帝国の崩壊6
クロスロード大公国に加えゲートリング大公国を傘下に収めた帝国の治世は盤石に思えたが、突如スクルド王国が帝国のゲートリング大公国領に侵攻を開始する。
スクルド王国13万の侵攻に対し、帝国はゲートリング大公国6万、帝国軍本隊4万、クロスロード大公国2万、合計12万の大軍を編制し、皇帝陛下自らが出陣すると言う盤石の態勢でカールキューレ平原にて迎え撃つ。
歩兵だけで編成された13万に対し、経験豊かな3万の騎兵を有する帝国に敗北を心配する者はいなかった。
短編なので、連日投稿致します。
「シルディア殿下! シルディア殿下! 殿下ーーー! 殿下ーー!」
王宮では有り得ない叫び声に、隣の部屋に待機していた護衛の女性騎士と侍女が扉を蹴破る勢いで部屋に入って来る。
私とフローラもお茶の席から飛び上がると愛用のサーベルを鞘ごと手に持つ。
エリーはサーベルこそ持っていないが、扉に対してヒルダを背中にかばう。
「何用か、ここは王宮なるぞ。
扉の前で話せ、開ければ斬る」
護衛の女性騎士マチアが誰何するが、その声は先ほど馬場に向かった騎士にほぼ間違いない。
「はっ、キリーであります。
ご無礼の断、お許し下さい」
マチアが私の方を見て指示を仰ぐ。
「キリー、無礼を許します。
何が起きたのか説明しなさい。
マチア扉を開けて」
私の指示に従いマチアが扉を開ける。
「ホライゾンと思われる馬が、先ほど王宮の門に到着致しました。
しかし、乗り手も他の馬も兵もおらず、相当な傷を負っております。
手当をしようとする者も近づけず暴れております。
如何致しましょうか」
「私が行きます。
案内してください。
緊急の用です、宮中内を走る事を許可します」
私は素早くサーベルを制服の留め金に止めるとキリーに従い走り出す。
◆ ◆ ◆ ◆
「シルディア殿下だ! 道を開けろ!」
キリーが廊下や道を歩いている騎士や文官、侍女を戦場の大声を上げて退ける。
その後を私とヒルダ、フローラにエリーが出来たばかり学園の制服を纏い、淑女らしからぬ快足で駆け抜ける。
4人とも普段から乗馬や剣術で鍛えているからダンス位しか運動をしない並みの淑女とはわけが違う、軽装鎧を着て走るキリーに後れを取る事は無い。
更に、乗馬をする事を前提にした新しい制服はドレスと違い、私達の動きを妨げたりする事も無い。
しかし、王宮の門までは遠い、急いで駆け抜けても20分はかかる。
門まで着いた時には私達は息は上がってはいないが、汗まみれになっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ホリゾント!」
私の声に黒鹿毛の馬が反応して駆けて来る。
間違い無い、私のホリゾントだ!
ホリゾントは一切の頭絡を付けていない。
(途中で手綱を奪われない為の手段か。しかし鞍は付けている。何か赤い布を載せているが何だ)
「シルディ様、あれはホリゾントで間違いないですよね」
フローラが問いかけるが独り言が言葉になって出ただけだろう。
右後ろ脚のヒズメ付近が白い黒鹿毛の大型牡馬で何よりあの風格。
フローラが私のホリゾントを見間違えるわけがない。
「何か少し腐敗臭がします、これは・・・・」
エリーの言う様に腐敗臭がする、それもホリゾントの鞍に括り付けられた赤い布から。
「衛兵! 周りに人を近付けるな! この野次馬を退けよ! 礼節を保て、ここは王宮ぞ」
ヒルダが厳しい声で王宮の衛兵に命令する。
助かる、今の私にそんな事はどうでもいい事だから。
ホリゾントはお父様にお貸して帝国の一員としてスクルド王国との戦いに向かった。
そのホリゾントが瀕死の重傷を負いながらただ一騎、この王宮まで届ける物があるとしたら、それは一つしか無い。
「エリー! お母様・・・アストリット大公国公女王とシュナイザー殿下をここに呼んで、大至急。
これは大公国公女シルディアとしての命令です」
エリーなら情報が少ないこの状況でも私と同じ結論に達して適切な指示をしてくれるだろう。
「衛兵! シルディア様のご命令だ! アストリット大公国公妃とシュナイザー殿下をお連れせよ。
王宮内にいる全ての大臣、男爵以上の爵位を持つ貴族も集合させよ。
全王宮内での騎乗許可、近衛騎士への命令を許可する。
大公国公女シルディア殿下の勅命である! 急げ! 命を掛けろ!」
「馬医者を連れて来い、大至急だ。
ホリゾントの水と治療用具も忘れるな」
近くにいた数人の衛兵に私達の護衛についている女性騎士も数人を残し一目散に駆け出す。
エリーやフローラ叫ぶ声が遠くに聞こえる。
私はホリゾントの顔を抱きしめていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「シルディア、一体何事ですか」
大公国妃が馬車でやって来られた。
「お姉様、シュナイザー参りました」
シュナイザー殿下は馬を飛ばして来たらしい。
「これから、ホリゾントが持って帰って来た物を開けます。
大臣達もいるな、これから私が行う事の証人となれ」
「ですからシルディア、それはなんですか?」
普段から余り私とは反りが合わない母は、先程から私を睨んでいる。
時間的に午後のお茶の時間を邪魔したのかも知れないが、少しは回りを見て察して欲しい。
「お母様、ここはシルディアお姉様にお任せ致しましょう」
ヒルダがお母様の手を取りながら私に嚙みつきそうな勢いの母を遠ざける。
「シルデイ様、こちらに」
フローラが衛兵に手伝わせてテーブルを設置させると大臣や貴族もテーブルを取り囲む。
「この布は戦旗ではないか?」
ここにいる貴族の中で最も高位の貴族でエリーの父親でもあるランドルフ・フォン・グランド侯爵が皆の持つ疑問を呟く。
私は沈黙をもって肯定する。
クロスロードの貴族で、紅の戦旗を見間違う者などいる訳がない。
戦旗を広げると、かなり大きな立派な皮袋が包まれていて、周囲に強い酒の臭いと、僅かな腐臭が漂う。
もうその中身が何であるかを疑問に持つ者はいない。
問題は誰の物であるかと言う事だが、ここにいる殆どの者には確信が既にあった。
「アルミン大公国王」
囁きと呟きが辺りに漏れ、大臣や貴族が膝を付き頭を垂れる。
『頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか』の外伝です。
精強を誇ったクロスロードの騎士団が何故壊滅したのか?
たかが10万の蛮族の侵攻に何故帝国は対抗出来なかったのか。
そして、シルディが学園の生徒に軍事組織に組み替える必要があったのかが明らかになります。
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