54. Entangling You
「ここ、アリサの家だよ」とは言われたものの、アリサはいまだに幻獣の世界にあるダルデュアの家での生活を基盤とし、ケイファスが用意した家はたまに訪れるだけにしている。
ウナをはじめ知り合いに会ってしまわないように気をつけながら、主に夜に……話をするだけのデート、をした。
お互いの育ちから、ゆっくりと。
「あたしの家族には会ったもんね。ずっとあんな雰囲気だよ。町の学校に行く以外は親の手伝い、農業ばっかりしてたねぇ」
「子どもの頃はどんな性格だったの?」
「いまと変わんないよ? あんまり深く考えてなくて、やりたいと思ったこと行動に移しがちで」
ケイファスが笑った。
「それは、ほんとうにアリサらしいね」
アリサが行動を起こした結果、主に感情をぶつけられる先となっているケイファスに言われると、照れるやら申し訳ないやら。
伏し目がちに、ぼんやりと手元を眺める。
「ケイファスには、いまのあたしはなにに見える?」
かつての完熟南国果実色からガラリと変わってしまった、ギラつく金の瞳。明るい琥珀の瞳はあれど、人類に金の瞳など存在しない。幻獣には、ある。
昔、ケイファスに「アリサは人間に見えないのか」と訊いた。あのときは、人間である自覚のほうが強かった。いまは、幻獣に近いと確信している。
「幻獣になりたくないと思ってる、人間だね」
アリサの心にあった正解を言い当てて、ふわりと頬をゆるめる。
「僕の中では、アリサはアリサのままだよ」
そうしっかりした声で答えをもらうと、目頭が熱くなった。
過去を断ち切る――ウナたちと今生別れる覚悟を事前にしていたのなら、アリサだってうじうじしない。体の変化は副産物で、望んでいなかった。けれどそれが、ケイファスと並びたいと願い、同格になれると思い上がったアリサへの罰なのかも。
「あたしこのままじゃウナちゃんに会えない……」
それどころかジェッド、カフェのマスターに奥さまだって驚かせてしまう。とくに家族の反応が一番大きそうだ。
「ケイファスも、こんなふうに悩んだ?」
「うんと昔にね」
言いながらも、重ねられたであろう葛藤を表に見せることはない。
「そうやって悩むのは人間である証拠だよ」
「目の色も変わっちゃったのに?」
「猫みたいでかわいいよ」
子猫のうちはみなが青目で、成長するとそれぞれの色に変化するというが。
「ウナちゃんに、秘密にしてるのが苦しいの」
大事なだいじな親友だから、会えないのも話せないのもつらい。
「病気は治ったけど、目の色は変わったまま戻らなかったことにしたら?」
「そんな簡単に、のこのこ元の職場に戻れる?」
「戻ってしまえばいいよ。オーナーもマーサさんも待ってるってずっと言ってる。薄情な人たちじゃない」
去り際に確かにそう言葉をかけてはもらえたけれど、優しいあの人たちの眼差しが変わる瞬間を想像すると身震いしてしまう。
「ウナさんはアリサの目の色が変わったくらいで友達をやめることはないんじゃないかな」
ねぇアリサ、と諭される。
「人でいたいなら、人のそばを離れないほうがいいよ」
わずかに眉間にしわを寄せて、できる限りのことを言った。
「人から離れてしまえば、簡単に人の在り方を忘れてしまうから」
それは、実体験? なんて酷いことは訊けず。
「ダルデュアの家にいれば隠し事もしなくていいから気が楽だろうけど、あれはどこまでも幻獣だよ」
「うん……」
わかったような、わからないような。警戒せずにまともに会話できるのがダルデュアだけだから、離れてしまうのは惜しい気がする。
本日は54話〜56話(完結)まで同時投稿しております。




