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プロジェクターが映す画面には、ロックリザードの鱗の写真があった。
「この鱗はロックリザードの体からとられたものです。これと戦闘した司令達の話では、この生物は数発ライフル弾をはじいたということです。このためこの生物の防御力にかんして研究を開始しました」
「うちらは持ち込まれてすぐにその強度を検証してみた。すると全く銃弾を弾けるようなものじゃなかった。様々な検証の結果、この鱗は魔力を流し込むと強度が大きく変化することが分かった」
「こちらをご覧ください」
鱗の断面図が表示された。鱗は3層からなる形をしていた。
「鱗の断面図です。1層と3層はタンパク質の一種『ケラチン』等から出来上がっており、いわゆる爪と同じ成分からできた層になっていました。問題なのはこの2層。魔力を受けその構造を変更していくことが確認されました」
「この層の主成分は油脂。主に油だった。しかしその油脂の中には微細な『金属風の粒子』が含まれており、魔力に反応して特殊な構造を構築することが確認された」
「顕微鏡で確認した構造の構築前と、構築後の写真です」
構築前の写真ではオイル内にたくさんの粒子が均一に分布していた。構築後の写真では1層と3層の間に網目状構造が構築されていた。
「これって・・・まさか、リキッドアーマー?」
「・・・電磁式タイプのモノに非常に酷似していますね。さらに加えて、こちらのオイル部分なのですが、こちらも魔力を流し込むとダイラタント流体として振る舞うという恐ろしい性質を備えていました・・・」
「・・・まじで?」
「はい」
「全身をリキッドアーマーで覆う・・・。やばい生物もいたもんだな・・・」
「いえ・・・むしろリキッドアーマーを必要とするような天敵がいる可能性の方が危険かと・・・」
「あ・・・げぇ・・・。そんな可能性もあるのか・・・。わかった。モンスターの対処はより一層慎重に取り組むとするよ」
「そうしてください・・・続けます」
その後の報告は少し難しい内容だった。簡単に言ってしまえば2層の物質について調査だった。質量分析などを行った結果、原子周期表に無い物質が含まれていると判明した。
「何回も計測して繰り返しこの実験結果になったけぇ・・・確実だと思うんよ・・・。世紀の発見じゃけど・・・他領との接続が途絶えてしまって発表する場がないけぇねぇ・・・発表する場が・・・」
(ははは・・・。学会とかはもう無いもんな・・・。それはさておき、かつての世界にはなかった物が存在するとはさすが異世界って感じだな・・・)
「ってか、俺もよくわかってないけど、この領を作り出しているのは魔法・・・なんだよね?」
「はい。そうです」
「その・・・この領にはそういったものはなかったの?」
「ありませんね」
「なかった」
「そっか・・・。じゃあ、本当に新発見だ」
「えぇ。さらに凄いのは、この発見は魔法研究を進める可能性を秘めています。これまで魔力に対して反応する物質というのが存在しなかったため、魔力や魔法についての研究はほぼ不可能だと言われていました。この物質が見つかったということは魔力を観測する手段が見つかったということです。これまで全く分からなかった魔法という現象をひも解く可能性を見つけたんです!」
「な・・・なるほど・・・」
(確かに。脳科学の発展に通じるものがあるな)
最近になって脳科学はものすごい速度で発展し始めた。それは最近まで生きた人間の脳を開いて観察するということができなかったからだ。しかしそれがMRIなどによって、脳を開くことなく観測することができるようになり、急速に発展した。ぶっちゃけると観測できないことには研究のやりようがないのだ。逆に定量的に観察出来る方法が発見されると研究は一気に進む。
つまりこれからはこの領でも魔法について独自に研究できるようになるかも・・・ということだった。
(なるほど・・・。この領で魔法を独自に研究できるようになる・・・なら、魔法についていろいろと情報を集めた方がいいな・・・。そのためには王都へ人員を送り込んで魔法を学ぶのがいいか・・・)
石田は手帳を取り出し、今の話と考えを軽くメモした。時刻を確認すると1300時になっていた。報告会を一度止め、昼食をとった。昼食は外へ食べに行くと時間がかかるので、給湯室で缶飯をお湯で温めて談話室で食事をすることに。
談話室で食事をしながら石田は先ほどの思い付きを2人に話す。
「そういえばルブアで聞いたんだけど、あちらの世界の王都に行くと魔法学院があって魔法を学べるらしいんだよね。2人は興味ある?」
