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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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―カラーン、カラーン、カラーン……


 午前の講義時間終了の鐘が聞こえてくる。研究室で講義をしていたソラヤは黒板に書き込むのを辞め学生らに向き直る。

 ソラヤの研究室に配属される学生はいない。そして今こうして講義を聞きに来ている学生は魔術科ではなく錬金科の学生だ。魔術科は個人or集団で発動させる魔法を研究・教育している。錬金科は魔道具の作成や製造について研究・教育している。

 ソラヤ個人としては無詠唱で魔法を発動させる事を真剣に研究しているつもりだ。魔術科で魔法発動理論を研究しているソラヤだが、その研究成果が「無詠唱で魔法を行使する魔道具」の発明だった。この成果に対して


魔術科:「そんな研究は錬金科でやれ!」

錬金科:「え?魔術式を用いないのに魔法発動しちゃうの!?」


 という反応だった。このため変則的ではあるが、錬金科の生徒を相手にその研究について講義している。


「時間ですね。では本日の講義はこの辺で終わりにしましょう。お疲れさまでした」

「………ZZZ……」(学生A)

「おい。起きろ。飯行くぞ飯!」(学生B)

「あ~…やっと終わった~…」


 だがその講義を聞く学生達の多くは寝てしまう。まだこの講義が始まって2年目ではあるが、去年の学生もそうだった。というのも…


「はぁ。俺たち生物学者目指してんじゃないってのに…」


 そう。錬金科は「魔道具」の専門家の育成を目指している。当然そこで学ぶ学生もそこを目指している。だがこの講義の内容は素材について取り上げるのではなくモンスターについて取り上げている。

 錬金術科の生徒は魔獣からとれる素材を利用して魔道具を作成する事を学ぶ。この際「作成する」という部分を重点的に学ぶ。しかしその素材が採れる「モンスター」についてほとんど知らない学生が多い。せいぜい知っていて「風系魔法の道具を作る○○は風系魔法を使う□□というモンスターから採れる」位の知識だ。

 ソラヤの研究はモンスターの徹底した観察、解剖から魔法を発動させる器官を割り出し、それを分析、魔法発動の原理を解明することを目的としている。かなり広い範囲の分野について知識を必要とする。


「あ~、ねみぃ…」

「マジだるい…」


(はぁ…まぁ、そうよね。学問の基本は分類し区別すること。そして特定の分野を極めるのが研究者だもの…。専門外の事なんて興味ないのが普通よね…)


 去年からの事なので落胆はしないが傷つく心はある。生徒らの愚痴を聞き流しながら黒板の板書を消していく。

 学生たちの反応はおおむね去年の通りだが、去年とは違うことが一つだけあった。


「ソラヤ教授。今日の講義も大変興味深い内容でした」


 ソラヤに声をかける老年の男性がいた。サダーム・カーリフ教授だ。サダーム教授は錬金科の中で3番目に大きな研究室を率いている。所属する研究者や学生の数は40人にものぼる。去年の講義はちょうどサダーム教授の講義時間とブッキングしてしまったため来られなかったが、今年はわざわざ講義時間を変更してまで出席されている。そしてこの教授が出席してくれているおかげで、去年よりは起きている学生が増えた。


「サダーム教授、ありがとうございます。…えっと、その…どの辺が興味深かったのでしょう?」


 実は今日の講義はソラヤが独自に調査した内容を含んでいる。しかし、ソラヤ個人としては特に新たな発見のないありふれた内容だったように思う。

 今日の講義内容は「ウィンディウルフ」というモンスターにを取り上げた。ウィンディウルフは狼型の魔獣で、風魔法だけを利用する。このモンスターはウィンドカッターという魔法を使う。しかし特徴的なのはそこではなかった。人間の利用する魔法に対応する魔法がないので…なんといえばいいのか…。えっと、とりあえず『移動する際に追い風を纏う』魔法だ。こうすることで移動速度を向上させ恐ろしい速度で肉薄してくる厄介なモンスターだ。

 そんなこのモンスターの基本情報や生息地域、彼らの狩りの仕方、食性、摂食習性、冒険者らの対策などを取り上げた。


「今日の講義で『ウィンディウルフはフローリーフを食べる』とおっしゃってましたね」


 フローリーフはとあるポーションの素材として用いられる。そのポーションとは、『風魔法バフポーション』。名前の通り、これを飲むと風魔法の発動がスムーズになり威力が増すというものだった。


