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帝国の崩壊  作者: 梶 ゆう


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7/7

帝国の崩壊7

クロスロード大公国に加えゲートリング大公国を傘下に収めた帝国の治世は盤石に思えたが、突如スクルド王国が帝国のゲートリング大公国領に侵攻を開始する。

スクルド王国13万の侵攻に対し、帝国はゲートリング大公国6万、帝国軍本隊4万、クロスロード大公国2万、合計12万の大軍を編制し、皇帝陛下自らが出陣すると言う盤石の態勢でカールキューレ平原にて迎え撃つ。

歩兵だけで編成された13万に対し、経験豊かな3万の騎兵を有する帝国に敗北を心配する者はいなかった。


短編なので、連日投稿致します。

皆が納得したのを見て、私は父の首を再び袋に入れ直して丁寧に戦旗で包み直す。


「シュナイザー殿、アストリット大公国妃、儀典長と相談の上、アルミン公王を然るべき場所にお連れして下さい」

私の声は感情が消滅した平坦な、他の誰かの声に聞こえた。

(もう無理、誰か代わって)


シュナイザー殿は私から父の御首(みしるし)を受け取り、アストリット大公国妃を伴って馬車に向かう。


「シルディ様、まだホリゾントには荷物が託されています」

フローラに言われて私は、フラフラとした歩みでホライゾンに近づき、フローラに手伝ってもらい鞍に縛られた荷物を外そうとするが、手が震えて上手く行かない。

(しっかりしろ、私)


見かねたフローラが新しい制服にフローラだけが付けている左胸の幅広ナイフを使って紐を切り飛ばす。

「これは、兵の手紙と・・・背縫い・・・兵の形見ですね」

フローラがぼーっと立っているだけの私に代わりにさっき父の首を置いたテーブルに荷物を広げる。


「近衛騎士団長殿」


「はい、フロレンティーナ様」


「兵達の形見を遺族に渡す手配をして下さい。

手紙である場合は、その内容を記録する様に、あとで内容を確認します」

フローラが私に代わってテキパキと近衛騎士団長に指示をだす。

本来フローラに近衛騎士団長への命令権は無いが、命令に矛盾がない事、何より私が木偶人形となっているので、近衛騎士団長は何もフローラの命令に異議をとなえない。


「かしこまりました」


「シルデイ様、まだ荷物があります。

テーブルをもう一つ持って来て下さい」

テーブルが用意されるのを待ってフローラが厳重に防水紙で梱包された包みを広げる。


先ず出て来たのは金貨10枚と送り状であった。

送り状には、この包みを拾得した場合は、開封せずにクロスロード王宮に届けて欲しい事、金貨10枚はその謝礼であり、無事に届けられた時には謝礼として更に金貨10枚が支払われるとあり、最後にベルント・フォン・ウノシルデス侯爵の署名がされていた。


