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翌日、石田はアディと共にある店を訪れていた。
「おーっす。兄貴、オヤジ居る?」
「お、アディか。おかえり。オヤジは今裏に居るぞ?呼んでくるか?」
「頼む」
「分かった。少しの間、店番頼む」
「おっけ」
その店はアディの実家の商店。主に国外から流れてくる珍しいものを取り扱う店で、店内にはルブアであまり見かけないようなものが並べられている。
アディが兄貴と呼んだその男は店の奥へと入っていった。少しして、50代の男性を連れて帰ってきた。
「おう。アディ、お帰り。今日は衛兵の仕事は休みか?」
「ただいま。今日は休み。で、オヤジにちょっと相談があってきたんだ」
「おう。なんだ?」
アディが手招きした。
「最近知り合った奴で、イシダっていう。こいつが最近店を始めたんだけど、知名度が無くて客が来ないって困ってんだ」
「ほぉ…」
「どうも。紹介いただきました、カズヒデ・イシダと言います」
「これはどうも。息子がいつもお世話になってます。アブド・ラヒムと申します。それで、イシダさんはどういったお店を始められたんですか?」
アディの父親が名乗った。
(ってアディの苗字はラヒムってのか…。初めて知った。っとそんなことより)
「実は…」
石田は昨日準備した銭湯の紹介チラシを取り出し解説した。
黙って話を聞いていたアブドは少し考え込んでから話し出した。
「…………ふむ。そうですね。面白いお店だと思います。知名度が無いことでお客さんが来ないというのもわかるのですが…」
アブドは商売についても甘いところがあるという。
体を清めるという目的は水でもできる。実際、水浴びや濡らした布で体を拭くのがこの辺では一般的だった。
旧来の方法で体を清める場合、自分の家で事が済むので手間いらずの時短ができる。これに対して外部に出かけて体を清める場合、帰りにまた汗をかいてしまうので、その点が弱い…とのこと。
(言われてみれば、確かに利用者は帰りに立ち寄る人が多いな…。昨日は珍しく家族連れできたお客さんもいたけど…あの家族だけだったし)
「もちろん濡らした布で体を拭くよりも温かいお湯につかれた方がリラックスできます。だからその点を生かせればより良くなると思いますよ」(アブド)
「なるほど。考えてみます。ありがとうございます」(石田)
「で、オヤジ。頼みがあるんだ。こいつの持ってるこのチラシを店に張らせてくれ」(アディ)
「分かった。一枚貰っても?」(アブド)
「はい。どうぞ」(石田)
石田はチラシをアブドに手渡した。アブドは受け取ったチラシをのぞき込みながら話した。
「そういえば、このチラシはまだ何枚か作っていたりするんですか?」
「はい。この後はほかのお店を回りながら張らせてもらえるところがないか探そうと思ってます」
「それは…ん~…。その前に少しよろしいですか?」
「はい?」
「新商品を売り込みたい場合、その価値を知ってもらうのが一番の近道です。…そうですね例えば私たちなら知り合いの商店の店主さんたちに配って歩き、彼らに噂を広めてもらったりします。そうして多くの人に売り込みたい商品の情報を届けるのです。まぁ、売り上げに反映されるまで多少時間はかかりますが」
驚いたことに彼は商人としての道を示してくれた。
「!!…ありがとうございます!おっしゃる通りです!…そうすると…」
銭湯の商品…それは入浴することだろう。先ほどの話だと、もう少し商品に改善の余地ありという話だが、すぐ対応できる話でもないだろう…。とすると、現在の商品をそのまま利用してもらうに限る。となると…。
「そうですね。いったん帰って入浴券をお持ちします」
「入浴券?」
「はい。今の話を伺って思いつきました。入浴券はお持ちいただくと1回のみに限り無料で入浴いただけるチケットです。それを準備してチラシを張っていただけるお礼にチケットを配ろうかと思います」
「ほほぅ。なるほど、そういうことですか。それはいい考えだと思います」
「はい。あ、もちろん出来上がりましたら真っ先にこちらの店に持ってきますね」
「おぉ。ありがとうございます。楽しみにしてますね」
石田はアディに向き直る。
「アディ。悪い。30分ぐらいで戻るからここで待っててくれ」
「へ?」
「はい。では少し失礼します」
「あ、お、おいっ!」
石田は急ぎ足で店を出て行った。
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石田が去った店の中、アディが微妙な顔をしてアブドに話しかける。
「…なぁ、オヤジ。試供品を配る話は嘘じゃないけど…最近はそんなことしないって話じゃなかったっけ?あの話は単にオヤジが銭湯楽しんでみたかっただけじゃないのか?」
