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後方兵科が異世界転移!?  作者: お芋さん
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イヤッホー!祝!14000PV!

読んでくださる皆さんにありがとう!


前回が短かった分・・・という訳ではないですが

今回は(個人的に)長めです。

 冒険者組合に到着する頃、あたりは西日に照らされオレンジ色に染まっていた。石田は戦闘系ユニット全員とファティを連れて冒険者組合に来ていた。


 冒険者組合を訪れるのはまだ3回目だが、今回は組合の建物に冒険者らしい恰好をした人達が出たり入ったりとにぎわっているのに驚く。というのも先の2回はどちらも閑散としていたからだ。これは先の2回は昼頃に組合を訪れたためだった。昼間というのは冒険者達は仕事で出払っている時間だ。しかし、今は夕方。1日の仕事を終えて報酬の受け取りにやってきた冒険者たちが集まる時間帯だった。順番待ちのために用意された椅子はすべて埋まっており、座れず立って待つものもいる状況だった。

 冒険者たちは多くが皮鎧や鎖帷子を装着している。幾人かはやや厚めの布でできた普通の服だったりする。西洋甲冑を装備したような冒険者はいなかった。

 そんな冒険者らの中で石田達は目立っていた。理由はいくつかある。まず全員異邦人という見た目だ(ファティも変身した姿はなぜか日本人だしね)。そして全員が揃いの砂漠迷彩の野戦服を着ていること。さらに石田以外が全員、女性でかつ美人ぞろい。そして最後にファティの背中から4枚のドラゴンのそれと尻尾が生えているためだった。

 石田達はまず案内カウンターへ行く。ファティが協力を申し出てくれたので、ファティにも冒険者登録をしてもらおうと考えたのだ。案内カウンターにはすでに2組のグループが並んでいたので、その後ろに並ぶ。


「お・・・おい。あのドラゴニュートの翼と尻尾・・・あれってアースドラゴンのそれに似てないか?」

「見た感じそうだが・・・俺たちが知るドラゴニュートとは明らかに違うな・・・」

「この辺のドラゴニュートじゃないんだろうな・・・」


 報酬受け取りカウンターに並ぶ冒険者たちが遠目にファティを見ながら話をしていた。


(いや、この辺のドラゴンです・・・)


 などということは話すに話せず、石田は1人胸にしまった。石田の後ろではファティが会話の内容はわからないながら、注目されていることについて居心地悪そうにしていた。


「・・・なんじゃ?見られておるのぅ?」

「はは。まぁ、ファティのその翼が気になってるようだよ?」(京藤)

「そうなのか?・・・う~ん・・・正直視線が気持ち悪いのじゃ・・・。よからぬことを考えての視線ではないのかのぅ?」

「いや、それは大丈夫みたい。珍しいから気になってる感じらしいよ?」(京藤)

「はい!私もファティの翼気になる~」(湯川)

「は~い。私も気になりま~す」(ナイチンゲール)

「ちょ・・・ちょっと二人とも・・・!」(京藤)


 京藤は慌てる。見た目が違う。現代人の価値観からすると、そのことを話題にあげることはタブーだ。というのも差別であるとか、傷病者を傷つける内容になる・・・という感覚があるからだ。しかし、当のファティはそんなことは知らない。もともと種族が全く違うということもあってか、あっけからんと返した。


「そうか?ではお主ら触ってみるか?」(ファティ)

「えっ?!」(京藤)

「「やった~!」」(湯川&ナイチンゲール)


 ファティは2人が触りやすいように翼を広げる。4枚ある翼のうち2枚をそれぞれが触りやすいようにした。2人は差し出された翼を触る。


「へー!意外と固~い」(湯川)

「あ~、ひんやりとして気持ちいいです~」(ナイチンゲール)

「あ・・・え?えぇ?!」(京藤)


 京藤が1人状況についていけない顔をしていた。その顔を見たファティは京藤にも翼を1枚向ける。


「ほれ?どうじゃ?触ってみよ」

「えっ!・・・・・・・・・・・・失礼します」


 京藤は差し出された後、少し悩んでから触る。意外と興味あったらしい。最初は恐る恐る指先で触りながらファティの様子をうかがった後、ファティが特に表情を変えないところを見て結構遠慮なく触るようになった。


