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行商人として長く仕事をしてきたタミーナさん。彼女から色々なことを教わった。そしてその教わったことを元に石田も行動してみた。
王都には『ムスタワダ』という傭兵団が本拠を構えている。…いや、正しくは傭兵というよりも警備会社だ。
平時の彼らは主に貴族や豪商の邸宅、倉庫などを警備している。さらに(金額の)大きな依頼でなくとも、依頼さえあれば行商人の護衛や個人の留守宅の警備なども引き受けているという。
そんな彼らとは先の内戦の際に知り合った。警備を専門とする彼らは前線へ突撃したわけではない。むしろ戦場にあっても彼らの仕事は警備だった。軍の中の憲兵隊と協力し軍規に違反する者がいないかを監視して回ったり、王軍の物資の警備を担当していたそうだ。
おかげで治療行為で直接ご縁を持つことは無かった。しかし治療で大活躍した石田達を見て、戦闘以外の能力でもって傭兵をしているというムスタワダの団長さんが共感を覚えてくれたそうだ。内戦後の傭兵団の顔合わせの際に話しかけてくれた。
さてそんなご縁のあった傭兵団の本拠にご挨拶に伺った。そしてその場で売り込んでみた。『刺股』と『拘束帯』だ。そしたら大当たり。
警備をしていると基本的に不審者を殺害するわけにはいかない。例えば王都内の貴族宅を警備しているとして、そこに侵入してきた人物を殺害すると殺人罪に問われる。もちろん一見して相手が盗賊や暗殺者だと分かる場合なら問題ないらしいけど…そんなことは稀だ。(ちなみに暗殺者は年に数件出くわすのだとか。恐ろしい!)
こういう理由から彼らは基本的に不審者は捕縛しなくてはならず、その際隠し持っていた武器によりけがを負ってしまう団員が出るのだという。
「それ!追い込め!」
傭兵団の建物の裏、そこは訓練場になっていた。訓練場では不審者役の男と2人の刺股を持った男が追い回している。不審者を取り押さえる訓練で実際に使用感を確かめてもらっている。
―バチン!
「うわぁ!?」
1人が犯人役の男に拘束帯を取り付けた。拘束帯は男の胴体に巻き付いただけで、手足の動きを阻害することはなかった。しかし突然取り付けられた拘束帯に不審者役の意識が向く。それをもう1人の男は見逃さず、すかさず足を拘束するように拘束帯を取り付けた。足を拘束された不審者役はそのまま前に倒れ込み、刺股を持つ2人によって抑え込まれた。
「よく考えられているなぁ…」
訓練場の端、石田と一緒に訓練を眺めていた男がつぶやく。筋肉質な体に白髪が混じり始めた髪のこの男、傭兵団『ムスタワダ』の団長『ディレ』だった。
「…どうでしょう?」
小さく震えた声だった。初めての商談でしかもディレと出会うのも2回目。石田はガチガチに緊張していた。
商品は非常に魅力的で、性能十分。機能も傭兵団の仕事ともよく合致しており、自信をもって売り込みをかけても問題ない…いやむしろ、売り込みをかける人物が自信なさそうだと商品に問題があるのかと疑問を抱かせてしまう。実際不安になったのか、『1セット分の値段は払う』と言ってから刺股の強度を調べ始めた。大人の体重で折れないか、剣などでの攻撃を始めたのだった。結果は…まぁ、さすがに剣の攻撃は耐えられなかった。
刺股が折れる様子を見て、石田は非常に気まずくなった。しかし、ディレ達は違った。
「イシダ。今壊したものを含めてこれを15セット買おう」
「えっ?その…良いんですか?その…剣の攻撃で折れてしまいましたけど…」
「あぁ。かまわない。そもそも不審者の多くは非武装だ。不審者の目的は大抵盗み。暗殺者など武装している場合でも大きな剣を持っている可能性はほとんどない。せいぜい懐に隠せるサイズの刃物だ。逆にショートソードの斬撃を数回耐えるほどの強度があった。十分だ」
「…あ、ありがとうございます!」
売り込みに成功した。緊張から一転、顔が少し弛緩する。
「ところで話は変わるんだが…腕や足を失った兵士らを治療し、そこを再生させたというのは本当か?」
「はい。それは本当です」
見るたびにゲームの機能らしい能力だなと思ってしまうが、本当だ。何故か、複数の回復アイテムを使用すると四肢の欠損すら治してしまえた。
「腕を失ってしまってから時間がたっていても治せるのか?」
「え?…どうでしょう。これまでケガをしてからすぐに治療するのがほとんどだったので…」
「…そうか。可能性はゼロではないのだな?」
「……保証はできませんが…恐らくそうだと思います」
「よしっ!治療を頼みたいヤツがいるんだ。イシダは王都にいつまでいるんだ?」
「えっと、ルブアの領主様が会議を終えて帰るのを警護するので…会議が終わるまでです」
「そうか。かなり揉めていると聞くが…まぁ、あと2,3日という所だな。う~ん。そうかぁ…。ちょっと間に合いそうにないな」
「??」
「いや、な。治療してもらいたい人物が居るんだが、ちょっと王都に呼ぶには時間がかかるんだ。ルブアを拠点に活動してるんだな?」
「えぇ。ですが、指定していただければまた王都に来ますよ?」
「そうか?じゃあ…」
王都での治療依頼を受けて、この日は別れた。
ーポーン!
