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右近と左近  作者: 双鶴


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第28話 光と影の狭間で(高山右近視点)

 天正十四年三月。

 明石の海は穏やかで、春の光が水面に揺れていた。


 その静けさの中に、

 右近は外交の中心人物として立っていた。


 日本準管区長ガスパール・コエリョが、

 秀吉に謁見するため長崎から大坂へ向かう途中、

 明石に立ち寄ったのだ。


 コエリョは右近を見るなり、

 深く頭を下げた。


「右近殿。

 あなたの助力なくして、

 我らの道は開けませぬ」


 右近は微笑み、

 静かに応じた。


「私にできることならば、喜んで」


 その場には、

 小西隆佐、シマン安威治教らも同席していた。


 右近は彼らと共に、

 コエリョが秀吉に謁見できるよう奔走した。


 明石から大坂へ向かう道中、

 右近は馬上で風を受けながら、

 自らが“外交の要”として扱われていることを

 肌で感じていた。


 


 四月十五日。

 大坂城。


 コエリョ一行が秀吉に謁見するその日、

 右近は案内役を務めた。


 大坂城の大広間は、

 金箔の光が反射し、

 まるで別世界のようだった。


 秀吉は豪奢な装束をまとい、

 その目は鋭く、

 しかしどこか愉快そうに輝いていた。


「右近。

 よくぞ連れてきた」


「はっ。

 コエリョ殿は、遠路はるばる参られました」


 右近は、

 外交の中心に立つ自分を自覚していた。


 秀吉の信頼。

 南蛮との橋渡し。

 明石六万石の領主としての威光。


 すべてが、

 右近を“光”の中に押し上げていた。


 


 天正十五年三月。

 秀吉が九州征伐のため出陣すると、

 右近は前衛として従軍した。


 戦場の空気は、

 外交の場とはまるで違う。


 血の匂い。

 土の匂い。

 火薬の煙。

 叫び声。

 馬の嘶き。


 右近は槍を構え、

 敵兵と刃を交えた。


 斬る。

 突く。

 倒れる。

 血が飛ぶ。


 そのたびに、

 胸の奥に冷たい痛みが走った。


 ――これは、聖戦なのか。

 ――それとも、神への背徳なのか。


 右近は武士だ。

 戦場で戦うことは宿命だ。


 だが、

 キリシタンとしての心は、

 その宿命と常に衝突していた。


 敵兵の瞳に映る恐怖。

 倒れゆく者の呻き。

 血に濡れた大地。


 右近は、

 戦場の中心で祈りたくなった。


 だが祈れば、

 次の刃が自分を襲う。


 右近は槍を握りしめた。


 ――私は、何のために戦っているのか。


 その問いは、

 戦場の喧騒の中で

 右近の胸に深く沈んでいった。


 外交の栄華。

 戦場の殺伐。


 その狭間で、

 右近の心は静かに揺れていた。


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