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部屋に入ってきた男は名前をバーンハードといった。現在ルブアに訪れている隊商のボスをしている。彼は公開訓練を観戦していた。そして石田達が使っていた道具に興味を持っていたようだった。
石田は隊商のボスが突然訪れてきたことに驚いた。昨晩宿を襲った連中などいろいろと話を聞いてみたいため都合がいいと考えたが、既に夕方であり日暮れまで時間がないこと、お通夜状態のワイルダーネスがいることなどから日を改めてもらうことにした。バーンハード達も2週間程度はこの街に滞在するということなので問題ないとのことだった。バクアーにお願いして、2日後の午前10時に現在使っている会議室を借りて会うことにした。
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石田達はネムレにワイルダーネスの面々を連れて行った。ネムレに連れて入ろうとするとジュナイドに止められた。ネムレの1階部分は食事場になっている。これから夕食の時間になるのに、そんなに匂う人物を連れてこられると客に逃げられるとのことだった。
ネムレでは既にタミーナ達が休んでいた。今日は襲われるということはなかったらしい。もしかしたらアディらの警邏が功を奏したのかもしれない。
店の裏を借りてまた風呂を設置した。設置作業はまたタミーナらが手伝ってくれた。回数をこなしていることもあり、非常に手際よく作業が進み、すぐに風呂が使える状態になった。
汚れのひどいワイルダーネスを先に風呂に入れるわけにはいかないので、先に他の全員に風呂を使ってもらうことに。その間石田は司令天幕を開き、そこでワイルダーネスと時間をつぶすことになった。
天幕内を片付け、中心に長机を置く。そしてその周りに椅子を並べて簡易お茶会使用にした。そしてまずは自己紹介から始まった。ワイルダーネス1の巨漢がギボン、細身の男がエマン、弓兵がラチフ、魔法使いがキュリックという名前だった。
冒険者としていろいろと活動してきた彼らにこの世界の事を尋ねてみることにした。
まず尋ねたのが、スキルについて。この世界がRPG系の世界観っぽいので、それならそういったものがあるのかと思って尋ねてみた。すると案の定あるそうだ。スキルには先天的なモノと、後天的に身に着けられるモノがあるとのこと。
例えばアイテムボックスのスキル。これは先天的な物だ。ただ、珍しいものではないらしい。ただ、その大きさは個人差がある。また種族によって持つ者の割合に差があり、人種なら2人に1人程度、獣人系にはほとんど持つ者はいないそうだ。
後天的なスキルは特定の動作を繰り返したり、数多の戦闘を経験することで身につくものらしい。あとワイルダーネスの訓練では、初歩的なスキルを教えることもあるそうだ。
(ふ~ん・・・なら後で教わろうか・・・。京藤さんに手伝ってもらえばスキルの獲得も早いかもしれないな・・・)
次にこの世界ではレベルという概念は無いかと質問した。一応あるそうだ。ただ、レベルを確認するためには専門の道具が必要となるそうだ。この国でレベルの確認が行える道具がそろっているのは王都の神殿のみなのだとか。確認するためには王都の神殿に行く必要があるうえ、計測費用も掛かるそうだ。だから、あまりレベルを確認するということは一般的でないらしい。魔法やスキルなどで確認するすべはないのかとも聞いてみたが、これははっきり「無い」との事だった。
(でもレベルという概念があり、確認する手段もあるなら・・・何とかできそうな気もするよなぁ・・・実際俺達のレベルはタブレットで確認できるしなぁ・・・)
魔法についても聞いてみた。魔法を行使するには主に2通りの方法があるそうだ。1つは魔法についての知識を集め、術者の能力で魔法を行使する方法。もう1つは、魔法回路が組まれた道具に魔力を流し込む方法。前者は使用者個人の能力に大きく左右されるものの、複数の魔法を使用可能なのだそうだ。後者は道具に指定された数個の魔法しか使えないデメリットはあるが、専門知識を必要としないこと、発動までの時間が短いことなどがメリットなのだそうだ。ワイルダーネスの魔法使いキュリックは両方利用しているという。冒険者に広く知られる火球の魔法などは彼自身が発生させる。そしてその杖にはバフ系魔法の回路が書き込まれているそうだ。
そして魔法を学びたいなら王都の魔法学院に行くことを勧められた。冒険者らが知る魔法は種類が少なく、非常に簡単なものしかない。本格的な内容を学びたいならそこ以外では難しいそうだ。
(また王都か・・・レベルの確認の件と魔法の件・・・いつかは行って調べてみないとな)