『領から領外へ武器の販売を行い100万円以上稼いだ』
→称号「武器商人(初心者)」を獲得した。
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まさか「武器商人(初心者)」という称号を手に入れることになるとは…。だって売ったの刺股だよ?…少し納得がいかない。まぁそれはさておいて、この称号はありがたい効果を持っていた。武器、兵器、弾薬の価格を5%ほど低下させてくれた。ありがたい。
領主として活動するより、こちらの世界で生きていくすべを獲得することに注力してきたが、これはむしろ本格的に領主としての活動も取り組んだ方がよさそうだ。
称号を手に入れて数日後、ディレが予想した通り領主会議が終わった。石田達はクルスーム家の方々をルブアまで送り届けた。この際、石田の領を見て回りたいという申し出があったので、石田の領を案内した。
歩いて回りながら、話してくれたことには石田…というより、伊集院がまとめた報告書は領主会議でとても役に立ったようだった。なんでも今回の内戦に『人数を送っていない』という理由で、戦費を支払うように要求されたらしい。その際に提出された資料の治療者数を示したそうだ。そして『少数の人数なれど、味方の治療でもって多数の兵士を戦線に戻した。その働き1000人の兵士にも劣らない』と反論し戦費の支払いの大幅な減額に成功したとのこと。
うん。お役に立てて何よりだ。
この功績があったおかげだろう。領を一通り見て回った後、ありがたい申し出があった。石田の領で採れた食料を購入したいという話だった。ちょうど、領主として領の開発も進めなくてはと思っていたところにこの申し出。ありがたく受けさせてもらった。
石田が食料をルブアに卸すにあたり、かわす書類にちょっと工夫させてもらった。それは、アサドにこの領を石田領として認めてもらうこと、そして友好な領として取引をさせてもらうということだった。アサドはこれを快諾した。
こうして石田はこちらの世界に飛ばされて初めての『友好領』を登録した。
食料の輸出については…野菜工場で生産された食品、主に葉野菜を中心にルブアへと売ることになった。そしてその量は、最初は少量で徐々に増やしていきたいということだった。なんでも、相場の4倍の価格で取引している領ががるのだそうで…様子を見ながら徐々にそことの取引を減らしていくとのことだった。
さて、最初はだから少量でいいって話なんだけど、そこはあれだ…領主が言う少量ってのは一介の小市民が言う所の大量に相当するわけだ。だからちょっと問題があった。大量の食料を運場なくてはならないんだけど…輸送ということでいうと適任は間宮だ。でも彼女は軍属、運送会社みたいな仕事をさせるのは…気が引けた。そういうことでいっそのことその件を相談した。
アサドはルブア軍の輸送部隊に受け取りに行く部隊を編成してくれるということだった。だから運搬はゲートを開いてその部隊を受け入れればOKとなった。
あとほかにも友好領地を得たことによって変わったことがあった。石田領の制限されていた一部機能が解除された。武器兵器の貸し出しと開発・改造、移住者の受け入れ、そして銀行の両替が可能になった。
まず「武器兵器の貸し出し」。これはゲーム時代のRTSモードやFPSモードを楽しむためのものだった。両軍の使用できる武器兵器に偏りが発生しないように配慮したシステムで、登録された友好領に敵軍と同じ兵器があればそれを自軍でも扱えるようにしたものだった。この貸し出しシステムで武器兵器を借りると、それは一応『モンキーモデル』という扱いになり、本家本元と比べると幾分か性能が劣るように設定されていた。
そう、『モンキーモデル』にはなるけれど…ルブアなどに貸し出すことができるようになってしまった。この件については…申し訳ないけど、即座に機能を停止させてもらった。この世界にとって現代兵器は少々行き過ぎた物だと思うから…。
