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54話で刺股をアルミ合金製と書いていましたが、アルミ製に訂正しました。
「さて、集まってください」
京藤からの声掛けで全員がそれぞれ練習をやめ集まる。
「バクアーさん。犯人役をお願いします。タミーナさんとイルスさんが取り押さえます」
「えっ?いや、ちょっと待ってくれ。何もわざわざ、私でなくとも・・・」(バクアー)
「いえ、女性でも使えるということをご理解いただくいい方法だと思いまして。全力で対応してもらっても大丈夫ですよ」
(うわ~・・・ありゃ・・・完璧に2人にマスターさせたな・・・)
先ほどのイルスを連れ出したときの話を聞いていたようだった。とここで・・・
「いや、なら犯人役をやらせてくれないか?」
バーンハードが犯人役を申し出た。
「えぇ。ではどうぞ」
バーンハードが前に出て構えた。それに対してタミーナとイルスが刺股を構え対峙する。
「はじめっ!」
京藤の掛け声で試合が始まる。
まず動いたのはイルスだった。イルスがバーンハードの側面から背後に回るように動く。バーンハードは背後を取られまいとイルスを追う。しかし、それを見てすかさずタミーナが突撃をする。刺股をバーンハードの足に向かって伸ばす。これをそのまま受けるバーンハードではなかった。すかさず足を引いて体の正面をタミーナに向ける。そして突き出された刺股をつかもうとする。するとそれを見てタミーナは刺股を引く。バーンハードの手は空を切った。タミーナに意識を向けたバーンハードの隙をついてイルスがすかさず足に向かって側面から付きこんだ。たまらずバーンハードは足を取られ地面に倒れこむ。それを見てタミーナが胸のあたりに刺股を押し込みながら地面にバーンハードを抑え込んだ。
「そこまで!」
「いや~・・・やられてしまった~・・・はっはっはっは」
バーンハードは意外と楽しんだようだった。タミーナたちが刺股を引き、バーンハードが立ち上がる。服についた砂を払う。
「なるほどなるほど。これはすごい!確かに女性でも扱えて男を軽く抑え込むことができる。こりゃ凄い!」
「俺もいいですか?」
ベノイも訓練を申し出た。
先ほど同様、2人が交互に攻撃を仕掛け翻弄し、そして抑え込んだ。
「いやぁ・・・これは勝てませんね。実際はこれにあの拘束帯が加わるんですよね・・・。仮に相手が事務仕事の女性でも勝てる気がしませんね・・・」
「あっはっは。あぁ。これはすごいもんだ。さて、刺股についてはよくわかった。君たちはほかにも道具を使っていたよね?そちらの方も紹介してほしいんだが・・・」
「すいません。これ以外の道具はちょっと・・・紹介しかねます・・・」
「そうか・・・?う~ん・・・俺としてはこの刺股よりも最後に君らが使っていたあの網を掛ける道具の方が気になっていたんだよ・・・」
バーンハードは腕を組み困ったような顔を浮かべる。
「う~ん・・・俺たちは仕事柄、結構各地で山賊とかに襲われるんだ。確かにこの刺股があればこれまで戦力にならなかった商人たちも自衛することができる。・・・が、商人は冒険者たちの様に勇気がある者ばかりじゃねぇ。刺股を使うにはどうしても相手と対峙しなきゃならん。それさえ恐れる商人は多いはずだ・・・」
「・・・」
「だが、あの網を掛ける道具なら対峙する時間は短くて済む。怖くても多分あっちの方が多くの商人にとっては安心できる道具なんだよなぁ・・・」
「そういわれましても・・・」
「・・・はぁ・・・」
石田は困った顔をしてどう断ろうかと悩む。それを見たバーンハードはため息をついた後、顔を真剣なものに作り替えた。
「そういやぁ、話は変わるんだが・・・奴隷商人に雇われている冒険者らがとある宿泊施設に押し入ったらしいな」
「・・・」
突然の話題の転換に石田は怪訝な顔をする。
「そいつらは無傷で取り押さえられて今は衛兵につかまっているって話らしいな。・・・あれはお前たちの泊っているところじゃないのか?」
「・・・えぇ。そうです」
「やっぱりな。強盗が押し入ってきて無傷でとらえるようなお人好し・・・もとい、実力者を俺は知らない。捕まった冒険者らは・・・えっと、この地方の言葉では・・・?・・・まぁ、『狩りを手伝ってくれる犬』って意味の『ハウンド』って冒険者チームだ。そのチームを雇っていたのは奴隷商会『セルスレーブ』。奴隷ってのは結構高い買い物だ。だから、まぁ、あいつらは金を持っている連中とのパイプが太い。その金持ち連中っていうのは・・・まぁ、反社会的な連中も含まれる。で・・・その襲撃を失敗した日からな、警備が厳重になった組織があるんだ」
「・・・」