いろいろと話を聞いていると、京藤達が司令天幕にやってきた。全員が風呂から出たそうだ。
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アノーア達を風呂に入れる前に、彼らの改造計画を説明した。そしてスキンヘッドにするということに彼らは難色を示した。髪の毛にやはり思い入れがあるのだろう。しかし京藤達がスキンヘッドで格好良くなれると説明すると渋々ながら承諾してくれた。
さて、そういうことで彼らは風呂に入る前に髪の毛と髭をそることになった。その作業は石田が行った。京藤らにはフォックス族&タミーナの護衛を依頼した。アノーア達の服を買いに行ってもらったのだ。
髪と髭に別れを告げてからいよいよ風呂へ。石田も案内係を兼ねて彼らと一緒に入浴することに。彼らは水浴びの経験などはあるものの、お湯に入るというのは初めてだと言っていた。この件はタミーナも話していたので、「まぁ、そんなもんか」位にしか感じなかった。浴槽に入る前に彼らの体を洗う。すると出るわ出るわ大量の垢。ボディタオルに石鹸をなじませて全身(スキンヘッドのため頭も)洗ってもらった。1回では泡立ちが悪く、まだ汚れが残っていたので数回体を洗ってもらった。そして湯船につかる。すると
「あれ?おい、この感じHPとSPが回復してないか?」
「あぁ。というかMPも回復してるぞ?」
数値的なものはわからなくとも、感覚で彼らはHPとSP、MPを感じ取っているようだった。それが異常な速さで回復しているという。
「あ・・・もう満タンだ・・・」
「あぁ・・・すげぇ回復力だ・・・これ以上回復できなくてもこの湯船からは出る気にはなれないなぁ・・・」
「はぁ~・・・癒される~・・・まるで魂まで浄化されている気分だ・・・」
ワイルダーネスには入浴を楽しんでもらえたようだった。そして入浴していると、ガパティが声をかけに来た。どうやら衣類の買い出しが終わったようだった。風呂を出て体を拭き、脱衣所へ。石田は野戦服を着る。ワイルダーネスにはそれぞれ新たに用意された服が渡された。全体的にきつめの服で、体にぴったりと張り付くような形だった。・・・というか巨漢のギボンは服を着る際に若干ビリって音を立ててたような気がする。細身のエマンは少し余裕があって動けるような感じだが・・・。それ以外の全員はなんか服がきつくて行動を阻害されている気がする。
服に締め付けられながらアノーアが疑問を口にした。
「な・・・なぁ・・・なんでこんなに、小さい服なんだ?」
「・・・あー・・・多分体のラインを出したいんだと思います?」
「ライン?・・・なんだそれは?」
「・・・皆さん筋肉質な体をしてますよね?だから、その無駄のない引き締まった体を見せつけるような服装を心掛けたんじゃないですかね?」
「・・・?なんでだ?」
「女性から見ると、筋肉は魅力的に見えるらしいですよ?だから・・・それが服で隠されないようにするため・・・ですかね?」
「・・・そういうものなのか?」
全員着替えを終えて外に出ると、外には女性陣が集まっていた。彼女らはワイルダーネスの面々に近づきそれぞれ衣服の着こなし方を指導し始めた。石田の予想は当たっていたようで、腕まくりや、胸元を少し開くなどしてその筋肉を見せるような指導が加わっていった。
これまで女性から逃げられていたワイルダーネス。それが突然女性らに群がられてあーだこーだと指示を出されて戸惑っていた。周りの女性はこのファッションチェック(?)に意外と乗り気で楽しんでいる。楽しんでいるからか「カッコいい」や「いいね」などの肯定的な言葉かけが聞こえる。そして肯定的な言葉をかけられて徐々にワイルダーネスも乗り気になったようで、いろいろと指示に従ってポージングなどをし始めた。
石田はまずタミーナに近づき衣類の購入代金を支払った。そして周りを見渡すと少し離れた所から京藤達は眺めていた。石田も京藤達に気づきそこへ向かう。そして一番手近なところにいた間宮に話しかけた。
「体のラインを出したいっていうのはわかったんだけど・・・あれじゃ動きにくくない?」
「それはそうなんですが・・・彼らの目的は動き回ることではなく、お相手を探すことですよね?」(間宮)
「ふっ・・・甘いね司令。ファッションとはすなわち我慢することなんだよ」(湯川)
なんか隣で湯川がどこか達観した顔でつぶやいている。とここで意外な声が響いた。
「砂漠という地形に合わせて砂漠迷彩、市街地に合わせて市街迷彩など環境に応じて装備を選びます。つまり環境に応じて装備を切り替えるのは常識ですよね?」
と解説を始めたのは材津だった。その隣には浦風もいる。いつの間にかこちらへ来ていたようだった。材津の解説は続く。
「・・・あぁ。そうだな」
