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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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 バーンハードとの面会を終えたその日の夕方。料理屋兼宿屋のネムレに冒険者チーム『ワイルダーネス』が訪れてきた。彼らは日中、軽い冒険者の仕事をこなしてからこの店にやってきたようだった。


「おう。イシダ。防具返してくれ」


 イシダ達は彼らの防具を借りていた。名目上は彼らの防具を洗浄すると言ってある。もちろんそれは嘘ではないが、それと同時に防具の性能を調査するためだった。その洗浄兼調査もおそらく終わっているはずだった。


「ちょっと待ってください。洗浄が終わったか確認するので」


 タブレットを取り出し、材津に連絡を入れる。作業は終わっていて返却可能だということなので今から持ってくるとの事だった。ネムレの裏手に天幕を準備して彼女らを呼び出し、防具を渡した。


「いやぁ~。匂いか見た目かわからんが、女性に逃げられなくなったぜ!」

「おお!それはよかったです!」

「あぁ。マジで助かった。まだ女性と仲良くって程には至ってねぇけど・・・前と比べれば断然進歩だ!本当にありがとう!」

「それは何より。それより・・・防具を返すのが遅くなって申し訳ないです。・・・今日は防具無しで依頼をこなしたって話ですけど大丈夫でした?」

「あぁ。そりゃ大丈夫だ。今日は新米の初仕事について行ってアドバイスするだけだったからな。基本的に見ているだけだ。依頼内容も新米のこなす採取系でな。危険な場所に行くわけじゃなかったからな」


(おぉ。マジで初心者の育成してんだな・・・。こりゃ、京藤さんの力を借りて訓練所で稼ぐのは難しそうだなぁ・・・)


「ところで、イシダ。頼みがあるんだが・・・」


 彼らもこの数日で身だしなみを整える大切さに気付いたようだった。端的に言うと、風呂に入りたいとのことだった。濡れタオルで体を拭いて清めもいいが、風呂の気持ちよさが意外と病みつきになったとのことだった。


「だからよ。お前さん、この風呂に入れる店でも開いてくれないか?」

「・・・銭湯ですか?」

「銭湯っていうのか?なるほど。その銭湯、値段にもよるが少し高いぐらいなら週に1回は入りたい。出来ることなら安くしてもらって毎日でも入りたいと思ってな・・・。どうだ?」

「・・・ルブアには無いんですか?」

「まぁ、この辺じゃ(燃料にする)木材価格が高くてな・・・。風呂は採算が合わないって言われてる。お前さんは風呂を軽く設置してしまったじゃないか。どうにかできないか?」

「あ・・・あー・・・検討します」


 風呂を沸かす。簡単に思えて意外と難しいことだ。水は比熱が大きく、大量の熱を加えても温度が上がりにくい。このためお湯を作るには結構なエネルギー(燃料)を消費してしまう。

 風呂を設置できているのは事実だ。だが、現状大きな問題を抱えている。


(燃料が危ないんだよなぁ・・・)


 パントムにトラック、領では館の改修のため重機が動いている。これが結構な燃料を消費している。ストックは十二分に確保されているのでしばらく燃料に困るようなことにはならないが・・・貧乏性の石田は燃料の消費量が増えてしまうことに危機感を覚えてしまったのだった。


「アノーアさんはオイル・・・燃える水ってご存知ですか?」

「燃える水?・・・すまんな。ちょっと俺もそれは知らんなぁ・・・」

「そうですか・・・」


 こちらの世界でも燃料、具体的には石油を手に入れられればと考えたがそう簡単にはいきそうになかった。


(石油の情報も集めてみようかねぇ・・・)


