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吾輩はアースドラゴンである。名はファティ。アースドラゴンは地中を移動するドラゴンじゃ。逆に一般的なドラゴンの空を飛ぶ能力を失ってしまっておる。同族は特にそのことを気にしておらんようじゃが、吾輩は空を飛びたいと願ってしまう。
最初の空を飛ぶアプローチはやはり空を飛ぶ者に倣って、翼をはばたかせてみることから始めておった。他のドラゴンと比較し固く大きく、そして重たい翼はやはり動かすのに苦労した。当然このアプローチは失敗する。翼を自在に動かせるようになったのは収穫じゃったが、空を飛べる気配はなかった。
アプローチを見直しておる時ひな鳥を見かけたのじゃ。親鳥は普通に飛ぶが、ひな鳥は翼をはばたいても空を飛ぶことはかなわんかった。地上で翼をはばたかせ練習する姿にシンパシーを感じたのじゃ。しばらく観察しておると、そのひな鳥は地上を走り勢いをつけ飛び立つことに成功した。なるほどと感心した。この観察から次は地上で勢いをつけることにした。通常の固い地盤であっても地中を移動することに支障はないのじゃが、最も移動しやすい砂砂漠で勢いをつけることにした。多少自由落下とは少し異なる軌道で落下できるようになったが・・・空を飛ぶまでは至らなかった。
砂漠で試行錯誤しておると、面白い奴らに出会った。その者たちは人間であった。面白いことに言葉が通じおった。色々話をしてみると新たな視点が得られた。
「自分でできないことを代わりに行うものを作る」
自分の翼で空を飛びたいと思っておった吾輩には驚きの考え方であった。最初は受け入れられなかったのじゃが、奴が持つ魔道具を見て考えさせられた。
まず、魔法で空を飛べたならそれは自力じゃといえるじゃろう。アースドラゴンは地中を移動する。その際、魔法を利用することで地中へと潜っておる。「魔法で空を飛ぶ」それを自力ではないというなら、アースドラゴンは地中に潜る力を持たないことになるじゃろう。だから魔法で空を飛んだならそれは自力と言って問題ないのじゃ。
次に魔法の発動を道具に頼ったならどうじゃろう。この点について、吾輩は結論が定まっていない。人間は「魔道具を使えるなら自力だ」といったことを言っておったが、納得がいかなかったのじゃ。しかし、その後の人間の行動を見て考えが揺らいでおる。
まずその人間はトラックとかいう荷物を運ぶ魔道具で吾輩の移動についてきた。それなりの速さを出したにもかかわらず、遅れることなくついてきた。次に、遠くを見渡す魔道具を使い遠くの敵を探し出した。さらに離れた位置にいる仲間と連絡を取る魔道具と夜を見渡す魔道具を巧みに使い人間50人を素早く倒してしまった。
確かにアースドラゴンの吾輩に言わせれば人間50人など工夫する必要もない相手なのじゃが、人間の・・・それもたった4人がそれをなしたのに驚いた。しかも見ておる限り戦闘をしたのはそのうちの2人だけではないか。吾輩がこの人間と同じように多数の同族を相手に立ち回れるのか・・・それを考えるとどれだけすごいことをしたかが想像できた。
吾輩は正直、ものすごい衝撃を受けた。魔道具を一つ二つならまだしも、この者たちはいくつも使いこなしておったのじゃ。
そして、あることが気になった。あの人間を50人やっつけた夜、吾輩は確かに聞いた。空を自由に駆けたあの轟音を立てる鳥の音を。音は小さく、夜のため見つけることはかなわなかったが、あの鳥の飛ぶ音じゃった。そしてこの音を聞いたときあることに気が付いた。その鳥が飛んでいるであろう空から吾輩の魔力の波動が感じられたのじゃ。そして何かがつながった。大きな音を立てるトラック。大きな音を立てる鳥。
(もしかしてこの人間たちは空を飛ぶための魔道具もすでに作ってしまっているのではないのか?)
