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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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 この日の戦闘に石田達が加わることはなかった。


 王軍はまず、敵のいる丘から離れた場所に隊列を作り、投石器(車輪の付いた台車に固定されている)がくみ上げられた。その後、使者が敵陣地に向かう。使者は敵陣地の最奥に通され、しばらくして帰ってきた。そして使者が王へ報告した後、全軍へと伝令が走る。


 全軍が一斉に前進を開始した。歩く速度で敵陣地へと接近する。そして、丘まであと1kmという所で一部の部隊が移動を止める。そしてそれら部隊の中から魔法が飛び出した。その魔法は直径1mにもなる火の玉だった。部隊をよく見ると、3人がかりで火の玉を作り、別の2人がその玉を動かして発射しているようだった。

 放たれた火の玉は10個。飛翔するほど小さくなったが、それでも敵陣に到着する時に直径50cmほどもの大きさがあった。この火球は爆発力満点だった。着弾すると爆発し、およそ半径5m程を焼き払った。


 さて、王軍が行動を開始していて、アルジャジード陣営に動きがないはずはなかった。アルジャジード側も、丘の各所に作った土壁や柵などに部隊が配置する。そして遠くから飛んでくる火球を見ると、土壁に防御力を増す魔法を加えた。10発の火球の内2発が土壁に、5発が柵に、3発が何もないところへ着弾した。魔法が着弾すると炎が大きく燃え上がり、一帯を焼く。焼き払うという意味では効果的ではあるが、爆発としての威力は低いようで土壁などに当たったモノは全く効果をなしていないようだった。しかし、木でできた柵に当たった球は効果があり、効果範囲の柵はすべて一瞬で焼け落ちた。この魔法隊が作り出した穴をめがけて王軍は前進していった。不思議なことに、アルジャジード側はこの魔法に対して一切反撃らしいことをせず、なされるがままだった。

 アルジャジード側に動きがあったのは、王軍が土壁にかなり接近したときだった。王軍側は相変わらず散発的に長距離魔法の攻撃を加えている。接近した投石器を扱う部隊の歩みが止めたちょうどその時…


 アルジャジード軍の本陣そばで展開していた大砲が火を噴く。


 直後、王軍のいくつかの投石器が吹き飛ぶ。この後、数度の砲撃で王軍の投石器はすべて破壊される。もちろん黙ってこの攻撃を受けている王軍ではなかった。長距離魔法が大砲に向かって飛ぶ。しかし、大砲の周辺に魔法障壁が展開され全て無力化されてしまった。


 1回目の砲撃があった同時刻。戦場に突如鳴り響いた轟音。王軍の歩兵は一瞬ざわついたが、指揮官らしき人物らが指示を飛ばし、歩みを再開する。歩兵隊は(速足ぐらいに)速度を上げつつ、丘に接近。このころには柵のほとんどが壊されていた。王軍はそれぞれ柵の部分を通って丘を登ろうとする。すると、今度は土壁に隠れていたアルジャジード軍が攻撃した。なんと、彼らはマスケット銃を利用していた。

 マスケット銃による斉射を受けた王国軍はむしろ勢いづいた。マスケット銃の威力は高くとも、そもそも射程が無い(現実でもマスケット銃の射程は45m程が最大と言われる。)。だから、王軍が攻撃を受けたとき、すでにかなり接近していた。さらにマスケット銃でやられた兵士はごくわずかな数だった。そういった理由もあり、戦列を組んでいた兵士らの一部が『よくもやってくれたな!』と、走り始めたためだった。走り出した一部の兵に引きずられる形で歩兵隊は駆け足で丘に群がった。

 走り出した王軍を見て斉射を行ったアルジャジード軍の兵士らは一目散に逃げだす。より高い位置の土壁へとバラバラになって逃げだした。これを受けて王軍はさらに勢いづいて追撃をかける。


 さて、木製の柵はほぼ壊されてしまったが、魔法で作られた土壁はそのまま残っている。当然王軍は土壁を避けて追撃をかける。…いや、言い方を変えよう。王軍は土壁のない場所へと集中する。