「はい。…それが?」


 ソラヤは注目する点を教えられてもなぜ興味深いのかわからなかった。冒険者として活動し、冒険者仲間から『フローリーフは必ずウィンディウルフの縄張りの中にある』ということが常識となっていたからだった。


「ウィンディウルフが風魔法との相性がいいことはご存知ですよね。そして彼らの体毛は風魔法のスクロールを作る際の素材に用いられます。…これだけ揃っていると、まるでウィンディウルフの風魔法はフローリーフによってもたらされたものではないのかと思えてきますよね?」

「はい。確かに私もその間には関係があるように思ってます」

「えぇ。あくまで仮説ですが…このことが正しいとしましょう。これをより抽象的に理解すると…『特定の属性に適性を持つモンスターはその摂食習性の中に原因がある』と受け取ることができると思いませんか?」

「…はい。……あっ!特定の属性にのみ適性を持つモンスターの生態を調査すれば…」

「えぇ。新しいポーション、スクロールの開発につながるかもしれません」

「えっ?ですが、既存のポーションやスクロールの開発もそういった経緯をたどってきたのではないのですか?」

「いえ、残念ながら…。ですので、この視点はとても新鮮で、検証する価値のあるテーマだと思います。ソラヤ教授は冒険者として独自に生態を調査するすべも持たれているのですよね。どうです?錬金科に移ってこられませんか?」


 ソラヤは魔術科の教授だが、実は錬金科からも教授の誘いをもらっている。だが…


「ごめんなさい。お誘いはうれしいのですが、私の興味あることは無詠唱魔法が発動するその原理です。錬金科での研究となりますと、どうしても研究テーマを変更する必要に迫られてしまいますから」

「そうですか…。又いつでも気が変わりましたら教えてください。私はあなたが錬金科に来られることをお待ちしていますので」


 何度も繰り返してきた会話だ。このやり取りは半ば恒例の挨拶になりつつある。


「はい。ありがとうございます」


この日のソラヤが受け持つ講義はこれで終了した。ソラヤは研究室に戻ると、冒険者の衣装に着替え出かけた。組合へとたどり着くその道中、彼女が考えるのは先ほどの会話だった。


(錬金科で研究室をもったら、研究費はもっともらえるんだろうな…。そうしたら、実地調査じゃなくてモンスターを捕縛して飼育して…より詳細に魔法が発動する際の魔力の動きとかを調査できるんだろうな…)


 ソラヤはふっと微笑む。冒険者として実地で調査することも好きだが、それ以上に知りたい事へ早くたどり着けそうという思いがそうさせた。しかしそれもつかの間、真剣な顔つきに戻る。


(でも、そうなってくると卒業研究のために学生も集まるのかな?…そうしたら、予算足りなくなるから結局…今みたいに実地で調査する必要も出てくるよね。そうすると冒険者活動にも連れて行って…調査を手伝わせることになる?……いや~それは無理~…。1人だから危ない調査も行えるけど、これが学生や研究する同僚だったらそんな指示出せないな…)


 1人うんうん悩みながら組合に向かった。組合の建物に入ると、まずは依頼の確認に向かう。掲示板に向かって歩いていると声がかかった。


「おーい。ソラヤ!ちょっといいか?」


 自分を呼ぶ声に反応し、思考が現実に戻ってきた。声のした方を向くと、冒険者チーム「青の一団」が居た。


「このお嬢さんたちが王都周辺のモンスターについて詳しく知りたいんだってよ。モンスターについて詳しい冒険者を探しているって話だから、ちょっと相手してやってくれないか?」


 「青の一団」とは何度か一緒に依頼をこなした仲だった。彼らは気難しい。そんな彼らが親切に人助けを…?」と不思議に思った。しかし、その彼らの後方を見て納得した。異国の顔だちをした可愛い女の子が5人いた。