もしそうならば・・・一瞬『「死にたくなければお前の力をよこせ!」と脅迫するか?』などと考え付いた。じゃがそれはなんか嫌じゃった。あの人間が吾輩から離れていくのを考えると・・・とても嫌な気分になった。
じゃから、吾輩の夢をかなえるためにはこの人間たちについていくのがいいと思った。じゃが、吾輩はドラゴン。あ奴らは人間。一緒に行動しては吾輩を殺そうと馬鹿な人間どもが寄ってくる。そこで吾輩は人の姿へ変身することを思いついた。
なぜそんなことを思いついたかというと、吾輩の父が変身の魔法を使えるからじゃった。父も吾輩と同じく、やはり空を飛びたがったアースドラゴンじゃった。そのために父が考えた方法が変身じゃった。飛べる生物へ変身してしまおうと考えたのじゃ。父は相当苦労した結果、その変身魔法は大きさや重さまで操るほどになった。
じゃが・・・何があったのか、その頃突然愛に目覚めたそうじゃ。あまりに風変わりなことをしておる父はアースドラゴンの中で浮いておった(今の吾輩がそうであるように)。このため、空を飛ぶことを諦めたそうじゃ。悪目立ちする行動を避け、身だしなみを整え仲間内での評判にも気を配ったそうじゃ。今も母に愛想をつかされぬよう変な行動を避けておるが、同じ夢を持った者として父はその経緯を教えてくれたのじゃ。
さてあの日の夜、吾輩は食事をしてくるといって離れたが、実際は父のもとに向かったのじゃ。当然変身の魔法を教えてもらうためじゃ。深夜にたたき起こして魔法を教えろと・・・なかなか無理なことを言ったおかげで、いろいろあった。が・・・朝になるころには何とか魔法を修めることに成功した。あ奴には申し訳ない・・・朝には帰ると約束したのじゃが・・・破ってしまった。寝不足でいい加減危ないのじゃが、急いであ奴の元へ向かったのじゃった。
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太陽は天頂まで登り、午前中は日陰だった砦が日向になっている。おかげでとても暑い。
現在砦に例の軍隊を受け入れたところだった。武装集団ではなく軍隊と特定できたのは例のナイス・バディの母娘のおかげだった。母はタミーナ、娘はターニャという名前だった。彼女らは行商を生業としており、古井さんが発見した都市(「ルブア」というらしい)の防衛軍旗が掲げられていると教えてくれた。
特に疑うこともなく、「盗賊をとらえに来た軍隊なら問題ないか・・・」程度の考えで受け入れることにした。受け入れることを先触れに伝えた後、執務室の片づけを終えてこちらへ京藤さんが現れた。事の経緯を説明すると・・・怒られた。
京藤さんは警戒していたみたいだけど、心配することはなかった。まず砦内に軍が入れる場所があるのか確認するのと、盗賊の状態を確認したいってことで30人ほどの集団が入ってきた。彼らは説明通り駐留スペースの確認と盗賊らを確認して帰っていった。その後軍は砦に入ってきた。砦の出入り口のところで出迎えていると、軍隊の先頭に立ち指揮官らしき男性と・・・少女?が入ってきた。少女が前に出た。
「ルブア防衛軍第6兵団隊長、アレーシャ・クルスームです。このたびのご協力感謝します」
「同じく副長のヒシャムです。私からも感謝いたします」
驚いたことに少女のほうが隊長だった。後ろの方でタミーナさんが「え?」と声を上げた。
「どうも。カズヒデ・イシダと申します。今回はたまたま盗賊の砦に連れていかれる女性を見つけたものですから。それで助けに入っただけですよ」
「素晴らしいです。助けるべき人がいても50人の盗賊相手では・・・なかなかできることではありません」
「いえいえ。・・・それより、盗賊の移送はどうされるのですか?」
「犯罪者移送用の檻付き馬車を用意してきました。今から馬車をこちらに入れて盗賊を運び込もうと思います。よろしいですか?」
「はい。その際何か手伝うことってありますか?」
「いえ。大丈夫です。戦闘がありませんでしたから人手は足りています」
「そうですか・・・」
「はい。盗賊のことは部下がします。その間私達は被害者女性たちから話を聞きたいのですが可能ですか?」
「了解しました」
「それで、話を聞くのにあちらの天幕をお借りできないかと思うのですが・・・」
「へっ?」
砦内に建物はなく、日陰となっている場所は調理場と監視所ぐらいのものだった。調理場は現在フォックス族の人たちが調理に使っているため使えない。最初の先触れが着た後、特に危険はないと思ってフォックス族の人たちに調理をお願いしていたのだ。監視所は・・・話を聞くのに適さない場所だ。あとは、洞穴の中にも小部屋はあるが・・・そうか今から盗賊たちを移動させるんだ・・・。話を聞くのに周囲が騒がしいと話しにくいということなのだろう・・・。
「いいですよ。ただ、置いてあるものには触らないようにお願いしますね」
「分かりました。ありがとうございます」
「ではこちらへどうぞ」