 おそらく、これを想定して陣地構築したのだろう。丘の麓、最も王軍に近い所では等高線に沿った形で土壁・柵・土壁……という様に交互に設置されていた。そして山頂までにあと3つのラインが形成されており、上に行くほど土壁の割合が高く、最後のラインは完全に土壁で作られている。


 王軍の侵入経路を限定するための土壁だったのだ。しかも、悪いことにこの時にはすでにすべての投石器が破壊されていた。先走った少数の集団が土壁と土壁の間を通り抜けさらに追いかけ、大勢の兵士が土壁の間に殺到したちょうどそのタイミングで、大砲が再び火を噴く。


 舞い上がる土、それに混ざるピンクの破片と赤い煙。地面にあった石が飛び散り周辺の兵士らにも加害する。着弾か所の周辺は一瞬にして地獄となった。目の前で起こった惨劇、それを受けて土壁の間へと侵入しようとしていた兵士らの足が止まる。と、そこに再び砲弾が降り注ぐ。


 アルジャジード軍は大砲を2つの隊に分け、時間差で攻撃させた。片方の隊が土壁の間に、片方の隊が、土壁の前で停止した集団にだった。


 アルジャジードの第一防衛ラインで惨劇が起こっている時、第二防衛ラインにも動きがあった。後退した部隊を受け入れた後、すかさず一部の部隊が前進した。先走って飛び出し、少数であったがために土壁を超えられた集団と対峙する。後続が続かず、数も少数のこの集団は後方の惨状と、前方から迫る部隊を見てすかさず降伏した。


 大きな被害を被った王国軍は一度後退し部隊を立て直した。アルジャジード軍は追撃に出てくることはなく、完全に丘に立て籠もるつもりらしかった。


 結局この日はあと2回、同じような突撃をし撃退されることを繰り返した。


 王軍は驕っていた。5万の王軍が1万のアルジャジード軍を相手に苦戦するはずがないと。実際5倍の兵力差がある今回は、どこかの城壁のある場所に籠城されても攻め落とせるだけの戦力だった。そして、実際に対峙してみると、丘の上を要塞化しようとしている最中のタイミングで対峙した。これはもう負ける要素が無いと考えてしまっていた。


