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<石田領~執務室~>
石田は執務机について、PCを操作していた。画面に行事されているのは各ユニットのステータスだった。
『武官ユニット』
京藤:Lv.34
・所持スキル
特殊部隊:夜間の視界を3%延長する。
人道主義:非殺傷系武器の効果が5%増加。
教官:教官として演習を行うと、獲得経験値を30%増加させる。
狩人:索敵範囲が10%拡大
古井:Lv.38
・所持スキル
機体熟練Lv.10(MAX)(パントム):発動~出撃にかかる時間を50%短縮する。
ナイチンゲール:Lv.35
・所持スキル
特殊部隊:夜間の視界を3%延長する。
人道主義:非殺傷系武器の効果が5%増加。
カウンセラー(Lv.2):所属部隊の士気低下を10%抑制する。
狩人:索敵範囲が10%拡大。
湯川:Lv.31
・所持スキル
人道主義:非殺傷系武器の効果が5%増加。
狩人:索敵範囲が10%拡大。
建築家:クラフト(構造物)にかかる時間が5%短縮。
間宮:Lv.31
・所持スキル
人道主義:非殺傷系武器の効果が5%増加。
狩人:索敵範囲が10%拡大。
熟練運転手Lv.3(車両):車両の運動性能が10%向上。
熟練操縦士Lv.1(ヘリ):ヘリの運動性能が3%向上。
瑞山:Lv.31
・所持スキル
狩人:索敵範囲が10%拡大。
人道主義:非殺傷系武器の効果が5%増加。
熟練運転手Lv.3(車両):車両の運動性能が10%向上。
八木:Lv.15
・所持スキル
アマチュア無線技士Lv.1:味方の通信可能距離を60%向上。
伊集院:Lv.15
・所持スキル
情報分析官Lv.1:マップ上の同時捕捉数を少し増加させる。
伊良湖:Lv.28
・所持スキル
調理師:戦意を高揚させる。
リコネンス&レイダ:Lv.18
・所持スキル
狩人:索敵範囲が10%拡大
田淵:Lv.8
・所持スキル
医師:本部施設の野戦病院を利用可能にする。
『文官ユニット』
材津:Lv.28
浦風:Lv.30
『領主』
石田:Lv.22
・所持スキル
ご安全に!:召喚を介さずに直接フィールドの付与、修復、解除が行えるようになる。
まずは武官ユニットの中でも戦闘能力を持つユニット。異世界に転移した当初から一緒に活動していた京藤と古井のLvが高い。しかしナイチンゲールが内戦でがっつり経験値を稼いだので最初期の2人を抑えてトップに躍り出ていた。間宮、湯川、瑞山はこの1年の間に冒険者としていろいろと狩りを行ってもらった。そのおかげでスキル『狩人』を全員もれなく持っている。そして開放するのが遅かったリコネンス&レイダの姉妹はLvが低い。彼女らも一応『狩人』のスキルを持つ。
次に武官ユニット、非戦闘系だ。レベルが高いのは、伊良湖だ。彼女はほぼ毎日3食の食事を作ってもらっている。このおかげでガンガン経験値を稼いでいる(うん…働かせすぎかも…?)。そして八木と伊集院が続く。この2人は支援系のおかげで基本的に経験値が入りにくく…どうしても成長が鈍い。ただ、この2人は能力を高めると司令部機能が向上するので気長に頑張っていきたい。そして最も新参の田淵。新参ながら内戦のおかげで一気に経験値を稼いだ。今後の活躍に期待。
そして文官ユニット。彼女らのLvは領内で開発できる機材に直結するので頑張って育ってほしいところ。一応、例の魔力検出装置を開発してもらっているためLvがそれなりに向上している。
最後は石田自身。正面に出て戦う訳でなし、経験値もユニットたちのものを間接的に受け取るだけなので最も成長が悪い。
(はぁ…。なんとも格好がつかないなぁ…)
―トントン
PCを前に頭を抱えていると、執務室の扉がノックされる。
「はい。どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは伊良湖だった。彼女はもともと海軍系ユニット。そのためか細身低身長だ。狭い船内でも動きやすいことだろう。その体の大きさとアンバランスな大きな胸が印象的。顔立ちは丸顔でクリっとした目、そして少し広いおでこ。どことなく垢ぬけない感じがしつつも、むしろそれが可愛らしさを引き立たせている。あと、垢ぬけなさの一因なのだけど、一切の化粧をしていなかった。おそらく料理人として、料理に化粧が入ってしまうことを避けるためだろう。彼女の料理にかける情熱は本物だった。
