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王城の小さな会議室。豪華な装飾の施された机が部屋の奥に置かれ、その手前には長机が2つ向き合うように配置されている。豪華な机には王が、王の左手側の長机には軍服を纏った者たちが、祖いてその向かいの長机には事務官たちがそれぞれ腰かけていた。長机の王に最も近い位置に座る1人の線が細い男が立ち上がり、全員に語り掛けた。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。今日はきたる戦後会議に先立ち、内戦の総括をお願いします。まず始めに、国王陛下より一言お願いします」
王に向かって一礼をしてその男は椅子に座った。王は顎髭をたっぷりと蓄えた壮年の男性だった。王冠はしていないが、参加者の中で最も格式高い服を着ている。
「皆、此度の戦、ご苦労であった。此度の戦、我々は学ばねばならないことが多くあったように思う。皆の忌憚ない意見を聞かせてくれ」
参加者が王に向かって頭を下げた。軍の初老の男性が立った。この男性は王軍の将軍を務める男だ。今回の征伐は王を総司令官として参加し、軍を指揮した。
「まずは此度の戦の流れを大まかに確認したく存じます。王都(国のほぼ中央)を出発した軍はマハール領(国の北の方にある領)南部に広がるカンダハール平野にて防御陣地を構築しているアルジャジード軍を補足、同場所で開戦いたしました」
「えっ!?ちょっと待ってください!」
将軍の話を止めたのは、事務官側に座る中年の男だった。
「…確か当初の想定では、マハール領が城塞都市に立て籠もりアルジャジードの進軍を足止めし、疲弊したアルジャジード軍を叩く…とのお話でしたよね。マハール領軍は何をしていたのです?」
「この時既に陥落していたようだ」
「!?…陥落?…城壁を持つ都市に籠城していたのにですか?」
「そう聞いている。私たちも休戦協定を結ぶ際にアルジャジード側から話を聞いただけで、詳しくは知らない」
「…そうですか。わかりました。続けてください」
「では続けます。アルジャジード軍は丘の上に陣地を構築し、丘の斜面に沿って防御壁を構築していました。丘の頂上付近ではすべて土による壁でしたが、裾の方では木柵と土壁が入り乱れている状況でした。こういった状況から防御陣地は構築中であり、時間を与えない方が良いとの結論に至りました。我々は陣地の設営を終えた翌日、降伏勧告を行い受け入れられずそのまま戦闘に至りました」
開戦時の状況から休戦協定の内容まで詳しくはないが大まかな内容を解説していった。
全ての解説を終えて将軍が座る。
「短期間で構築される城壁。それに大砲ですか…」
文官の男がつぶやいた。
「うむ。ドラゴンの襲撃こそなければ勝利していたであろう。しかしアルジャジードが圧倒的な兵力差にも関わらず健闘して見せたのはひとえにその2つの要因があったからであろう」
将軍が答えると、すべての軍服を着た男達が相槌を打った。だが、軍人の全員が気づいている。今回の内戦、本当に勝つことができるかは不明だということを。しかし全員が相槌を打たなくてはならなかった理由がある。この度の内戦の形式上の最高責任者は国王になっているからだった。王の権威を傷つけないためにも、そこは全員一致で隠したのだった。
「我々もそれらを研究、導入する必要があると考えている。この件については戦後会議の後に財務の方と相談したいと思っている」
1人の高齢の文官が嫌そうな顔をする。この男、内政を担当する大臣だった。文官側を代表して大臣が反応した。
「予算の見直しか?それとも追加予算だろうか?」
「追加予算をと考えている」
全ての文官が否定的な反応を示した。ある者はため息を、あるものは顔を引きつらせている。
「今年度の予算は既に決まっている。そしてこれから各領主たちに対する報奨の話も控えている。何も得られなかったこの内戦では報奨を手に入れた土地や賠償金からという訳にはいかない。となると報奨はほぼすべて国庫から支払うことになる。正直財源もないのに追加予算は難しい」
大臣は毅然とした態度で軍人の主張を否定した。
「まぁ、待て大臣。実はその件は私の方からも要請したいのだ」
これまで黙っていた王が発言した。
「どちらも重要な技術ではあるが、特に大砲だ。あれはこれからの戦の在り方を変えるものだった。少数のアルジャジード領軍が相手であったから何とかなったが、他国が十分な兵力をまとめあの武器を携えて侵略してきたなら…防衛は難しいだろう」
王は軍人たちが言葉には出さなかった事をずばりと口に出した。王として担がれるだけの存在ではなく、きちんと判断を下せる人物だった。
王の多くない発言を受けて、しばし大臣は考え込んだ。
「…左様でございますか。陛下の要請とあらば前向きに検討いたしますが、如何せん予算の不足はどうしようもございません。そうなりますと他の事業の見直し・凍結なども必要となりますが、よろしいでしょうか」