「え?そうなんですか・・・」
「興味はあるけど・・・うちは理解できそうにないって不安があるねぇ・・・」
「えぇ。それに私たちは魔法を行使できませんから・・・」
「へっ?そうなの?」
「えぇ。私たちが魔法を行使することはできません。通常この妖精さん・・・」
材津が机の上に2頭身のデフォルメ妖精を召喚した。
「たちにお願いして、かわりにいろいろとやってもらっているので・・・私たち自身は使えません・・・」
「へぇ・・・」
「でも・・・興味はあるので・・・いけるなら行きたいですね」
「魔法かぁ・・・いろいろしてみたいけど・・・やっぱり箒で空を飛ぶんじゃろうか?」
「う~ん・・・どうですかねぇ・・・私はそれよりステータスをのぞいたりする魔法があるといいですねぇ・・・」
「・・・随分地味な魔法じゃけど・・・そんなんで何するん?」
「いえ、研究作業が楽になりそうだなぁ・・・とか思ってるんですけど・・・」
「かぁ~・・・夢が無い!せっかくの魔法なのに、楽しいことしてみたいとかは無いん?」
「え・・・え~と・・・・」
その後どういった魔法を使ってどんなことがしたいかという方向に話が飛んでいった。どうやら彼女らは興味あるようだった。とすれば学院に入れる算段がつけば、彼女らに学びに行ってもらうのもありだろう。
昼食を終えまた報告に戻る。
「続いて、マスケット銃についての研究結果報告に移ります」
「内容は2部に分けておいた。それぞれ1.銃としての能力2.製造技術じゃね」
「まずは銃の能力についてです」
銃としての能力はひどいものだった。現実世界でもマスケット銃は命中率なんてあってないようなモノだったがそれは同じらしい。人間サイズの的を狙うなら最長でも30mが限界。それを超えると、銃の集弾率から当てることは困難となる。
また、使用する火薬の質が悪い。大量のススを発生させるそうだ。射撃試験において3発も発射すると銃身内の汚れが激しく再装填が難しくなった。さらにススの影響で発射する度命中率が下がるということに。火薬の装填量について説明がないし、火薬の量を計量するような手段もない。これでは安定した能力を発揮できるような代物ではないとの結論になった。
「その能力について分析した結果から言いますと、銃は開発されて間もない段階なのでしょう」
「なるほどな・・・ちなみに、これを命中率上げろって言われたらどうする?」
「う~ん・・・そうですね・・・。思いつきません」
「多分司令の意図しとることとは外れるんじゃないかと思うけど・・・ラッパ銃よろしく散弾させるぐらいしか思いつかんね」
「そっか・・・わかった。続けて」
「はい。続いて銃の製造技術についてです」
「製造技術の中で製鉄の能力を測るために銃の数か所でそれぞれ計測をしてみた」
銃の写真が写され、その上に赤い丸が表示される。銃身の先端、中央、後端、魔法陣の計4点に表示された。
「先端、中央、後端の3か所はほぼ同一の成分組成になっていました。いずれの場所でも鉄が主成分で・・・驚いたことに、炭素・ケイ素・リンなどの不純物成分が少なく、高品質の鉄だといえるでしょう」
その後の解説によると、鉄は不純物を含むともろくなるのだそうだ。地中に埋まっている鉄鉱石にはたくさんの不純物が含まれている。これをいかにして取り除くのかはかなり重要な技術となってくる。そして取り除かなくてはならない原子は、ケイ素やリンなどの非金属原子だけでなく、銅やスズなどの金属原子も取り除かなくてはならない(合金を作る場合を除く)。不純物を含むと強度が下がり、クラック(割れ)が発生しやすくなる。鉄の品質を測る上でその純度は一つのパラメーターとなる。
ただ純度が大事なパラメーターである中、唯一炭素だけは意図的に添加される。実は純粋な鉄はやわらかい。常温でも比較的簡単に曲げることが可能だ。炭素を含むと鉄の硬度が高くなり曲がりにくくなるため、目的に合わせて添加される。
「しかし、高品質の鉄ではあるのですが・・・銃身に使用するには少々柔らかい印象を受けます。このためおそらく発砲時に銃身が膨らみ発射ガスを逃がしてしまっているはずです。これらの事から鉄鋼の製造技術は高いものだと考えられますが、鉄に対する知識が不足しているのではないかと考えています」
「そっか・・・なんか・・・不思議だね・・・」
「えぇ。そして、魔法陣の描かれている部分です。ロックリザードから見つかった原子とは別の原子になりますが、こちらからも未確認原子が検出されました」
「・・・まぁ、確かに。魔法にかかわる部分だしね」
