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少し落ち着いてきたので投稿。
多分もう少しの間、投稿間隔が乱れると思います。
ロックリザードを材津達に預けた後、時刻は既に18時を過ぎた頃だった。太陽は地平の先に沈んだが、まだ西の空が明るい・・・そんな時間だった。
石田はタブレットの画面に表示された時刻を見ながらつぶやく。
「18時3分・・・これじゃあ、もうルブアの門は閉じられたかな?」
「あー・・・かもしれないね」
「・・・アディ達には悪いけど、ルブア内にゲートを開こうか?」
税金を回避しようと姑息なことを石田は提案する。その意図は京藤にも伝わったようだ。ただ、やはりそれはよろしい行為ではないから・・・京藤は苦笑いしながら返した。
「・・・まぁ、一応先に門を確認してからにした方がいいんじゃないかい?」
「・・・うん。そうしようか」
京藤は制御室の方へ向かった。石田はタブレットを操作して間宮に連絡を入れる。
「こちら石田。間宮さん今時間ありますか?」
少し間を開けてから返答があった。
『はい。こちら間宮。大丈夫です。どうされました?』
「いや、ちょっとルブアに行ってタミーナさんたちの状況を確認してこようと思ってて、夕飯の準備状況はどうかなって」
『夕飯は先ほど建子ちゃんたちが帰ってきて今ちょうど調理に取り掛かったところです。そうですね19時には調理を終えられると思います』
「了解しました。じゃあ、それぐらいに帰ってくるようにします。あと、ユニットが2人開放されたことは知ってる?」
『はい。こちらに戻ってきたときイクちゃんに聞きました。ちゃんと夕飯の人数に含んでいますよ』
「良かった。・・・えーと・・・あとは・・・。そうだ、間宮さんはお菓子も作れる?」
『・・・えっ!?作っていいんですか!?』
間宮が若干先を読んで先回りして尋ねてきた。
「・・・あー、うん。お願いできる?」
『もちろんです!・・・意外です。こういった事には厳しいのかと思ってました』
「はは。浦風さんにせがまれてからね・・・」
とここで石田の目の前でゲートが開いた。制御室から京藤が出て来て石田の方へ歩いてくる。
『フフ。それは納得です。ところでそれでしたらちょっとこの調理室では難しいものもあるのでまた後程ご相談させてください』
「了解。じゃあ、とりあえず私たちはルブアに行ってくる」
『承知しました。オーバー』
「オーバー」
京藤が石田の近くにやってきた。
「お菓子作れるって?」
「あぁ、可能だって・・・。ところで、俺ってお菓子作りを禁止するような司令官に見える?」
「うん。この領には余暇施設もそういったものを作る工場も存在してないからね。資源を完全に軍事へ割り振ってしまっているから、そんな印象があるね」
「・・・マジかぁ・・・」
先ほどの間宮の「意外です」や今回の間髪を置かない肯定によって石田は若干傷ついた。しかしそれは仕方がない。この領はそもそも石田がFPSモードを楽しむために作り上げたものだ。だから逆にそれ以外へは一切資源を割いていない。つまり京藤の指摘はまさにその通りだったのだ。
(・・・うん。そうだよな。ゲームだったから、本当にそういう資源の使い方をしてきたんだ。あの頃は自分が幸せになるためにそうしてたんだ。ユニットたちの幸せなんてパラメーターは・・・表示が無かったとはいえ、考えていなかった。でも今からはそれじゃいけないんだな・・・。これは領の機能を取り戻すだけじゃなくて、この子たちが暮らしやすいようにもしていかないといけないな・・・。まずは間宮さんが言う調理室からかな)