 とりあえず、本日も皆に手伝ってもらいながら風呂を設置。今回はアノーア達も風呂に入ってから帰った。


~~~~~~~~~~


 その日の夜。館は改修中のためネムレの一室にて、全ユニットを集めてのミーティングを行った。ミーティングを終えてから・・・


「湯川さん、間宮さん、材津さん、浦風さん。ちょっといいか?」

「はい?」


 石田は報告とは別に、技術系のユニットを集めて相談してみた。


「銭湯ですか・・・」(間宮)

「しかし、燃料を消費したくないと・・・」(材津)

「それじゃボイラー動かせなくない?」(湯川)

「木材でも燃やしてお湯を作りますか?」(間宮)

「まぁ、そういう給湯器も作れなくはないけど・・・。ってか、なんで銭湯で稼ごうと思ったの?稼ぐなら他にも手段はあると思うけど?」(湯川)

「それは、フォックス族の人らのためかな・・・。いつまでも面倒を見るってこともできないし、何か彼らが稼げる手段を用意できないかな・・・と思って」(石田)

「あ~・・・なるほど」(湯川)

「「「う~ん・・・」」」

「新しい燃料の調達先を探すしかない?」(石田)


 石田の提示した条件で風呂屋を・・・というのは難しいのだろう。皆が考え込んでしまい、意見が出ないように思われた。しかし、意外な声が上がった。


「あっ!だったら、燃料使わなければええんじゃないん?」(浦風)

「「「へ?」」」


 突然浦風がおかしなことを言い始めた。


(燃料がないなら燃料を使わなければいい?・・・なんだそりゃ?)


「イスズ。塩ビパイプとか余っとらん?」(浦風)

「え?えぇ。余ってますよ」(間宮)

「ほら、塩ビパイプを真っ黒に塗って、その中に水を満たせば日光を利用してお湯を作ることができるじゃろ?日中にそうやってお湯を用意しといて夜はそのお湯を流して使えばええ。風呂のお湯として使うんじゃけ、湯温を50度ぐらいまで上げれれば問題ないと思うんじゃけど・・・どうかね?」(浦風)

「なるほど・・・」(石田)


 現代日本においても、太陽熱温水器というのがある。多くの場合家の屋根に設置し、太陽光による熱を利用してタンク内の水を温める。それを簡単ながらやってしまおうというのだった。


「いい案だと思います。あと、ほかに問題となるのは・・・水の衛生関係ですね。お湯を作るにもきれいな水である方が望ましいですし、下水の処理もあると思います・・・それらはどうしましょうか?」(間宮)

「・・・一番手軽な水の殺菌と言えばやっぱり煮沸ですか?」(材津)

「となると・・・集める熱量がちと足りんじゃろうねぇ・・・」(浦風)

「鏡は?太陽光を反射させて集めれば出来ない?」(湯川)

「ええね。それなら湯を沸かすのもできそうじゃね」(浦風)

「しかし、光を集めるとなると、塩ビパイプの劣化が早まります。加えて熱量的にも・・・。材料を見直した方がよさそうですね・・・」(材津)

「・・・そこまでするんなら、蒸気タービンも設置して発電してしまってはどうかね?」(浦風)

「太陽熱発電ですか!いいかもしれませんね!」(間宮)


 「太陽熱発電」は「太陽光発電」と間違われることもあるが別物だ。「太陽光発電」は太陽光パネルに光を導入して発電する。これに対して「太陽熱発電」は太陽光による熱を利用する。仕組みを単純に説明すると次のようになる。

 一ヶ所だけ出口のある容器に水をためその容器に光を集め加熱する。容器内で水蒸気が発生すると、その水蒸気は出口から吹き出す。その噴き出す水蒸気をプロペラ(タービン)に吹きかければ、その力でプロペラが回る。プロペラの回転する力を利用して発電機を回す。


「おいおい、電力を作ったとして何に使うんだ?」(石田)

「ん~・・・揚水するのに使えると便利かな?」(湯川)

「あ~・・・確かに。水をくみ上げるのは重労働だしな・・・」(石田)

「あとは、下水の処理ですか・・・。そういえば、このルブアではどう処理しているんでしょうね?それを調べて見る必要がありますね・・・」(間宮)

「おっけ。それはこっちで何とかしておく。下水の処理がわからんことにはどうしようもないし・・・今日はこの辺で。また、声をかけるからその時は知恵を貸してほしい」

「「「「はい」」」」


~~~~~~~~~~


 翌日。石田はアレーシャの元を尋ねた。軍が出す依頼についてと、風呂屋について相談するためだった。


「え・・・?風呂ですか?」


 アレーシャの執務室。アレーシャとロミナが部屋にはいた。何か話をしていたようで、机の上には紙が散らばっていた。


「えぇ。お風呂です。銭湯っていう方がいいんですかね。・・・それより、その資料は片付けなくていいんですか?私が見てしまっても大丈夫ですか?」

「えぇ。今話し合っていたのは、あなた達にどういう依頼をするかということについてです。これら資料は領政や軍の活動にかかわる内容ではないので大丈夫ですよ」


 机の上の資料に目をやると、『物資運搬及び運搬警護』や『盗賊の調査』などと書かれていた。


(こんな感じの依頼が来るってこと・・・え・・・盗賊の動向調査とか・・・何すんだ?)


