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(ソラヤ視点)
森でスカウト姉妹とソラヤが出会うその日の朝。
ソラヤは研究室の扉をノックする音で起きた。どうやら机で寝てしまっていたようだった。手元には調査するときに使うメモ帳とそれを清書した紙が散らばっていた。
慌てて身だしなみを整えて、扉を開けると、魔術科の学科長が難しい顔をして立っていた。部屋の中にお通ししようとすると断られて、そのまま話が始まった。
リベリオン王国の研究開発方針が変更された。それに伴い学園の研究院についても予算配分の見直し、研究室の新設、閉鎖が行われる運びとなった。残念ながら君の研究室は閉鎖される。又、君の研究は新設される研究室の研究内容とそぐわないため、解雇となる。
「という訳だ。ソラヤ君。本日までご苦労だった」
他の研究室の教授らから嫌がらせを受けることはあっても、研究室が閉鎖されるなどといった話になることはなかった。
「ちょ、ちょっと待って下さい!学生は?せめて私の研究室で学んでいる学生が卒業論文を完成させるまでは…」
小さな貧乏研究室ながら、1人の学生を受け入れて育てていた。現在は朝早いのでまだここには来ていない。
「そちらは大丈夫だ。他の研究室が受け入れることになっている」
「…そんな」
「すまないな。私も1人の魔術師としては君の研究にとても興味があった。だが、この度の研究室の再編は王命によるものだ君も再就職や引っ越しなどの仕事があるだろう。2週間ほどはこの研究室をこのまま残せるようにしておいた。その間に荷物を運び出すように」
学科長はそのまま立ち去っていった。少しの間何も考えられず研究室内で立ちすくむ。そしてハッと思い出す。錬金術科の教授のこちらに移ってきませんか?という話を思い出す。
錬金科のサダーム教授の元へ走る。教授の研究室の扉を開けると、数人の研究者が集まっていた。扉を勢いよく開けたソラヤに全員の視線が集まる。ほとんどの者が突然の闖入者にいぶかしげな表情だ。
「おぉ。ソラヤ教授ですか。どうされました?」
難しい顔をしていたサダーム教授は一転して普通の顔になる。
「えっ…と、あの、私を錬金科で雇っていただくことはできませんか?」
「ん?どうされました?」
事情を説明した。
「そうですか。……申し訳ありませんが難しくなってしまいました。魔術科と同様に錬金科にも王命が下りまして、こちらでも研究室の再編成が行われることになったのです」
「!!」
サダームが難しい顔になる。
「幸い私たちの研究室は、研究内容が新しい方針と合致していたということもあり、他の研究室が再編されて浮いた予算を配分してもらえる事になりました。しかし、予算の増額と同時に私たちの研究室には研究課題を申し渡されました。この研究員の不足について増加する予算を閉鎖となった研究室の研究員を再雇用するために使うことで決定したのです」
「そ…そんな…」
「こちらへ。…これです」
サダームに招かれて、研究者らの中に。彼らの中心には一つの細長い筒状の道具が置かれていた。
「銃と呼ばれる武器です。数年前、行商人によって持ち込まれた新しい武器です。火薬という特殊な粉を爆発させ、その力で鉛の球をはじき飛ばします。火薬を爆発させるのはこの側面の魔法陣です。魔法は魔法陣が実行するので魔法についての知識は不要。さらに必要とする魔力はほんの爪先程度の小さな火種でいいので魔力消費量が少ない。そして消費する魔力に対して圧倒的に高い攻撃力があります。…一見すると画期的な魔道具ですが、一度発射すると再度の発射まで時間がかかり過ぎること、弓に比べ狙える距離が短いこと、重たいことなどのデメリットがあります。かつては私たちもこの魔道具について研究しましたが、弓などの競合する他の武器と比べ明らかに劣ることが分かり、研究・改良の価値無しと判断したのです」
サダームの解説に何人かの研究者が頷いた。
「ですが…今回の内戦でこれを大型化した『大砲』と呼ばれるものが猛威を振るったそうなのだ。だから、我々にこれを研究、大型化し大砲を作成せよ…と」
「…」
自分たちの判断が誤っていた。そう指摘されたわけではないが、事実そうなってしまった。そのことが悔しいのだろう。サダームや他数人の顔が苦々しい表情をしている。