「あ、私たちも興味があります」(瑞山)

「ファティちゃん。私たちも触らせてもらっていい?」(古井)

「私もいいですか?」(間宮)


 と落ち着いた雰囲気の残りのユニットも続いた。女性たちがキャッキャ、キャッキャと騒いでいる脇でそれを見ていた冒険者らが驚く。


「おい!見てみろ!ドラゴニュートが翼を触らせているぞ!?」

「えぇ!?プライドの高い種族で知られるドラゴニュートが?」

「えぇーっ!?翼は同族同士でも触らせないって聞いたぞ?!」


 とこんな感じでさらに注目を集めるのだった。そうしているうちに要らない事まで聞こえ始めた。


「・・・可愛い女の子同士がいちゃいちゃしてる。眼福眼福」

「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃ^~」


(おい!変態が居るぞ!)


 そうこうしているうちに石田達の前で案内カウンターを利用していたグループが用事を終えた。カウンターが空いたので石田達も受付に進む。カウンターの向こうには、先の2回の訪問時も対応してもらったイルスが座っていた。石田が声をかけるより先にイルスの方が気づき話しかけてきた。


「あれ?え~と、イシダさん・・・ですよね?」

「はい。今日はちょっと相談とお願いがあってきました」

「あ、はい。てっきりもう試験を終えられたのかと思いました」

「あー・・・その件もちょっと関係してたりします」

「・・・?」

「んん。まずは先にお願いの方を。ファティ?」


 石田は振り返ってファティを呼び寄せる。


「この娘も冒険者登録したいと思っていまして」

「あれ?この娘は・・・ボールペンを売っていた娘ですよね?」


 どうやらファティが売り子をしていた時にボールペンを買いに行ったことがあるようだった。ペンを売っていた娘と冒険者ということでつながりが見えないようで、不思議そうな顔をしていた。


「・・・その・・・(小さな声で:Dランク試験に参加させてもらえないかと・・・)」

「え・・・っと・・・」


 話を聞いたイルスは困った顔をしていた。


「その~・・・ちょっと私では判断いたしかねますので、上の者を呼んできます。少々お待ちください」


 そうしてカウンターの奥の方に行く。やはり前回と同じように副組合長のナスルの元へ。話を聞いたナスルは机の引き出しから封筒を取り出し中の書類を確認する。取り出した封筒と書類は石田がアレーシャから受け取った推薦状の様だった。ナスルはそれを読むと、眉間を擦り大きくため息を吐いた。立ち上がり、石田達の待つカウンターへイルスを連れてやってくる。


「どうも。イシダさん」

「どうもです。ナスルさん」

「え~とですね、そちらのドラゴニュート?のお嬢さんを冒険者として登録されたいって話ですよね?」

「はい」


 ナスルは椅子に座らずそのまま腰を曲げ、口元に手を当て顔を近づけ声を小さくして話しかけてきた。


「(しかも試験に滑り込ませたいって話ですよね?)」

「(はい)」

「(結論から言うとできなくはないです)」

「(本当ですか?!)」

「(はい。推薦状にはドラゴニュートの姿をした女性についても記載がありましたから)」


(おぉ!アレーシャさんマジ優秀!助かった)


「(ただですね・・・この試験は冒険者としての実力を測る目的があって行われるものだとご存知ですか?)」

「(はい)」

「(試験は一応冒険者組合からの依頼という形で書類上は処理されてます。依頼を受注いただくにあたり参加者登録されたのは覚えてますよね?)」

「(はい。覚えてます)」

「(その依頼受注者一覧にそちらのドラゴニュートの女性の名前がないのです。ですから試験を一緒にクリアしたということに出来ず、実力を示してもらってないことになります・・・)」

「(あー・・・その、今からあの表に書き込んで・・・じゃダメですか?)」

「(そういう処理もできなくはないです。ただ、表の中で皆さんが受注した後も他の方が書き込まれているんです。だから皆さんとそちらの女性がひとまとまりで書き込まれていないことになるので・・・疑惑が発生します。・・・そもそもこの試験を実施することに反対している者がいるんです。実力でのし上がっていっている冒険者の脇を一足飛びに追い越す行為ですからね・・・。ですからそういった人たちに見つかれば当然批難の対象になります)」

