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今回の最後のあたりから少し書き方を変更しました。
違和感があるかもしれません。ご容赦ください。
アディから除隊を考えているという話を聞いた翌日。石田はルブアの城にやってきていた。この日は報告書についての確認と王都への移動の件の話をした。そして、報告書に紛れ込ませた売り込みに見事食いついてくれていた。
ルブアの城の中庭に石田の司令天幕が設置されている。そしてその周辺はルブアの兵士が警戒していた。
「これは…なんということだ…!」
アサドが電子スクリーンを眺めながら驚愕する。
電子スクリーンに映し出されているのは内戦の初戦、マハール領の城塞都市がアルジャジード軍によって攻略されたときの映像だった。
この時の戦闘では城砦が大砲によって簡単に破られてしまっていた。それもこの世界的には非常識なほどに長距離から。そのため城壁を破壊されたマハール領は即時に降伏することになる。
驚くアサドに対して伊集院が冷静に解説を加える。
「映像を解析した結果この城壁の厚みはルブアのものとほぼ同等の防御力を有していたと考えられます。仮にルブアへ大砲を持った敵軍が進軍してくることを想定しますと…防衛は難しいと言わざるを得ないでしょう」
「…そうだな。その通りだ」
「えぇ。これは大砲を使った攻城戦だったのですが…次にご覧いただくのは、大砲を対人使用する場合についてです」
アルジャジード軍が丘に防衛陣地を築き、王軍と戦闘する映像を流す。最初は真剣な顔でじっと眺めていたが、王国の突撃を見て眉間にしわが寄る。最終的に人数で押しつぶすしかない戦術を眺めては呆れた顔をしていた。
「如何でしょうか。このように我々にご依頼いただければ、報告書では読み取れない、様々な情報をお持ちすることが可能です」
「ふむ…興味深かった。これが君たちの言う、情報という武器…か」
アサドは顎に手を当てて考え込む。少しすると顔を上げ問いかけてきた。
「これは確か…過去の出来事を映している…のだったね」
「はい」
「例えば数日前の過去ではなく、1秒前の過去であっても映し出せるのか?」
「えぇ。きっかり1秒前の出来事となると多少面倒ですが可能です。…ですがどちらかというとアサド様がお求めなのは『1秒前の過去』ではなく、『現在』の状況ではないですか?」
「…まさか、可能なのか?」
「はい」
「実際に見せて貰えるだろうか?」
「えっと…そうですね。少しお時間いただいてもよろしいですか?」
「あぁ」
石田は天幕の外に出てV/SUAVを飛び上がらせた。V/SUAVは垂直に離着陸するタイプの偵察ドローンだ。
天幕に戻る。電子スクリーンの映像をV/SUAVの偵察映像に切り替えて見せた。アサドは驚いた。試しに天幕の入口で警戒する兵士にUAVに向かって手を振ってもらったりしながら上空から周辺を監視するところを見学してもらった。
そしてアサドの希望でUAVをルブアの街の方へも動かした。大通りの賑わいや、城壁で監視する兵士ら等をぐるっと観察して城まで戻ってきた。
「これは単純に眺めているだけでも面白いな。そして、戦闘中にはこれ以上ないほどの有力な状況把握の方法だな」
「えぇ。ご用命いただければ戦場の状況監視も承りますし、各部隊への指示の伝達もお手伝いします」
「あぁ。その時はお願いするとしよう」
「ありがとうございます。あと、もう1件、お見せしたいものがあるのですがお時間よろしいですか?」
「ん?あぁ」
石田はアサドを連れて天幕の外へ出る。
「あ、イシダ殿。お約束の通り連れてきましたよ」
「あっ!ありがとうございます」
アレーシャが3人の部下を連れてやってきていた。突然現れたアレーシャにアサドは驚く。
「これからお見せするのは、私の特殊能力です。これを使って皆さんの軍事演習を安全に行える環境を提供できます」
アレーシャに協力してもらい、石田の復活を可能にするフィールド付与し、付与された人物の復活をアサドに見せた。非常に驚いてくれたが…それと同じぐらい怒られた。『領主の目の前で剣を抜き味方の兵士を切りつける』。そんな事をしたのだから当然であった。
だが、怒られるようなことをした甲斐はあった。警備にあたっていた兵士らからも体験希望者が現れた。おかげでアサドに繰り返し演示して見せることができ、その安全についても理解してもらうことができた。驚くことに最終的にはアサドも体験すると言い出した。
「ほ…本当に体験されるのですか?」
「あぁ。そうだ。君の提案通りなら演習で部下たちにそれを経験させることになるのだろう?自分で納得できないものを部下たちに命じることはできない」
「そ…それは…ごもっともなのですが…」
アサドも一度復活を体験するとなると、誰かがアサドに攻撃をしなくてはならない。攻撃する役割だが…これから商売相手として仲良くやっていきたい石田としては遠慮したかった。そして周辺を見渡しても皆気まずそうな顔をしている。
アサドはやる気十分なようで、体験を止めるという選択肢はなかった。石田はアサドと握手する形で触れて、フィールドを付与した。
「んん…!何だ、これは?何か心落ち着くような感じがするな…」
「はい。それは演習を効率的に行えるようにする効果です。落ち着いた心で事に当たれれば、それだけ多くの事を感じ、考え対処することができますよね?」
「あぁ。焦ったり、緊張すると見落としが増えるものな」