「私たちの研究室には魔法陣、ポーション製作、モンスター素材研究の人材はいますが、金属加工に詳しいものが居ません。今回雇用する人材は、そちらに明るい研究者なのです。…申し訳ありませんが、私たちが必要とする能力がソラヤ教授の持たれるそれとは…合致しないのです」
納得の理由だった。本来なら学科長の様に簡潔に済ませてもいいところをサダームはその理由について話しながら納得させてくれた。これは彼なりの気遣いだろう。
「…申し訳ありません。無理を申しました」
サダームの研究室を立ち去るほかなかった。
それからどれだけの時間がたっただろう。職を失ったこと、自身の研究が王国にとって不要だとされたこと、そしてそれが契機となりこれまで意識しないよう心掛けた、ほかの研究者からかけられた心無い言葉が頭の中でよみがえる。
学園の関係者用の宿舎に帰るが、ここも引き払わなければならないことに気づく。賃貸を探さなきゃと考えて街に出た。しかし色々なことが頭の中でグルグルと回り、気が付くと冒険者組合へとやってきていた。仕事を受ける気分でもないし、今のまま賃貸を探しても…という思いから何となく街の外へとそのまま歩いてしまっていた。そしてたどり着いたのが、森の深い場所にある崖だった。ここへは何度か来ることがあった。広く遠くが見渡せるここの景色は好きだ。
ふっと魔が差した。これ、崖から飛んだら楽になるだろうか?
実行に移そうとするけど、やっぱり怖い。尻込みしていると、後ろから手を引かれたのだった。
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(レイダ視点)
かつての世界には私たちの居場所がなかった。
私と姉のリコは戦闘系ユニットの中で体躯が小さい。だから2人とも非力で大きな武器を持ち運べず、火力・射程が足りない。でも小さな体躯は隠れ潜むことに適していた。だから狙撃兵ではなく偵察兵として前線を超えて『偵察』することは得意だった。
でもかつての世界の戦場ではそうもいかなかった。どの戦場でも偵察機が飛び回るような環境だったから。私たちが必死に周囲の環境に溶け込もうとも必ず見つかった。こういう戦場では私たちはただの火力が低く、射程の短い狙撃手でしかなかった。
でもこの世界は違う。空を飛ぶ偵察機はおらず、カモフラージュすれば隠れることができる。狙撃だけでなく偵察兵としての仕事も出来る。だから、私たちはこの世界に転移したということを好意的に受け止めていた。
そうはいっても不安要素もあった。それが魔法。全く分からない未知の技術。仮に周囲の存在を捜索できる魔法があるなら…この世界も、かつての世界の様になってしまう。だから魔法技術を研究するということはとても重要。
学者さんを説得した後、ヘリの迎えが来ることになった。突然の事態に素早く対応してくれる司令と仲間たち、本当にありがたい。でもすぐに対応してくれる…という話だけど、ヘリや航空機の準備は少し時間がかかる。それにユニットの皆はそれぞれ何かしら活動をしていたわけだから、作戦がスタートするのには少し時間があった。
ソラヤをなだめるためにリコが当たり障りのない話をしていた。するとカフラバーイを追っている事が伝わり、同時にカフラバーイの縄張りと彼らの食事場を知っていると教えてくれた。さすがモンスターの生態調査を行っている学者さん。
だから私たちはカフラバーイを求めてまだ山を歩いてみることにした。ありがたいことにカフラバーイの食事場は近くにあった。なんというか、不自然に茸が良く育っている一帯があり、そこが食事場だという。カフラバーイは基本的に草食だけど、茸を好んで食べるらしい。彼らの縄張りの中には数か所の食事場があり、茸を求めて縄張りを転々とするらしい。このため食事場を見つけても、出会えるかどうかは運らしい。
「ここは茸が豊富に実っていますから、やってくる可能性は十分高いかと思います」
狩りの出来る時間はLZ(ヘリの降下位置)が決定されるまでの間しかない。時間がない今回は難しいんだろうな…。
「う~ん…そうですか。実はあまり狩りに時間をかけられないんですよね。何とか探せないでしょうか?」
リコも同じこと考えてたみたい。
「難しいと思う。カフラバーイはとても警戒心が強いの。音を立てるとすぐに警戒し始めるわ。だから探して動き回ると確実に逃げられるわ。…あなたたち、下準備を怠ったわね?」
―ギクッ!