「(そうですか・・・確かにそれは難しいですね・・・)」

「(えぇ。しかし、女性1人でこなすような試験を用意するのも難しく・・・はぁ・・・)」


 ナスルさんが近づけていた顔を離し、カウンターの席に腰掛けた。


「おい、ナスル。その封筒はまさか・・・推薦者か?」


 石田の後ろから声がかかった。その声を聴いてナスルは慌てる。


「あ・・・いや、これは・・・」

「ふんっ。その慌てようからしてどうやらそうらしいな」

「・・・」


 石田もその声の主の方へ振り返る。するとそこには身長が190cmはあるであろう、筋肉モリモリマッチョマ・・・ゴホン。屈強な男が1人立っていた。強面であごひげをたっぷりと蓄えたその男は、鎖帷子の上に皮鎧を着てさらにマントを羽織っている。さらに室内なのに革製の兜をかぶっていて、もし兜に角がついていたら完璧にヴァイキングみたいな出で立ちだった。その男のいずれの装備も所々傷が入っており、長く使い込まれていることをうかがわせた。男の後ろの方をのぞき込むと少し離れた所からこちらを眺める4人の男がいた。その4人も似たような防具を身に着けていて、この男の仲間であろうと思われた。

 その男は石田をにらみつける。なかなかの強面であることもあって石田は気後れしてしまう。石田が気後れしたことを読み取った男はにたりと笑う。石田の隣、カウンターまで進んできて思いっきりカウンターを叩いて大きな音を立てた。


―バンッ!


 その男の立てた音のおかげで、騒がしかった建物内が一気に静かになる。遠くのカウンターで用事をしていて、こちらの事に気づいていなかったような冒険者たちもその音に驚きこちらに注目した。

 石田はその男が立てた音に驚いてビクッと体が動いてしまう。もし格好いい主人公ならここで毅然とした態度をとったり、冷静な対応ができるのだろうが・・・石田はただの臆病者であった。FPSゲームと知りながらも、ヘタレプレイをしてしまう・・・かなり重度の臆病者だ。

 ビクッと反応した石田を見てその男は一瞬満足そう顔になる。すぐさま怒った顔を作り先ほどの会話より大きな声で(組合中に響くように)まくしたてた。


「おうおうおう!こんな青二才をDランク冒険者に推薦するってのかぁ?こりゃ、俺たちもなめられたもんだなぁ!」


 暴力的な側面を見せつけ怖がらせ、大きな声で威圧する。完全に恫喝であった。しかも、タチが悪いコトに公衆の面前で相手に恥をかかせて再起不能にさせようという企みまで透けて見える。

 石田のおびえた様子と、この男のその目論見に気づいたナスルはいち早く反応した。


「そんなことはありません!冒険者は個人の資質を高めるだけではダメ。チームとしての能力を磨くことの方が大事と後輩たちを指導しているのはあなたたちのチームではありませんか!仮にこの方が少々資質に欠けているとしてもチームとしての実力があれば何の問題もないはずです!」

「はんっ!それは間違ってねぇが、このぐらいのことに怯えるようじゃ冒険者としてモンスターと退治できねぇ!チームとしての実力を高める以前にこいつはモンスターを前に動けないような腰抜けだ!」

「推薦状には、約50名の盗賊を相手に立ち向かったとあります!しかも、その戦闘では味方、盗賊双方に死傷者を出さ無かったそうです。しかも盗賊は全員捕縛し、取り逃がしたりするようなこともしていないとあります!これほどの功績を残せる人たちが資質に欠けるはずありません!」

「はんっ!そんなぶっ飛んだ推薦状を書いたのは誰だぁ?!いくら何でもその手柄は盛り過ぎだろ!現に見てみろ、この男は今怯えているだけじゃねぇか!到底信じられるような話じゃねぇな!」

「推薦者は、アレーシャ・クルスーム様です!先日戻られた際に盗賊を全員捕縛して戻られました!私たちの方でも確認を取りましたが、アレーシャ様の部隊の方々が証言されています!」