そういって案内しようとするとふと思い出した。出迎えるにあたりタミーナさんとターニャさんにも同席してもらったんだ。後ろを振り向いてタミーナさんに声をかけた。
「あ、タミーナさんターニャさん。隊長さんがお話を伺いたいそうです。よろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。では行きましょうか」
4人を連れて司令天幕へ向かう。司令天幕に着いた。
「少し片づけますので少々お待ちください」
「はい」
天幕に入ってすぐのところで待ってもらうようにお願いした。アレーシャ さん&ヒシャムさんとタミーナさん&ターニャさんが向き合って話せるように2つずつの椅子を向かい合わせて置き、その間に長机を置こうと思っている。
電子スクリーン前の椅子を動かす間、アレーシャ さんとヒシャムさんは驚いた顔をして天幕の中を見ていた。ヒシャムさんは金属製のパイプで作られた天幕の骨組みに関心があるのか入口近くのパイプに近づきじっと眺めていた。アレーシャさんはウォーターサーバーとコーヒーメーカーに興味を示したようだった。
椅子を設置し終えて長机を移動させようとウォーターサーバーのところへ近づく。何もせず待たせるのもあれかと思ったので声をかける。
「アレーシャさん、水を飲まれますか?」
声をかけると少しびっくりしていた。
「!・・・あっ、はい。いただけますか?」
「はい。承知しました。・・・ヒシャムさん、タミーナさん、ターニャさんはどうされます?」
「いただけますかな?」
「私たちもお願いします」
サーバー横の紙コップをとって水を注ぎ4人に渡す。渡し終えたところでアレーシャさんが質問してきた。
「この装置は・・・水をそそぐための道具なのですね?」
「はい」
「では・・・こちらの道具はなんなのです?」
と言ってコーヒーメーカーを指さした。
「これはコーヒーメーカーと言います」
「コーヒーメーカー・・・なんですかそれは?」
「・・・コーヒーを淹れてくれる道具です」
「?・・・コーヒーとは?」
「え?・・・えーと・・・香りはいいんですが苦い飲み物ですね」
「・・・苦いのに飲むんですか?」
「えぇ。これを飲むと集中力が増すんですよ」
「・・・集中力が!?」
「はい。淹れるのに時間がかかりますけど・・・飲んでみます?」
「お願いします!」
集中力が増す・・・というくだりでアレーシャさんとヒシャムさんが驚いていた。行商をしていた経験から、商人の何かが働いたのかタミーナさんの目が光った気がした・・・。
コーヒーメーカーはカタカナの「コ」の字の形をした本体にガラス製のポットが差し込まれている形だ。コーヒーメーカーの上部の蓋を外すとフィルターを入れる円錐状の部分と水を入れる水位が描かれた部分が見えた。コーヒーメーカーの横にはフィルター、コーヒーの粉(豆を焙煎し引いた状態のモノ)、スティックに入った砂糖とコーヒーフレッシュ(ミルクが入った小さな使い捨て容器)が置いてある。ここからフィルターを1枚とり、メーカーにセットし粉を人数分入れた。ウォーターサーバーから水をコップにとり人数分の水位になるまメーカーのほうへ入れる。蓋を閉じスイッチを入れた。
コーヒーメーカーのセットが終わったので、長机を動かした。これで聞き取りをする準備はOKだろう。4人に向かって話しかけた。
「こちらをご利用ください」
「あ、どうもありがとうございます」
ヒシャムさんが答えてくれた。アレーシャさんは水蒸気を上げ始めたコーヒーメーカーに目を奪われていた。
「コーヒーが入るまでまだ時間がかかります。先に始めておいてください」
「はい」
「私は被害者の残り3人を呼びに行ってきますね」
「はい。お願いします」
司令天幕を出た。すると隣の病院天幕からナイチンゲールさんが出てきた。何やら困った顔をしている。
「あ、司令~。いいところに」
「どうしました?」
「えと、今あの3人がちょっとね・・・」
そういってナイチンゲールさんが手招きするので、病院天幕に入る。中に入るとベッドに腰かけていた3人がこちらに気づき走ってやってきた。3人はそのままイシダにダイブした。
「うわぁッ!?」
3人の女の子にダイブされ姿勢を崩し、尻餅をつく。
「いたたたた・・・・・・どうしたの?」
「遠くに行っちゃ嫌・・・」
言葉を発しなかった2人もうなずいていた。
「え・・・えー・・・」
とそこでふと気が付いた。3人の頬がこけていなかったのだ。しかも傷んだ髪の毛も心なしかつやつやになっているし・・・。
「あれ?・・・なんか健康になってない?」
「え~とね・・・確か治療キットと、ファーストエイドをいっぺんに使ったら欠損すら治ったって話だったよね~?・・・この子たちのこけた頬や傷んだ髪とかが治らないかなぁ~って思って。治療キットの効果範囲に彼女らを置いて、栄養ゼリー(完全栄養食EX in ゼリー)を食べてもらたらね~・・・こうなっちゃった?」
「えぇ・・・まじで?」
この回復に関しては・・・この世界独特の何か法則でもあるのだろうか?
