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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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 翌日朝、空は綺麗に晴れ渡っていた。心地よい景色とは裏腹に、湿度を含んだ風は朝にもかかわらず生暖かく、本日の最高気温を知らせていた。


「今日も暑くなりそうだな」(石田)

「そうだね。昼の事を考えると憂鬱になるね」(京藤)


 今石田達は、天幕の外に机といすを並べ朝食をとっていた。石田の天幕はクルスーム派遣隊のはずれにあった。


「うぃっす。おはよう、イシダ」

「おう。おはよう。アディ。早いな、どした?」

「いや、何、イシダがビビってないか見に来た」


 今回の派遣隊にはアディが参加していた。派遣隊を組織するにあたり、ルブアの防衛力を低下させないため、精鋭以外の部隊から少しずつ人材を集めて組織するようにと指示があった。表向きの事情は全くその通りだが、その実、いろいろな隊から引き抜かれた人材で構成された派遣隊は、編成間もない寄せ集めの部隊になってしまっている。


「うわーん。こわいよー(棒読み)」

「はっはっは。心配して損した」

「いやまぁ、心配してくれてありがとな。でも、こんな後方でしかも、何もするなって話なら俺たちに出番はないだろ。緊張するも何もないね…」

「まぁ、な。でも、その割には昨日既に敵の新武器の情報をもたらしたって聞いたぜ?十分仕事してんじゃねぇか」


 石田にしてみれば偵察機の情報を分析(?)しただけで、あまり大した仕事をしたとは思っていなかった。しかしアディから見るとそれは全く違った。上空から偵察する方法を知らないアディにしてみれば、偵察情報はすべて人の目によるもの。つまり、敵地に気づかれないように接近する必要があり、大変な労力を必要とする活動だった。


「あー…まぁね。お金貰って雇われたんだから、その分は仕事しなくちゃね」

「はは。まじめだなぁ・・・」


 とアディと話をしていると、左翼の人たちが使う天幕を縫って4人の厳つい男たちが石田達のところまでやってきた。全員緑色に着色された揃いの鎧を装備していた。


「ぴゅ~う(口笛)。ホントだ。別嬪さんがそろってら」

「ウッハー、なんで昨日気づかなかったんだろう。勿体ないことしたなぁ…」

「こりゃいい、今晩お相手してもらおうぜ」


 その男たちは口々に下品なことを話しながら近づいてきた。どうやら王軍の陣地後方にいること、周囲の天幕と大きく異なる形の天幕があることなどから、娼館の派出所の様に勘違いしているようだった。


「ねーねー。お嬢さん今晩ヒマ~?」

「一晩おいくら?」


 彼らのこの勘違いはある程度、仕方がないことだった。王軍の少し後方には民間の天幕が乱立している。商魂たくましい商人たちが勝手にキャンプを作っている。保存のきく食料や酒、魔法のスクロールや武器防具、そしてそういった店もあった。さらに呆れた話、次々と馬車が到着し商品の補充も行われている。

 今回の内乱は民間人の間でも予想されていることだった。そして王軍が十分な準備をしていることも知られていた。このため、内乱は早々に鎮圧されるというのが大筋の見解だった。

 実際、イシダ達も出来上がったキャンプを見て回り、ある店舗の商人に話を聞いた。曰く…


王軍が圧勝する。(王軍の後ろは安全さ!)

王軍を応援しよう!(という名目で店を開こう)

王軍の兵士に快適な陣地生活を!(たくさん買ってね!)