「そして普通の兵士はある程度見つかっても構いませんが、狙撃をするスナイパーなどは見つかることは死を意味します。ですから通常の野戦服に加えさらに現地の地形に合わせてギリースーツを作ります。つまり目的によってもまた装備が変わってくるのです」
「・・・・・・お・・・おう」
「今回彼らの戦場は市街地。彼らの目的は女性のハートを射止めることです」
「な、なるほど」
「迷彩効果を発揮して周囲に溶け込んでいては女性に見つけてもらえません。そのため装備のカラーリングは女性の目を引くように少々派手にしてあります」
確かに赤や緑、青などの色付けされた生地の服を着ている。ただいずれも赤はワインレッド、緑はクロムグリーンなど色合いも落ち着いた感じのもので、派手派手しい印象は受けなかった。
「そして、衣服の選択で最も重要なのがその人物のアピールポイントです。人間は服を見て服に恋するのではないのです。それを使い着飾っている人物を見ています。今回彼らのアピールポイントはその肉体だといえるでしょう。ですからあえて筋肉を見せつけるような服装にしてあります。そしてそれを少し着崩すことで、『チョイ悪』感を演出します」
「・・・・・・」
(・・・そんなに考えられてんだ・・・)
「ふぅ・・・しかし、本来衣服は防御装備です。ですが今回の彼らの服装は『攻める服』。・・・なんとも不思議な気分です・・・」
(・・・うん。よくわからん)
石田は材津のつぶやきを聞いて、その内容がわからなかった。ただ、それでも一つ思うことがあった。
「あのさ・・・体のラインを出すために、ああいったぴっちりとした服を準備したっていうのはわかった。ただこの世界の布に・・・ストレッチ素材あるの?」
「「「「・・・・あっ」」」」
石田のこの発言に全員が思い出したようだった。そうぴっちりと体に張り付き、体のラインを見せる衣服を作るにはそもそもストレッチ素材が無いことには始まらない。というのは普通の天然素材からできる生地の多くが、引っ張っても伸びないためだ。
ストレッチ素材とは次の2つの能力を持つ生地を指す。
①引っ張られたときに伸びる能力(伸縮性/ストレッチ性)
②伸びた後にもとに戻る能力(弾性回復性/キックバック性)
このストレッチ素材を関節部などの動く部分に利用したり、そもそも全てをストレッチ素材で作るなどすることによって人の体の動きを阻害しないよう設計する。が、逆に伸縮性のない生地(例えば綿100%など)で衣服を作るとそれだけ動きが阻害される。
かつては現在のようなストレッチ素材は存在しなかった。では昔の人はどうやって動きを阻害されないような服を作っていたのか。それは単純、服に余裕を持たせ大き目な衣類を作ったのだ。例えば、柔道や空手などの胴着を想像してほしい。衣類と体との間に広いスペースを作ることで行動を邪魔しないよう設計されている。
そう、この世界ではブカブカのゆったりとした作りの服を着る人間が多かった。故に、体のラインを出す服を着ればそれは目立つことだろう。ファッションの流行をかなりの歴史をすっ飛ばして先取り出来たことだろう。その点は素晴らしい。ただ・・・
―ビリィィィー
「「「「あっ・・・」」」」
調子に乗っていろいろとポージングしていた巨漢のギボンと、アノーア。2人がボディービルダーよろしくフロント・ダブル・バイセップス(両腕を持ち上げ手を頭の方に向け、上腕二頭筋を見せつけるポージング)を決めた瞬間、その動きに耐えられず服が破けた。腕から肩にかけてと、胸元がちぎれて中の筋肉があらわになる。
この出来事には2つの反応があった。1つは石田達と女性陣の『やっちゃった~・・・』という後悔の反応。もう1つは・・・
「すげぇぇぇ!」
「ひゅーひゅー!」
「大したもんだ!」
いつの間にかやってきていたアノーアの後輩冒険者らを中心に彼らの筋肉をたたえる反応だった。
破れた瞬間は「あっやってしまった」といった顔だったアノーア達だが、この反応には気分を良くして「がはは」と笑っていた。
「・・・材津さんは、衣類の縫製もできる?」
遠目にその様子を見ながら石田は隣の材津に質問する。
「はい。あれを修理しますか?」
「いや、領のストレッチ素材の生地を使ってあれと同じデザインの服を作ってみてほしい」
「なるほど・・・わかりました」
「あと、彼らの防具については話を聞いた?」
「はい。今洗浄作業中です」
「分かった。ありがとう」
この後破ってしまった服は仕方ないので、彼らに野戦服を貸し出した。全員筋肉質な体をしているので非常に似合っていた。
あれやこれやしているうちに日が暮れる。そしてワイルダーネスに教えを受けたという冒険者らがぽつぽつと集まってきて、そのまま彼らの流れでネムレで夕食をとり、そして宴会となった。
ワイルダーネスの人望に驚かされた。