「ごめん。ちょっと立ちたいから離れて」
三人が少し離れる。立ち上がり尻についた砂を払う。腰を下ろして彼女らと視線を合わせる。
「えーとそれで、君たちお名前は?」
「私はラエレン!」
向かって左にいた子が元気よく答えた。この子は3人の中で最も背が低い。卵型で太い眉、大きめの目が印象的だ。髪の毛は背中まで伸びている。かわいい感じだった。表情がよく動きとてもいい笑顔で答えてくれている。
「私はナーダ・・・と言います」
真ん中の子が答えた。この子は3人の中で最も背が高い。面長顔で眉毛は細く薄い。やや肉厚気味の唇が印象的だ。髪の毛は肩より少し下に届く程度の長さ。将来は美人になりそうだ。高い身長とあいまって大人びた印象を受けた。
「・・・ザリファ・・・です」
最後の子が弱い声で答えた。この子の身長は最初の子より少し高い程度だ。丸顔で・・・前髪が目にかかるまで伸びていて、顔を伺いにくい。髪の毛が全体的に長く背中側なんかは腰に届くまで伸びてしまっている。
「ザリファちゃん。ちょっとごめんね」
と断りを入れて前髪を上げる。垂れた目尻、ふっくらとした頬、小さな口・・・ものすごく童顔だった。自信のなさそうな表情をしていて・・・なんだろう「かまわないで!」とか言いそうだ・・・。
「司令・・・それセクハラです」
ナイチンゲールさんの言葉にハッとなり、慌てて離れる。
「コホン・・・え~と・・・君たちのこれまでの話を聞かせてほしいって人がいるんだ。話してくれるかな?」
3人が固まった。ラエレンちゃんからは笑顔がなくなり、ナーダちゃんはこわばってしまった。ザリファちゃんは下を向いてうつむいてしまった。少し待つとナーダちゃんがぽつりと言った。
「分かりました」
「ありがとう」
そういってナーダちゃんの頭を撫でた。立ち上がり、ナイチンゲールさんに話しかけた。
「そういうわけで、3人を連れて行っていいかな?」
「いいよ。ただ、一応ついていくね」
4人を連れて再び司令天幕へ。司令天幕に入るとタミーナさんが話していた。
「・・・だったのです。だから私と娘で行商を続けていました。そして今回、荷馬車でルブアに向かっていると盗賊に襲われました」
「「「ヒッ」」」
とそこで後ろの3人が小さな悲鳴を上げてイシダの陰に隠れた。突然の背中への衝撃を受けよろめくが何とかこけずに堪える。
突然の声に驚いたのかアレーシャさん達4人はこちらに注目していた。
胴体をそのまま首だけで背中を振り向くと背中に隠れるように3人がいる。それをナイチンゲールさんが見て優しく声をかけた。
「大丈夫よ。ほら司令もいるから。危ない目には合わないよ?」
そしてアレーシャさんたちのほうに向かって話した。
「どうも、初めまして。ナイチンゲールです。この3人も被害者なんですが盗賊に長い間ひどいことをされていたみたいで、男性が怖いみたいなんです」
「それは小官が怖いということですかな?」
とヒシャムさん。
「そうです。ただ、今後のことを考えると慣れてもらわないといけないので・・・少しお付き合いいただけると・・・」
「まぁ、小官もよく子供には怖がられますからな。気にしてませんよ」
と話しているがだが、少し残念そうな表情をしていらっしゃる。まぁ、気持ちよくわかります。
ここでコーヒーメーカーを見てみると、そのポットに人数分の目盛りまでコーヒーが入っていた。どうやらコーヒーが淹れ終わっていた。3人の緊張をほぐし、男性に慣れてもらうためにも少し一緒に話でもしたらいいかと考えた。
「お、コーヒーが淹れ終わったみたいですね。コーヒーでも飲みながら少しお話しませんか?」
「そ、そうですな」
少し落ち込んだ様子のヒシャムさんがその意図に気づいてくれたのだろう。ということで3人の緊張をほぐすためコーヒーブレイクをとることになった。
久々にB〇4やったんですけどやっぱ楽しかったですね。
そして以外に人がまだまだたくさんいることに驚きました。(2018/03/07)
ただ、多くの部屋で「No commander」(司令官は要らない)なのは相変わらずでしたね・・・




