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謹賀新元号!
新元号おめでとうございます。
本元号もよろしくお願いします。
令和でもよろしくお願いします。
続いて訪れたのは冒険者組合。組合につくと、今日の狩りが早めに終わったような冒険者らがパラパラといた。まだ忙しい時間帯ではない様子だった。
石田は依頼書の掲示板を確認する。多くの冒険者らは朝に依頼を受注し日中に取り組むため、今掲示板にあるのは、内容か報酬か…どこかに問題のある依頼ばかりだった。石田が探しているのは報酬が大きいけど相応に内容が難しいため取り組まれていない依頼。しかし、そういう依頼は無かった。
(…ま、そうだよな…。依頼しても実現不可能な依頼はそもそも出すだけ無駄だしなぁ…。相当切羽詰まった事情があったりしなければそういう依頼は出さないよな。しかし…なんだ?盗賊関係の依頼が多くないか?)
盗賊調査系の依頼は同時に複数件出ることはなかった。しかし今の掲示板には3件ほど張り出されている。
「お久しぶりです。イシダさん」
後ろから声を掛けられた。振り向くと、副組合長のナスルが立っていた。
「お久しぶりです」
「今少しお時間よろしいですか?」
「?…えぇ。大丈夫です」
「去年の武闘大会を覚えていますか?」
「武闘大会…ですか?…えっと、それはあの…ワイルダーネスの方々と訓練と称した決闘をしたあの件の事ですか?」
あの時は「武闘大会」と呼んでいなかったはずだ。ルブアに来て間もない頃、推薦状をもらって冒険者登録と同時に一気にそのランクを引き上げた。そのことに反感を覚えた冒険者チーム「ワイルダーネス」と諍いになった。で、決闘をすることになり、それを見物するための観客が集まり、どうせならと他の冒険者らも集まり訓練をする場所のような形になった。少なくとも武闘大会の様に実力のある人間の頂点を決めるような行事ではなかった。
「えぇ。そうです。あれを今年もバーン隊商の到来に合わせて実施してもらえないかとルブア領政の方から依頼がありまして今年も実施することになりました。実施するのは問題ないのですが…できれば去年より規模を拡大してもらえないかとも言われてまして…参加者を集めることに苦心しているところなのです…」
「あぁ、なるほど…」
去年はファティの能力とテイザーガンを利用することで勝てた。しかし、去年と同じ方法が今年も通用するとは思えなかった。たしか去年は観客席と同じ平面に試合する場所があり、観客席との間に隔てるものもなかった。本来の石田達は銃器を使用する。しかしこれでは流れ弾で観客に被害が出る。
(銃による戦闘は地味だ。その上さらにゴム弾を観客にばらまきながら戦ったら…ブーイングの嵐だろうな…)
火縄銃のようなものはこの世界にもあった。でもあまり普及していない。冒険者らは剣や斧を持ち戦うのが一般的。とするとそういう冒険者らの戦いを見に来た観客というのは血沸き肉躍る肉弾戦を望んでいる。…銃を用いた見どころのない戦闘には落胆することだろう。
「ルブア冒険者組合は他の冒険者組合にも武闘大会の開催を告知し参加者を募ることにしました。告知を出して周知する期間は長い方がいいですよね。そこで、出来るだけ早く告知をもって各組合へと赴きたいと考えています。イシダさん達が獲物を持ち込むときに使われているあの大きな鉄の馬車はとても早く移動できますよね。あれで副組合長である私を王国内の冒険者組合本部と主要な支部へと私を運んでいただきたいと考えています」
(あれ?参加要請じゃない…?)