全く同じタイミングで私とリコの体がこわばる。それを見てソラヤの視線がジトっとしたものになる。
まさにおっしゃる通りだった。鹿型のモンスターということで、ハンティング気分で依頼を受けた。遠くから見つけられたら長距離狙撃の訓練、近くで見つけられたら偏差射撃の訓練と…銃を使えば何とかなるだろうという甘く考えていた。
自分たちの行動を反省して、3人で食事場の風下側の少し離れた所に潜んだ。潜むこと20分弱、驚いたことにカフラバーイの群れがやってきた。10数程度の群れは立派な角を携えた一際大きな個体が先頭に立ち、数匹のオスが群れの外周を囲みながらやってきた。
この場所は森の中にあって、茸が大量発生できるほど倒木がある場所。そのおかげで射線はそれなりに通っている。しかし、森の中にあって射線を通すために、食事場からそんなに距離を置くことができていない。距離にしておよそ100m程度か。風下側に居ると言っても、物音を立てればすぐに気づかれる。
ゆっくりと音を立てないように細心の注意を払いながらリコの方を向く。するとリコは双眼鏡型のPLD(携帯式レーザー目標指示器)で対象との距離を測り始めていた。本来PLDは味方への目標指示、誘導兵器の終末誘導などに使うけど、距離計測機能がついているおかげで狙撃時の距離計測にも使用できた。
PLDを覗くのをやめたリコがこちらに向き直り、ハンドサインで情報を伝えてくる。計測した結果標的までの距離は約100m。狙撃する距離としては非常に近い。だから重力によって弾道はほぼ落ちないのだけど、お互い訓練として本番のように取り組むと決めていた。私はその情報をもとに弾道を予測する。
私たちが得意とする銃、それはステアー・スカウト。.223レミントン弾(ほぼ5.56mmNATO弾と一緒)を使用する。分かってる。これが私たちが色々な領で不要とされた理由。狙撃に使用される弾薬の.308や.338などと比べて口径が小さい。そして同口径の5.56mmNATO弾と比べ発射ガスの圧力が低い。…つまり、火力不足で弾速が遅く、有効射程も短い。
いや、そんなこと思い出しても仕方がない。今は目の前の狙撃に集中しよう。
本来ならスコープを調整して着弾地点がスコープの中央に来るようにする。でも、それをすれば音を立ててしまう。今は少しでも音を出したくない。狙ったのは群れの端で茸を食べていたメス。狙うは頭。距離100m、風速は無視できる程度に右から左へ。目標から少しだけスコープの中央をずらす。そして引き金を引いた。
―ターン……
大きな銃声が響き、一頭のカフラバーイが倒れた。スコープから視線を外し、ボルトを引く。新しい弾を装填して、再びスコープを覗き込む。このわずかな時間でカフラバーイの群れはいなくなってしまっていた。新しいターゲットを探しても見当たらなかった。その代わり、倒れたはずのカフラバーイが起き上がろうとしていた。
今度はどこかを狙っている暇はない。素早く胴体に狙いをつけ2発目を撃ち込む。素早く排莢、再装填。再びスコープに視線を戻すとまだ動いている。3発目を撃ち込んでようやく動かなくなった。今度こそ、倒れて動かなくなっていた。
近づいて確認すると、初弾はきちんと頭部に命中していた。しかしそれは頭蓋骨に阻まれて裂傷を与えただけ。2発目、3発目は共に胴体に命中していた。
あぁ…ヘッドショットの1撃で倒せないのは辛いなぁ…。
「Steyr Scout:ステア―スカウト」は民間向けのボルトアクションライフルだそうです。
これを軍隊向けに5.56mmNATO弾が使えるようにしたのが
「Scout Elite:スカウトエリート」だそうです。
BF4では威力減衰があり、距離が遠くなるほど攻撃力が低下しました。
兵士らのHPが満タンで100ほどで…
こいつは距離110m以上ではダメージが約36です。
HSするとダメージが2倍になるのですが
このダメージ量では約72にしかならず…
1撃で倒すことができませんでした。
凸砂に最適な武器なのかもしれないですけど…
反射神経に難のある私にはちょっと難しいSRでした




