4 その後の二人
「えへへ。びっくりされましたよね」
シャンデリアに照らされた室内で、頭に手を当てて、バツが悪そうにマリアンヌは笑う。
闘技場でルーカスのもとに彼女が戻るも、姫騎士の登場で周囲が沸き立ち、話どころではなく、取り急ぎ王宮に招いたのだ。
「幻滅されましたよね。」
マリアンヌはティーカップをソーサーに置いて、悲しそうにその長いまつ毛を伏せる。ルーカスがずっと黙っているのを、怒っていると勘違いしているようだ。
「いや、そんなことは。」
「いいえ、気を使っていただかなくて結構ですよ。」
「怒ってはいないが、マリアンヌに何かあったらと気が気でなかったんだ。」
「ふふふ、嬉しいですわ。」
ルーカスの言葉を冗談と捉えたのか、彼女は無理して笑いながら、話を続ける。
「私、結構この国気に入りました。闘技場で勝ち抜きましたし、騎士団の入団試験でも受けようかしら。国に戻っても嫁ぎ先もないですから。」
「そんなにこの国に住みたいなら、俺の妃になれよ。」
ルーカスは頬を薔薇のように真っ赤に染めながら、マリアンヌをじっと見つめる。彼女をこれ以上悲しませたくない、そんな顔をせずに笑って自分のそばにいてほしい。酔ってもいないのに思わず本心が漏れ出てしまった。
「えっ…え!?」
マリアンヌはエメラルド色の瞳を見開いた。混乱したのか、角砂糖をいくつもカップに落としている。賢く勇ましい彼女が年相応の姿を見せるなどかわいさで悶絶しそうだ。
「よく言ったルカ!」
「私も気に入ったわ、いい子そうじゃない。」
声に振り向くと、ルーカスの両親がドアに隠れてこちらを覗いていた。
「父上!母上!2人そろっていい加減にしてください!」
父マテオはガッツポーズをして、母カトリーンは扇子で口元を覆っているがその表情を隠そうともしない。国王国妃が息子の部屋の前で何をやっているのか。
「で、マリアンヌちゃんから見て、うちの息子はどうかしら?」
カトリーンはルーカスを無視して、気安く彼女の名を呼ぶ。
「とても素敵な方だと思いますわ。」
「母上!」
ルーカスは叫び声を上げる。そもそも、国王国妃は賓客を招いて昼食を交えながらの会談と聞いていた。両親がマリアンヌと会えばこうなることが予想できていたから、事前に両親の予定を把握していたはずなのに。
「うちも婚姻には反対はしないよ。」
新たにドアから現れたのは、申し訳なさそうな顔をするアーべライン国王の姿だった。
「え?」
さすがのルーカスも他国の王の登場に落ち着きを取り戻す。
「ははは、ジル、昼からいいものが見れると言っただろう。」
「のぞき見とは聞いていないよ。マテオは昔から私を巻き込むんだ。」
マテオにジルと呼ばれたアーべライン国王は眉をハの字に下げた後、マリアンヌに向き直る。
「それでマリアンヌ・リリュー公爵令嬢、婚姻の申し出は受けるのかね。国王としても許可はしてあげられるが。」
「そんな、私などでよろしいのでしょうか。」
マリアンヌはルーカスを不安そうにちらりと見る。その儚げな様子に、ルーカスはいたたまれなくなり、彼女の手を握り、膝をつく。その手にキスを一つ落として、エメラルドの瞳をじっと見つめる。
「マリアンヌ、どうか私の妃になってください。他でもなく私はあなたがよいのです。」
「……はい。」
マリアンヌは陶器のような白い頬に一筋の涙を流すと、こくこくと頷き続けた。
「マリアンヌちゃん、安心して!この子は、今までどんな女の子にも手を出さなかったから、一途なのは保証するわよ。」
「お願いだから、母上は黙ってください!」
「マリアンヌ様、妃の発言はルーカス様の従者である私が証人になれますよ。」
「ヨゼフお前もいいから黙ってくれ!」
「私譲りの顔なんだからモテるだろうに、もったいないよね~。」
「父上!」
「マテオは何人も女の子を泣かせてきたのにね。」
両親だけでなく、アーべライン国王まで参戦してくる。
「あらジルベスター国王、その話詳しくお聞かせ願えますか。」
「ジル、カトリーナの前ではその話は。」
「ははは。」
ドアの前で3人はこちらを無視してがやがやと言い合っている。
ルーカスはまだ彼らに文句を言おうとしたが、マリアンヌが涙を抑えながら笑っている姿を見て、まあいいかと溜飲を下げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルーカスは胸元のハンカチの位置を少し直すと、咳払いをする。白いタキシードを身に纏った彼は、深く息を吸い込んで、呼吸する。
教会のドアがゆっくりと開かれると、視線の先に彼女がいた。薄いベールに包まれ、裾まで編まれた細かなレースを揺らし、マリアンヌはそこに立っていた。
ルーカスは大きな拍手に出迎えられて、一歩一歩マリアンヌに近づいていく。
「ルーカス様。」
視線を上げると、壇上からマリアンヌが手を伸ばしている。ルーカスは階段を上り、その手を取る。緊張しているのか、彼女の手はとても冷たい。
「マリアンヌ、大丈夫だよ。これからは俺がずっとそばにいるから。」
ルーカスはほどいた手でベールをつまみ、それをゆっくりと上げる。マリアンヌのエメラルドの瞳が、窓から差し込んだ光に照らされて煌々と輝いている。
「はい。私もいつまでもおそばにおりますね。」
マリアンヌの言葉を遮るように、ルーカスはその口を重ねた。
教会の鐘は鳴り、小鳥がバタバタと飛び立つ。
春風は幸せな2人の声を乗せて、赤いチューリップをいつまでも揺らしていた。
これにて完結です。
おまけとして、マリアンヌ視点でなぜ婚約破棄されたのかを投稿できればと思います。
ちょっとルーカスの認識が事実とずれているところがあります( ´∀` )
普段は
連載 転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~
https://ncode.syosetu.com/n0657mk/
を毎日19時に更新しています!




