↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堅物王子と婚約破棄された令嬢のラブストーリー~見合いから逃れるために適当な令嬢を選んだつもりが手放せなくなった件~  作者: 東風香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

3 闘技場にて

ルーカスは早くに目が覚めてしまった。彼女と会えるからとそわそわしてしまったのだろうか、俺らしくないな。自分でも笑ってしまいそうだ。


事前に用意させておいた町民らしい服を着て、上から黒いローブを纏う。その生地の上質さが分かる人であれば、大商人の息子にでも見えるだろう。

ルーカスが外に出ようとすると、


「楽しみなんですね。」


と慣れ親しんだ声が聞こえる。開いたドアの先には、待ち構えるように従者のヨゼフが控えていた。


「うるさいぞ、ヨゼフ。待ち合わせに遅れる訳にはいかないだろう。」

「そうですか、そういうことにしておいてあげましょう。」


満面の笑みのヨゼフと、不機嫌なルーカスが長い廊下を進む。

二人は王家の紋章のない馬車に乗り込んで、街へと向かう。本日は王子としてではなく町人として見られるよう、途中からは徒歩で向かう徹底ぶりだ。


マリアンヌから街の宿に前泊したと連絡があったので、そこまで迎えに行く。

宿に入ると、ルーカスに気づいた受付嬢たちが頬を染める。ルーカスは彼女たちに手を振り返すと、その一人に声を掛けた。


「マリアンヌ・リリューが泊っているだろ?ルーカスが来たと伝えてくれないか?」

「はい、今すぐに!」


他の受付嬢は声を掛けられた女性を羨ましそうに見ている。チェックアウトをする他の宿泊客の手に握られたペンも動きを止めていた。


「ルーカス様は罪な男ですね。」

「うるさいな、商人の息子なら愛想が必要だと教えたのはお前だろう。」


ルーカスはヨゼフの合いの手に軽く返す。


1階に併設された食堂で、マリアンヌを待つ間、ヨゼフと二人で窓辺に近い椅子に腰掛けた。注文を取りに来たメイドはどこかぎこちなく、照れくさそうにする。ルーカスが朝食を2つと、軽食用のスコーンを頼むと、彼女は噛みながらも、何とか注文を取り終えてパタパタと裏に戻る。その先をみると、陰から何人ものメイドたちがこちらを覗いている。


「あんたたち、仕事をおし!」


大なべを携えた、おかみさんが大きな声を上げる。メイドたちはそれを合図にして、蜘蛛の子を散らすように消えていく。


食堂内には喧騒が戻り、やっと注目も浴びずにゆっくりできそうだ。

ルーカスは窓から街を眺める。まだ薄暗い中、仕事に向かう男たちや買い出しに出かける婦女たちが慌ただしく通り過ぎ、日の出を知らせる教会の鐘の音が鳴り響く。


コーヒーを口につけ、軽く焼かれた目玉焼きとベーコンを切り分けて、添えられたトーストに乗せて一口でかぶりつく。こうした街の朝食もたまには嬉しいものだ。

朝食を取り終えたルーカスは懐から本を取り出して、コーヒーを啜りながら読み始める。


「お待たせして申し訳ありません。」


その声に顔を上げると、マリアンヌがそばに立っていた。彼は半ばまで読み終えた本にしおりを挟み、ゆっくりと閉じると席を立った。


「いいや。女性の準備は時間のかかるものだし、ここの朝食も楽しみにしてきたんだ。」


マリアンヌを気遣うルーカスの発言に、支払いをしていたヨゼフがこちらを凝視して、その目を見開いている。いつもは許しているが、今だけは余計なことを言うなよ。

店を出た3人は少し早いが、約束の闘技場まで向かうことにした。


「先ほどお話されていましたが、こちらの宿の朝食は有名なのですね。今日は軽食で済ませてしまいましたが、私も明日は食堂でとろうかしら。」

「それはいいな。」


大荷物のマリアンヌはルーカスの言葉に微笑むと小さく頷く。


「それにしてもマリアンヌ、荷物が多くないか?闘技場に行くだけだぞ。」

「ああ、急いで準備してきたので荷物が多いのかもしれませんわ。」

「……すまないな。」


約束の時間よりもかなり早めについてしまったルーカスは何も言えなくなる。


「気になさらないでください。ルーカス王子がご存じのとおり、私、力には自信がありますの。」


荷物を受け取ろうとする男二人を制して、マリアンヌは自分で担いでいる。普通の令嬢であれば、ただの遠慮だろうと荷物を持つが、彼女の場合は触られたくないものでもあるのかと無理強いはしなかった。


一行が大きなアーチを抜けると、人だかりの先に闘技場の屋根が見えてきた。ルーカスはそれを見てマリアンヌに尋ねる。


「他国では廃れつつある闘技や剣技が、この王国ではまだ人気がある理由がわかるか。」

「そうですね、武を重んじている国、だからでしょうか。」


マリアンヌは首を傾げつつも、自分なりの答えを口にする。


「残念、違うな。」


ルーカスは指を振りながら、話を続ける。


「他の国では危険性もあって、挑戦者が集まりにくい。だが、この国では勝ち抜いた挑戦者は、王国の騎士団の入団テストを受ける資格を得る。騎士団で15年も働けば永住権も得られるとあって、国籍、人種、性別を問わず、挑戦者が後を絶たない。」