「はっはっは。銭湯に興味があるのは事実だし、そういう意図もあったぞ。だがやっぱり有効な手段であることは変わりない。商売についてアドバイスしたし、授業料ってことだな。まぁ、実際楽しんでみて、噂を流したりは手伝うさ」
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店を出た石田はベルトにぶら下げていたハンディ無線機を取り出す。PTTスイッチ(Press To Talk:無線機の通信用スイッチ)を押し込む。
「こちら石田。HQ応答せよ」
この装備はユニットの「八木響」と一緒に解放された。この装備はタブレットによる通信と比べ、より遠くへと飛ばせる。そしてさらに石田の領へと直接連絡がつけられるようにもなっている。
『こちらHQ。司令、どうしました?』
応答したのは八木だった。現在彼女は領の方である実験をしている。
「今PCが使える状況の人いる?」
『はい。私が使えます。何か調べ物ですか?』
「あれ?実験の方は?」
『つい先ほど終了しました。結果は良好です。現在PCに向かってレポートをまとめているところです』
「なるほど…そうですが。それはちょうどよかった。実は………」
先ほどの話をかいつまんで話した。
『理解しました。つまり、入浴券を作成すればいいんですね?』
「えぇ。お願いできますか」
『はい。え~と…名刺の印刷用紙があります。それでしたら切り取り線が入っていて製作が容易です。チケットとしては大きめのサイズになりますが…使ってしまっていいですか?』
「おぉ!そんな便利なものがあるんですか。えぇ。もちろん、かまいません。お願いします」
『了解しました。すぐ制作してレポートと一緒にお持ちします。…あっ、数はどれぐらい作ります?』
「あ~…とりあえず100枚で」
『了解しました』
「お願いします。銭湯の方で待ってますね」
『はい』
「以上。通信終了。オ―バー」
『オーバー』
石田は銭湯に向かって歩き出した。
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夜ネムレの一室に集まる。石田と全ユニット、ファティ、そしてフォックス族を代表してガパティが集まっている。
まずはガパティが今日のお客さんの人数や、売り上げについて報告した。本日の売り上げは前日に比べて増えたが、相変わらず運営費から考えるとわずかな赤字だった。その報告を全員で聞いたのち、石田は今日の活動について全員に話をした。
「………というアドバイスをもらったんだ。そこでこのチケットを用意して配布した。あまりたくさん配布すると収入に大きく影響しそうだから、とりあえず100枚ほどで止めといた。明日以降チケットをもって銭湯にくるお客さんもいるかもしれないから、ガパティさんは従業員への周知をお願いします」
「承知しました。そのチケットの実物とか余ってますか?」
「はい。これです。男湯用と女湯用で2枚ほどありますから、それぞれの受付にでも置いておいてください」
「ありがとうございます」
「あ、で、チケットを回収したらそれは私の方に持ってきてください。そのチケット分の費用を私が支払います」
「えっ?!そんなわけには…」
「会計作業を単純化するために、大事なことです。…会計作業と言えば、伊良湖さん、フィルさんの教育はどう?」
石田の問いを受けて、一人の女性が立ち上がる。伊良湖若菜だ。黒髪ポニーテル、顔はやや面長だ。こういってはなんだが、田舎に居そうな…素朴な顔立ちをしている。顔つきは若干幼さを感じさせるのだが意外と身長が高く170cm程。スレンダーな体つきをしている。
「はい。フィルさんは意外と呑み込みが早く基本的なことはすべて習得してくれました。大丈夫だと思います」
伊良湖が教えているフィルはフォックス族の女性だ。0歳の赤ちゃんを連れていて、そのお世話があるためフルタイム…というかパートタイムでも働くのは難しい。しかし働かないものに給金を支払うわけにもいかない。そこで少しでも仕事をしてもらおうということになり会計作業をお願いした。
会計作業と言っても、彼女にしてもらう作業は本当に簡単で短時間で出来る内容にした。①所定の書式の紙にその日の入浴人数・売り上げを記入する②それぞれの受付のお金が計算通りになっているかを確認する。この2つの作業だけだ。
「了解です。では明日から彼女に会計作業を任せられますね」
「はい」
「ありがとうございます」
伊良湖が座る。
「で、次に商店の店主からアドバイスをもらった件についてだけど…銭湯の隣に宿泊施設を建設しようと思う」
この件の解決は簡単だった。銭湯の隣に宿泊施設を作り、そのまま休めるようにすればいいのだ。そしてリラクゼーション施設として安らぎを提供できればよりよくなるのかと。