「父の字、ベルント・フォン・ウノシルデス侯爵の筆跡で間違いありません」

能面の様に血の気が全く無くなったフローラが証言する。

そう言って、私と同様に固まってしまったフローラに代わりエリーが包みを開ける。


「フローラ、報告書と一緒にこれが入っていました」

エリーが短剣を差しだす。


「これは、父の短剣の鞘です」

フローラが短剣を受け取り確認する。


「そうですか。その鞘ですが、中に手紙が入っています。

多分家族に当てたものだと思いますので確認して下さい」


フローラが鞘の中から手紙を取り出し一読する。

「ありがとうエリー。

・・・家族に向けての手紙です、合戦直前のアルミン公王の事も書いてあります。

ご覧になりますか?」

父からの手紙を私に差し出そうとするフローラ。


そのフローラを制止して

「いや。今はいい」

父の親友のベルント殿の手紙、しかも合戦直前の事も書いてある。

気にならない訳が無いがそれを読む気力が今の私には無い。



「これは、戦闘日誌です」

エリーの言葉に反応して、ヒルダに大臣達、貴族達がテーブルに再び集まる。

集まった大臣達、貴族立達の中で最も高位であるランドルフ・フォン・グランド侯爵が戦闘日誌を取り上げる。


「諸君!静粛に、この戦闘日誌を今から私が読み上げる。

勿論、後で書簡を公開するが、後日の改竄やすり替えを防ぐ為に、今ここで覚えて証人となってもらいたい」

そう言って戦闘日誌を読み上げ読み上げた後にテーブルに広げ、皆に公開する。



「お二人の親王の生死は不明であるが、絶望的か・・・」


「帝国の皇帝と二人の親王も落命されたか」


「裏切ったのはゲートリング」


「騎士団は一瞬で壊滅したらしいが、その原因は不明なのだな」


「クロスロードとゲートリングの同盟を示されたが、即座に断られたか。

ベルント殿らしい」


「だが最終的には後を継ぐ者に任せるとあるぞ」


「その判断が即座に出来るのがベルント殿だ。

そもそも暗殺などと言う手段を用いた帝国にも非はある」


「最後の生き残り200を率いて脱出を試みるとあるが・・・・」


「3万の歩兵に馬を失った200の歩兵では・・・」


「戦場での筋を通し、200人の命と引き換えに、クロスロードの騎士の誇りと誠実、ウノシルディスの武勇を示したわけか。

さすがベルント殿、見事な覚悟」


「カール=ヨーアンも落命された様だが、エンゲルブレクト・ノルランデルと言えば、カール=ヨーアンに暗殺された前公王の子、世が世ならゲートリング王国の国王ではないか」


「あのクーデターはカール=ヨーアンと帝国の企みであったから、これはその復讐か」


「その復讐にクロスロードは巻き込まれたわけか」


勿論、戦闘日誌にはその様な推測は書かれていない。

あくまでも淡々とその場で判った事だけが書かれている。


戦闘日誌に書かれた情報から何が戦場で起きたのかを推測する事は必要だが、大臣や貴族達がしている推測を私は何処か遠くの国で起きた事の様に聞いていた。


お父様と二人のお兄様の戦死、精鋭を誇った2万の騎士団の壊滅。

有り得ない衝撃的な事実を私はまだ受け入れられない。

私の愛したクロスロード大公国が足元から崩れて行く気がする。


「シルディア殿下、この戦闘日誌を詳細に分析させて下さい。

特に騎士団が壊滅した原因について出来るだけ早く知りたい」

ランドルフ殿が冷静な口調で私に申し出る。


「お願いします」

私の魂の抜けた声にランドルフ殿の表情が曇る。


「エリー」

突然、父であるランドルフ殿に名前を呼ばれて手招きされるエリー。


「はい。お父様」


「お前のシルディ機関の手を貸して欲しい。

この件に関して協力体制を組みたい」

ここまでは皆に聞こえる声で言う。

そして、エリーだけに聞こえる声で「シルディア様をお支えしろ」と囁くが口の動きで読めた。


「かしこまりました。お父様、宜しくお願い致します」

エリーの返答は何に対する返答なのだろう。


父の遺体の対応と戦況報告、兵士の遺品の対応が取りあえず終わった。


対応しなければならない事が山の様に有るのに、どうでもいい。

私がしなくても、ランドルフ殿に大臣達、大勢の貴族がいるじゃない。

私がクロスロードの事を全部考える必要は無いじゃない。

貴族の義務なんてどうだって良いじゃない。

そうよ、お父様とお兄様の事を悲しんでいいじゃない。

普通の娘の様に泣き叫んで悲しんでいいじゃない。

なのに私はどうして一粒の涙も出ないの。


私は、功労者であるホリゾントの方に虚ろな目を向けると、馬医者が絶望的な顔でこちらを見ている。

(ホリゾントまで助からないの。やめて! もう限界)