「はんっ!そんなの白昼夢でも見ただけじゃねぇのか!大体俺は*****!」

「********!」

「**********!」


 石田はひどく情けなかった。かつての世界にいた頃、異世界物のラノベやネット小説が好きだった。そこに登場する個性豊かなキャラクターたちはこういった状況も格好良く、あるいは奇想天外な方法で切り抜けた。そして今まさに目の前に同じ状況があるのだが・・・怯えて動けない自分がいた。しかも、出会って間もないナスルという人物が石田をかばってくれているのに、情けない姿をさらすしかない自分・・・ひどく嫌な気持ちにさせられる。目の前で起こっている問題を解決する方法を考えるべきなのに、自分の情けなさにばかり気が行って全く頭の回らない自分がさらに情けない。


 実はこの時、石田はパニックを起こしていた。盗賊の砦で自身にフィールドを付与して以来、更新していなかった。このためフィールドの効果が既に切れていて、精神安定効果が全く現れていないためパニックを起こしてしまっていたのだ。

 石田は情けない自分ということにばかり気が行ってしまい、その他の情報を取得したり、思い出したりすることができなくなっていた。本来なら周辺の状況を観察したり、フィールド付与で精神を安定化させられるという能力を思い出したりするべきなのだが、それができなくなるのがパニックだ。何もできない自分を意識して焦り、考えようと努力するも思い浮かぶのは自分の情けなさだけ。頭は全く働かないくせに、体は危機に対応しようと筋肉を硬直させて攻撃に備え始める。それが外から見ると怯えているというように見えている・・・ということを認識しさらに落ち込む・・・。思考が負の無限ループに陥ってしまっていた。


「大丈夫。ボク達は司令についていくよ」(京藤)


 京藤が石田を後ろから抱きしめ耳元でささやいた。


「司令、フィールドを自分に張って?」


 石田は京藤の指示に従い、フィールドを自分に付与する。一気に精神安定の効果が働き、石田の思考が正常に回り始める。それと同時に周囲の状況が見えるようになる。

 まずカウンター越しに対峙していたはずのナスルがカウンターのこちら側まで出てきていて石田を隠すように立っている。ファティが激高しかかっており、瑞山と間宮が後ろから肩を掴んで抑えている。瑞山と間宮はファティが飛び出さないように抑えつつも鋭い目つきで例の男をにらんでいて、何ならすぐにでも手を放して自身が拳銃を抜きそうな雰囲気を漂わせていた。そして湯川と古井はそれぞれ構えてこそいなかったがAA-12とMP7を手元に用意していた。2人とも顔からは表情が抜け落ちている。最後にナイチンゲールは・・・いい笑顔で笑って合掌している?・・・いやその手をこすり合わせている。というか、合掌ではなくその手にはしっかりとAEDが握られていて・・・こすり合わせるのはゲーム時代のAEDをチャージするためのモーションだった!


(いや!それダメだから!生きた相手にならゼロ距離で確殺しちゃう武器に変わるから!)


 パニックで周囲の状況がつかめていなかったことがよくわかる。ここまで状況が変わる動きがあったのに、そのことを石田は一切認識できていなかったのだ。

 フィールドの効果のおかげで思考できるようになる。この状況を切り抜けるためにいろいろと頭を回す。しかし、当然情けない自分というのは消すことのできない事実でもある。


(だから、せめて「付いていく」と言ってくれた京藤さんたちのためにも、これから少しずつでも変わらないと!)


 そう考えて・・・悪く言えば先送りだが、今後の課題としてこの問題を脇にどける。そうすることで石田の思考は状況を切り抜けるための思考に集中し始める。


(まずは、この迷惑なオッサンをどうにかしないとな。どうする?・・・思いつかない。・・・やっぱりここは陳腐な方法だけど、実力を見せつけるしかないか・・・お?そういえばちょっと待てよ?このオッサンのランクが高いなら・・・ファティの実力を証明できないか?)