京藤が理解を示した。
「なるほど。確かにそれはいいかもね。キャッチフレーズは『奥様にも休日を!』とかどうかな?」(京藤)
「あぁ!なるほど。確かにそれはいいかもしれませんね」(古井)
「オー。となると宿泊施設は大きめに作って…遊べる部屋を用意した方がよさそうですねー」(ナイチンゲール)
ユニットたちがそれぞれ話を膨らませていき、大まかなその形が現れてきた。
「さて、みんなからいろいろと意見が出た。それらについてはまた後程詰めるとして、実はこの工事をルブアの工務店に任せようと思うんだ」
「え?なんでだい?銭湯を作ったように自前で取り組んだ方が安く、そしていいものが出来ると思うんだけど…」(京藤)
「え~…あたしの腕の見せどころじゃん…なんでダメなの?」(湯川)
「それは…」
建築作業を行う作業員に用事があった。隣で建設作業をして汗をかいたなら、彼らに銭湯を利用してもら得るのではないか…と考えた。
この意見に納得してもらえたようで、建設作業はルブアの建築会社に依頼することになった。
「で、外部に依頼するとなると…」(石田)
「建築費用がかさむね…」(京藤)
「あぁ。だからまぁ、すぐにって話にはならないと思う。少なくとも建設費用を稼がないとね…。だからまぁ…明日は冒険者組合に行って適当な仕事がないかを探してくる」(石田)
「分かった。あとは…宿泊施設の従業員だね…。幸いフォックス族の方々が多くいるおかげで銭湯の従業員から引き抜けるけど…でも規模によっては足りなくなるかもね。人材の問題もあるね」(京藤)
「はぁ~…ままならないなぁ…」(石田)
(ラノベ主人公とかなら『商売始める』⇒『めっちゃ儲かる』⇒『俺TUEEE』になるんだろうけどな…)
「ははは。仕方ないよ」(京藤)
「ん。一歩ずつ歩むしかないよね。まぁ、そんなわけで…ガパティさん、本日は以上です。入浴券の事をほかのひとにも伝えるようお願いします」
「はい。では私はこれで失礼します」
ガパティは部屋を出て行った。
「さて、つぎはみんなからの報告を頼む」
「はい。まずはボクから…」
京藤は古井・八木・伊集院の3人で無人偵察機(UAV)の動作実験をしていた。
「ボク達が稼働実験をしていたのはこの機体『グローバルホーク』だよ」
石田は手元の資料に目を通す。
RQ-4グローバルホーク。無人偵察機。無人航空機(Unmanned aerial vehicle:UAV)の中で偵察に特化した機体。MQ-1プレデターやMQ-9リーパーなどと違い、武装を搭載できず、攻撃能力を持たない。衛生通信システムを利用することで地球の裏側からでも操縦できる。(この世界には衛生は飛んでいないため、地上からの誘導電波が届く範囲でしか利用できない)
UAVの中では飛行高度が高く、巡航速度も高いため『広範囲』の監視任務向きの機体だ。実用上昇限度19800mで巡航速度343kt(635km/h)。国際線旅客機の巡航高度が約10000mであることから考えると非常に高い高度まで登れるのがわかる。さて19800mの高度まで登ったとしてそこから見える水平線の距離は約503kmになる。つまり逆の見方をして、地上からの誘導電波(直射)が届けられるのはアンテナから約500kmが最大となる。もちろん山などの地形的な制約を受けて実際に運用できる距離はさらに短くなってしまう。理想的な環境だとしても…時速635kmで巡航する飛行機を半径500kmの範囲で動かさなくてはいけないことになる。
「何とか運用できるめどは立ったよ。ただ結論から言うと、グローバルホークを運用するには障害が多すぎるって事が分かった。グローバルホークに関する報告は、運用方面をヒビキから、情報処理の方面はアサミからそれぞれ報告してもらうね。まずはヒビキからお願い」
「はい」
八木響が立ち上がった。小柄な女性で、色白な肌をしている。幼い顔つきながら表情の起伏が乏しく落ち着いた雰囲気の女性だ。スレンダーな体形だ。
「元々グローバルホークは衛星通信を利用して操縦データや、収集したセンサーデータを送受信していたんだ。でも、この世界に衛星は存在しない。だから、データの送受信には衛生を中継せず通信装置から直接データを送る必要がある。そこで衛星通信装置を搭載した高機動車、スーパーTASCOMを使用したんだ…」
石田は手元の資料をめくる。自衛隊の「JMRC-C4」によく似た車両が載せられている。高機動車の後ろに衛星通信用の設備が取り付けられ、屋根にパラボラアンテナが立てられている。
「でもこれには結構問題があって…。スーパーTASCOMのパラボラアンテナは衛生に向けて使う物なんだけど…それを結構な速度で飛行するグローバルホークに向け続けなくちゃならない」