伊良湖は少し難しい顔をしていた。
「難しい顔しているけど…何かあった?」
「はい。あの…出汁の素になる食材、昆布や鰹節が無くなりそうです」
「…マジで?」
「マジです」
出汁。それは料理の重要な要素。出汁が果たす役割は味覚的には『うま味』。実はごく最近まで『甘味』『酸味』『塩味』『苦味』の4つが味の基本として考えられていた。1908年に日本人の学者により『うま味』が発見され、正式に『基本味』に仲間入りする。
『甘味』が糖分、『塩味』が塩分の存在を知らせてくれているなら、『うま味』は何を知らせるのか。それはタンパク質だ。タンパク質は体の細胞を造る栄養素。日々新陳代謝を繰り返している生物はタンパク質を欠かすことができない。十分なうま味を持つ食事をとることは、すなわち十分な「タンパク質」を摂ったと認識することになる。うま味の多く含まれる食事は、少ない量でも十分な満腹感を得られる。
「今の消費ペースでしたら…あと2ヶ月ほどで底をつきます」
昆布も鰹節もどちらも海産物で…残念なことに領内では採れない。となると領外で購入するしかないのだけど、日本の鰹節がこのリベリオン王国で作られているとは考えられない。
「…鰹節は無理だとしても…昆布はどこかで売っているかもしれない。明日、王都の市場を探してみてもらっていいかな?」
「えっと…はい、承知しました。ですが…その…昆布は冷たい海水を好みます。乾燥させて保存のきく食品ですが…この様に暑い地域では手に入らない可能性が…」
「……何か代替品とかは?」
「小魚を乾燥させた…煮干しなどからも出汁は取れます。一応、探してみます。ですが、王都の料理店ではあまり魚料理を見かけませんでしたし、出汁を使った料理もありませんでした。望み薄かもしれません」
王都での活動中、伊良湖にはこの世界ならではの食材の使い方について研究してもらっていた。具体的には市場で食材を、料理店では新たな料理を探してもらっていた。
「そっか…。どうするか…」
(う~ん…『この国』にはないかもしれない…か。とすれば『この国』にはないだけで他所の国にならある可能性がある…?まだこのリベリオン王国から外については調査すらしてないからなぁ…。ん?そういえば、世界を回る隊商がルブアを通るんだったよな?…あの人たちなら知っているかもしれないな)
「世界を回る隊商がルブアを通るはず。彼らに聞けば他国の情報もわかると思う。ただ、いつ通るのかはちょっとわからない。ひとまずは王都で代替品を探すという方向で行きましょう」
「承知しました」
翌日の王都での活動について少し話をして、伊良湖は執務室を出て行った。すると入れ替わるように今度は八木と浦風、材津の3人が入ってくる。
「失礼します」
「やっほ~。司令さん。今ちょっとええ?」
「司令官。ちょっと相談が…」
八木響。通信隊所属。彼女最大の特徴は…日本人の石田から見ても小さいその体だった。どう見ても小学生にしか見えない、いわゆるロリキャラだ。
「ルブアに設置する通信機なんだけど…」
友好領ができた場合、相手の領と連絡を取れるようにするのが通常だった。ゲームの時は何も考えなくても相手の領にも通信機材があり普通に連絡が取れていた。しかしルブアに通信機器などなく連絡する手段が無かった。
「やっぱり、銭湯の電力を利用して通信機器を…と考えたんだけどちょっと難しいみたいだ」
銭湯の裏には太陽熱発電システムが設置されている。出力は銭湯を運営することを想定してその消費電力に少し余裕を持たせて設計された。
「この領へ電波を飛ばすためには次元変換を一度挟む必要があって、この時に大量の電力を消費するよ。ルブアの城に銭湯の余剰電力では新しい通信機器…というのは難しい。正直なところ…銭湯に設置されているタブレット通信を利用してもらうのが一番現実的だね」
「う~ん…やっぱりか…」
アサドに相談して発電施設を設置出来るなら簡単だけど…正直それは難しい気がした。通信施設と言ってもその機械で通信できる先は石田領ただ1つだけ。この状況を例えるならば…実家としか連絡が取れない携帯電話があったとして、それを誰が持とうと思うだろうか?