「俺たちは『セルスレーブ』の実行犯たちの居場所を知っているし、かくまっている組織の犯罪を立証する証拠もつかんでいる。もし、その道具について教えてくれるなら、ルブアの衛兵たちにそれを持って行って、逮捕されるよう働きかけてやる。・・・枕を高くして眠れることを保証するぜ?」
「・・・ちょっと考えさせてください」
「あぁ。いいぜ」
(・・・マジか。犯罪組織に警戒する必要がなくなる。現状だと、タミーナたちの護衛に常に2・3人割いている状態だ。これが今後も続くとなると・・・ただでさえ少ない戦力が減らされてしまう。それが無くなるのは・・・でかいな・・・)
ふとタミーナの顔を見ると、期待するような顔でこちらを見ていた。
(そうか・・・確かに。警戒しているとはいえ娘のターニャちゃんが店に立つんだよな・・・。だったら確かにこの狙われている環境というのはあまり好ましくないよなぁ・・・)
「分かりました・・・」
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網投射機を売るということはしなかった。1つはその構造を見せるために使用して見せた。そしてその構造を見せながら解説した。
構造を見せながら、この世界でこれを再現する方法を提案しておいた。四角形の網を作り、その四隅に棒状の重りをつける。この4つの重りを4丁の銃に装填する。そして4人で同時撃ちすれば同じような効果の装置を作れる。
「ははぁ・・・なるほど。銃にこんな使い方があるんだなぁ・・・こりゃ盲点だった。しかし、これでは4人がかりで運用することになるなぁ・・・」
「まぁ、4本の銃をひとまとめにして・・・こう重りがそれぞれ離れるように角度をつけて一辺に撃ち出せるようにしておけば・・・1人で運用できるようになるかもしれませんね」
石田は地面にざっくりと形を描く。水平ダブルバレルショットガンを上下に重ね、その4本がそれぞれ広がるような方向へ角度をつけておいた。
「なるほど。確かにこれなら・・・1人で運用できるな・・・後は・・・そうだな、網が問題だな・・・」
石田達が使う網投射機、それに装填されている網は高強力ポリエチレン繊維を使用している。この繊維は引っ張る力に対して非常に強力な繊維だ。なんと同じ重量のスチールで作った金属ワイヤーと比べて約8倍の引っ張り強度を持つ。つまり軽く非常に強力な作りになっている。
バーンハードが広げられた網を掴み全力でそれを破ろうと引っ張る。しかし、人間の力ではびくともしない。
「これだけ細くて軽くて・・・しかし強力・・・。こんな縄は・・・アラクネの糸ぐらいだな・・・」
「アラクネの糸?・・・なんですか、それは?」
「ん?知らないのか。『アラクネ』ってモンスターがいるんだ。アラクネは蜘蛛の頭部の位置から人間の上半身が生えた姿をしている。大きさは人間よりやや大きいぐらいだ。蜘蛛の体を持つだけあって、こいつらは糸を吐き自分たちの巣を作る。で、そのアラクネたちが吐き出す糸を『アラクネの糸』って呼んでいるんだ。これが非常に強力でな・・・。全力で走っているオーガーでさえも止めてしまうって言われているぐらいだ」
(オーガーがどれぐらいの生物なのか知らないが・・・蜘蛛の糸か・・・)
現実世界でも蜘蛛の糸は強力なことで知られている。理論値ではあるが、直径1cm程の蜘蛛の糸でもって蜘蛛の巣を作ったならばジャンボジェット機を止められるといわれている。蜘蛛が吐き出す糸を集めるしか収集する方法がなかった蜘蛛の糸。しかし日本のベンチャー企業が、人工的に生産することに成功し大きな話題となった。
(この世界の代替品でもって生産できるならそれに越したことはない。アラクネの糸がどんなものかいつかは調べておこうかね)
縄に使う素材や投射機の形などいろいろとアイディアを出し、おおよその形がまとまった。
「よっしゃ!これなら俺達でも作れそうだな!あとは素材を集めなくちゃならないな・・・。ん。何はともあれ感謝するぜ!」
「えぇ。ですから・・・」
「あぁ。これが連中についてまとめた資料だ。これから俺たちは衛兵の詰め所に行って連中をとっちめるための証拠を提出してこようと思っているぜ」
セルスレーブをかくまっている組織は盗賊ギルドと呼ぶような組織だった。盗品を集めそして売り払う仲介をする組織だったそうだ。ここルブアではその盗品を他国へと輸出するようなことを取り仕切っているらしい。
今回、彼らは結構大きな盗品を盗み出しているそうだ。そしてその盗品がルブア内にあり、その盗品を抑えることができれば彼らの犯罪を立証できるとのことだった。
ご存知かもしれませんが、本作の刺股で参考にさせていただいたのは
佐野機工様の「ケルベロス」を取り付けた刺股です。
ケルベロスは本作では拘束帯というように呼ばせてもらっている部分です。