嘘である。何故そうなっているのかは分からないが、フィールドを付与されると精神的に落ち着くという効果があることがわかっている。石田は勝手に「訓練されていない一般人でもFPSを楽しめるように」というゲーム的な配慮だと考えていたりする。
「さて、誰か切りかかってくれ」
―シーン…
誰もアサドと目を合わせなかった。
「おい。これでは体験できんだろう!」
結局最終的に石田が兵士から剣を借りて切りかかることとなった。
「行きます!…フンッ!」
切られたアサドは瞬時に消え、そして天幕入り口の隣に立った状態で現れた。以前は復活で現れる場所は天幕の中央でしかも寝転がった状態だった。しかし、石田のレベルが上がり、リスポーンポイントを選択できるようになったので今の場所に移したのだった。
突然別の場所に転移したアサドは状況が上手くつかめていないのか、真顔のまま固まってしまっていた。
再起動したアサドと石田のこの能力を使った演習について交渉した。そして意外な要望が飛び出してきた。
「あの内戦を再現してほしい…ですか?」
「あぁ。あの状況への対処方法は早急に確立する必要があると考えている。君たちが見せてくれた過去の出来事…あれも大変多くの情報を与えてくれたのだが、やはり経験に勝る情報は無いと考えている。どうだろう?出来るだろうか?」
石田は少し考える。
(あの状況を再現…。地形を再現するのはルブア軍にも協力してもらうとして…私たちが準備すべきはアルジャジード軍を再現する方法か。前時代的な大砲はさすがに無いから…榴弾砲で代用?いや、火力があり過ぎる…。迫撃砲?…60mmとかの小さいものであればまだ大砲と同じように見せかけられるか?)
「承知しました」
「…こういってはなんだが…再現できるのか?」
「えぇ。ご要望とありましたら可能です。ただ、少々費用が掛かることになります」
自信をもって回答する石田にアサドは目を白黒させる。
「…分かった。見積もりを立ててくれ。それから相談しよう」
「はい」
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石田が商談を終えて帰った後、アサドは執務室で黙々と仕事をこなした。王都へと言っている間は代理の者が仕事をするとは言え、領主でないと決断できない内容もある。内戦の終了までもう少し時間があると考えていたのでゆっくりと取り組み過ぎた。王都への出発までに間に合わせるため急ぎ気味で仕事をこなした。
しばらく仕事をするとアルミランが国境監視基地から帰還の報告にやってきた。アサドが居ない間ルブアの領主代行として仕事をしてもらうためだ。帰還したばかりで疲れているであろう事から引継ぎの作業は翌日以降に行う。しかし、紙の束を渡し執務室の応接用テーブルですぐに目を通すように指示した。その書類は石田から受け取った今回の内戦の戦闘に関する報告書だった。
しばらく静かに読んでいた。最初その表情は疲れたていた。しかし徐々に表情が無くなり、最終的に青ざめていた。アルミランもこの報告書から今後の戦いの在り方が変わってくることを読み取ったようだった。
「アルミラン。その内戦を再現した模擬戦を計画している。私が王都へ行っている間、領政の代行に加え、その戦況の打開策を考えておいてくれ」
「…はっ!」
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この後、しばらくして王都へとアサド達を送り届けた。もちろん、この時行商を教えてもらうことになっているタミーナも一緒に送った。
アサド達はゲートを用いた移動にはとても驚いていた。ゲートを通って石田領に入り再び同じゲートを通ると王都の城門前につく。本来なら数日かかる移動が10分とかからなかったので当然の事ではあった。
そして王都では一介の傭兵である石田は王城で開かれる会議に参加できるはずもなかった。このためアサド達とは別れて活動する。
一度ルブアに戻り今度はタミーナ達を連れて王都へやってくる。
手すきのユニットたちには冒険者としての活動させその間、石田はタミーナに教えてもらいながら王都での行商の修行だった。
ターニャやラエレン達に混ざり実際に販売を手伝ったり、タミーナなじみの店を紹介してもらった。ルブアでよく売れていたボールペンは王都でも別の行商人が持ち込んでいたが…その量はあまり多くなかったため、あまり浸透していないようだった。このため商品を陳列しても知っている人はごっそりと買っていくが、多くの人はチラッと見ただけで特に興味を示さずに素通りするだけだった。
そしてタミーナは服飾店などにも伝手があり、ルブアでは不評だったストレッチ素材が売れた。王都ではどのような衣装になるのだろうか。
そんなこんなで王都で活動して数日、ありがたい収穫があった。冒険者として活動していたユニットが偶然、学園の教授とつながりができたそうだった。そのつながりのおかげで、ミスリル鋼の存在を知った。
ミスリル鋼は銀色を基調にやや青白い見た目だそうだ。魔法に対する耐性が極めて高く、すべての属性の魔法を防げるということだった。浦風と材津が取り組んでくれている、魔力検出装置の開発が大きく進展する可能性を秘めた素材だった。
現在の装置は魔力の有無を確認できるだけだ。全方向を検出している…と言えばいい感じだけど、逆に検出する方向を指定することができない。このためどこかで魔法が発動しても、その方向を特定できないという欠点があった。
この問題が解決されるなら、大分技術的に進歩するのでぜひ頑張ってほしい。




