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石田の取り組んだ初めての傭兵仕事は赤字になってしまった。ただ短縮した行程について特別手当が支払われ、赤字額は少し小さくなった。
今回赤字の原因となった治療活動は無意味ではなかった。他の傭兵団とコネクションができた。撤収が決定した後、少なくない数の傭兵団の代表がイシダの元を訪れてきた。その多くが感謝を伝えにやってきた。軍に所属する兵士なら戦えなくなったとしても職を失うことはない。しかし傭兵団では戦えない者を養うほどの余裕はなく、戦闘力の低下はすぐ職を失うことにつながる。多くの兵士を救うことは、失業者の発生を防いだ側面もあったのだった。
とはいえ、赤字は依然として残るため早急に稼ぐ必要があった。
ルブアに帰還したその日の夜。銭湯の隣に引っ越してきた(スカウトした)宿屋「ネムレ」の食堂で石田達は食事をしていた。この宿屋の食堂には伊良湖が監修した和風のメニューがあり、そして石田の領で採れた生鮮野菜を卸していた。おかげで味がいい。ただ、客足は相変わらずだった。
ぼちぼち居るお客さんたちに混ざり石田達も食事をとる。
(さて…どうするかなぁ…)
一応、銭湯とこの店の支配人は石田だ。その関係で知っているが、今回出た赤字を補填するほどの余裕はない。もちろん、そんなことさせるつもりはないが。
もちろん次の仕事について考えはある。アレーシャに資料に混ぜてちょっと広告を出しておいた。
(次の仕事につながるといいな。まぁ、その前にいろいろ他にもやっておかなきゃな)
石田の領を経由してワープが使えるようになったことを使って、今後石田は行商の仕事を始めてみるつもりでいた。
(ふふふ。これが出来るようになるから、多少の赤字でも彼女を開放したんだ!)
ササっと食事を済ませ、石田は目的の人物を探す。探しているのはタミーナだ。彼女は元行商人だ。現在はルブアで露天商をしている。石田の領で生産された商品を取り扱ってくれている。定期的に収入があるのでとても助かっている。
店内を見渡していると、ちょうどタミーナが店に入ってきた所だった。タミーナに続いてターニャ、ラエレン、ナーダ、ザリファ達が入ってくる。ターニャはタミーナの娘で、他の3人は盗賊に親を殺された身寄りのない少女達だった。彼女らは今、タミーナのお世話になっており、彼女の露店で販売を手伝っている。
少女4人は店に入ってくるとファティを見つけ駆け寄った。ファティは一時期彼女らに交じって露店の販売を手伝っていて彼女らと仲がいい。
タミーナはそんな少女らを微笑んで眺めながら、6人掛けの席を確保した。
「タミーナさん。少しよろしいですか?」
「はい。もう戻られていたんですね。傭兵のお仕事お疲れさまでした」
「いえ、私たちなんか大したことしてないんで、あまり疲れてないんですよ」
「あら、そうなんですか?あちらでは何を?」
「後方で傷ついた兵隊さんの治療ばかりしてました。気づいたときには戦争が終わってたって感じでして…」
タミーナは行商をしていただけあって、会話がうまい。世間話に始まり、タミーナの露店の様子や今回の内戦の事など話が盛り上がった。交渉事が苦手な石田としてはとてもありがたかった。
「あ、それで、ちょっとタミーナさんにご相談が…」
一通り話をして場が盛り上がった頃合いを見計らって石田は本題を切り出すことにした。ちなみに、話し込んでいる間に少女ら4人はタミーナが確保した机につき、それぞれ料理を注文していた。
「なんですか?」
「ちょっと行商の仕事をしようと思ってまして…もしよろしければご教授いただきたいのです」
石田の領を経由するワープを使えばどこでも好きな場所で買い、好きな場所で売れる。最も安く手に入る街で商品を仕入れ、高く売れる街で売りさばく。
(そしてその差額でウハウハだ!)
