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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
銭湯につくとアディが待っていた。アディは珍しく私服だった。
「よっ。イシダ。領主様がお呼びだよ。明日の10時に城に来てほしいってさ」
「おっけ。了解。要件については何か聞いてる?」
「内戦の報告書について確認したい事があるってのと、王都へ移動する件だってよ」
(う~ん…報告について確認か…。これじゃ例の売り込みが成功したかはわからないな…。まぁ、でも王都への移動(石田の領を通るワープ)は売り込みに成功かな?)
「承知。……ところで今日は私服?」
「あぁ。派遣隊の遠征に行ったからな。おかげでちょっと長い休暇をいただけてる。あ、でも今日の朝は報告書作ったりと働いたんだぜ?」
「あぁ。それでどうせ街に行くならついでに伝言頼むって?」
「そ。そんな感じ」
この1年、アディとは仲良くやってきた。
彼はフォックス族の未亡人、フィルに好意を抱いている。フィルには1歳になる息子が居てそのお世話で忙しく、就職することができなかった。そのため石田の用意した銭湯で働いてもらっていた。
おそらく彼が頻繁にイシダの元を訪れるのはそういう目的もあってのことだろう。
「ん゛ん゛ん゛~~!!ん゛あ゛ぁぁぁぁ!!」
「フィル~?ティットがぐずってるよ~?」
「ん?は~い。多分そろそろお眠の時間かな?」
銭湯の女湯の方からティットの不満を伝える鳴き声と、フェーネ、フィルの声が聞こえてきた。フォックス族の子供は成長が早いのか、すでに立ち歩き(2、3歩が限界)をする様になったと聞いている。
「ごめ~ん。おねーちゃん、今浴槽を洗ってるからおねが~い」
「え?ちょ、ちょっと待って、私、わからないわよ?」
ドタドタと駆け寄る音がして、ティットの鳴き声が揺れる。おそらくフェーネが抱き上げてゆすっているのだろう。
アディが女湯に突撃していった。
(あっ!?お…おい!?)
今は昼時、銭湯は営業していない時間で…確かに男が女湯に入っても問題ない。
(あ…それはそうだな…。でも絵面的に一瞬ビビってしまう)
アディを追いかけて石田も女湯に入ろうとすると…。
「司令…何をしようとしているのですか?」
伊集院が後ろから冷めた目で見ていた。
「いや、ちょっとアディを追いかけようかと…」
「この世界には小型カメラなどの盗撮機材は存在しません。ですからアディさんが入るというのは大目に見れます。ですが司令はそういった機材を手にする事ができます。入るのは…いささか危険かと存じますが?」
ニッコリと笑顔ではあるが目は全然笑ってない。彼女は戦闘に不向きなユニットなはずだったが、そのすごみは恐ろしいものがあった。
(うん。素直に従おう。…あれ?これって『司令は盗撮するような人』とか暗に言われてる?)
伊集院が女湯側へと入っていき、そしてアディがつまみ出されてきた。
「いいですか?女湯とは女性が裸になる場所なのです。今は使用していないとはいえそこに男性が入り込むなどあまり歓迎されるようなことではないのです」
「はい…スイマセン…」
伊集院はアディをつまみ出したのち、女湯に入っていった。
「手伝いますよ」
「あっ!ありがと~!」
何とも言えない顔で中から聞こえる声を聴いた。
「うん。まぁ、フィルさんのお手伝いしたかったんだよな?」
「あぁ」
アディは良い奴だ。女性の裸が…とかという下心よりは、意中の女性の気を引きたいとかっていう理由で多分行動したはずだ。
「最近どうなんだ?」
「仲良くなれているとは思うんだけどな…なかなか休みの日とか時間が合うこともないし…あまり進展がないかなぁ…」
アディは街の中で治安維持などを担当する部隊に配属されている。兵士らの中では最も定時に上がれる部隊だ。しかし、そうはいっても緊急の仕事や夜警の仕事などもあり、休暇を定期的にという訳にはいかないようだった。
「あっ!そこでだ。イシダ。少し頼みがあるんだった」
「ん?」
「いやな、遠征に行く前から考えていたことなんだがな…」
アディは軍から除隊しようと考えているとのことだった。ただ、次の仕事をどうするかという問題に頭を抱えていた。そしてそんなときに見たのが、石田の領だった。肥沃な土地で草木が伸び伸びとはえている様子を見て「コレだ!」と思いついたらしい。
アディは顔を近づけ小さな声で話す。
「エクスプロード・パウダー・リードっていう植物があるんだ」
「エクス…?なんだそれ?」
どうやらあまり人に知られたくない話題の様だ。石田も小声で返す。
「イシダは確か俺の実家の店で銃を買ったんだよな?」
「あぁ」
この世界の技術レベルがどういう物なのかを知るために購入し、解析した。その結果、技術レベルは高くないモノの、どうやら製造方法からして違うのではないのか?という疑問が提示された。ルブアで銃の生産はされていない事等もあって結局その後はあまり調査が進んでいなかった。
「その銃を使うのに魔力と弾と、そして火薬が必要なのは知ってるな?」
「知ってる」
「その火薬なんだが、これまでは他国から火薬をそのまま購入する必要があったんだ。だが正直お値段が高い。さらに火薬は湿気ってしまったりすると使い物にならないし、長いこと保存をしたものは威力が低下するんだ」