「……あ、はい。それは可能です。…ですが日程や予算などはどのように考えてますか?」
「あぁ。よかった。あれに乗せてもらった冒険者はいなかったものですから断られるかと思っていたんです。その話は少し長くなりますので掛けて話しましょう」
奥の応接室へととおされて詳しく話をし、ナスルを王国内の各冒険者組合へと運ぶ依頼を受けた。日程は多分1週間ほど。ナスルさん的には乗合馬車を使うと想定した30日間との話だった。けど古井さんがつくった地図をもとに『トラックでの移動』&『一部ヘリコプター』とすることでそれぐらいで可能になる。報酬も十分な額だったので断る理由もなかった。
「はい。では、そういうことでよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。では」
応接室で互いに握手を交わしてから石田は冒険者組合を後にした。
(依頼板にはパッとしたものがなかったけど、いい仕事があってよかった…)
さて、組合を後にして次に向かったのはアディの実家の商店。彼は軍で働いていて、今日彼は早番で16時には仕事を終えて実家に帰っているとの話だった。彼の実家にてエクスパリード(火薬を生成する植物)の種を回収してそのまま石田の領で実験してみるということになっていた。エクスパリードは成長が早いという話だったけど、そもそも植物だからそれなりに時間がかかる。生産の目途が立てば軍を辞めて、フォックス族のフィルにアタックしようと考えているとの話だった。
(…フィルさんとの件について…ちょっと急いでないかと…あ、でもそもそも今はお互いの自由時間が合わなくて、そもそも交流する機会が少ないって話だったな…)
職を変えてでもアタックしたいと思える相手…。アディはどれほどフィルに惚れているのだろうか。残念なことに恋愛関係はからっきしの石田には想像もつかず、ただただその熱意に驚かされるだけだった。
アディの熱意について考えながら街を歩いていると意外な場所で見知った人影を見つけた。そこは小さな店舗が軒を連ねる一角で、路地も馬車が1台通るのがやっとな狭い道。さながら地方都市の商店街のような感じだ。
「なんじゃっ?!こんなに薄い生地でもそんなにも高いのか?!」
中学生くらいの小柄な体格、砂漠迷彩の野戦服、眼鏡が良く似合う黒髪のの美少女。ファティだった。眼鏡は航空機を操縦する訓練をするにあたり視力の低さを補うために使うようになった。最近では日常的に眼鏡をするようになっていた。
彼女が居たのは布を取り扱う小さなお店で、路地にかなり近いところで話をしていたので会話が聞き取れた。ファティは安そうな布を持って店主と話をしていた。
「いえ、これでも十分安いんですよ?お客さんの求める量が多すぎるんでさぁ。行商でも始めるつもりなんですかい?」
「いや…行商をするつもりはないんじゃが…」
正直ファティがこういうお店に居るのはとても意外なことだった。今彼女はヒトの姿をしているけど、本来の姿はドラゴンだ。ドラゴンに衣服を着るという文化がなく、支給品の軍服を毎日来ている事からも、『おしゃれ』を意識している様子はなかった。
「や、ファティ。奇遇だね。何してんの?」
「ん?奇遇じゃな。ちと布を買おうと思ってのぅ…」
「おや?お客さんの知り合いですかい?」
「うむ。知り合いじゃ。…店主。邪魔をしたな。少し考えて出直そうと思う」
「分っかりやした。又のお越しをお待ちしております!」
ファティは店を出て石田の元へやってきた。
「何か探してたんじゃないのか?いいの?」
「うむ。ちと現状の予算ではとても購入できそうにないし、急ぐ要件でもないのでのぅ…。お主はこれから何か仕事が?」
「いや。仕事は終わらせてる。アディのとこへ行ってある植物について話し合うことになってる。…ファティは今日は非番?」
「うむ。食事のために休みをもらったのじゃ。吾輩も用事は終わったのでついて行っていいかのぅ?」
「あぁ。なるほど。問題ないよ」