「手を触れさせないのです。シルデイア様」

そう言う事か、良かった。


「ホライゾン。

良くぞ役目を果たしました。

ゆっくり休んで体を治してから、又乗せて下さい。

今日は貴方とお話しましょう」

そう言って馬小屋の方に連れて行こうとするが、ホライゾンは頑として動かない。


私が困っているとヒルダが

「お姉様、ホライゾンは・・・乗れと言っているのではないですか」

ヒルダがそう言うとホライゾンが『そうだ』と言う様に頭を下げる。


「とても疲れていると思うのだけど、じゃあ少しだけ、誰か手を貸して下さい」

黙って衛兵の一人が跪き「どうぞ」と膝を叩く。

(あれ? 今、私、普通に喋れている)


「ごめんなさい」

と言って膝に足を掛けてなるべくホライゾンに負担を掛けない様に静かに跨る。



ホライゾンは一度体をブルリと震わせると深く息を吐き出し、2、3歩いて動かなくなった。



「どうしたの? やっぱり重たかったでしょう。 もう降りるからね」

と首筋をなでてもホライゾンの反応が無い。


「お姉様!  ・・・・」

ヒルダが淑女らしからぬ声で叫びかけて言葉が消える。


フローラやエリー、周りの貴族達が「何事?」と言う感じで私とホライゾンの方を見る。


「シルデイア様、ホライゾンが・・・」

押し殺した声の馬医者の言葉を私が手を上げて遮る


この瞬間、私の中に力が蘇った、その力はホライゾンがくれた物に違い無い

「・・降ります。済まないがもう一度降りるのを手伝って欲しい」

まだ傍に居たさっきの衛兵にお願いすると、もう一人を呼んで来て手を組んで足場を作ってくれる。

(もう大丈夫、ホライゾン。力が戻って来たわ。ありがとう)


「どうぞ」


「済まない。ありがとう」

衛兵二人の手で作ってくれた足場を使って私はホライゾンから下馬する。


「貴方は最後の最後まで貴族の、騎士の責任を私に示してくれました。

貴方に恥じぬように、私も大公国公女としての責任を果たします。

私がバルハラに行く事になった時、貴方に恥じる事無く乗せて貰(もら)える為に」


状況を理解した貴族達が戦場で倒れた騎士に行うようにホライゾンに向かって跪き、バルハラの門が開き勇者を迎え入れる祈りを捧げる。


「偉大なる勇者ホライゾンに、捧げ剣!」

近衛騎士団長の号令に合わせ近衛騎士達が剣を捧げ、ホライゾンに最上級の敬意を示す。


私のホライゾンは決して倒れる事無く、昂然と顔を上げたまま、大きく開かれたバルハラの門を走り抜けた。


「エリー。

ホライゾンを今すぐに埋葬して貰えますか。

馬具などはそのままに、埋葬場所は訓練用馬場の槻木(つきのき)の大木の近くにお願いします」

(別れは済ませた、最高の形で。私が埋葬に立ち会うのをホライゾンは望まないだろう)


「かしこまりました。シルデイ様」


「ヒルダ、フローラ、エリー。

これから私の戦いが始まります。

負ける事も、引くことも許されません。

私に力を貸してほしい」

私は両足を台地に踏ん張り、両腕を前に組み力強く言い放った。


「はい、お姉様」


「全ての忠誠を、シルディア様に」


「もう力が戻られました。何時もの私の全てを捧げるシルデイ様です」


学園の新しい制服が決まったその日、

私はクロスロード大公国公女の責任を果たす事を

もうこの世では会えない者達と

これから共に戦う者達に誓った。

『頑張ったのに悪女扱いは酷くないですか』の外伝です。

精強を誇ったクロスロード騎士団は文字通りに壊滅しました。

大きな後ろ盾を失ったシルディは短期間で騎士団の立て直しを図ります。

その為にこれまで遠慮していた学園の生徒達への軍事教練を本格的に開始します。

又、騎士団を壊滅させた技術をシルディ機関の活用により解明し、アーレイ、ロングの開発に繋げます。

アーレイとロングの開発は、結果的に当時の軍事技術の一大革命を起こす事になります。

本短編はこの話で完結です。

最後まで読んで頂きありがとうございました。



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