「大国で働けて、住処も保証されるなら、挑戦したい方はたくさんいらっしゃるでしょうね。」


マリアンヌは興味深そうに頷いている。

3人が闘技場に足を踏み入れると、朝から混雑していた。


「今日の目玉は隣国のお尋ね者だって噂だ。」

「昨日の10連勝して勝ち抜いた奴とどっちが強いんだろうな。」

「その奴が再度決闘するらしいぞ。」


あちらこちらですでに人々が沸き立っている。通路を抜けて、裏から事前に抑えておいた一段高いボックス席まで上っていく。少し臨場感に欠けるが、令嬢と鑑賞するにはその方がよいだろう。


「いよいよですね。」


マリアンヌは宝石のような緑の瞳をキラキラさせて、開始を待ちわびている。しばらくして、闘技場の場内の両端から挑戦者2人が出てきた。合図とともに、2人が駆け出すと、一瞬で勝負がついたようだ。


「あら、早かったですわね。」

「今の奴はなかなか強いな。当分、こいつが勝ち進みそうだ。」

「じゃあ、騎士団になれそうかしら?」

「それほどの実力はなさそうだが、どうかな。」


ルーカスとマリアンヌは食堂で受け取ったスコーンと紅茶を片手に、剣技を鑑賞する。マリアンヌは勝負の間、固唾を飲んで見守るタイプの様で、残りあと2試合になってもスコーンはまだ食べ終えておらず、紅茶も半分ほどしか飲んでいなかった。


「ああ、先ほどの方負けてしまいましたわね、あとちょっとで騎士団に入れたというのに、残念です。」

「マリアンヌはだいぶ熱を入れて応援していたな。でも俺が言ったとおりだったろ。」

「よくわかりましたね。」


マリアンヌは不思議そうにこちらを見ながら、のどの渇きを潤すように、紅茶を一気に飲み干していた。


「あいつは軸がぶれていたよ。連続で急所を打てば、次の手では隙が生まれる。騎士団には及ばないな。」

「なるほど、さすが赤灼の剣士の解説は勉強になりますわ。」


ルーカスはマリアンヌに褒められて照れくさそうにするも、ヨゼフの視線を感じてすぐに真面目な顔に戻る。マリアンヌは席を立つと、少しためらいながらルーカスに小声でささやく。


「私、ちょっとお花を摘みに失礼しますわ。」

「ヨゼフを付けさせようか。」

「いいえ、女性の給仕係にお願いしてついてきてもらいますわ。」


そう言って、マリアンヌはパタパタと階段を駆け下りて行った。


「意中の女性とのデートなら楽しいでしょう。」


彼女の姿が見えなくなったとたん、ヨゼフがルーカスをからかってくる。


「うるさいな。」

「素直でいいご令嬢だと思いますよ。権力のある女性が剣を振うのも、うちの国ではそう珍しくありませんし。」


ヨゼフは主人の睨むような目線にも怯まず、言葉を続ける。


「婚約破棄のせいで嫁ぎ先がなくて、このままでは嫌な元婚約者とも領地で顔を合わせないといけなくて可哀そうですよね。それに、うちの国なら婚約破棄を知る人物も少ないので、娶っても問題ないんじゃないですか。」

「勝手にまとめ上げようとするな。彼女の気持ちはどうなんだ。」

「あ、やっぱりルーカス様は婚姻してもいいと思ってるんですね。」

「もうお前はしゃべるな!」


ルーカスとヨゼフがいつも通りの掛け合いを続けている間に、次の試合が終わってしまったようだった。ルーカスは懐中時計を取り出し、きょろきょろとあたりを見回す。


「この次は最後の試合だぞ、まだ戻ってこないなんて遅くないか。」

「確かに、ちょっと遅いですね。女性用のお手洗いが混んでいるだけかもしれませんが、私が探しに行きましょうか?」


ヨゼフが席から立つ前に、場内は最高潮に沸き立ち、熱気に包まれる。周囲の様子から、最後の試合の挑戦者たちが入場してきたようだ。


「こうなると危ないな。試合が始まってから探しに行ってくれ。」

ヨゼフはルーカスの指示に返事もせずに黙り込んでいる。

「ヨゼフ、どうした。」

「ルーカス様、あれ見てください。」

「今は試合はいいだろ。」


ルーカスが呆れた顔で首を振る。


「いや、あれは―」


ルーカスがヨゼフの指さした方向を見やると、そこには好戦的な赤髪を揺らし、剣を持って構える少女の姿があった。見違うこともなく、正真正銘マリアンヌだ。


「は?どういうことだ。」


石垣の端に手をついて、ルーカスは前のめりになる。


「赤髪の姫騎士の再来だ。」

「昨日の10連勝はまぐれじゃないのか?」

「相手は隣国から来たならず者らしいぞ。嬢ちゃんは大丈夫なのか。」


観客たちはやいのやいのと声上げる。マリアンヌは強いが、相手はただ者ではないようで、どんな手を使ってくるかわからない。


「マリアンヌ――!」


ルーカスは聞こえないことはわかっていても、叫ばずにはいられなかった。会場が静かになったかと思うと、ワーッと歓声が聞こえる。彼が覆った手をゆっくりと開けば、勝負は一瞬でついたようだった。

そこには大男をのして、首元に剣先を当てるマリアンヌが立っていた。


続きは明日19時に投稿します。


普段は

連載 転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~

https://ncode.syosetu.com/n0657mk/

を毎日19時に更新しています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。