表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロポーズはいらない  作者: 5’4”
53/69

53. ダーの芸

本日は続いて52話および53話を同時投稿しております。

読み飛ばしにご注意ください。

 手土産にとくれた紅茶を淹れて、アリサとダルデュアはよく恋バナに興じる。内容は主にダルデュアの恋愛遍歴もとい吸血の記録、だ。これまで聞いた相手は王子から乞食までさまざま。これだけ覚えているのだから、ひとつひとつの恋――いや食事? には本気で向き合っているのだろう。


 けれど今回はアリサからお願いした。


「ダルデュアさんとケイファスの出会いを教えてください」


「いいの? 感傷に浸ってると思ってたわ」


 彼女なりに気遣ってくれていたらしい。


「聞きたい気分なんです」


「そうね。初めて会ったのはイーユァン国だったわ。ケイファスは二百三十歳って言ってたかしら。アリサくらいの身長でね、かわいかったわよ」


「――えっ」


「なに、年齢のこと? ケイファスが不老なの知ってるんじゃなかったの?」


 アリサにはもはや数えていないと言ったことがある年齢は、ある程度は数える努力をしていたようだ。


「それは知ってます。あの、背丈のほうです」


「ああ。人間だって寿命が伸びれば身長も伸びるのかしらね」


「まさか……、十代後半には成長が止まります」


「さぁね。ケイファスは自分のこと人間じゃないと思ってるみたいだし、実際伸びてるのよ。そんなものじゃないの?」


 そしてにこっとする。


「身長がいくつだろうが、ケイファスはかわいいわ」


 ……それには、賛同するけれども。


「ちょっと、なんでアリサが赤くなってるのよ」


「ええと、……背丈が似通っていたら、キス、は、しやすいだろうなぁ、と思っちゃって」


「へぇ。よく『男は女の自分より背が高くあるべき』なんて聞くけれどアリサは違うのね」


「いまのケイファスは大きすぎて、……。

 ケイファスからは、キスしてくれないし。ってもう、それはいいんですよ」


「ああ、ふふ、かわいいのに。楽しいわぁ、恋バナ」


 愉悦に浸っているダルデュアを本題へと戻した。


「それで、ケイファスはイーユァン国にいたんですね」


 ダーとシャオの名付けのときに、言語知識はあるのだと感心してはいたものの。


「そうね。百年くらい住んでたんじゃないかしら。あの当時から医療大国でしょ、漢方薬っていうのかしらね。いまも薬膳とかあるじゃない」


 ひざの上で手を握る。


「病気……だったんですか?」


「違うわよ、健康そのもの。んーでも、ある意味では病気? だったのかしらね」


「功を奏して治った……ってことですか?」


 遠い目をして、それらを縁取るまつ毛まで美しい。


「体を切っても毒を煽っても死ねない、死に方を探ってるなんて言うものだから、わたくしが血を吸い尽くしてあげるって提案したんだけど拒否されたわ」


「……っ……」


 触れてもいいのかわからないケイファスの闇に触れてしまって、胸が軋んだ。


「そんな考えからはとっくにふっきれてるから、いま軍に従事してるのよ」


「すみません、あたしが聞いていいことじゃありませんでした」


「別に秘密じゃないと思うわよ」


「でも……本人以外から聞くべきことじゃない気がします」


 軽い気持ちで二人の出会い方なんて訊いてしまった。


 薄い表面しか知らずに好き好き言って困らせたのはアリサなのに、いまさら後悔するのか。いや、好きになったことは後悔してない。問題は向き合う覚悟が足りてないんじゃないか、ということ。

 幻獣の世界に住み着いて三ヶ月。


 やっとアリサは手紙を書いた。


 ウナに心配は要らないと言うことができる。差出人は名前だけにした手紙の配達はダルデュアが請け負ってくれた。


 返信では “ Steamy Bean Bistro ”、マスターと奥さんについてなどが綴られていた。ジェッドとケイファスはまた遠征に出ており、長期間姿を見れなくなるが、元気な姿で出立したことも添えられている。