「…ん?それとそのエクス何とかとどう関係が?」
「このエクスプロード・パウダー・リード…略してエクスパリからは火薬が採れるんだ」
「!?!?!?!?…はぁ?」
石田はあまりの内容に驚いた。かつての世界では黒色火薬は木炭、硫黄、硝酸カリウムなどを混ぜて作る。しかしこの世界では植物から採れるというのだ。
「いや、だからエクスパリードから火薬が生成できるんだ」
「…マジでか?」
「あぁ。マジでだ。だが、問題もある。このエクスパリは銃の普及を見越して俺の兄貴が伝手を頼って探し出してもらったものなんだが…栽培に失敗したらしい」
「…そうなんだ」
「あぁ。ちょうど去年のイシダがこの街にやってきたごろの話だ。一応何回か挑戦してみて全部だめだったらしい。当時の俺は銃を軍が採用するってのが信じられなかったんだ。ルブアでも何丁かは採用されているけど、正直銃1丁で弓が10セットは用意できるからな。便利だとは思うが、普及するとまでは信じられなかったんだ」
「…あぁ。でも銃の大型版ともいえる大砲が内戦で使われた…」
「…そう。ということは今後王国側でも採用され運用される可能性があるってことだろ?」
「確かになぁ…」
正直今から生産して間に合うのかとか、アディのお兄さんが失敗してるなら無理じゃね?とか、色々と思う所はある。しかしその挑戦には興味があるし、何よりその植物に興味があった。だから仮に失敗するとしても手伝おうと考えた。
「いいんじゃないか?出来る範囲でだけど協力しよう」
「マジか!助かる!このルブアで生産できないって話だから、石田の領で生産してみたらどうだろうかと思ったんだ」
「あぁ。なるほど。確かにそれなら勝算があるのかもしれないか」
アディはとても喜んだ。そして爆弾発言が飛び出した。
「生産出来て事業化できたなら俺、フィルさんに告白しようと思うんだ…」
「うんうん…って!ちょっと待て!それフラグ!失敗するフラグだから!!」
「ふらぐ?…なんだそれは」
石田としてはアディはこのルブアで出来た初めての友人だ。だから彼の成功を祈りたい。フラグとは縁起が悪いもので…と解説しながら、その後の話を詰めていったのだった。
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(ソラヤ)
おかしい。こんなに魔獣の観察って簡単なものだったでしょうか?
今私たちは、王都の東の森に居ます。私たちの周辺は少し森が開けていて見晴らしのいい場所になってます。本日の魔物の調査対象は「グリズベア」という熊型の魔獣です。成体でも体長は1.5m、体重100kgほどと熊型の魔獣としては小型です。ただ多くの場合家族単位の群れを作り生活していて、出会うと必ず複数体を相手にしなくてはならず厄介です。
「あ、巣穴みたいな場所発見。ついでに複数の個体を新たに発見」
「…場所は?」
「え~と、この辺」
「なに、まだ歩かんといけんの?」
「だね~…まぁ、仕事だから、仕方ないね~」
「…も、もう少し、休んでから、出発では、だめですか?」
例の5人が光る板を操作しながら相談している。いったいあれは…というか先ほど飛び立っていった黒い塊は何?本当に良く分からないことだらけだ。大体さっきのワイトフォックスを映した道具も私の知らないものだったし…。
あ、おかしいと言えば彼女らの服。森に入る前にマントを脱いだんだけど、その下から緑や茶色の斑模様で見たことのないデザインの服が出てきた。防具には見えなかったから、防具ではない普通の服だと思ったんだけど…正直おしゃれには見えなかった。それでも最初はどこかの民族衣装か何かと思ったけど…どうも違う。この服は森の中の環境に良く溶け込んでいた。
「どうします?すぐ移動した方が良いですか?」
リコネンスが聞いてきた。
「え、い、いや…今日の調査は巣の場所を調べること、群れの個体の数を調べることだから…巣穴が発見できたなら、しばらく巣穴周辺を観察できればいいかな」
「あ、そうですか。でしたらこれを」
そういってリコネンスは先ほど操作していた光る板を渡してきた。板をのぞき込むと、中では具リズベアの成体が3匹と幼体が4匹ほど確認できた。巣穴らしき穴の側で幼体が成体にじゃれついている。対峙すると恐ろしい魔獣ではあるけれど、その戯れる姿は可愛らしくあった。
「見てみて!可愛い!」
「え~!ちょ~かわいい~♡」
「いやされる~♡」
ユカワ達も別の光る板で同じ様子を見ていたのかキャッキャと盛り上がっていた。
その後しばらく同じ場所にとどまり例の板で観察を続けた。その間レイダがもう1つ黒い何かを空に飛ばした。どうやら黒い何かと板に移る景色は関係があるようで、レイダはモンスターを見つけるたびに『これは何か』と聞きに来た。彼女はとても真剣で、詳しく知りたがった。
(あぁ。学生たちにも彼女の1/10でもやる気があれば…)
などと思ってしまうほどだった。あまりの熱意に私も気分が乗ってきて、つい話過ぎてしまったみたい。結局予定より長い時間その場所に居座って観察することになった。
結局今回の調査対象のグリズベアは成体3匹、幼体4匹の群れであの巣で生活しているということが分かった。この日はこの情報をギルドに報告し仕事を終えた。