次に「移住者の受け入れ」。これは地味にありがたい。石田領は現実の世界とつながっていない。領の端は雲に覆われてその先が見えないようになっている。そんな環境で領を拡大する条件が「領民を増やすこと」だった。
現状、石田領外から航空燃料やガソリンといった『燃料』を手に入れる手段が絶望的だ。備蓄とゲームシステムの『自然回復』でもって何とか持っているけど、領内の燃料は減少の一途をたどっている。領を拡大すると、拡大する際にどういった領土を手に入れるかを選択できる。それで『原油埋蔵地』を確保しなくてはならない。
そして最後の「銀行の両替機能」。これが非常にありがたかった。友好領で使用される通貨を領内通貨と交換してくれる。なんとこの両替を経ることによって金貨1枚が100万円で交換されるようになった。おかげで、大分金銭的な余裕ができた。
貴金属として換金しなくてはならなかったのが、まっとうな通貨として取り扱われるようになった。多分今なら、ギガントロックリザード討伐の際に貰った「白金貨」でも悩むことなく換金できるだろう。
あ、そうそう。白金貨といえば実は今回の内戦の1因が実はこれだったらしい。
アサドが解説してくれた。アルジャジード領は海に面しており、海運を介して貿易が盛んにおこなわれている。このため、アルジャジード領はとても裕福な領なのだそうだ。正直王都よりも豊かなのだという。
で、そんなの面白くないから…王が1案を講じたのだそう。それが、白金貨。この王国内で白金は金並みの価値を持つ。でも、『金並み』であって『金以上』ではなかった。そんな白金で新硬貨の白金貨を発行したのだった。
白金貨を市場に浸透させるという名目で各領主に対して、金貨又は大金貨との交換を申し付けたそう。交換する量は、各領の財政規模に応じて決められていて、当然アルジャジード領はかなりの量の金貨を好感しなくてはならなかったという。
建前としては金貨と白金貨の交換。千円札と万円札を交換するように、領主たちには何の損も発生しない。しかし王から見ると…金より低い価値の白金で硬貨を製造し、1枚当たり金貨100枚で売れたようなものだった。こんな不健全なことを実施しているのだから当然、損が発生しないというのはあくまで建前でしかなかった。
海運を通じて他国と交易するアルジャジード領。金はどの国でも普遍的に価値を持つため、国が異なっていても金貨による取引が成立する。しかし…それ以外のものではそうはいかない。白金貨で取引をしようにも良くて『金と同程度の価値』としてしか認められない。このため海外との交易において白金貨を使えば、その価値は1/100にまで減少してしまった。
『白金貨1枚 = 金貨100枚』
これは王の権威を認め、その発行する通貨を信用するために成り立っている。逆に言えば他国の人間には関係のない話だった。
国内でしか通用しない通貨によって領の金貨を巻き上げられたアルジャジードは焦った。早急に国外との交易でも使える何かを集める必要に迫られた。そして急ぎ国内で金貨100枚相当で取引できる商品を探した。その過程で珍しい「素材」の「ギガントロックリザード」を聞きつけて白金貨を商品と交換するためルブアまでやってきたのだろう。そして石田が白金貨をつかまされたという訳だ。
そしてアルジャジードの努力むなしく、おそらくこの損失を取り戻せなかったらしい。一応最後まで王と交渉していたが、決裂。そしてアルジャジードが余力のあるうちに王へ一撃加えることで再度考え直すよう迫りたかったのだという。
これが今回の内戦のあらましだとの事。
ちなみにアルジャジードにとって悪夢となった白金貨。国内での取引が大部分を占める領には好評だったらしい。それもそのはず。金貨100枚を運ぶより白金貨1枚を運ぶ方が輸送にかかる労力は圧倒的に少ない。今回の内戦でも各領が白金貨を領軍に持たせて参戦、輸送コストを少しばかり圧縮したのだった。
まぁ、内戦云々はと脇に置き、この異世界において石田も領主として認められ、友好領を得たことによりようやく領主としての一歩を踏み出したのだった。