 読み終えた手紙を机に置いた。


 なんとはなしに、ダーの首から下がる鍵をつまむ。離す。つまむ。ダーに首をかしげさせてしまった。


 それはそうだ、この子にとっては意味不明な行動だ。


 ――ケイファスが家にいないとわかっている今なら……。


 そんな誘惑が頭をもたげる。


 でも、アリサがいなくなったのだからケイファスはすでに家を引き払って、駐屯地の宿舎に戻っていることも考えられる。




 結局、気になれば確かめたくなるのが人間の(さが)だ。


 家の前まで来てしまったからにはもう止まれない。

 居間のテーブルには、形の違う缶やら紙袋がいくつも置かれている。どれも紅茶の葉だった。


 茶葉だけではない、新しいティーポットにティーカップ、ソーサー、ストレーナーにティースプーン、クリーマーにシュガーポット、ティーコゼーまで。

 クリーマーなんてケイファスは使ったことがないのに。


 手をついた先には書き置きがある。


 「アリサの好きなものを選んで。」と、――アリサの行動はぜんぶお見通しらしい。


 家を出ると覚悟してから、アリサの私物はできる限り処分しておいた。持ち出したものは鞄に入りきるぶんだけだ。


 ベッドフレームやクローゼットに設置した抽斗(ひきだし)などはさすがにそのままだが、ベッドシーツは洗ってマットの上に畳んでおくだけにしていた。


 空っぽにしたクローゼットの中には、現在置いた覚えのない服がかかっている。ひとつを手に取ると、タグには “ Saw(ソウ・) Pretty(プリティ) ”とあった。


 色も形も、アリサの好みが反映されている。


 初デートを思い出させる象徴だ。床にしゃがみこんで、立てなくなった。




 日が沈んでからやっとダルデュアの家へ戻ることができた。アリサはテーブルの紅茶を持って帰っていない。家へ訪ねたあとを辿られないよう、注意を払って触れたものをもとの位置に戻してきた。


 ひとまずは落ち着いて考えなければ。


 まんまとケイファスの手の上に落ちた。


 家にはアリサへ向けた愛で詰まっていて、ケイファスから距離を取らなければというなけなしの決心を簡単に砕いてしまう。




 数日後の深夜、アリサは再び合鍵を使った。

 部屋の灯りは全て消えている。


 自分本位に家を出ていって、かと思ったらこんな時間に戻ってくる。自分でも制御できない未熟な感情をどうしようもなかった。


 音を立てないようにケイファスの寝室に侵入して、ベッドに近づく。とうぜんながら彼は寝ていた。

 と、思っていたのに。


「アリサ」


 半身を起こして、へにょ、とアリサの好きな笑い方をする。


「ここにおいでよ」


 掛け布を、めくって中へと誘われたけれど彼に合わせる顔もなく、背中を見せてベッドの端に座った。


「ケイファスのこと、ダルデュアさんからいろいろ聞いちゃった。勝手にごめんなさい」


「うん? いいよ、アリサなら。本来なら僕が話さなきゃいけないことだった。前にいろいろ教えてって言ってくれてたのにね」


 すっと伸びてきた腕がアリサの腰に巻きついて、ベッドの中心へ引きずり込んだ。


 きゅっと丸くなると、ケイファスも背中に沿うように抱きしめてくる。


「僕も、こっそりアリサのこと見に行ってたし」


 告白にぎくりとした。


「そ……そう、なの?」


 たまに感じる視線は、ダルデュアかナイトレイヴンだと思い込んでいたけれどケイファスのものも混じっていたらしい。


 お互いがお互いを気にして、でも近寄れないでいた。煮え切らない関係だ。


「アリサお願い、朝までここにいて」


 ケイファスの顔を見てすぐ帰るつもりでいたから、この頼みにはたじろいだ。


「僕の目が覚めておはようを言ったあとならどこにでも行ってくれていい。けど、それまでアリサを抱きしめていたい」


 かすれた声には切実な色が滲んでいる。おそらくだけれど抱擁以上のことはないと踏んで、アリサは「わかった」と返した。


 すぐに頭上から寝息が聞こえる。その一定の決まった調子に寝かしつけられて、うとうとし始めた。


 なんだかんだ安心しているのだ。触られて、くっつかれて。――好きだから。


 ケイファスのそばが、いちばん安心する。

 

 

 ケイファスの腕の中、アリサまでぐっすり眠ってしまった。


「おはよう、ケイファス」


「おはようアリサ」


 腕に(くる)まれながら、不安混じりに見上げる。


「また、ここに来てもいい?」


 ふ、と笑われた。


「ここ、アリサの家だよ」

明日は三話一気に投稿します。

以上で完結します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