領をより良いものにする決意を改めて抱いた石田であった。
石田と京藤は開かれたゲートを超える。そこはルブアの外壁が見えていた。周囲を見回すと本日出発したルブアの門から北西に80m程度離れた場所に出た様だった。門の方を見るとまだ扉は閉じられておらず入れそうな様子だった。
「お。まだ大丈夫っぽいな」
「だね。これならルブア内でコソコソしなくて済むね」
(なるほど。京藤さんは規則違反というのに抵抗が強いタイプか・・・)
「あぁ。とりあえず行こうか」
天幕を出してゲートを閉じて、2人でルブアへ向かって歩く。門にたどり着くとちょうどアディが出迎えてくれた。
「おっ!お帰り。早いな。・・・あれ?トラックやほかの人はどうした?」
「おう。ただいま。いや、えーと、外で野営の準備している」
「あ?大丈夫か、それ」
「あぁ。大丈夫だ。俺たちもちょっとネムレの人らにちょっと今日は外で生活するって伝えに来ただけだ」
「あぁ?そんなことのためにか・・・。言っとくけどここ通るなら税金を納める必要があるぞ?」
「あぁ。まぁ、それは大丈夫だ」
「ふ~ん・・・あと、今から門を閉じるから、夜間はここ通れないがいいか?」
「・・・そうなのか。いや、まぁ大丈夫だ」
「・・・」
アディは怪訝な顔をしていたが何も言わなかった。アディに税を修めて門を通る。どうやら門を閉じるぎりぎりのタイミングだったようで石田達が門をくぐると門は閉じられた。
石田と京藤はそのままネムレへと移動した。ネムレにつくと既に夕飯を食べに客が訪れていた。1階のレストランにはお客さんが入り座席の8割は埋まっている状況だった。
(結構繁盛しているんだな、この店)
レストランの座席を見渡していると立ち上がってこちらに手を振る人物がいた。ファティだった。ファティの周りにはタミーナ達がいた。石田は彼女らの机へと移動する。
「イシダ!遅かったのぅ!」
「あぁ。ただいま」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
ターニャとラエレンが席を立ち、壁際に置かれた椅子を持って帰ってきた。2人は机の端にその椅子を置いた。
「イシダ様、キョウドウ様どうぞ」
「同じくどぞ~」
「「ありがとう」」
石田と京藤はお礼を述べてそれぞれ椅子に座った。ターニャとラエレンも自分の席に戻り食事を再開した。逆にファティが席を立ち石田の隣にやってきて話しかけた。
「のぅ、イシダ。そのぉ・・・お願いがあるのじゃ」
「ん?」
「吾輩からするとこの量の食事では間食にもならんのじゃが・・・・」
ファティは現在人型の体をしているが、元々20m級のドラゴンだ。その体からすると人間の食事はとても少ないのだろう。
「もともと吾輩たちは一度食事をとれば1週間程度は食べんでももつんじゃがじゃが・・・」
「へぇ?」
実際かつての世界でもライオンなどは週に1回程度の食事でも生きていける。というのも一度に大量に食事をとること、ゆっくりと消化吸収を行うことによって可能としていたそうだ。(ライオンも「最低週に1回」というだけで1日に2回連続で狩りを成功させ食事をとることも普通にあるがそれは別の話)
「このように少ない量をちょくちょくと食べると・・・どうも腹が空いていかんのじゃ」
(・・・あぁ。間食を食べるとやたらと小腹が空くみたいな感じか?)