パラボラアンテナは特定の方向からの電波を効率よく受信し、また低い拡散性でもって(遠くまで)送信出来る。…逆に言えば向ける方向を誤れば送受信共にできなくなるということ。常にグローバルホークをパラボラの正面に捕らえなくてはならない…。
「えぇ…それはきつい…パラボラの向きは人力で?」
「いや。なんとかあり合わせで無理やりグローバルホークを追跡する機能を追加した。スーパーTASCOMの近くに対空レーダーを設置しグローバルホークの所在を追跡する。レーダー情報からグローバルホークの方位を計算してパラボラの向きを調整するように設定したよ…」
「おぉ。凄いな」
「で、パラボラの稼働範囲と向きを変える速さの問題からスーパーTASCOMの直上は追跡しにくいんだ。安全のためマージンを設けたとして…スーパーTASCOMの周辺4kmは飛行禁止だね」
「わーお…」
「運用するにはレーダー・通信設備・操縦機材・情報処理機材などの設置が必要で、運用できても近いところや逆に遠過ぎるところは飛ばせない。パントムと比較した場合、長時間滞空が可能な点がメリットだけど…今のところ長時間監視するような任務もない。だから本当に使い道がない状況だと思う」
「分かった。ありがとう」
「運用上の問題点は以上だよ。次は情報処理についてアサミから」
「はい」
八木が座り、伊集院が立ち上がる。
伊集院麻美。細身の女性で眼鏡をかけている。身長は高くもなく低くもなく。スレンダーな体つき…と言えなくはないが、身長の割に肩幅が狭かったり腕や足なども細長いため…細身と表現した方が良いように思う。
「通信速度は十分に確保できていました。センサー類の状態は良好で、運用に耐えられると思います。ただ情報収集においては広域スキャンが使えないことが確認されました」
「ん?なんで広域スキャンが使えない?」
「はい。広域スキャンやスポットスキャンは簡単に説明しますとカメラのズーム機能のようなものなんです。広域スキャンはいわば広角での撮影です。広い範囲を映し出す代わりに小さなものが見つけにくくなります。大型の航空機や艦船程のサイズであれば広域スキャンで確認できるのですが…さすがに人間サイズの対象は確認できません」
「なるほど。了解です」
「はい。あとは、スキャンする対象…え~と…モンスターの情報を集めていただきたいと思います」
「ん?なんで?」
「はい。情報処理を行ってくれるAIに学習させますと自動的に敵の位置をピックアップし、マップ情報に反映してくれるようになります。これまでも戦車やLAV、戦闘機、攻撃機等…専用のアイコンでマップに表示されてましたよね。あれがモンスター相手でも行えるようになります」
ゲーム時代、確かに画面に表示されるミニマップにはいろいろなアイコンがあり、どこにどういった相手がいるのかが一目でわかるようになっていた。
しかし、こちらの世界に来てからは、位置情報と敵味方識別だけだった(唯一、ファティ用にドラゴンの専用アイコンがあったりするが)。それが今度は敵の情報も追加される。地図上にそれぞれの生物ごとのアイコンを表示させることができる。
「OK。わかりました。それができるようになったならとても助かる。どういう情報を集めればいいのかとかはまた後程話し合いましょう」
「分かりました。では、私の方からは以上です」
伊集院が座り、京藤が立ち上がる。
「現時点では登録されているモンスターがいない。だから、飛ばしてもそもそも何も引っかからないんだ。さらに、飛行させるには結構な準備が必要。万全な状態で稼働させれば強力なツールだけど…少なくともモンスターの登録が充実するまでは、あまり使い物にならないだろうね」
「分かりました。情報収集とモンスターの登録って…飛ばさなくてもできるの?」
「あぁ。出来る。だから、今後の活動では情報収集についてみんな協力をお願い。ボク達からは以上です」
「ありがとう。誰か何か連絡事項ある?」
石田はあたりを見渡す。誰も何もないようだ。
「では本日はこれで終了です。お疲れさまでした」
「「「「お疲れさまでした」」」」
すいません。いろいろあって更新が遅くなってます。
自衛隊が導入するUAVはグローバルホークです。何も知らなかった頃の私は
『攻撃能力もある程度あった方が良いんじゃないの?』とか思ってましたけど
別の理由があったんですね。
機体名、実用上昇限度、巡航速度で並べてみると
RQ-4グローバルホーク、19800m、635km/h
RQ-1プレデター、7620m、217km/h
MQ-9リーパー、15200m、276~313km/h
だそうです。海洋国家として海上監視をするなら素早く動けて
かつ広い範囲を索敵できるグローバルホークが適してるんでしょうね。




