていって、
気づいたら、
学校に行かなくなった。
「私だって休みたいのに。いーなー。」
そう言ったら、ママに睨まれた。
「りっくんだけ、ひいきだ。
あーあー、やだやだ。」
自分でも、ちょっと嫌な言い方だなって思ったけど、止まらなかった。
りっくんは、私とママがいない間、
おばあちゃん家に行っていた。
でも、ある日。
ママと一緒に迎えに行くと、
夜は元気なりっくんが、元気じゃなかった。
「どうしたの?」
ママが聞く。
りっくんは、首を振るだけ。
その時。
「いつまでこんなんやって休ませとくんか。
お前がガツンと言わんけん、甘えるんやろうが」
おじいちゃんの声。
空気が、ぴん、と張る。
「理由があるけん、行けんくなっとるんよ。
陸斗は甘えとるんやない。」
ママの声も、固い。
「不登校なんざ甘えやろうが!
みんなキツイ思いして、学校行きよろうが!」
「“みんな”って誰?
誰と比べて話しよると?」
「だいたい、こんなして休んどる間もうちに居らんと、
お前は仕事も行けんやろうが。
世話になっとる立場で、その態度はなんか!」
「お父さん!」
おばあちゃんの声が割って入る。
静かにならない。
「もういいです。
もう連れて来ませんから。
お世話になりました。」
ママは、私とりっくんの手を引いた。
強い手。
外の空気は、冷たかった。
「ほっといていいから。
明日も連れてきなさい」
後ろから、おばあちゃんの声。
「こんなの学校に無理やり
行かせるのと同じ。
陸斗のためにならない」
ママは振り向かなかった。
車が走り出す。
私もりっくんも、何も言わない。
聞こえるのは、
ママが、鼻をすする音だけ。
車に揺られながら、私は思った。
りっくんのお休みは、
普通のお休みと、
ちょっと違うのかもしれない。
車が向かったのは、アパートじゃなかった。
ママが車を止めたのは、そうちゃんの家だった。