 だそうだ。


 そして、彼らが十分な準備をしてきているおかげで…呆れたことに王国軍の輜重隊はお粗末なものだった。食料品などを運搬すると体積がかさばるおかげでどうしても輜重隊の規模が大きくならざるをえない。しかしその点、金貨を運んでくるだけなら少ない馬車でも十分な金額になる。だから、自分たちで糧食や飲料を運ぶようなことはしていなかった。(クルスーム派遣隊もイシダの領に重たい荷物を運び込んでいるため、ぱっと見王軍と大差なかった)


「ごめんなさい。私たちはそういったことしてないので…」

「そういうのはもっと後ろの天幕でやってますよ~?」


 男たちは大きいのが好きなのか(どこがとは言わない)間宮やナイチンゲールなどに詰め寄っている。彼女らは困った顔で返している。


「え~、お金の心配~?大丈夫だよ。俺たちは軍内でそれなりの地位にあるからさ、こう見えて結構お金持ちなんだ」

「お~ぅ…。袖にされちまった。でもいいねぇ~、こういう反応。むしろ燃えちゃう?」


 ユニットの幾人かは困った顔、幾人かは非常に不愉快そうな顔になっていく。これは放置してはまずいと思い石田が声をかける。


「あの、兵隊さん。そういう話は困ります」


 イシダのこの声掛けが良くなかった。イシダとしては相手の素性が分からないから『兵隊さん』と声をかけたのだが、この声掛けで彼らは石田達が無学な商人だと判断してしまった。

彼らが着こむ鎧は王国北西部に位置するモスル領のものだった。しかも、その形状がそれぞれ部隊長クラスの役職であることを示していた。


「おう、こりゃ管理人さん。すまんすまん。直接交渉はNGだったか」


 鎧から所属する領、そしてその階級が読み取れず、おかげで男たちの反応はそういったものになる。


「悪い悪い。あまりの別嬪さんだったからつい、な。で、今晩の予約がしたい」

「いえ、この女性らはですね…」(石田)

「おれは、この子が良いんだけど、空いてる?あといくら?」

「売りなんてして…」(石田)

「いやいや、これだけの別嬪さんらを集めるのが大変だったのはわかる。だがな、ある程度安くしとかないと買い手がつかんぞ?」

「いえですから…」(石田)

「あーあーあー!なるほど。初物か!あーそりゃ安くできんなぁ」


 男がセクハラを重ねる。この発言でユニットたちに2通りの反応があった。1つは顔を赤くして伏せ、もう1つは殺気を含んだ恐ろしい顔でにらみつけている。

 ユニットたちの反応を見て、これ以上は危ないと思ったアディは立ち上がり小さな声で石田に告げた。


「(隊長よんでくる。時間を稼いでくれ)」(アディ)

「(頼んだ!)」(石田)


 アディは走り去った。ユニットたちを頼れば血が流れてしまう事だろう。石田がこの状況を何とかしなくてはならない。


 昔のイシダであればアウアウ言うばかりで何もできなかった。しかし約1年間、冒険者として働いてきた。その間に荒っぽい人との交流もあった。石田は少しだけ成長していた。石田は慌てながらも状況を動かすために頭を回す。


(えっと、えっと…確かこういうタイプはこっちの話を聞こうとしていないタイプだ。前置きをするといつまでも話ができないから…)


「俺たちは傭兵だ。そんなことしない!」(石田)