「うむ。よい。優先度の低い事業をリストアップしておけ。そのリストを元に切り詰められる事業を相談するとしよう」
「「「はっ!」」」
文官の全員が頭を下げた。
「すまんな。話の腰を折った。続けてくれ」
「は!では続きまして、各領主の武勲と報奨の…………」
内戦で王国は大砲の威力を思い知った。直接目にしていない文官の反応は悪かったが、王が直接その眼で見たことが大きく影響しこの国の軍の在り方が変わっていくこととなる。
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(ソラヤ視点)
―ピヨピヨピピピ…
遠くでアーリスパローが鳴いている。小型の鳥で魔法は使わないため魔物ではなく動物だ。鳴き声がとても美しいが、小さく素早いので見つけることは難しい。そして…
―パキッ…
後ろを歩いていた女が木の枝を踏み音を立てた。
―…シーン……
その音を皮切りに鳴き声が止む。アーリースパローはとても警戒心が強い。鳥の魔物もいるこの世界では、小さく素早いだけで反撃の手段を持たないアーリースパローは獲物でしかない。
「あれ?綺麗な鳴き声が聞こえんようになってしもーた」(浦風)
「…多分さっき枝を踏んだせい」(レイダ)
「…ごめんなさい」(材津)
「いや~、まぁ、浦風ちゃんと材津ちゃんは仕方ないよ」(湯川)
「うん。気にしないで。私たちがしっかり警戒しているから」(リコネンス)
とこの5人は森の中だというのに気負っていない。まるで遠足に来ているかのような…気楽さがある。いつどこから襲われてもおかしくないのに。でも、少し納得してしまえるところもある。それは今の今までアーリースパローが鳴いていた…ということがよく示している。
私たちは目的のモンスターを観察するために今森の中の獣道を歩いている。横幅のない狭い道なので縦一列で歩いている。私、リコネンス、ウラカゼ、ザイツ、ユカワ、レイダの順番だ。森に入ってしばらく歩いたにもかかわらず大きな音も立てなかった。アーリースパローを警戒させない程静かにだった。
私が連れて歩いているこの5人の中で2人(ウラカゼ、ザイツ)はどうも初級冒険者のような身のこなしだ。山道を歩きなれていないような雰囲気だ。そして1人ユカワは、森に慣れてない熟練冒険者の動きでがつがつと歩く。とてもしっかりとした足取りだ。そして残った2人がおかしい。この2人、姉妹なのか見た目がよく似ている。そして歩き方も似ていて…2人とも足音がほとんどしない。山歩きに慣れているし、自然な動きで周囲を警戒している。どちらかというと暗殺者なんじゃないのかと疑ってしまう。
「あの…さっきから隠れながらこちらを伺ってくる動物が居るみたいだけど…あれは?」(リコネンス)
「え…そんなの見得ないけど…」
んん?私もそれなりに警戒しながら歩いてきた。基本的にこの辺では大したモンスターは出ないはず。第一、この辺でよく見かける魔物には隠れて…ってことをする存在は…。
「ハッ!?えっ!?ちょっと止まって!警戒して!どの辺に居るの!?」
まずいっ!こちらに姿を見せず静かに近づき、一気に襲い掛かってくる魔物が居る。ハイドタイガーだ。この辺ではあまり見かけることのない魔物ではあるけど、決して目撃情報がない相手ではない。全員に襲撃に備えるように指示を出した。
「え~と…材津ちゃん。そのカメラ貸して?」
緊張している私とは対照的に、リコネンスは落ち着いたものだった。ザイツの持っていた箱に筒(?)の付いた道具を受け取ると、進行方向右側の方の斜面に向ける。そして、その道具を私の方に差し出してきた。その道具には現実世界を切り取ったような絵が描かれていた。その絵の中には白い狐が茂みから顔を出しこちらをうかがう様子が描かれていた。
「えっ???…嘘っ!?これ…本当!?」
私の緊張も一瞬でどこかへ飛んでいった。その絵の中の存在は冒険者の間で幸運の象徴ともされるワイトフォックスだった。
「あ…逃げた…」(リコネンス)
耳を澄ませてみると、確かに遠くで何かの走り去るような足音がしていた。
「え…嘘…1目見たかった…」
少し残念だった。正直魔物としてはデータがあまりにも少ない。伝承で語られる限りでは凄い能力を持つモンスターとのことだけど…警戒心が強く人前にほとんど姿を見せない。冒険者が見かけたという報告は何度かあったけど、人を襲うようなことはしないし、何より観察できないほど素早く逃げる。
「で、あれは結局何?」
「え~と…冒険者の間で語られる幸運の象徴…かな。人を襲うようなことはないし、本当にまれにしか遭遇できないからそういわれてる」
「ふ~ん?…まぁ、じゃ、安全なのね」
あれ?どうやらリコネンスはあまり興味が無いようだった。ただ、後ろを見てみるとウラカゼとザイツは残念そうにしていたけど…。
ま、めったにお目にかかれないワイトフォックスが居たっていうのなら今日はいい日になるんだろうな。
「あ~…見たかった…。と、ごめんなさい。安全だから進みましょうか」