ワープが使える石田は行商の仕事を軽く考えていた。
「あら、そうなんですか。えぇ。私は構いませんよ。まずはどちらの街へ向かわれるご予定ですか?」
「最初は王都でと考えています」
考えもなく回答した。そして、認識の甘さを教えられることになった。
「王都ですか。いい判断です。行商をする上で意識した方が良いことがあります。それが商品の『産地』『経由地』『消費地』です。商品は消費地より経由地、経由地より産地の方が安く手に入るのが常識です。このルブアはほとんどの商品が最終消費地になっているため、行商のスタート地点とするには難しい街です。ですが唯一『交易品』だけは『経由地』となっています。そこでこの街で手に入れた他国の珍しい品を王都に持って行く…というのが一般的ですね」
「あ…はい」
安く買えるところ=産地、高く売れるところ=消費地と考えれば同じようなことだった。しかしより詳しく、正しく状況を観察している。
(…勉強になるな)
「そして商品の購入をされるときは、その総量に気を付けてください。というのも、馬車には商品だけでなく食料や水を乗せなくてはなりませんから」
(あっ…そうか…。普通馬車で移動することを考えると、そうなるのか…)
「あ、その点は大丈夫です。口頭で説明するのは難しいのですが、1日で王都まで行く手段がありますので」
「ええっ!?……あ!あのトラックのもっと凄い奴があるんですか?」
「はい。そんな感じです。それでですね、それに乗るためにいろいろと制約がありまして、よろしければ明日の朝少し時間をいただけませんか?」
もちろんその用事というのは田淵による健康診断だ。これでOKが出れば石田の領へ出入りできるようになる。
「はい。わかりました」
タミーナからOKが出たので、詳細を伝えて、田淵と顔合わせをしておいた。
この後、仕事を終えたアディやルブアで活躍する冒険者チーム「ワイルダーネス」、手すきのフォックス族の人たち等がやってきてちょっとした宴会になった。
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突然失礼します。私は偵察狙撃手のリコネンス・スカウトです。妹のレイダとバディを組んで活動しています。偵察狙撃手の仕事は本隊に先行して偵察・斥候・観測を行ったり、敵の占領地域に侵入し重要目標を狙撃したりすることです。私たちの領には珍しい、バリバリの前線部隊の仕事です。
突然ですが問題です!デデンっ!
Q. 偵察狙撃兵にとって最も重要な技術とは何でしょう?
A. それはずばり!「環境に溶け込む技術」ですっ!!
え?「長距離から目標に銃弾を叩きこむ技術」ではないのか?あー…確かにその技術は確かに必須なんですが…敵からの反撃がない「射撃競技」ではないのです。例えば敵の警戒ラインを超えて敵地に侵入し狙撃するとします。すると狙撃した時点で敵に自分たちの存在が知れ渡り追撃を受けます。そうなるとどうしても敵から逃れる技術が必要になりますよね。だから「環境に溶け込む技術」が重要になるんです。
さて、そんな私たちですが、現在はリベリオン王国の王都へやってきています。今は王都の冒険者組合に向かって通りを歩いています。
「リコ。王都でもマントは有効そうだね」
リコとは私のあだ名。リコネンスと呼ぶと長いので親しい人たちはそう呼びます。
声をかけてきたのは私の妹のレイダ。私とレイダ、材津、浦風、湯川の5人でやってきてます。私たちはルブアの冒険者がよく身に着けている土気色(カーキ色)のマントを身にまとっている。街中の景色に溶け込むなら一番はやはり現地の人たちと同じ格好をする事。でも今日は街の外、森にも行ってみるつもりでいるので迷彩服を着こんでおきたい。だから街中で目立つ「迷彩服」を隠すためその上から大きいマントを羽織っている。
「だね。ただこの王都、マントを着ている人もいるけど…時々派手な色の人たちもいるよね…?」
マントを羽織った人の全員ではないが…派手なマントを身に着けた人がいる。あのマントでは絶対カモフラージュ効果は望めない。赤やら青やら…金の刺繍?まで入れてる。…あ、何かのチームのエンブレムなのかな?マントの色は違うけど同じ刺繍の施されたマントを着た集団がいる。
いや、反対に目立ちたいのかも?軍人と異なり登山家はあえて目立つ服を好んで身に着ける。というのも登山者同士でお互いの居場所を知らせあったり、最悪の事態に救助隊から発見されやすくするためだ。そう考えれば…冒険者間で相互に助け合うという目的があるようにも思える…。
(いや、でも彼らは狩人であるわけでしょ?なら、モンスターに見つかっちゃ意味ない気がする…)
「ですね。あれは、何がしたいのでしょう?」(材津)
材津さんは防衛技術の専門家。防衛技術と聞くと防弾ベストや戦車の装甲を思い浮かべるんだけど、意外と「迷彩柄」の作成なども彼女が得意とするところだったりする。だから、私たちと同じく「周囲に溶け込む」という考え方で眺めているみたい。
「ん~…冒険者でなく別の職業の者であるとかかね?」(浦風)
「いんや~。それはないんじゃない?彼らも武器を携帯しているしさ~…」(湯川)
「武器を装備しているけど…わざと目立つ…。なにかの警備?」(レイダ)
「どうだろ?仕事中であのマントは制服っていうのなら彼らは何を警備してんのかわかんないんだよね~…。なんか普通に買い物しているだけって感じ?」(湯川)
「確かにそうですね。でも…目立っているという意味では私たちも同じなのでは?」(材津)
そう、先ほどからすれ違う人たちから視線を感じる。何だろう?マントはルブアで一般に出回っているものだし、フードで顔を隠したりしているわけでもない。危険な武器を露出させているわけでもないし…
「…ルブアの旅装束だから、田舎者って目線で見られてる?」
「ん~…かな?」(湯川)
「冒険者組合の後はマントを新調しに行きましょうか」(材津)
とりあえず歩くペースを上げた。時々、待ちゆく人に組合の場所を聞きながら冒険者組合を目指した。
この王都、凄いことに王都内にも城壁がそびえていて幾つかの区画に分かれていた。そして冒険者組合は王都の中心の区画にあった。ルブアの組合よりも大きな建物だった。
意外なことに昼の時間帯にも関わらず冒険者らしき人物らが結構出入りしている。ルブアの組合なら、冒険者がいるのは朝の依頼を受注する時間帯と、夕方の報告の時間帯くらいだった。
(あっれー?人が少ない時間を狙ってきたのに…こんなにいるの?)