 これまでの丁寧な対応から一転、毅然とした態度で言い切った。…が少しまずかった。毅然とした…だけでなく攻撃的な声音になってしまった。


「はぁ?お前らが傭兵?」

「そんなひょろっとしたナリで何すんだ?お前もどうせ男娼なんだろ?」


 おかげで男たちを刺激してしまう。へらへらしていた男たちも少しイラついた様子に変わる。


「俺たちはクルスーム領の皆さんに傭兵として雇われてここにいる。彼女らは私の傭兵団の一員だ。だから娼婦じゃない」


 今一度、伝えるべきことをまくしたてる。しかし、下心に突き動かされている男たちはそれでは矛が収まらなかった。


「何の冗談かと思えば…お前たちの服を見ればわかる。それでは防御力などないだろう」


 石田達は野戦服を着ている。野戦服は普通の洋服に比べ厚めの布で作られている。しかし、男たちの鎧に比べ圧倒的に防御力は劣る。


「それで戦場に立てないのは目に見えてんだよ…ふかすなよ詐欺師」


 1人の男がイシダに食ってかかる。それを見て、間宮達の周りでボディタッチしようとしていた男たちもイシダの方へとやってきた。そして、全員で威圧する。


「おうおうおう。撤回するなら今のうちだぜ?」


 なんとわかりやすい男たちだ。彼らは暴力的な手段に出ることにした。

 男たちの態度を受けてユニットたちが、腰に手を回す。今彼女らの腰にはホルスターがつけられていて、拳銃が納められている。


 と、その時だった。


「おい!お前ら何してんだ!」


 クルスーム派遣隊の天幕の方から1人の男が走ってきた。その男はガージ。石田がアレーシャたちと初めて出会ったときに、石田に喧嘩を売った男だった。彼もまた、志願してこの戦場にやってきていた。

 ガージは石田のもとに駆け付けると、石田とその男たちの間に立ち、威圧した。


「おいてめぇら。この方に何の用だ?」


 ガージの大きな声に気づき、クルスーム派遣隊の兵士が集まってくる。ガージたちに邪魔された男らはさらにいら立つ。


「はぁ?なんだお前、クルスームのモンか。後ろの方でのうのうとしている腰抜けがふかすなや!」


 この一言に、徐々に集まりつつあったクルスーム派遣隊の面々が殺気立つ。双方無言でにらみ合い、一触即発の雰囲気になる。


「おい。お前たち何をしている?」


 静かな、しかしよく響く男の声が響いた。声のした方を向くとアレーシャと2人の男が歩いてきていた。男のうち片方はアディだ。もう一人の男は立派な軍服を着ていて、一目でかなり階級が高いことが読み取れた。ただ…その顔は…。


(え?…アサドさん?)


 そう、アレーシャの父で、クルスーム領の領主のアサド・クルスームによく似ていた。


―ザッ!


 石田達を除いて、その場にいた兵士全員が一斉に背筋を伸ばし敬礼した。アレーシャたちの一団はまっすぐ石田達の元まで歩いてきた。アサド似の男が、下品な男たちに話しかける。


「ふむ。モスル領の者か。ここはクルスーム派遣隊の陣地になるが…なぜ君たちがここに?」


 あくまで男の声は淡々と落ち着いていたが、どこか詰問するような雰囲気があった。


「…あの、いえ、これは…」

「えっと…その…」

「あっ、そう!俺たち朝食が足りなかったんです」

「…そうそう!で、だからちょっと物足りないもんだから、あのキャンプの方で買い食いしようって…」

「「「「失礼しました!」」」」


 男たちは脂汗を垂らしながら言い訳をすると、反応を待たずに逃げるように走り去ってしまった。


「イシダ殿大丈夫でしたか?」(アレーシャ)

「あ、はい。助かりました。ありがとうございます」

「いや、これも仕事のうちだからな。大したことではない」(アサド似の男)


 石田はアレーシャと、アサド似の男に頭を下げた。


「イシダ殿。紹介します。こちら、私の叔父のジボン・カマリです」(アレーシャ)

「あっ、これは自己紹介が遅れました。カズヒデ・イシダと申します」(石田)


 なんでも、アサドの弟らしい。彼は王都の貴族の婿養子になったらしい。だからファミリーネームが『クルスーム』ではなく、『カマリ』となっているのだとか。


「ジボンだ。アレーシャから話を聞いたよ。昨日の報告、君の部隊の手柄らしいな。だが残念なお知らせだ…」(ジボン)


 なんでも、昨日石田がもたらした情報はきちんと受け取られなかったようだ。司令部の人間には高齢の者が多く、その脅威が正しく伝わらなかった。


「申し訳ありません。大砲を説明する際に引き合いに投石器を出しましたところ、将軍らには投石器の凄い物…程度に伝わってしまったみたいで…」(アレーシャ)

「あちゃー…そうですか。…まぁ、でも仕方ないですね」


 石田達としては、どちらかというと大砲の存在を知らせることよりも、例の魔法についていろいろと話を聞くほうがメインだった。だから、王軍に大砲の脅威が伝わろうと伝わるまいと、すでに目的は達成していた。


