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「…依頼を受けてもらっておいてなんだが…まさかその翌日に完了するとは…」
現在組合の解体倉庫。前回の要領で運び、ファティによって倉庫の最奥の広いスペースに運び込まれた。
ギガントロックリザードの死体の近くに石田とファティ、冒険者組合長のバクアー、副組合長のナスルがいる。バクアーとナスルはそれぞれロックリザードの状態を確認するかのように動き回りながら観察している。
「それにこれは…前回とはまた違う倒し方だな。全身どこにも穴が開いてない」
ナスルがロックリザードの顔に近づき、その口から血が流れ出ていることに気づく。
「血を吐いている…?岩でもぶつけましたか?内臓がやられて死んだんですね」(ナスル)
「えぇ。まぁ、そんな感じです」(石田)
「ん?…あぁ。なるほど。その方法なら比較的綺麗な死体が残るな。まぁ、だが、残念なことに今回素材収集系の依頼になるから、こいつの状態によらず報酬は変わらんがな…」(バクアー)
「へ?…そうなんですか?」
「あぁ」
「じゃあ、仮にですけど…」
「あっ。いや、バラバラなのはダメだぞ?素材は自然な状態から8割以上の体積があること、3ピース以内に収まっていることが条件だ。はるか昔、薬草1枚を6つに分けて6枚ですとかいうやつらがいたらしくてな。そう決まってんだ」
「あー…了解です。ちなみに8割以上の体積って…どう判断するんですか?」
「薬草とかの大きさがある程度一定の範囲にあるモノの場合は正確に計量したりして求める。こういったモンスター系の素材の場合は、ここの解体所職員の目視による確認だな。大体、手か足が一本無いぐらいならOKだ。それ以上になると職員によっては危なくなってくるから気をつけろよ」
ととと、人が走ってくる音がした。後ろを振り返ると解体所の職員がやってきた。職員は手に持った証明書と木札をバクアーに手渡して帰っていった。
「すまんな。今回報酬の額が高いんで、支払いをここでさせてくれ。向こうで支払うとちょっと騒ぎになるんでな」
「了解です」
バクアーから小さな袋を受け取る。開けてみると中には銀色の硬貨が5枚入っていた。
「あれ?…銀貨1枚?」
「いや、こっちが銀貨だ。袋から出してよく見くらべてみてくれ。そいつは白金貨だ」
バクアーが銀貨を出して見せてくれた。袋から取り出して見比べてみると、確かに少し色が違う。銀貨は白っぽい銀色で、白金貨は黒みがかった銀色をしている。
「白金貨…ですか?」
白金、どちらかというと『プラチナ』という呼び名の方がなじみがあるかもしれない。
「知らなかったか?まぁ、仕方ない。基本的に庶民にはかかわりのない硬貨だからな。白金貨1枚で金貨100枚と同額だ。高額な取引以外では使われない。というか普通の商店ではこの硬貨を使って取引できない」
「えっ!?それは困ります」
それは2つの意味で困る。
まず例の宿泊施設建設のための資金としてこいつは使えないということ。バクアーの話しから推察するに、建築業者に支払っても…その業者が各種資材をそろえるために使えず困ってしまうということだろう。となると、建築には大金が動くことになるものの…その支払いにこれを使うということは難しいことだろう。
そして次に領内通貨の事。領内通貨『円』を確保する手段として、金貨を持ち込み、金として換金するという手段を使っていた。ルブアで手に入る金貨はおよそ500円玉ほどの大きさで、ざっくりと3万円に換金できた。
金の相場はおよそ1gあたり約5000円ほど。これに対して白金の相場は1gあたり約3500円ほど。つまり同じ重さなら白金の方が30%ほど価値が低いことになる。そしてその重さだが…金と白金を比重で比べると、白金の方がやや重たいが…そもそも500円玉の大きさだ。仮に白金の方が数g重いとしても…金貨100枚を換金するのと白金貨1枚を換金するのでは、明らかに前者が有利だ。
「あぁ。おそらくそういうと思ってな。その白金貨を使うこともある領主様に金をお願いできないかを聞いてみておいたんだ。換金してくれるって言ってくださった」
「おぉ!助かります!」
バクアーが追加で1枚紙を渡してくる。
「これとその白金貨をもって城の衛兵詰め所に行ってくれ。そこの受付に渡せば換金作業に応じてくれる手はずになってる」