「しかし風呂ですか・・・。正直この街ではあまりなじみがないのでお客さんは集まるのでしょうか?」


 アレーシャは懐疑的だった。しかし、ロミナは意外と賛成の様だ。


「まぁ、日々訓練を行う軍としては風呂屋があると助かるな。時々、ずぼらな者がいてその匂いに辟易することがあるからな」(ロミナ)

「・・・そうですね。確かに、部下たちには風呂を利用するようにしてほしいところですが・・・。でもどれぐらいのお値段で入れるようにするつもりなのですか?」(アレーシャ)

「いえ、それがまだ値段を決めるために、いろいろと情報を集めている段階でして、まだ決まってません。そこでお聞きしたいんですが、このルブアでは排水やごみをどう処理しているんですかね?」(石田)

「それはですね・・・」(アレーシャ)


 可燃性の廃棄物は焼却処理しているらしい。そして、不燃性の物は埋め立てているらしい(プラスチックなどは存在しないため、不燃ごみは主にガラス、陶器、屑鉄などらしい)。排水はためておいて回収する業者を待つとのことだった。


「へ~?排水を回収する業者があるんですか?」(石田)

「あぁ。排水の回収業者がある。その業者が回収してきた排水はうちの軍の防疫隊が浄化している。軍の方では水棲スライムを養殖している。各家庭から集めた排水や生ごみなどをそのスライムのいるプールに流し込むと、3日ほどでその水はきれいなものに変わる。だからそれぞれの家庭や店舗では大き目の壺を用意しておいて、業者が回収に回るまでその壺に収めておいてくれればOKだ」(ロミナ)

「ですが・・・風呂となると毎日大量の排水が発生しますよね?・・・防疫隊にお願いして浄化槽を増設する必要があるかもしれませんね・・・」(アレーシャ)

「あぁ。確かに。そこは防疫隊の隊長と相談してくれ。防疫隊は領主の管轄ゆえ、私たちから働きかけることはできないが、顔をつなぐことはできる。この後時間があるなら紹介しようか?」

「えぇ。お願いします」


 その後、石田達に依頼する内容を相談された。ロミナは石田の輸送力(領へ運び込んで目的地で取り出す方法)を見込んで物資の輸送を手伝ってほしいとのことだった。アレーシャは最近国境周辺で出没する盗賊の調査を推していた。物資の輸送は国境近くの駐屯地にいる部隊(彼女らの兄が指揮しているらしい)に届けることで、盗賊はその駐屯地の部隊の頭を悩ませている相手なのだそうだ。

 活動地域が近い2つの依頼のため両方を受けようと考えたが、軍が冒険者へ依頼する予算の枠が1枠しかないとのことで両方は無理だとのこと。


(盗賊の捜索となるとパントムを使って捜索するのがいいよな。となると経費が掛かる。しかし、物資の移送なら領に運び込んで向こうで出すだけで、経費が少なくて済むよな・・・。じゃあ、物資の移送だな・・・)