「この娘たちだ。旅しながら冒険者やっているっていうんだが、ここで少し稼ぎたいんだと。それでここら辺のモンスターについて詳しい人を知らないかって」


 どこかの街では新人教育を熱心に行う所もあると聞くが、王都はそこまで熱心じゃない。熱心ではないけど一応王都でも初心者を連れて冒険をレクチャーするという習慣がある。実際ソラヤも最初はそうやって先輩冒険者について回ったりした。

 この新人を連れて依頼をこなすというのはペイフォワードの文化だ。誰かから受けた恩を他の誰かに返す。そうして決して熱心ではないけれど、新人を育て王都の冒険者業界を動かす大事な慣習だった。


(今回は私が教える側になったのね…。初めてのだからうまくできるかわからないけど…)


 ソラヤは覚悟を決めて、その女の子たちに近づいた。ソラヤの感覚から言うとまだ幼い少女という印象を受けるが、近づいてみるとその落ち着いた雰囲気に何かを感じた。


「なるほど、わかりました。私が受けようとしている依頼は魔物の調査で、とても地味なものです。それでもよろしい?」

「調査…ということは、基本的にモンスターとの戦闘は避けるということですか?」

「えぇ」

「分かりました。むしろそれは助かります。よろしくお願いします」


 若い冒険者ほど派手な依頼を好む。だから何かしら難色を示すと思っていただけに意外な回答だった。


 当人らの同意も得られたので、ソラヤは依頼を受注し彼女らを伴って王都の外へ向かった。


~~~~~~~~~~~~~

(石田)


 石田は自分の領へと帰ってきていた。領主の館の執務室で石田は悩んでいた。


(王都からルブアへ運ぶばかりではルブアの経済が壊れてしまう)


 これはタミーナの話を聞いて気が付いた事だった。


 彼女の話では、行商人は複数の街を行き来しながらそのすべての村で仕入れと販売を行う。分かりやすくAとBの2つの街で考えると、Aで仕入れBの街へ移動し販売、そしてBの街で仕入れAの街に戻りまた販売する…といった具合だった。これは単純に荷車を空にしたまま移動するのはもったいないという考えによるものだった。


 そんなやり方を聞いてふと考えたのが『王都で仕入れルブアで売る』ばかりを繰り返すとどうなるのか…ということだった。考えて導かれた結論は…ルブアの資金が王都へ流出し、ルブア経済が破綻するということだった。


(さて…どうするかねぇ…)


 悩んでいると窓の外から珍しいエンジン音が響いていた。


ーブロロロ……


 音に気が付き窓から外をのぞくと、誘導路をレシプロ機がゆっくりと走っていた。京藤から提出されたファティの訓練計画によると、今日は古井の操縦する練習機で空を飛んでみることになっていた。通常の訓練であればこんな課程は無い。しかし、ファティを教育するために京藤が専用に組んだカリキュラムだった。


 レシプロ機が誘導路を抜けて滑走路に入り、停止する。エンジン音が高くなり、加速し、離陸した。


(見事なもんだなぁ…)


 航空機の離陸はいつ見ても不思議な気持ちになる。軽い高揚感のような…感動のような…。


(理論はわかる。空を飛べるってことも知っている。…でもやっぱり飛び上がる姿を見ると「あぁ…飛べるんだなぁ…」って…。まるで飛べるということを信じてなかったかのような…)


―コンコン


 執務室に伊集院が入ってきた。伊集院は情報分析のエキスパートだ。黒いく長い髪ストレートで流している。丸顔でクリっとした目、眼鏡をかけている。体の起伏は激しくはない。どちらかというとスレンダー。彼女を構成するパーツはそれぞれ幼く見えるものだが、落ち着いた理知的な雰囲気が伊集院を年相応の見た目にしていた。


「司令、例のドラゴンについての情報をまとめてまいりました」

「ありがとう」


伊集院が机までやってきて、資料を石田に渡す。


「レーダーに映る像がとても特徴的で…正面或いは背面からの捕捉は非常に難しいと思われます。ただ、側面からでしたらどうやら捕捉は難しくないようです」


 レーダーには大きく分けて2種類のレーダーがある。それがアクティブレーダーとパッシブレーダーだ。アクティブレーダーでは能動的に探索用の電磁波を放射し、反射して帰ってきた電磁波を計測することで相手の位置情報を特定する。パッシブレーダーは、相手がレーダーを利用していることが前提のレーダーで、自身からは電磁波を放射せず相手が索敵のために放射するレーダー電波を集め相手の位置を探る。