「分かった。ルブアの方には連絡を取るときは銭湯まで来てもらうよう伝えておくよ」
「お願いするね。私の方からは以上だよ。あとは2人からの要件だけど、面白そうだから聞いててもいいかな?」
八木との話に加わってこなかった浦風と材津を示していた。
「ん?…別にいいけど2人は?」
「ええよ。ただ…資料が無いけぇ、その点は勘弁してね」
「えぇ。私もかまいませんよ。私の資料でよければ一緒に見ます?」
「ありがとう」
八木が話の邪魔にならないように少し下がった。代わって浦風が前に出る。浦風が手に持っていた資料を石田に渡してきた。
「はい。報告書」
「ありがとう」
報告書の題名はストレートに『ミスリルの物性』だった。
「あぁ。王都の学者さんが教えてくれたってやつね」
魔力検出装置を改良するにあたり、検出する向きを指定したかった。そのため、魔力を通さない素材を探していた。王都で冒険者の活動をしていた時に、王都の学園で教えている学者に出会い魔法耐性を持つ『ミスリル』の存在を教わったらしい。
「はい。そうです。武器・防具屋をめぐってみた所、小さなミスリルナイフがありましたので4本ほど購入し実験してみました。こちらがその内の1つです」
材津が鞘に収まったナイフを机に置いた。
(おぉ!これがファンタジーで有名なミスリルか!)
石田はワクワクしながらそのナイフを手に取り触ってみる。まずその軽さに驚かされる。持ち上げたときにほとんど重さを感じなかった。鞘から出してみると、その刃は見たことのない色。銀をベースにうっすら青い色をしていて、これぞファンタジーというような美しさがあった。そして、その刃の部分を爪ではじいてみると「キンッ」と高い音がした。そして触ってみると…
(あれ?…冷たいには冷たいけど…ほんのり温かい?)
「おぉ!それがミスリル鋼かい?私も触ってみていいかな?」
八木が目を輝かせて尋ねてきた。柄を八木に向けて渡した。八木にナイフを渡している間、浦風と材津が渋い顔をしていた。
「…ミスリル『鋼』ね」
「普通はそう考えますよね…」
「ん?何か言った?」
「いえ。その話はとりあえず、脇に置きまして、報告させてください。魔力検出装置の検出方向を限定するという問題に『ミスリル』の魔法耐性を利用出来ないか…ということで研究を始めました」
「そして2人でいろいろと調べてみた結果…不可能という結論に達したんじゃ」
「………えっ?」
2人による解説が始まった。まず魔力を遮断するという能力は…確認できなかった。では嘘を教えられたのか?という話だったのだけど、2人はさらにその性質を調査してみることにしたようだった。
「まず、ミスリルを触ってみたときに何か不思議な感じがしませんでしたか?触ったら冷たいけど、それほど冷たくはない…ええと…『木のぬくもり』のような感じがしませんでしたか?」
「あぁ。感じた」
そう、先ほど触った時の違和感。上手く表せなかったけど、確かにそんな感じだった。
「通常の金属じゃ熱伝導率が高いため触った所から熱が移って、指の温度が下がり冷たいと感じてしまうんじゃ。じゃけど、これは触ってもさほど冷たくない。あれ?と疑問に思ったんよ」
確かにわずかに疑問に思いはしたけど、『異世界だから』で考えていなかった。なんというか凄い着眼点だ。
「そして調べてみた結果が4ページ目のデータになります。熱伝導率がとても低い事が分かりました」
「なるほど」
「そして他にも…」
同じようにその物理的な性質を調査した結果が述べられていく。展性と延性があり、比重がとても軽く、そして電気抵抗が非常に高かった。
「以上の物理的な特性により、熱を通さず、電気を通さず、軽いにもかかわらずスチール鋼と同程度の強度を持ちます」
「つまり、ミスリルは魔法を弾いたり、魔法に対する耐性が高い…という話ではなく…」
「その物性が単純に熱や電気という自然現象を阻む…という話じゃね」
頑張って調べてくれたのはありがたい。けど、なんというか目的から言うと無駄骨だったというのが徒労感を感じさせる。石田、浦風、材津から『はぁ…』とため息が漏れた。
そんな中1人が違った反応を見せた。
「ちょっと待ってくれるかい。私が知る『ミスリル』は『金属』に分類されるはずなんだ。なのにこの電気抵抗って…おかしくないかな?」
「そう!それなんよ!まだ、原子分析も構造解析もしてないから分らんけど、明らかにおかしいんじゃ」
「ここからは曖昧な話なので、聞き流してください。街で例の学者から聞いた話ですと、ミスリルの加工技術はドワーフによって独占されているということです。そしてこれまで何回もその技術を再現する取り組みが行われて来たそうです。ですがそのいずれも失敗しています」
「素材から作るだけじゃなくて、追加加工も難しいんと。購入したミスリルはいくら加熱しても柔らかくならんけ、鍛冶師が槌をふるっても曲げられないんとゆうとった」
「ふ~ん?」
出た。ファンタジー定番のドワーフ。この世界でもやっぱり鍛冶仕事に高い適正を持つ種族らしい。そしてミスリルの製造、加工技術を独占中だと。
(なんかめっちゃファンタジー!!)