 「物資輸送」の仕事を受けることになった。


~~~~~~~~~~~~


 「物資輸送」を提案していたロミナが依頼を作成することになったので、アレーシャが石田を連れて防疫隊のところへ案内してくれた。道中、防疫隊について教えてもらった。

 昔、ルブアではないどこかの都市で疫病が発生したそうだ。この街は非常に汚く衛生的に劣悪な環境にあったそうだ。これに対して衛生管理をきちんとしている他の都市では疫病は発生しなかった。この2つの都市を比較した結果、衛生管理をするべきということが学ばれたそうだ。

 さて、少し話は飛ぶが・・・軍隊とは人間だ。現代世界では武器や兵器に注目を集めがちだが、軍隊を構成する際に必ず欠くことのできない要素が兵士だ。兵士とは人間そのものの事。たくさんの兵士が所属するということはすなわち、たくさんの人間が生活するということだ。沢山の人間が生活するということは、沢山の食料を消費し、その結果・・・・・・まぁ、出てくる。多少の量なら自然の分解能力で問題にならずとも、一度にたくさん一か所に集めようものなら、疫病を招いてしまう。故に創設されたのが防疫隊だそうだ。

 防疫隊はいずれの戦闘部隊からも独立した部隊で、戦闘を得意とはしない。各駐屯地で衛生環境を管理する専門技術集団だそうだ。一定以上の規模の部隊を構成する際には必ず付随させなくてはならないと決められていて、大規模な軍が駐留するこのルブアには当然防疫隊が存在しているとのこと。


「歴史のある領では大抵行政に汚水処理を行う部門があるんです。軍の防疫隊はその部門の人間を雇用する形で発足したので、軍の中でも扱いが異なるのです。軍人として最低限鍛えますが、決して前線に赴くことはなく、戦闘させることはありません。駐屯地の疫病発生を防ぐ任務を担います」


 アレーシャの説明を聞きながらルブアの城壁沿いに進む。城や兵士の詰め所から少し歩いたところの城壁に馬車が通れるほどの大きさの門が設置されていた。石田達が歩いて近づくと、かすかに汚臭が漂い出した。


「この門の向こうに浄化槽が並んでいます」


 そういうと大きな門の隣にある、人間が通れる大きさの扉を開き城壁をくぐった。城壁の向こう側にはプールのような浄化槽が並び、汚水処理施設を囲むようにまた城壁が張り巡らされていた。そして、ここは非常に臭かった。


「うっ・・・クサイ・・・」

「(鼻声で)えぇ・・・。ここは汚水が集まります。ですから非常に臭いんです。わざわざニオイを隔離するために城壁を設けるほどなんです・・・」


 石田が周囲を見渡すと、浄化槽は地面から一段高くなるように設置されている。そして浄化槽の脇にはそれぞれ水を流すための水路が作られている。

 浄化槽の脇、一段高くなった足場にはそれぞれ人が立っていて何やら棒で浄化槽内をかき混ぜているようだった。浄化槽をかき混ぜる人は、ルブアの兵士らとは異なる服装をしていた。全身何やら鱗で作られた服を着ていた。


 アレーシャが近くにいた男に話しかけ隊長を呼びに行かせた。するとその男は50代ぐらいに見える細身の男性を連れて帰ってきた。


「これはアレーシャ様。ようこそおいでくださいました。本日はどういったご用件で?」

「今日は相談とこちらの男性を紹介しに来ました」


 アレーシャは視線を石田の方に向ける。細身の男性に手を向けながら石田に紹介した。


「紹介します。こちらの方が防疫隊の隊長、マムーン・マティンです」


 マティンは石田に軽く一礼した。


「マティン。こちら、冒険者でこの間の盗賊討伐を手伝っていただいた・・・」

「カズヒデ・イシダです。よろしくお願いします」

「これはどうもご丁寧に。マティンです。それで、ご相談というのはイシダさんが?」

「はい。実は・・・」


 石田は銭湯の計画を話す。


「ははぁ、それはありがたいですね!是非お願いします!」


 マティンの話によると、やはり臭い仕事ゆえその匂いが体についてしまうのだとか。領の好意で仕事後に水浴びが認められているが、水のため体温を奪われ長く浸かれない。また、匂いの落ちも悪いとのこと。お子さんがいるご家庭では「お父さんクサイ!近づかないで!」とお子さんに嫌われてショックを受ける隊員もいるのだとか。


「仕事後に安く利用できると助かるんですが・・・利用料はいくらぐらいを想定されているんですか?」

「ちょっと今まだ決まってないんです。出来るだけ安く利用してもらえるように頑張ろうと思っているんですが・・・経費を試算するためにいろいろと聞いて回っている段階なんです」

