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コーヒーブレイクは和やかに行われた。最初の話題は、この砂砂漠の北側について教えてもらった。そして私たち4人は高いランクの冒険者なのか?という話になる。これは否定しておいた。というのもフォックス族の人たちに話した内容とズレてしまうからね。フォックス族と同じ内容で話をしておいた。ただ、それならなぜ盗賊を倒すだけの力があるのか?という話になって、慌てて「道場・・・冒険者を育てる訓練所を運営したことがある」という話をでっちあげてしまった。後で京藤さんに謝っておこう。・・・ってか、少女3人の緊張をほぐすためにって思ってたのにほとんど話が私のほうに集中してしまった。失敗したと後悔している。
さて、そんなコーヒーブレイクであったが・・・昼食ができたということでフォックス族の人が呼びに来たことで終わった。このため一度中断して昼食をとることに。軍のほうは携帯食料を持たせてあるので要らないという話だった。しかし話の流れでアレーシャさんとヒシャムさんは食事をご一緒にすることになった。
そしてそこでやはりガパティが声を上げてフォックス族の人たちが唱和した。
「神とイシダ様に、食事を授けてくださったこと感謝いたします!」
「「「「感謝します!」」」」
初めて見るアレーシャさんとヒシャムさんは驚いていた。ヒシャムさんが問うてきた。
「神と同列に感謝されるとは・・・そんなに凄いことをされたのですか?」
「え・・・いえ。先ほど話したように、彼らが食べ物や飲み物に困っているときにであったものですから。その時食べ物を分けてあげたのですごく感謝されているってだけかと・・・」
「・・・・・・そうですか」
ヒシャムさんはどこか納得がいっていない顔をしていた。しかしそれ以上聞いてくることもなかったので食事をとることにした。
食事は朝とほぼ同じで雑炊だった。この雑炊のコメは領から出したもので白米の缶を開けていれたものだ。そこにこの砦に保管されていた野菜や肉類を入れて煮たてたもの。といっても葉野菜はなく保存のきく根野菜が中心だし肉は干し肉だ。干し肉から塩が出て入るけど・・・そんなに量を入れていないのであまり塩気が強いわけじゃない。まずくはないけど・・・正直2回連続するとちょっと遠慮したくなる。でもフォックス族の人たちが作ってくれたものだしと思って顔に出さずに食べる。
食事がほぼ終わったころそれは突然鳴り響いた。
―カンカンカンカン!
見張り台から金属をたたく音が聞こえてきた。短い間隔でとにかく回数叩くこの叩き方はおそらく警報なのだろう。この音を聞いて、アレーシャさんが見張り台のもとに走った。
「何事か!」
「この砦に向かってくる土煙を確認!ものすごい速さです!」
「何が向かってきている!?」
「分かりません!おそらく大型のモンスターだと思われます!」
それと同時にヒシャムさんが兵を集めに走っている。
「移送作業をしているものはそのまま続行しろ!手の空いているものは砦に集合せよ!」
「「「「は!」」」」
「おい!そこのお前!洞穴の中で作業している者たちへ伝えに走れ!」
「はい!」
(おぉ!さすがだな。しっかりと部下を掌握している。えーと・・・状況を確認することと動きを指示すること・・・だな?)