 わかりやすく例えるならば、暗闇の中での懐中電灯だ。自分が持つライトで相手を照らして位置を探るのがアクティブ、相手が使うライトの光から位置を探るのがパッシブだ。おそらくこの世界に自発的にレーダー電波を発生させるようなものはいないはず。だからこの世界で索敵しようと思えば自然とアクティブレーダーを使用するしかない。


「正面から捉え難いというのはなぜ?」

「このドラゴンの翼がどうやらレーダーに映りにくいようです。胴体部分などは普通に映るため翼を取り除いた断面が大きくなる側面などからは捕捉が容易なのだと思われます」

「…えっ…てことはあの翼はあの巨体を浮かび上がらせるだけの強度があってレーダーに映りにくい素材…ってことになる?」

「おそらくは」

「それはぜひ確保したいな」

「えぇ…。ですが、レーダーを使用してくる相手のいない現状では活用する先がないかと…」

「…そうだね…」


 資料の紙束をめくりながら大まかに目を通していく。


「う~ん…ということはレーダー1基ではうまく捕捉できない危険性があるってことだな…」

「はい」

「他国の土地にレーダー施設を建てるわけにもいかないし。移動式レーダーを複数となると…人員が足りないか…」

「そうですね…。現状ですと八木が地上の移動式レーダーを1基だけですね。あ、古井がパントム搭載のものを動かせば2基ですね」


 パントムはジェット機だ。燃料の問題から滞空していられるのは1~2時間が限界。定点でドラゴンの飛来に備えるには向かない。現状の装備ではドラゴンを早期発見するのは難しいかもしれない。


「なるほど。航空機のレーダー…。それならいっそAEWかAWACSがあるといいね」


 AEWやAWACSとは、大型のレーダーを搭載した航空機の事を指す。日本語ではそれぞれ『早期警戒機』『早期警戒管制機』となっている。多くの場合円盤型のレーダードームを航空機の上に装備させている。この2つの機種の違いは管制能力の有無だ。AEWは単純にレーダーを背負ってその情報を味方に伝える能力だけを持つ。そしてAWACSはそこに他の管制システムと要員を乗せて他の航空機に指示を飛ばせるような航空機だ。(AEW&CというAEWに管制システムを乗せた機体もある。このためAEW&CとAWACSの違いは明確ではなかったりする…)


「そうですね。地上型に加えてAWACSを動かせば捕捉できる可能性が高くなりますね。あと、ここは陸上ですので難しいですが、海上に出られるならミサイル駆逐艦などがあると楽ですね。あれでしたら対空兵装も充実していますから」

「確かに…。いずれにしても現状では対処しようがないな…」

「はい」


 ファティ曰く、あのドラゴンは防御力が低いとのこと。しかしドラゴンなりの防御力は備えているということなので、どの程度の攻撃から有効だとなるのかがわからない。ギガントロックリザードというモンスターよりは固いらしい。ということはおそらく50口径では相手にならない。


(20とか30mmの対空砲?…レーダーで射撃できない可能性がある以上、目視で照準を合わせることになる。となると、対空砲の射程は同時に奴らの攻撃可能距離でもある。首の動きで標的を補足できる分、奴らの攻撃の方が早く到達する可能性がある。…アンブッシュしての奇襲で先制できれば可能性がある…か?)


―ピピッピピッピピッ…


 資料に目を通しながら対処法について考えていると、机の上のPCに連絡が入った。PCを操作すると、PC画面にウィンドウが開きビデオチャットがつながった。相手はルブアの銭湯で働いてもらっているフォックス族の族長、ガパティだった。


「はい。もしもし。どうされました?」

『あ、イシダ様。今、銭湯の方にアディさんが来られまして、領主様から伝言を預かっているとのことです』

「あ、はい。今から行きます」

『はい。お願いします』


 石田はビデオチャットを切り、ルブアへ向かった。

AWACS ←コレ『エーワックス』って読むのが一般的らしいですね。

実はつい最近まで『アワクス』だと勘違いしていました。

なんというか、無知を痛感しております。

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