 名案を思い付いた!と意気込んで動き出そうとする。椅子に座った状態で前に体重を動かして立ち上がろうとするが、その動きを後ろから阻害するものがあった。そう、石田には背後から京藤が抱き着いていたのだった。ぐっと動いたことでその存在を認識した石田はあることに気づく。そう背中に二つ柔らかな感触があることと、背後から香ってくるいい香りに。


(**********!)


 石田が声にならない悲鳴を頭の中であげ、さきほどとは別の意味でパニックになる。少しの間鼻の下を伸ばしながら心を落ち着けた後、抱きしめてくれている手をそっと叩く。


「京藤さん。ありがとう。落ち着いたよ」

「うん。よかった」


 最後にギュッと力を込めた後、京藤さんは離れた。京藤が離れた次の瞬間ゾッとした感触を覚えて、殺気を感じた方向を向くと京藤を除くユニットとファティが石田を見ていた。全員不愉快そうな顔をしている。


「な・・・なに?」

「いえ~・・・なにも~?(#^ω^)」(ナイチンゲール)

「えぇ。何も(#^ω^)」(古井)

「司令、いま鼻の下伸ばしてたっしょ?(#^ω^)」(湯川)

「あっ・・・はい」(石田)


 という具合だった。


「おい!てめぇ!何イチャイチャしてやがんだ!」


 ナスルを押しのけて例の男が石田に怒鳴る。石田がその男の顔を見ると、先ほどの作った怒り顔ではなく、本気で怒っているようだった。


(ナスルさんと言い合っているうちに、本気になってしまったのか?)


 フィールドの効果は絶大だった。強面で迫られ怒声をあげられているにも関わらず、そんなことを考えるだけの余裕が生まれていた。


(ふ~ん。そういえば、規約・・・だっけ?で、冒険者同士の私闘を禁止するってやつがあったよな。だったらこいつが暴力的なことに訴えることはできないわけで、怯える必要なくね?)


 石田は椅子から立ち上がる。先ほどのおびえた様子から、全く怖がらなくなった石田に何かを感じたのか、その男は身構える。


(大体、フィールドがあれば殺されたとしても領の館へ強制転移させられるわけで・・・現状こいつにどうにかされる危険はほとんどないわけだ。じゃあ、ほんとなんでこいつに怯えてたんだろう?)


 精神は肉体に影響を受ける。肉体もまた精神に影響を受ける。トラックで車酔いにやられた石田の体は意外と疲れていたのだ。しかも、その時全くの役立たずだったことも精神的に影響している。つまり疲れとストレスがたまった状態だったため、大きく精神を揺さぶられてしまったのだ。

 人は頭と体を切り離して考えがちだがそれは違う。例えば、お腹が空けばイライラしやすくなったり、疲れてくると面倒な作業を嫌がるようになったりしたことはないだろうか。そう肉体的な余裕と精神的な余裕には関係がある。一週間睡眠時間を削りながら仕上げた仕事を上司に叱られるのと、定時で上がりながら一週間かけて仕上げた仕事を上司に叱られるのが同じであるはずがない。明らかに前者の上司は離職者を増やすことだろう。

 さて、肉体的余裕が精神的余裕と関係があるなら・・・肉体的な余裕を増やせば精神的な余裕も増えるのだろうか?実はこの関係性についてはハッキリとしていない。しかし、実験によって運動をすることで脳内のホルモンバランスを整える(ストレスホルモンを減らす)ことが判明している。また、心拍数の上昇に耐性をつける(慣れさせる)ことでストレスホルモンの分泌量を減らせるということが指摘されている。そして実際うつ病の治療として運動療法というのが存在する。


 閑話休題。まぁ、要約すると石田は運動不足によって疲れに対する耐性が低く、疲れた状態で強いストレスを受けてパニックを引き起こしたという訳だ。


 石田はその男から視線を外し、ナスルに向かって話しかける。


「ナスルさん。こちらの方はどなたですか?」

「えーと・・・Bランクの冒険者でして・・・チーム『ワイルダーネス』のリーダー、アノーアさんです・・・」

「Bランクですか・・・」


(確かフェーネさんもBランクだったな)