「もっと大量の食事を用意してもらうか・・・狩りに行かせてほしいのじゃ」
「分かった・・・。でも、今日はこの街の扉が閉まっているから明日になるけどいい?」
「う~・・・それはちとまずい。ここルブアに来てから我慢をしておるが・・・このままでは空腹に負けてそこらにおる人間たちを食べてしまいそうじゃ」
この発言に石田と京藤はぎょっとする。京藤は席を立ちファティの側による。石田も周囲に聞かれてしまうとファティが危険人物だと認識されかねないので顔を近づける。京藤が声が机の側に響かないように手を口元に添えて小声で話しかける。
「あの・・・ファティって人間も食べるの?!」
「・・・正直骨ばって肉が少なく不味いから積極的に狩ったりはせんが、昔襲ってきた愚か者を食べたことはあるのぅ」
ファティの言葉が周囲の人間に理解できなくて助かった。ファティは特に意識せずに普通の声量で話す。もし周囲の人間と同じ言葉でこの発言をされたら間違いなく危険人物だ。
だが・・・ここにバカが一人いた。
「・・・え?ファティ・・・ちなみにその、それはどんな味なんだ?」
「ちょっと、司令!それはいくら・・・」
「そうじゃのぉ。やや塩味が効いているのが特徴的で、脂もやや多めじゃの。ただ、吾輩たち(ドラゴン)からすれば量が少なく、骨が多いからそもそも食べずらいのぅ。腹を満たすほど食べるなら相当な人数を食べねばならぬから正直手間と食事量が見合わん。加えて味は好みではないしのぅ。まだまだ美味い獲物はほかにおるから、好んで食べようとは考えんのぅ」
「「・・・」」
なかなか本格的な返答が返ってきて2人は固まる。
さて、人間の肉は動物と比べるとやや高めの塩分濃度であるとされている(文献資料無し)。そして人間の体脂肪率は男性10~25%、女性20~35%程度が健康とされている。これに対して食用にする豚は14~18%、牛は25~30%といった具合になっている。そう、脂肪率的にはちょうどおいしい感じなのだ。
実際に人が美味しいのかは不明だが(文献資料無いからね)・・・人の味を覚える肉食獣は世の中意外といる。熊・トラ・ヒョウなどは有名だろう。どうも特徴的な味をしている上、狩りのリスクが低いため一度人を食べると好んで人を襲うようになるようだ(ちなみに、人の味を覚えたヒョウは好んで人間の子供を狙うようになるそうだ。狩りで反撃されるリスクを下げるために対象の年齢まで観察するらしい。・・・そう、将来を担う子供から襲われるのだ)。さらに衝撃的なことに人の味を覚えた個体が群れに帰り(或いは家族を作り)、群れに(複数の個体に)人の味が広まってしまうことがある。こうなるとその群れの周辺の人間社会は壊滅的な打撃を受ける。だから、これを防ぐため人を食べた肉食獣は必ず人の手で殺さなくてはならない。人と動物が共生するためにも。
そう、人を食べたということから「ファティを殺すべき!」となるのだが、ありがたいことにファティは人を好まないという。その理由として手間がかかると話している。
実際20mのドラゴンに対して1.6mの人間はどのように見えるのだろうか。1.6mの人間から見る小動物を仮定して比の式を立ててみる。
ドラゴンから見た人間の比は人間から見た小動物の比
⇓
(ドラゴン):(人間) = (人間):(小動物)
⇓
20 : 1.6 = 1.6 : X
を解けばいい。比の式はイコールを中心として (外側) × (外側) = (内側) × (内側) と変形させて解けばいいので
20 × X = 1.6 × 1.6
⇓
X = 2.56 ÷ 20
⇓
X = 0.128
のようになる。つまり、1.6mの身長の人が12.8cmの動物を眺める感じだ。これ位の大きさの身近な動物となると・・・ネズミだ。あまり想像したくないが、人がネズミを食べるなら・・・確かに捕まえる手間と、食事量が釣り合わないように思える。
「・・・ゴホン・・・うん。とりあえず、それは良くないな」
石田の余計な好奇心から始まった話であったが、さすがにこの話題がまずいことに理解が至り急ぎ話題を変える。
「え~と・・・ファティはそんなにお腹が空いているのか?」
「・・・正直、もう眩暈がするほどに腹が減っておる・・・」
「え?大丈夫!?・・・司令、とりあえず料理を沢山用意してもらった方がいいんじゃないかな?」
「そうしよう」
そこにちょうど良いタイミングでジュナイドが厨房から出てきて話しかけてきた。
「あれ?兄ちゃん連れの嬢ちゃん達はどしたんだ?」
石田はファティからひとまず視線を外しジュナイドの方へ振り向く。
「今日はちょっと狩りがまだ終わってなくてですね、ちょっとルブアの外で野営することになりまして・・・」
「あれま・・・じゃあ、全員分夕飯用意しちまったが・・・要らなかったのか」
「あ~・・・すいません。連絡が遅くなってしまって」
「あぁ。まぁ、今度からは早めに教えてくれや。仕込みは15時ぐらいから始めるからそれまでに頼むわ」
「分かりました」
「どうする?兄ちゃんら2人だけでも食ってくか?」
「え~と・・・」
(う~ん・・・でも間宮さんたちが用意してくれているからなぁ・・・。ってそうだよ!ファティに食べてもらえばいいじゃないか!)