「ところで、そのジボンさんがこちらに来られたのは、どういったご用件で?」

「あぁ、実は…」


 ジボンは近衛隊、3番隊の隊長らしい。今回近衛隊の3番隊は督戦任務に就くことになったのだとか。(督戦:味方部隊を監視しすること。時に命令に反した部隊に攻撃することもある)通常督戦隊は前線で戦っている部隊の後ろにつくことが多いのだが、今回はなぜかクルスーム派遣隊を監視することになったのだとか。


「君が先日あげた、あの情報。あのおかげで、クルスーム派遣隊をしっかりと監視するように各領から要請があってな。それで、我々が監視につくことになった。一応、クルスーム家と縁のある私が選ばれたのは、督戦任務を申しつけられた近衛隊隊長が気を使ってくださったからだ」


 ジボンはいかにも仕事してますという固い表情で話していた。が、ここで表情が緩み、呆れた表情をになる。


「はぁ…正直個人的には目の前の敵に集中するべきだと思うんだが…何をやってるんだろうねぇ王軍は」

「…お疲れ様です…!」


 ジボンの顔つきが元の固い表情に戻る。


「さて、そういうわけで本日、戦闘中はクルスーム派遣隊には待機任務が命じられている。すまないがこちらのクルスーム派遣隊の陣地から出ないように頼む。でないと我々は諸君らを切らねばならない」

「…そうですか…」


 戦闘に参加してはならない。石田としてはそれは別にかまわなかった。しかし、それ以外にやりたいことがあった。


「2点、確認したいことがあります」

「ん?なんだ?」

「陣地から出るなという話ですが…陣地内であれば何をしてもよろしいのでしょうか?」


 具体的には監視だ。この世界ではどういったように戦争が行われるのかが知りたかった。魔法がある世界でどういうような戦闘が行われるのか、上空から監視するつもりだった。


「いや、何をしても…とはならない。攻撃に類すること、味方を害することなどは厳しく禁じられている。ただ…そうだな、天幕内で昼寝して待つとかであれば大丈夫だ」


(よし。なら無人機を飛ばして天幕内でその状況を観察するとしよう。あともう1点は…)


「なるほど。承知しました。次に、治療行為についてです。私たちの中には回復魔法が使える者がいます。負傷者の治療にあたってもよろしいですか?」


 回復魔法が使える。これは嘘だ。例の回復キットなどで治療が行え、それを回復魔法と呼んだだけだった。


 実は今回の傭兵の仕事、この治療行為こそ目的だったりする。領の軍医を開放する条件が、『領主のLvが一定以上であること』と『治療を合計1000回行うこと』であったためだ。石田のLvはこの1年の活動で十分な域に達している。あとは治療を沢山行えばいいだけだった。そして戦争でならたくさんの負傷者が出るはず。そういった人たちを治療すれば、たくさんの回数を稼げるのではないのかという考えで参戦を決めていた。(ちなみにわざと負傷して治療回数を稼ぐという方法もあるにはあったが、その方法はためらわれたので行わなかった。)


 石田の申し出を受けてジボンは驚いた顔をした。


「…君は本当に傭兵か?…君のような働き者の傭兵は初めて見る。…そうだな、王軍の1員としてはぜひともお願いしたい。ただ、戦闘中はダメだ。というのも負傷者を集める天幕は別の場所にあって、君たちはこのクルスーム派遣隊の陣地から出られないためだ。戦闘が終わればその限りではないので…もしよければ本日の戦闘が終わったらぜひお願いしたい」

「分かりました」

「うむ。助かる。では戦闘が終了次第、君たちをその天幕まで案内しよう」

「ありがとうございます」

「あぁ。ではまた、開戦する頃に今度は近衛隊を引き連れてくる。……あぁ。そうだ、あまり騒ぎを起こさないでくれよ?」

「…善処します」


 ジボンは帰っていった。

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