「ありがとうございます」
「あぁ。じゃあ、依頼の処理と支払い作業はこれで終了だ。本日はお疲れさん」
「お疲れ様です。では失礼します」
石田は解体所を後にした。
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石田が行ったあとバクアーにナスルが近づく。
「組合長。そういえば、例の御用商人を名乗る人物…ドゥーヤについて確認をとりに領主の館に行かれたって話でしたね。どうだったんですか?」
「あぁ。確認が取れた。あんな横暴な人物だからな。有名人らしい。名前と特徴を教えると、『そいつかなり理不尽な奴じゃなかったか?』と逆に質問されたよ」
「はは…。まぁ、実際とても迷惑しましたしね」
「あぁ。で、ドゥーヤは本当に御用商人だった。さらに最悪なことにその商人を使っている貴族様もかなり大変な相手だった。あのアルジャジード公爵家だとよ」
この国の爵位は上から大公(王族の血が流れる)、公爵、伯爵、男爵の4つからなる。公爵は王族との血縁がない爵位の中では最も高い爵位だった。
そんなアルジャジード公爵領は北部の肥沃な土地にある。農業と林業が盛んで、それに伴いほどほどに冶金技術も兼ね備えている。
「えっ…あの野心家の?」
「あぁ」
アルジャジード公爵領は必要なものをほぼすべてそろえている。食料、資源、人材、技術etc...。さらに公爵で国内での発言力もある。
ここ20年ほどを掛けてアルジャジード領では領軍の増強が進んでいる。名目上は『モンスターの活動が活性化しており、それに対応するため』ということになっている。しかし、明らかに1つの領が保有する軍事力としては過剰なものになっており…国からの独立ないし、クーデターを画策しているのではないのかと噂されている。それゆえ『野心家』という二つ名で呼ばれたりしている。
2人はギガントロックリザードの死体をじっと眺め、考えた。かの貴族のもとにわたったなら、剥製として飾るような使い方はしないだろう。防具の製造などに使われる。さすがに全部隊に配備出来る数の防具にはならないと思うが…それでも精鋭部隊などに配備されれば戦力の向上に一役買うことだろう。
「何事も無いといいんですか…」
「あぁ。本当にな」
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今回の依頼で、『1km以上離れた場所からの攻撃を成功させる』という解除条件をクリアしたため、
『リコネンス・スカウト&レイダ・スカウト』が開放された。この2人は双子という設定だ。苗字がスカウト。姉がリコネンス、妹がレイダということになっている。2人の所属は陸軍偵察隊、偵察狙撃手だ。2人とも狙撃資格を持ち、狙撃ライフルを扱える。しかし妹の方が狙撃適正が高く、姉の方が偵察能力と隠密能力に優れるため、この2人は一緒に行動し姉がスポッター、妹がスナイパーを務める。(ゲーム時はこの2人で1つのユニットだった)
2人の新しいユニットを迎えた後、しばらくの間は平穏な日々を過ごす。ルブアで冒険者として活動しながら資金を貯め、宿泊施設を建てた。宿泊施設を運営するのに困っていると、ありがたいことに宿屋「ネムレ」のジュナイド達が協力を申し出てくれた。新しくできた宿屋にそのまま宿屋ネムレが移ってくることになった。
もともと口コミで徐々に銭湯の心地よさが話題になっていて、客足も伸びていた。そこに宿泊施設も併設されるようになり、さらに集客力が高まった。十分な稼ぎが出るようになり、フォックス族の人たちがネムレで生活できるようになっていった。
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ネムレで活動するようになって1年がたった。この間にルブアに十分な税金を納めた石田達は晴れてルブアで住民登録が許可された。そして住民登録を行い、国籍を得た。
一応、今更な情報だが、このルブアが所属する国は、リベリオン王国だった。
救助したいろいろな人たち(フォックス族やタミーナなど)がルブアで生活できるめどが十分に立った。そろそろ自分たちの目的のために行動し始めようと思ったちょうどその頃。リベリオン王国北部のアルジャジード領が、王国に対して宣戦を布告。内乱へと突入していった。