「なるほど。浴槽の大きさはどれぐらいを想定されているんですか?」


 考えている浴槽の大きさ(適当に答えた)などを伝えると。新規増設の必要はないとのことだった。


 汚水の処理をするのに運ばれてきたままの状態で浄化水槽に入れると水棲スライムが活動するには汚すぎるのだそうだ。このため、運ばれてきた汚水は通常の水を混ぜて薄めているのだとか。


「浴槽の水は汚水としては綺麗な部類に入ります。ですから、これまで薄めるために使っていた水をその浴槽の排水に置き換えれば、現在の浄化槽で対応できると思います。ここの運営費用は領の税金で賄われています。ですから・・・そうですね。業者に頼めば運搬費用が掛かるぐらいですかね・・・。ここは自前で持ち込んでいただいても対応できます。ですから、経費を安くあげるなら持ち込んでいただくことが一番ですね」

「なるほど。それはありがたい情報です」


 排水は運搬について考える必要がありそうだが、処理に費用は掛からないと分かり大助かりだった。

 一つ仕事が片付いたことで、石田の意識は別の方へ向く。先ほどの内容で少し気になることがあった。


「・・・ところで浅学でお恥ずかしいばかりなんですが、汚水が汚すぎるとスライムはダメなんですか?」

「えぇ。結局スライムも生物なんですよ。汚すぎるとすぐに死滅してしまいます。運ばれてくる汚水の状態を見極めて薄めすぎず、しかし濃い過ぎない範囲で希釈してスライムを投入するんです。この匙加減が難しかったりするんですよ」

「へ~・・・ごめんなさい。なんか勝手に想像していたんですけど、ただ汚水にスライム突っ込めばいいって思ってました」

「はっはっは。やっぱりそう考えている人は多くて新人教育で必ずそういう反応が返ってきます」


 石田は社会見学や工場見学といったことが好きなタイプの人間だった。こういった知らないものを見るとついその仕組みや構造について聞いてしまう。興味を示した石田に気をよくしたマティンは笑顔で続けた。


「よければ見ていかれますか?」

「えっ!良いんですか!?」

「えぇ。臭いって言って嫌がる人が多いんですが、イシダさんは興味を持ってく出さっているようですから。ぜひ見て行ってください」


 アレーシャは別に仕事があるので、ここで別れた。

 石田はそのままマティンとともに施設を回った。施設内の浄化槽はすべてで28個。1日当たり運ばれてくる汚水は日によって異なるが、浄化槽6~8個分になるそうだ。浄化するのに3日が掛かり、その間浄化槽は埋まってしまう。ということで常に18~24個ほどが使用している環境にあるとのこと。残りの4~10個は浄化槽の補修作業を行うので意外と余裕がないとのこと。(補修が間に合わずに新たに汚水を入れると漏れてしまって周辺が大惨事になるのだそうだ)

 汚水が運ばれてくると、まず浄化槽のチェックを行い、土魔法の使い手が浄化槽の補修を行う。そして、漏れのない浄化槽に汚水を希釈しながら注ぎ、スライムを投入する。そしてここからが大変なのだそうだ。汚水を浄化してるスライムが死なないように浄化槽をかき混ぜるのだという。


「ちょうど、このルブアで魚が食べられないのと同じなんです。生きた魚を水槽に入れて放置すると、勝手に魚が死んでしまいますよね?それと同じで、この水棲スライムたちも動きのない水槽に入れて放置すると死んでしまうのです。ですから職員はあのように水槽をかき混ぜるのです」


 汚水が張られた浄化槽の脇の通路に上り、浄化槽を見渡しながら説明を聞く。浄化槽を挟んで対岸を見るとそこでは3人の職員が浄化槽をかき混ぜていた。


(ふ~ん?・・・いわゆる酸欠にでもなるってことかな?)


「魔法で水をぐるっと回す・・・とかってことはできないんですか?」

「そういう魔法もあるそうですね。ですが、水棲スライムは非常に防御力の弱いモンスターです。弱い威力で水をかき混ぜたとしてもダメージが入ります。そして少しの時間でしたら問題ないのですが3日間にわたってかき混ぜ続けると、さすがに蓄積ダメージで死んでしまうのです」

「は~・・・それは確かに無理ですね・・・」

「はい。それに人が手でかき混ぜることにも意味はあるんです。浄化槽の中のスライムを見て何か気づきませんか?」


 浄化槽の中には大小さまざまなスライムが泳いでいた。小さいもので直径10cm程度、大きいものは直径30cmにもなる球体の生物が動き回る。多くのスライムが水色~緑色をしている。時々紫が混じっているような個体もある。