「魔法陣は金属風の原子で描かれています。先ほどと同じく魔力に反応するのだと思われるのですが・・・どのように魔力に反応するのかが不明瞭で・・・魔法陣に使われている素材がどういったものなのか良くわかっていません・・・」
「なるほどな・・・。まぁ、少なくともそういった物を使って何か魔法的なものを作り出す技術があるってことだよね・・・。一体どういう原理か・・・ってことは脇に置いておこう。ありがとう」
「はい」
「次にうちの方から・・・」
銃身の筒の完成度についてだった。銃身が曲がっていれば弾道も曲がる。銃身がどれだけまっすぐ作られているかを計測したそうだ。するとかなり曲がっていることが分かった。そして1丁ごとにその曲がり方や向きが違うという。
「・・・そんなことありえるの?」
「う~ん・・・手作り・・・ってわけではないと思うけど・・・。工作機械使ってこれは無いんじゃない?ってレベルで曲がってしまっとるねぇ・・・」
「・・・まさか鉄を加工する魔法があるとか?」
「・・・何とも言えんけど・・・その可能性はあるかもしれんね・・・」
その後もいろいろな部品を取り上げてその寸法などを比較していったりしたが、どうもやはり手作り感というか・・・同じ形はしているが、個体ごとの差異が大きかった。
「結論を言うと・・・おそらくうちらが知っている製造法とこちらの世界での製造法は全く異なる可能性が高い・・・という感じじゃねぇ・・・」
「以上で、報告はすべてになります」
「分かった。ありがとう。2人ともとても興味深い内容だった」
時計を確認すると1500時だった。浦風がイシダに近づき話しかけた。
「司令。この後何か予定あるん?」
(タブレットにたまった、いろいろな内容を確認する作業があるといえばある。が、それは夜でもできる内容だしね。彼女らが何か用事があるなら、そっちを手伝おうか)
「いや。無いよ」
「良かった!じゃあ、私たちもその・・・ルブア?を散策してみたいんじゃけど・・・ええ(良い)かね?」
人攫いが現れたばかりなので、戦闘力のない2人だけでルブアを散策されるのはためらわれた。
「あぁ。いいよ。ただ、安全のために俺がついて回るけどいい?」
「ええよ」
OKが出たので、ルブアを散策することになった。すぐに夕方、夜になるとはいえ、税金を支払っていない2人が歩き回って何か問題に巻き込まれると面倒なことになる。このため、2人の税金を支払ってから散策することにする。
まず石田だけルブアに戻る。その後ルブアの門を出てからゲートを開き2人をあちらの世界に連れ出した。そしてルブアの門に戻り税金を支払った。
ルブアの門では門番をしている兵士たちがいる。その中にまたアディがいた。彼は石田が門を出る所から見ていた。そしてあまり時間をかけずに帰ってきたのを見て呆れかえっていた。
「・・・イシダ・・・お前さっき出たばっかりだよな?・・・何がしたいんだ?」
「え~・・・と。まぁ、この2人を迎えに行ってきたってだけだ」
そういって石田の後ろにいる、材津と浦風を指す。
「わ~お・・・こりゃまた別嬪さんだな・・・」
「ってわけで、税金の支払い3人分頼む」
「おっけ」
税金を支払う。
「あぁ・・・そういえば、お前さんが決闘したあの日なんだが、外で決闘してくれたよな?あれのおかげであの日は税収が凄いことになったってよ。当日の門番の連中は悲鳴を上げてたが、うちの領としては結構稼げて助かったみたいだぜ」
「へ~・・・そりゃ、よかった」
石田としてはルブアの城壁内だと流れ弾が民家に飛び込みそうだという理由で城壁外を希望した。あまり深い意味はなかったが、それが意外な効果を生んでいたようだった。
「あぁ。で、あとあの日と言えば、午前中に詰め所まで来てたよな?あの~・・・なんだっけ?人攫いの連中を連れてからさ」
「あぁ。行ったね。そういえば、あれ捜査はどうなってんの?何か知ってる?」
「知ってるよ。ただ・・・」
アディが顔を近づけてくる。小さな声で周りに聞かれないようにしながら話した。
「(捜査についてはここじゃ話せない。まだネムレに泊ってんのか?)」
「(おう。まだネムレだ)」
「(分かった。今日仕事が終わったら行くわ。そこでな)」
「(分かった)」
そういってアディとは別れた。
とりあえず材津と浦風の税金も納めたので、これで散策ができるようになった。2人を連れてルブアを散策した。材津はこの世界の防具に興味があるようで防具を取り扱っている店には必ず入った。そして、浦風は素材に興味があるようで素材を売っているようなお店では熱心に商品に見入っていた。