フォックス族の人たちは突然の音に驚いているがじっとこちらを見てきている。指示を待ってくれているのだろう。
古井さんに連絡を取る。彼女には軍が近づいてきたときからずっとパントムの出撃準備を整え待機してくれている。
「古井さん出撃お願いします」
『こちら古井。了解』
「現在砦に接近中の土煙があり、砦内が警戒体制に移行しました。砦に接近する土煙について監視、できればその正体をつかんでください」
『コピー』
「京藤さん、ナイチンゲールさん召喚します。それぞれ戦闘準備を整えてください」
『了解!』
「了解!」
ナイチンゲールさんは近くにいるのでそのまま返事が返ってくる。京藤さんは現在領のほうで作業をしてくれているのでタブレットからの返事になる。
タブレットを取り出し、召喚を指示した。隣にいたナイチンゲールさんが一瞬で消える。
タミーナさんとターニャさんが驚き固まる。フォックス族の人たちもざわついた。
「皆さん!現在状況の把握に向けて動いています。何があるかわかりません。荷物を持ちこの調理場に集合し動かないようにお願いします!」
ガパティさんに向いて。
「ガパティさん。フォックス族の方々の点呼をお願いします。全員がいるか今一度、確認してください」
「承知しました」
タミーナさんに向いて。
「タミーナさん。ターニャさんと一緒に、この3人の面倒もお願いします」
「はい!」
「ラエレン、ナーダ、ザリファ。このタミーナさんの指示に従いなさい」
「「「はい」」」
(指示はこんな感じでいいか?・・・じゃあ、あとは司令天幕で状況を確認だな)
「ガパティさん!天幕の方へ行っています。点呼が終わりましたら報告しに来てください!」
「はい!」
司令天幕に走る。天幕に着くとちょうど連絡が入った。
『こちら古井、離陸します』
「了解」
体からガクッと力が抜ける。レベルが上がったためか最初に比べると楽になったが、それでも以前それなりに大きい。
『監視活動を開始します。可視光カメラの映像を転送します』
「了解」
電子スクリーンの電源を入れると画面には地図が表示される。その上に画面全体の1/5ほどのサイズで新しいウィンドウが開いてそこにカメラ映像が映される。カメラ映像は見当違いなところを向いているのか砂煙は映っていない。
体からわずかに力が抜ける。そして背後に人の気配が現れた。
「あ、司令!京藤、現地に到着しました」
「同じくナイチンゲール、到着しました」
天幕内に京藤さんとナイチンゲールさんが現れた。2人とも砂漠迷彩の戦闘服でヘルメットをかぶっている。二人のほうに向きなおり現状を説明する。
「現在砦に向かって、砂煙が接近している。監視の人の話では大型のモンスターの可能性があるとのこと。万が一に備えて警戒態勢に入っています」
「了解」
「了解・・・でも大型のモンスターって、ファティですかね?」
「ボクもそう思う。朝までに帰るって言ってたんだよね?遅れたから急いでいるんじゃない?」
とここですっかりと忘れていた存在を思い出した。
「あ・・・」
「・・・あれ?司令、もしかして忘れてた?」
「・・・え~、そんなわけ・・・ありそうですね~」
言われて気づいたため呆けた顔をしてしまっていた。それを見て二人ともジト目でこちらを見てくる。
「はぁ~・・・確かに警報音で慌てていたのかもだけど、司令が冷静さを欠いちゃだめだよ」
「そうですね。もっとどっかりと構えてもらえると、いいですね~」
「すいません・・・」
とここで古井さんから連絡があった。
『砂煙を確認しました。カメラをそちらに向けます』
「・・・あ、了解!」
電子スクリーンに向き直るとカメラ映像が動いていく。そして画面内に砂煙が現れた。その砂煙は移動しているようだった。そして砂煙の先端部分を見るとドラゴンが時折地上に飛び上がっていた。それは海で船に並走するイルカが時折ジャンプするような感じであった。そしてこの移動の仕方はトラックでついて走った時に見たそれだった。
『ファティさんっぽいですね・・・』
「・・・多分ファティだろうね」
「・・・状況終了ですかね~?」
(うわぁぁぁ・・・やっちまった・・・!!!)