「個体によって色が違いますね・・・」

「そうなんです。もとはすべて同じ水棲スライムだったのですが、その後の取り込む物質によってそれぞれ異なる性質をもつようになるようなのです。例えばあの紫が混じる個体がいるのはわかりますか?」

「はい」

「あれは、まだ色が薄いので大丈夫なのですが、あれが完全な紫色になるとポイズンスライムという別の種類に変化してしまいます。ポイズンスライムは非常に厄介で、陸上でも活動出来る様になり、毒性のある液体を周辺にまき散らす様になります。そして、その毒を受けた周辺のスライムまでポイズンスライム化してしまうのです。ああいった個体が完全なポイズンスライムへと変化する前に手を打ちます。解毒草を投入し、その個体の毒性を抜いてやることで無力化できるんです」

「へ~・・・解毒草ですか・・・それは高いんじゃないんですか?その個体を取り除いた方が楽そうですけど・・・」

「いえ。ポイズンスライムが育つ環境ということは、その水槽には毒性があるということです。その個体を取り除いても、ほかの個体もポイズン化しやすいんです。ですから解毒草を入れて、水槽の毒性を消してやった方が最終的には楽なんです」

「ははぁ・・・考えられているんですねぇ・・・」

「えぇ。紫以外の色をした個体にもそれぞれ対策があって、結構覚えることも多くて大変なんですよ」


 と話をしていると、若い男がやってきてマティンに話しかけた。


「隊長。第17槽の浄化完了しました」

「おっ、いいタイミングだ。わかった。すぐに行く。イシダさん。ちょうどいいのでこちらにどうぞ」


 その若い男について歩きとある浄化槽につく。その浄化槽の中は綺麗な水が張ってあった。中にスライムは泳いでいなかった。


「こちらの浄化槽は、すべての浄化作業が終わったところです。一応、この水は飲むことができるほどきれいになっているという話ですが・・・あまり飲みたがる者はいませんね」

「はは。それは確かに。まだ浄化されていない所からのニオイもすごいですしね」

「えぇ。っと、少し失礼しますね」


 マティンは遠くの兵士に向かって大きな声を上げた。


「おい!排水作業はじめ!」


 するとその掛け声を聞いた周囲の兵士も声を上げる。


「はっ!排水作業はじめ!」

「排水作業はじめ!」

「排水作業はじめ!」

「水路安全確認、安全よ~し」

「周辺安全確認!内側安全よ~し」

・・・

・・・


 次々と、様々な安全を確認した声が上がる。


「安全確認すべてよ~し!鐘を鳴らせ!」


―カーンカーンカーン・・・

―カーンカーンカーン・・・

―カーンカーンカーン・・・


  鐘の3連打が3回繰り返されて少ししすると、水槽を作る砂が崩れそこから水槽内の水が水路へと流れだした。


「おぉ!」

「どうです?迫力満点でしょう?この量の水が流れ出す様子はなかなか見られませんからね」

「えぇ。いいもの見せてもらいました」

「それはよかったです。まぁ、こうして私たちは汚水を浄化し、この街の衛生を護っているんです。ただ、この仕事は臭いので・・・一部の人間を除いてあまり理解してくれる人がいないのが辛いところなんですよね・・・。ですから、私たちからニオイが取れるかもしれないお風呂には期待しています」

「ありがとうございます。出来るだけ早く実現できるように頑張りますね」

「はい。お願いします」


(そうか・・・こういう人達からの需要もあるんだ・・・。なるほどなぁ・・・って、そうだ!顧客になってくれるかもしれない人ならちょっと試してもらうのもありだな!)


「あっ!そうだ、よければちょっとお風呂を試してみますか?」

「ん?」

「私たちはネムレという宿に泊まっているんですが、そのネムレの裏の広場を借りて、簡単なお風呂を作って試しているんです。もしよければ、匂いの気になる職員の方を誘ってお越しください。皆さんに使ってみていただいて、その感想を聞いてみたいんです」

「ほう?いいんですか?」

「はい。ぜひお越しください」

軍と下水処理ってなかなか結び付きませんよね。

https://www.youtube.com/watch?v=EgWHRwmEWPU

の動画の38分あたりからの話を見て、今回の話を思いつきました。

「米軍 超汚い」で検索してもらえれば出ます。

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