 ナスルの紹介を受けて、その男が胸を張って言い放った。


「おうよ!俺らはお前らと違って推薦をもらわずBランクまで上り詰めた。いわば、たたき上げの実力派だ。お前のような奴がいきなりDランクとか、悪い冗談だぜ」


(なるほど・・・。地道な努力の末に、今のランクを手に入れたわけだ。そりゃ、大した苦労もせずに評価が得られる推薦は目の敵にするわな)


 ナスルがさらに解説を加える。


「しかも、ワイルダーネスは新人の育成にも力を貸してくださっているチームでして・・・その、冒険者の方々の頼れる親分的な方なんです」


(わーお!そりゃ頑張っている新人を教えているならなおの事、その人たちを飛び越える俺たちが許せなくなるわな)


「へっ!よせやい!今褒めたところでこいつらの事を認めるつもりはねぇ!」


 と口では言いながらも、やや顔が緩みかけている。


(なんか・・・話を聞くと、彼らに実力を見せつけてって方法をとるのが悪く思えてくるな・・・。いや!でも実力を知ってもらうことは必要だ!それに他の方法も思いつかない!やるしかない)


 覚悟を決めて石田は話す。


「なるほど。新人の教育なんかもされているんですね?ということは当然訓練とかもなさるんですよね?」

「そうだな。・・・なんだ?お前も訓練希望か?へへっ。ぶちのめしてやるぜ?」


 アノーアは凶悪な顔でにらみつけ、片手でもう片手を握り、指をボキボキ鳴らす。


「そうですね。お願いします」


 その威圧をサラッと流し石田が即答する。これにはナスルが驚く。


「なっ!イシダさん!アノーアさんはチームでの戦闘を推奨していますけど・・・個人でもこの冒険者組合の中で10本の指に入る実力者ですよ!?無理です!」(ナスル)

「ほぅ・・・何があったか知らんが、肝が据わったな。兄ちゃん」

「アノーアさん!イシダさんも!冒険者間の私闘は禁止されています!冒険者協定を守れないということなら相応の処分を覚悟してください!」(ナスル)


 石田はナスルに向き、その肩を叩きながら落ち着くように促す。その際、軽くフィールドをナスルに付与して落ち着かせる。


「ナスルさん。落ち着いてください。私に考えがあります。悪いようにはなりませんよ」

「ですが・・・」

「チーム『ワイルダーネス』に指名依頼を出したいんですができますか?」

「・・・できます」

「良かった。ではチーム『ワイルダーネス』に実戦形式の訓練をお願いする依頼を作成してください。成功報酬は・・・」


 石田は金貨の入った袋を取り出し、そこから10枚の金貨を取り出しカウンターに置いた。これまで静かに事を見守っていた冒険者たちがざわつく。


「金貨10枚。成功条件は訓練生に降参させること。逆に失敗条件は訓練生を死なせることと、ワイルダーネスが降参することとします」

「ちょっと待てや兄ちゃん!俺一人じゃなくってチームに対して挑むってか?!バカか?」


 石田はアノーアの言葉を無視して続ける。


「そしてこの訓練依頼を失敗させる。つまりBランク冒険者に勝つことで、ファティの試験としてもらえますか?」

「ちょっと待ってください!百歩譲ってその訓練依頼は認めましょう。しかし、ファティさんの試験ということは・・・まさかファティさん1人で相手させるってことですか?!」

「そのつもりです」

「ダメです。それなら認められません。チームとして戦ってください。ですからその依頼は・・・訓練を依頼するのはファティさんを含むイシダさんのチームという事にしてください!」