「えっと、全員分ここに出してもらっていいですか?」
「ん?誰か食べるのか?」
「はい。このファティって子が食べますから、お願いします」
ジュナイドはファティの方を向く。ジュナイドはかつて軍の輜重隊で働いていただけあって大き目な体をしている。これに対してファティは現在中学~高校生程度の見た目の女の子に変身している。身長は石田より低く・・・1.5m程だろう。4枚の羽と尻尾があり人でないことは一目でわかるが、それにしても体が小さいこともあり、ジュナイドは心配そうな顔をする。
「それはいいが・・・7人分だぞ?このー・・・竜人族?の嬢ちゃんはそんな量を食べきれるのか?」
ドラゴンの体からしたら7人前であっても足りないと思われたが一応確認をとる。石田はファティに視線を合わせる。
「ファティ?これ7人分ほど追加で食べれる?」
「ん?正直もっと食べたいところじゃが・・・食べれば多少の足しにはなるじゃろ。まぁ、明日の朝までならおそらく持つと思うのじゃ」
「分かった」
ファティからジュナイドに視線を戻す。
「はい。7人分出してもらっても大丈夫です・・・というかこの子それじゃ足りないって言ってます」
ジュナイドにファティの話を伝えると驚いた顔をした。
「はぁ~・・・竜人族のお客さんは初めてだが、たくさん食べる種族なんだな」
「「・・・」」
(いや、この子は本物のドラゴンです。・・・あと、竜人族の皆さんごめんなさい)
ジュナイドの勘違いを訂正したいが、それを話すと騒ぎが起きそうなので石田は心の中で竜人族に謝った。そして石田は、もしものことがあるかもしれないと思い金貨を1枚取り出す。そしてそれをジュナイドに渡した。
「あと、ジュナイドさん。これで彼女の適当に料理を見繕ってください」
「うえぇっ!?いや、兄ちゃん・・・金貨はやりすぎだ。残ってる食材全部使っても金貨1枚分の料理は作れねぇ・・・ってかそんなに食材残ってねぇからな。ちょっと待ってろ」
ジュナイドは一度カウンターの奥に戻り何かを取り出して石田の元へ戻ってきた。石田に手を差し出し大銀貨5枚を渡した。
「ほれ。これはお釣りだ。残った食材全部使って料理作ったとしたらこれ位だよ。その嬢ちゃんが満足するか食材が尽きるまで料理作ってやるぜ」
ジュナイドは、たくさん食べるお客さんが嬉しいのだろう。
「おっしゃ、じゃあ準備するぜ!」
笑顔で宣言して厨房に戻っていった。
(う~ん・・・そうか・・・金貨は多いのか・・・やっぱり、この世界の貨幣基準を知らないとだめだな)
その後、フォックス族に作成してもらった表を受け取りとタミーナさんの売り上げを聞いた。そして商品を補充して領へ戻った。
タミーナさんはこの日もボールペンはすべて売り切ったそうだ。さらに先日は売れ残ったコピー用紙も売り切ったそうだ。ボールペンを100本・紙を1000枚(2セット)ほど卸した。
領へ戻るのはネムレの裏庭にゲートを開いてから帰還した。この時、ネムレの裏庭の位置情報が手に入ったので、翌日からはピンポイントでゲートを開けそうだ。