ファティの本来の姿は全長20mにもなるような巨体だ。その体を維持するには相応に食事量が必要となってくる。平時の食事時は石田達とともに同じ食事を摂るが、それだけでは足りず時々野生の獲物を狩りに行っている。曰く1ヶ月ほど食事をしなかった経験もあるから、それぐらいなら我慢できるらしい。でも10日を過ぎる頃には空腹からやや怒りっぽくなってくるため、こまめに(と言っても約1週間の間隔で)食事するようにしているとのこと。
かつての世界で宗教的な理由で1日に複数回のお祈りをささげる人たちもいた。そういう人達を雇う場合、お祈りをする時間を認めるのが良いとされていた。であるから同様にドラゴンを雇うなら食事のための休暇を認めることにしていた。
「ファティは…布を探してたの?」
「うむ。服を作ろうと思ってのぅ」
(おや?やっぱり、ファティもおしゃれに目覚めたのだろうか。…まぁ、女性だしね)
でもおしゃれに目覚めたからと言って布を買おうとするとは少し違和感がある。このルブアにも既製服を売っている店も、オーダーメイドで作ってくれる店もある。何故そういうお店ではないのだろう。
「既製品の服も売ってるけど…そういうのじゃダメなの?」
「うん?…あぁ。ヒトの姿ならのぅ。吾輩が欲しいのはドラゴンの姿で着る服なのじゃ。実はのぅ…」
そこからファティが語ったのは彼女の夢『空を飛ぶ』という話だった。
「お主らの航空力学というのは面白い。吾輩も空を飛ぶということを考えたことはあったが、どういう原理で、どういう理屈で飛べるのかを深く考えたことはなかった。お主らの飛行機の空飛ぶ原理をドラゴンの姿に応用してみたんじゃ。翼に強く風を浴びせると浮力が発生するというあれじゃな。吾輩の翼を飛行機の羽に見立てて、風魔法で強い風を浴びせかけてみたんじゃ。結論から言うと飛べはしなかったのじゃが、翼が少し体を持ち上げるような感覚を得た。大きな収穫じゃった。しかしのぅ…想像以上に体温が奪われてしまった。これでは体を持ち上げるほどの風を受けると、凍えてしまうのじゃ。それに、一度飛行機の空調を停めて空の寒さを知る訓練があったのじゃが…空はとても寒かった。飛べない程度の風で、しかも上空でなく地上でさえもこれほど体温が奪われるのなら…生身のドラゴンでは空を飛べないのじゃなと…学んだ。…そこでじゃ、ならお主らが寒さをしのぐためにパイロットスーツを用意しておる様に、吾輩もドラゴンの姿で着られる服を準備すればいいのではないのかと思い至ったんじゃ」
(へぇ…そんなことしてたんだ…)
「しかし…布がこんなにも高価なものであったとは…」
「まぁ、この世界は手織りが主流だろうしね。それに…機械織りでもファティのドラゴン姿だと…必要な布の面積が凄いことになるしね…。いっその事、大型のモンスターを狩って、毛皮を取るとか…あるいは…魔法…体温を高く保つ魔法とか探したらいいんじゃない?」
「ん?…そんな魔法があるのかのぅ?」
ファティは非常に賢いし魔法についてもよく知っている。当然この世界に来てまだ1年で、魔法について学んだわけでない石田がファティ以上に詳しいはずはない。しかし、彼女の活動範囲は基本的にこういう温かい地域に限定されていた。ならば、違う地域に行けばその土地に合った文化・知識があると思えた。
「あー…いや。いい加減なことを言った。でも、寒い地域とか行くとそういうのもありそうだなって思ってさ。ドラゴンの中にも寒い地域で活動する種とか…あるいは水中で動くタイプとかさそういった種の存在が居たらありそうだよね」
「ほぅ!そうか、そうじゃな!これは良いことを聞いた。ふむ。まさか飛ぶために飛ぶ以外の技術を求める事になろうとは…。面白いものじゃな!」
ファティはとてもいい笑顔で瞳を輝かせた。
ファティと話をしながら歩くとすぐにアディの実家のお店に到着した。アディは既に店の入り口脇に立ち石田達をまっていた。彼は脇に袋を抱えていた。
石田に気づくと片手をあげてあいさつしながら石田の元へと歩いてきた。
「よっイシダ。今日は悪いな。あと…あ、ファティちゃん…だったな?」
「おう(うむ)。ところで、その袋に?」
「あぁ」
アディは袋の中に手を入れ枯れた草を取り出した。
「これだ。枯れてしまってるが、これが例の火薬の材料になる草だ」