「・・・・・・・・・わかりました。ではチームとして依頼を出します」

「・・・はぁ・・・承りました。依頼書を作成するので少々お待ちください」


 ナスルがカウンターの奥に入っていき紙を用意する。


「はっ!思い切ったことをしたな!その金貨10枚。俺たちが勝って受け取っても文句言うなよ!」

「言いません。あなたたちこそ、依頼を受けてくださいよ」

「抜かせ!」


 石田とアノーアが言い合っている間にナスルが依頼用紙を持ってやってきた。そこにボールペンで書き出していく。


「さすがに今日は既に時間が遅いので、訓練日は明日でよろしいですか?」

「はい」

「あぁ」

「では。訓練日は明日。訓練は・・・正午からスタートということで」

「はい」

「あぁ」

「場所は、この組合の裏の広場でいいですか?」

「俺は問題ない」

「いえ、それだと狭いです。ルブアの門を出て、広々としたところでお願いしたい」

「・・・とのことですが、アノーアさんはいかがですか?」

「あぁ。いいぜ。問題ない」

「では、場所はルブア郊外ということで」

「続いて、依頼の条件です。訓練は実戦様式で行うこと。殺しは固く禁止します。そして、依頼が成功すれば報酬はチーム『ワイルダーネス』に、失敗した場合は依頼主に返金されることとする。これでよろしいですか?」

「はい」

「あぁ」

「最後に、この依頼は冒険者組合の監視のもと行うこと。これを両者ともに承諾しますか?」

「はい」

「あぁ」


 ナスルが用紙に記入していく。


「では、イシダさん。こちらの依頼書にサインをお願いします」


 石田はペンを受け取り、サインする。


「ナスルさん。依頼料はいくらですか?」

「・・・金貨1枚です」


(ワオ!意外と高い!)


 石田は金貨を1枚取り出してナスルに手渡す。ナスルはそれを受け取り、イルスに渡して領収を書くように指示を飛ばした。そして続いて新たに紙を取り出し書き込んでいく。


「では、アノーアさん。こちらがチーム『ワイルダーネス』を指名した依頼になります。受注なさいますか?」


 アノーアは差し出された紙を受け取り、じっくりと確認する。その間にイルスが領収を書き上げて石田に手渡した。


「あぁ。この依頼を受けるぜ」


 ナスルが机の下から分厚いリングバインダーを取り出し開く。そしてボールペンを取り出して依頼番号と受注日を書き込む。


「こちらに参加される皆さんの名前をお願いします」


 そういってボールペンを差し出した。これを受けて石田達から少し離れたところで伺っていた、アノーアと似た装備をした4人もカウンターにやってきた。そしてアノーアを含めた5人が名前をそれぞれ書き込んだ。


「はい。これで依頼の受付と、受注作業は終了です。参加される皆さんは明日の昼前にこの冒険者組合にお集まりください。そして組合員とともに訓練場所へと移動します。決して先走って依頼をこなされないようにお願いします」

「へっ。大丈夫だ。プロとしてそんなことはしねぇよ。おい、兄ちゃん!怖くなったからって逃げ出すなよ!」

「そんなことはしない」

「ハッ!その言葉だけは信じるぜ!じゃあな」


 そういってアノーア達は建物から出て行った。アノーア達が去ると同時に建物の中が騒がしくなる。多くの者がどっちが勝つかを予想している。アノーア達が出て行ったことで湯川達は武器をしまった。

 作業を終えたナスルが椅子に深々と腰掛ため息をついた。


「・・・はぁ~~~~~・・・・・・・・・・・」

「はは。ごめんなさい。大変なことを頼んでしまいましたね」

「はぁ~・・・本当ですよ・・・」


 石田としてはもう一つの案件を話したかったが、それは大変そうなので少し話題をそらす。


「しかし、今日は冒険者の方が多いですね」

「・・・えぇ。つい昨日、年に2回訪れる大規模な隊商が到着したんですよ。その隊商はこの街に10日間程度滞在するんです。今日ここにきている冒険者のほとんどは、その隊商の護衛をしている冒険者たちです。休みの間の10日間は仕事が無いので所得が無いんだそうで、ここでの依頼をこなしてくれるんですよ」

「あー・・・大変ですね」

「えぇ。そうなんです。依頼をこなす冒険者が多いのに加えて隊商の方の買い付けもあるので・・・組合長が対象のトップのところに商談に行っててその分の仕事が私に回ってきているのでもう本当にてんやわんやですよ・・・」

「ははは・・・」

「それで、イシダさん。試験の方はどうなっているんですか?」


 せっかく石田が話題をずらしたのだが、逆にナスルの方から質問させる形になってしまった。


「え~と・・・その確認したいことがあるんですが・・・いいですか・・・?」

「・・・・・・・・・なんだか・・・とても嫌な予感がするんですが・・・?」

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