2人に向き直り腰から曲げて頭を下げる。
「申し訳ないっ!」
とここで頭に衝撃があった。顔を上げてみると京藤さんがチョップしてきていた。
「コラっ。頭を下げない!今回のキミの判断は間違っていないよ!」
「へっ?」
「戦闘が発生してから出動では遅いんだよ。だから安全が確認できるまでは警戒を怠らないこと。今回はたぶんファティだったから何事もなかったってだけで、緊急時に警戒することは間違ってない」
「えぇ。だから胸を張ってくださればいいんですよ!」
目から鱗だった。二人とも特に非難するでもなくこちらを見ていた。
「え、はい。ありがとう」
「うん」
「はい」
とその時だった。
『司令!』
「うわ!?・・・どうしたの古井さん?」
『えと、これを見てください。砦からすでに部隊が出撃してしまっています・・・』
スクリーンに映っている景色が動いていく。すると画面には隊列を整えてドラゴンに突撃していく部隊があった。その集団は先ほど砦に入ってきた軍の一部であった。発見が遅れてしまったためこの部隊はすでに砦からそれなりに離れたところまで行ってしまっていた。
「凄いね。この短時間で態勢を整えてこの距離まで前進している」
「えぇ。しかもこの速さで隊列も乱れてません。この部隊は相当な練度ですね・・・」
と京藤さんとナイチンゲールさんが分析している。
タブレットを介した通信が届くかと考えタブレットに声尾をかけてみる。
「おーいファティ?聞こえるか?・・・ファティ?・・・聞こえるかー?」
ダメだ。連絡がつかない。
ファティの後ろについてここに来るときに話をしていた。アースドラゴンはここより北の獲物が多い地域に住んでいると。そしてこの辺は砂漠のため獲物が少ないのだそうだ。だからこのあたりに来るアースドラゴンはほぼいないとのことだった。だからあれはおそらくファティなのだろうと思われた。
「うわっ!まずい!・・・京藤さんナイチンゲールさん、この部隊の救援をお願い。ファティを止めに行ってください!」
「トラックを使っても?」
トラックは邪魔にならないよう天幕の裏手に置いてある。
「はい。OKです。私はこの軍の隊長に事情を説明しに行きます!」
「「了解!」」
3人で慌てて司令天幕を出る。と、出たところでガパティさんがやってきた。京藤さんとナイチンゲールさんはガパティさんのわきを抜けてゲートへ走っていった。イシダは足を止める。
「あ、イシダ様。点呼終わりました。全員います」
「ありがとうございます。えと、確認が取れました。近づいているのはドラゴン・・・おそらく先日会ったファティというドラゴンです。ただまだ確実にファティだと分かってないので、もうしばらくそのまま待機していてください」
「はい。わかりました。皆に伝えます」
「お願いします」
周囲を確認する。洞穴の出口に止められている檻付きの馬車の周辺でアレーシャさんが残った部隊を集めているのを発見する。そこに向かって走る。
「今時間稼ぎにヒシャムらが出ている。この時間を無駄にするな!収容作業急げ!」
と部隊に向かって指示を飛ばしているところに近づき、話かけた。
「すいません!」
「・・・イシダか。すまない、今は時間が無い」
「あれは多分うちの関係者です!」
「・・・は?」
「あのアースドラゴンは私の知り合いです。攻撃を止めてください」
「・・・ドラゴンが・・・知り合い?」
アレーシャさんは困惑した顔をしている。
―キュルキュル・・・ドドドドドドド...
京藤さんたちがトラックに乗り込みエンジンをかけたところだ。砦内に突然響いた音にアレーシャさんと近くにいた兵士らが驚く。
「何事!?」
「安心してください。私の道具が立てた音です」
天幕の裏からトラックが出てきた。
「おい、あれはなんだ!?」
「敵か!?」
兵士の何人かが剣を抜いた。
「お・・・落ち着いて!あれは私の道具です!」
なだめている間にトラックは部隊の前を通って門へと移動した。そのまま門を出ていった。
「・・・イシダ。あれはなんだ?!そしてドラゴンが知り合いとは?!」
「え~と・・・それはですね・・・」
と説明しようとしたところ、通信が入った。
『司令、ドラゴンと部隊が接触します』
「あ、了解」
(そういえば、この世界の人たちはどういう風に戦うんだろう・・・。彼らには申し訳ないが、その戦闘を見ておきたいな・・・)
「・・・今の声は?」
アレーシャさんに顔を近づけ小声で話しかけた。
「内密にしていただけますか?そしたらご説明します」
そういうと、アレーシャさんは一瞬ハッと驚き、そしてうなずいた。
「分かりました。約束しましょう」
「助かります。部隊の皆さんに待機命令を出してついてきてください」
「分かった」
アレーシャさんは部隊に向き直った。
「収容作業が終わったら、この場で待機だ!」
「え・・・しかし隊長・・・」
「事情は後で説明する。とにかく待機だ」
「・・・はい」
指示された兵士は納得できないながら指示に従った。イシダはそれを見て司令天幕に走った。