「これがか…」
「ん?…なんじゃ?…どこかで見たような…」
1本の茎がまっすぐ伸び、根元で枝分かれして葉がついている。茎の先端には穂が付いており…いや、もうぶっちゃけよう。稲のような形をしている。正直もっとファンタジーな植物を期待したのに、なじみのある見た目で少し落胆する。
「これが…。ちなみにこれ、正常に収穫できたとしてここからどう加工すればいいのかは?」
「分かってる。この先端の部分に実が出来る。それをしっかりと乾燥させ粉にしたらそれが火薬になる」
何とも簡単な話だ。本来なら硝石やら黒炭やらいろいろと混ぜる必要があるのにこれは実を粉にするだけでいいらしい。
「そんなに簡単なんだ…」
「あぁ。だが、火が付きやすいから、粉にする際に熱を発生させると…ボンッ!だそうだ」
「そりゃ、危ないな。加工場を作る際には十分注意だな」
「と言っても、これの栽培ができないことにはどうしようもないんだがな」
「だなぁ…ちなみにそれは栽培に成功した奴?」
「いや、失敗だ。火をつけてもそこら辺の植物を乾燥させたモノと同じ程度にしか燃えない」
「ん~…そうか…」
「どうすれば、これを栽培できるのか…出来るだけ早く軌道に乗せたいけど…こればっかりはなぁ…」
二人してはぁ…とため息を吐く。そのわきでファティが何かを思い出したようだった。
「おぉ。そうか、それはあの爆発する草なのじゃな」
「ん?そうだけど…」
「!!ファティちゃんはもしかしてこれのこと知ってるのかい?!」
「うむ、知っておるぞ。炎の魔法をぶつけるとパチンと大きな音を立てるのが面白くてのぅ。よく遊んだもんじゃ」
意外なところに詳しい人物がいた。
「ファティちゃん。ちょっとこれの育つ場所とかについて聞きたいんだけど…いいかな?」
アディはルブアの軍で働き、たいていの場合街の出入りを監視している。石田達とともに行動したのはせいぜい先の内戦の時だけで、彼自身はファティの本当の姿について知らない。だからか…幼い見た目のファティに対して少女として対応している。
「この植物の育つ場所…のぅ…。この植物は割かしどこでも育つようじゃった。ただ、全てが爆発するようになる訳ではなかったのぅ。例えば湿地帯などでもよく見かけたが、そこでは爆発するようなことは無かったのじゃ」
「ふむふむ」
「爆発しやすいのは…そうじゃな。こういう乾燥した土地で育ったものじゃな」
「!!…そっ、その事についてさらに詳しく」
ものすごい食いつきだ。アディはズズイとファティに近づいて、一言も聞き逃すまいと真剣な表情で話を聞く。
「…詳しく…のぅ…。そうじゃのぉ…あそこはほとんど雨の降らない乾燥した地域じゃった。そして近くに河があったのじゃ。そこは雨季には川が氾濫して割と広い範囲が水没する地域じゃった。雨季の間にこれら植物は大きく成長する。じゃが、雨季はそう長くない。すぐにまた河が元に戻り一帯は乾燥してしまうのじゃ」
「つまり…成長には水が欠かせないけど…最後には乾燥した土地で水を切る行程が必要ということ?」
「じゃと思う」
「ありがとう!栽培を成功させるためにどういう工夫が必要か悩んでいたけど、道が見えた気がするよ!」
アディはファティの手を取り握手した。
この植物はアディの家族が一度挑戦している。そしてその挑戦は失敗に終わったそうだ。普通に取り組んでもおそらく失敗するだろうことが分かっていた。アディは農業をしたことは無いのでこれといった対策も思いつかなかった。そのため思いつく限りを取り組んでみるつもりだった。しかしこのファティの話でどういう取り組みをしてみるべきかの道が決まったのだった。
(いや、しかし…見た目が稲そっくりで…さらに最後の水抜き…。何となく日本のコメ作りに似た何かを感じるのは気のせいだろうか)
この日アディのと話し合い、この植物を石田領で育ててみることにした。しかしファティが話したような環境は石田領になかった。常にある程度湿っており、乾燥した土地がなかったのだ。そのため植物工場のコメの生産ラインを一部利用し、コメと同じような作りをする事となった。