 これに対してアルジャジード側はよく考え、計画した。まず、土壁への攻撃・破壊能力を持つ投石器を無力化。そして、大砲の砲撃ポイントまでうまく敵軍を誘導した。


 この日の戦闘は誰が見てもアルジャジード側の大勝だった。


~~~~~~~~~~~~~~


 1600時。戦場に低く大きな笛の音が鳴り響く。ほら貝…ではなく角笛だった。どうやら本日の戦闘の終了を告げる笛だったらしい。双方の軍が矛を収め自陣に戻りはじめた。


 石田達の仕事の時間だった。今回治療には石田、ナイチンゲール、京藤が当たる。そして助手に瑞山、湯川、間宮が同行する。残る他のメンバーには、引き続き情報収集を指示した。


 石田達はジボンに連れられて負傷者を集める天幕に向かった。サーカス団が使用するような大きな天幕だったが、天幕の外にも負傷者があふれ出していた。


 治療活動を手伝う前に、まずは治療を受け持つ組織に挨拶をしに行かなくてはならないとのことで、天幕の中へ。天幕の中もやはり負傷者であふれていた。負傷者を避けながら奥に進む。天幕の中に仕切りで作られた部屋がいくつかある。それぞれの仕切りには治療を行う者の名前が書かれている。ジボンはその名前を読みある名前の部屋に向かった。


「ジボンだ。入るぞ」


 ジボンは中に声をかけてから仕切りの向こうへ。石田達も続く。仕切りの向こうは、物置のような状態になっていた。壁際に木箱が積み立てられている。それら木箱の手前には机が置いてあり、その上には何か書類が広げられている。そして、その机の横に椅子があり、30代ぐらいの男性が腰かけていた。その男は面白い格好の服を着ている。なんというか…ポンチョを思わせるとてもゆったりとした服だった。


「これは近衛隊のジボン殿。どうされました?」

「回復魔法が使えて、治療活動を手伝いたいと申し出てくれた者が居てね。その案内に来た。紹介しよう。クルスーム領の傭兵として参戦しているイシダ殿だ。そしてイシダ殿、こちら王軍治療班の班長ハンザル殿だ」(ジボン)


(ん?治療班?)


 一瞬、疑問を覚えたがすぐに思考を現実に戻す。


「ご紹介にあずかりました、イシダです」

「おぉ!助かります!これだけの人数で治療できれば多くの者が助かります。早速、皆さんの分の仕切りを用意させますね」(ハンザル)

「ちょっと待ってください!」


 ナイチンゲールが声を上げた。


「あの~、私たちは直接患者のもとへ向かって治療したいのですが~…」

「…それでは大変ではありませんか?」


 ナイチンゲールはこの一言にカチンときた。というのも『施術者が患者の元へいちいち向かっていては疲れるでしょう?』といった意味に聞こえてしまったためだった。

 ナイチンゲールは一瞬殺気立つが、すぐに抑える。つとめて冷静な雰囲気を作る。


「重症の者を診察場所まで運べばそれだけ負傷者の体に負担がかかります。ですから、私たちが負傷者の元へ伺った方が良いと思うんです」


 ナイチンゲールはいつもの語尾を伸ばす話し方をしなかった。完全に仕事モードに入り、真剣に訴えていた。医療関係者として譲れない思いがあったのだろう。


 だが、これにはこの世界独特の問題があった。


「なるほど。傭兵団…という話でしたね。大勢を相手に治療されたことが無いのだと思います。ご存知だと思いますが、魔法を使えば使うほど体に力が入らなくなっていきますよね?」

「?…それが?」


 ユニットたちは魔法を使えない。一応、似たようなことはできる。彼女達は石田の領に存在する(らしい)妖精が使役できる。妖精の種類によって出来ることは異なるが、妖精に頼むことで色々なことができる。妖精たちはそれぞれ魔力を持っていて、その魔力を使って彼女らを支援する。そして、使役できる妖精の数はユニットたちのレベルに応じて変わる。…つまり、彼女らには魔法を使うと脱力感があるという実感が無かった。


「普通の魔法使いは所有する全魔力の半分ほどでセーフティーが働き、魔法が使えなくなると言われています。しかし、私たち治療班の魔術師は秘術によってそのセーフティーを壊しています。自身の生命維持に支障が出るギリギリまで魔法が使えるんです」


 そういうとハンザルは立ち上がり、木箱から瓶を1本取り出した。


「見ていただいた方が分かりやすいと思います。こちらへ…」


 ハンザルに連れられて一行は3つ隣の部屋に移動する。仕切りの中には2人の青年がいた。1人の青年は仕切られた部屋の真ん中で…椅子に腰かけている。その椅子は背もたれが傾けてあり、どちらかというと横たわるような体勢だ。ハンザルと同じ服を着ているためポンチョのような服が広がり…さながら理髪店で髪の毛を洗ってもらう体勢の様だった。ただ、大きく異なるのはその横たわる青年は荒い息をしている事だった。もう1人はその荒い息をしている青年の口元に耳を近づけ、話をしている。元気な方の青年がハンザルに気づく。