見慣れた(昼の組合は人がいない)光景とのギャップに驚き、みんな足が止まった。
「…昼間なのに冒険者がいる?」
「ルブアではあり得ませんね…」
「ん…ん~…ま、ここで止まっても仕方ないじゃん。入ろ入ろ」
「は…はい」
入口から強烈なジャブを食らった気分だった。建物内に入ると驚いたことに中に食堂があった。建物内の配置はルブアと同じような感じ。1階を半分に分けるようにカウンターが伸びていて、その一部が食堂のカウンターになっていた。そしてカウンターから手前側にはいくつもの丸テーブルが置かれていて所々で冒険者らが食事をしていた。
「組合内に食堂?」
「な…なるほど。昼間でも冒険者がいるから…採算が合うんですかね?」
店内をぐるっと見渡す。そして目的の物を見つけた。
「あ、あそこに依頼ボードがある」
依頼ボードとは依頼内容と報酬額などを記した依頼書が張り出されるボードだ。全員で依頼ボードへと向かう。
何だろう。通りかかると冒険者らにじろじろと見られてしまう。先ほどの街を歩いていた時よりもあからさまだ。
(…『よその冒険者がシマを荒らしに来た』って感じで警戒されてる?)
ボードの前にたどり着く。昼間だと信じられないほど大量の依頼が張り付けられていた。そしてざっくりと内容に目を通して愕然とした。
「えぇ?!うそっ?」
「…報酬が高い?!」
ルブアとは内容が異なるため単純に比較できないが、冒険者として最低ランクのFランクの依頼を比較してみると、およそ2倍だ。E、D、C…とランクが上がるにつれて報酬額の差は開いていった。
「…報酬相応に依頼が難しいとか?」
「どうだろう…それは実際に取り組んでみないことには比べられないけど…冒険者ランクが地域によって実力違う可能性が?」
「多分そんな事はないじゃないかね。冒険者にランクをつける意味がなくなってしまうけんね」
「だよねぇ…」
「…朝の受注の時間帯を過ぎたのにまだこんなにもある依頼。依頼件数に対して冒険者の数が足りていないのでは?」
「冒険者への需要が多く、労働力の供給が追い付いてない?…の割に暇そうにしてるようだけど…」
「う~ん…。まっ、考えても仕方ない、データを集めたら次に行こう」
「「「「はい」」」」
それぞれタブレットを持ち依頼書を写真に収めていく。すると…
「お嬢ちゃんたち、旅人かい?」
振り向くと青い衣装で統一された冒険者が5人立っていた。
「ん~?いんや~。私たちは冒険者だよ~」
湯川が対応した。湯川の声を聴いて男たちは驚いた。
「ほ~…こりゃ凄い。見た目からてっきり他所の国の人かと思ってたんだが…随分流暢だな」
「ん?ま~ね。で、どうして旅人だと思ったの?」
「いや、旅装束でこの辺じゃ見ない顔立ちだったからな。あと、掲示板に真っ先に行ったから旅の護衛を依頼しようと思ってんのかと思ってな」
「なるほどね。残念。同業者でした!」
なんというか、凄い。湯川は意外と長距離狙撃の能力がないだけで潜入調査などの適正があるんじゃないだろうか。
「はは。そうだな。この辺じゃ見ない顔だけど、王都で仕事したことは?」
「んにゃ。無いんだよね~。だからどういう仕事があるのかとか、あとどういうモンスターがいるのかとか知りたいんだよね。何か知ってる?」
「ん?それならいい冒険者を知っているぞ。そいつに話を聞くといい」