目の前の資料に目を落とすとひどく現実的な内容だけどね。
「鍛冶職人が金属を曲げる要領で加熱したのですから…いくら熱伝導率が低くてもその温度はやはり金属を曲げられるだけの温度になっていたと考えるのが妥当です」
「となると、金属と比べてもさらに高い温度に融点がある材料だと考えるのが妥当じゃね」
通信隊所属の八木はそれで何か思い至ったらしかった。
「そして、極めて高い電気抵抗…。っ!まさか!?」
「はい。この『ミスリル』は『金属』ではなく『セラミックス』ではないかと考えています」
セラミックス。最も身近な例は陶器やガラス。古い時代の土器なんかもセラミックスだ。そしてセラミックスと言われてガラスを思い浮かべた石田はふと思ってしまう。
「セラミックス?ガラスとかの?それじゃあ衝撃に弱くて武器・防具としては使い物にならないんじゃ…?」
「確かにガラスはセラミックスの1種です。ですがセラミックスは無機物の粉末を焼結…つまり焼き固めたモノを指します。ですから材料の種類は本当に様々で、出来上がるセラミックスも様々なんです」
「えっと、うちも専門外じゃけど…確か有名な大学が『超硬ガラス』いうんを開発して…鋼ほどの硬さに高い弾性率を持つという話じゃったよ。セラミックスもモノによってさまざまな性質を示すみたいじゃね」
「へ~…知らなかった」
「戦車や装甲車の装甲には複合装甲と呼ばれるものがあります。複合と呼ばれる所以は、金属系の装甲とセラミックス系の装甲を合わせて使用しているためそう呼ばれています。セラミックスを装甲として使用するというのは意外と合理的だったりするんですよ」
「ほほぉ…。ん?ということはこのミスリルがセラミックスだったとして…装甲車なんかの強化に使える可能性があるのか?」
「はい。十分にあるかと思います」
「おぉ!」
ミスリル製の複合装甲を持つ戦車!なんだろう…ちょっとロマン兵器っぽい。
八木がミスリルナイフの刃を見ながらつぶやいた。
「金属光沢があって、金属の様に高い音を立てる。確かに金属と間違えてしまうのもわかるね」
「はい。ですから再現する取り組みは前提から間違えてしまっていた」
材津と浦風がキリっとした顔つきで石田に向き直り真剣な声音に変わった。
「当初の目的は達成できませんでしたが、この『ミスリル』は私たちが知らない非常に特殊な物性を持つ材料であると言えます」
「じゃけん、うちらは提案します。『ミスリル研究』のプロジェクトを立ち上げてはどうでしょう」
「…」
銀行の両替機能が動き出した現在、金銭的な問題はほぼ何とかなる見通しが立った。つまり金銭的には新しいプロジェクトを始めても大丈夫だった。となると次は人的リソース。現在の魔力検出装置は開発が行き詰っている。しかし行き詰っているとはいえ、1つのプロジェクトを進めてもらっているのには変わりない。2人に余裕があるか無いか…それが重要。
「…材津さん、浦風さんはもう1つのプロジェクトを進めるだけの余裕はありますか?」
「「はい」」
面白い素材を見つけて2人の目は輝いていた。この『ミスリル』がもたらす変化がこの2人には見えているのかもしれない。
「分かりました。前向きに検討します。ミスリルの展望や必要とする予算など、詳細をまとめた書類を作ってください」
「「はい!」」
翌日、ミスリルの研究が正式にスタートした。