「あっ、ハンザル班長。ちょうど今伺おうと思っていたところです」

「そうですか。私もそろそろだと思ってきたところです。これですよね?」


 そういってハンザルは、先ほど木箱から取り出した瓶を渡す。


「ありがとうございます!」


 青年はそれを受け取り、荒い息をしている青年に飲ませた。するとその青年の呼吸が落ち着く。不思議に思った石田は質問する。


「あれは?」

「MP回復ポーションです」


 ハンザルの説明が続く。魔力が枯渇するまで回復魔法で治療し、そしてMP回復ポーションをがぶ飲み。そしてまた魔力が枯渇するまで回復魔法…といった感じで治療が行われているとのこと。

 そしてこの方法では限界まで魔力を利用するため、施術者は動けなくなる。だから負傷者の方から来てもらう必要があるのだという。


「でしたら、回復量の少ないMP回復ポーションをたくさん用意して動けなくなる前に回復させては?」(ナイチンゲール)

「そういう取り組み方もあります。ですが、こちらをご覧ください」


 ハンザルは椅子に腰かけた青年の服の裾を持ち上げる。すると安楽椅子の下に桶が置かれていた。桶の中には何も入っていなかったが、少しアンモニアのニオイがする。


「MP回復ポーションは飲み物です。立て続けにたくさん飲むのは不可能です。ですから限界まで魔法を使い、回復量の多いポーションを使っています。そして…それでも、こういう状況では沢山飲まなくてはなりません。ですからこれは、出てくるモノを受け止めるために設置しています。いちいち私たちが『キジ撃ち』に出かけててはタイムロスが大きいですからね」

「…壮絶ですね」(石田)


 1人でも多く助ける。そのためには


「えぇ。私たちも全力を尽くしているのです」


 そうしてハンザルはナイチンゲールに向き直る。


「決して怠けようという意図でこうしているのではないのです」

「…申し訳ありません。浅はかでした」

「いえいえ。ご理解いただけたなら何よりです。では治療についてなんですが…」


 ハンザルが話していると、突如怒声が聞こえた。


「おいっ!ハンザル!ハンザルはいないかっ!」

「!!っ…はぁ…。はーい。ここです!」


 ハンザルは一度ため息をしてから仕切りから出る。石田達もハンザルに続く。声は最初のハンザルがいた部屋から聞こえていた。中に入る。すると、装飾過多な鎧に身を包んだ初老の男性がいた。


「おい。治療しろ」

「はい。どちらを怪我されました?」

「これだ」


 そういうと、その初老の男性は手を伸ばす。見ると手の平に小さな切り傷がある。ハンザルはそれを見ると、両手を傷のある手にちかづける。


「『神の慈悲をもって、かの者の傷をいやしたまえ。グレイター・テレ・ヒール』」


 ハンザルが呪文を唱えると、ハンザルの両手と鐘楼の男性が緑に輝く。そして男性の切り傷が消えた。


「ふむ。よくやった。また頼むぞ」


 そう言うとその男性は部屋を出て行った。


「今のは?」(石田)


 石田が問うと、ハンザルは疲れた顔で答えた。


「治療班の活動に出資いただいている貴族様の1人です」

「出資?」

「MP回復ポーションなどは安い物ではありません。ですからそういったものを揃えるために出資いただいているんです…」

「え?その、軍の方で予算とかあるんじゃないんですか?」

「えぇ。まぁ、そうなんですが…え~と…そこは話すと長くなるので、またの機会に。君たちは秘術でもってMPのセーフティーを壊したりは…?」

「してないです」(石田)

「だよね。となると、私たちと同じことはできない…。うん。じゃあ、君たちは君たちで取り組んでくれればいいよ。必要ならば部屋を用意するけど…どうする?」


 ハンザルはナイチンゲールに尋ねた。


「要らないです。あと、治療のためにスペースが欲しいのです。こちらの天幕の中では場所がありませんので、外に新たに天幕を張っても?」

「あぁ。むしろそれは助かる」


 とここで、部屋に青年と、高級そうな鎧を身に着けた兵士が入ってきた。


「班長、ポーション貰えますか?」

「ハンザルさん。治療お願いします」

「あぁ。はい。少々お待ちください」


 ハンザルは木箱からポーションを取り出しながら話す。


「すまない。私たちも手一杯なので、申し訳ないがそちらはそちらでやってもらっていいかな?」

「はい」


 活動の許可を得た。しかも、『そっちはそっちで』ということなので、実質『自由にやっちゃって』との話だった。

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