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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
50/63

50. Leaving the City

 チラチラと金粉の散(カデュセウス・)る瞳(ゴールド)を確認して、アリサはこのままの生活は続けられないと悟った。


 魔力を奪えるのはアリサがそう念じたときに限られることがわかった。そうはいっても、体に変化が出るのでは人間の町では暮らせない。

 

 目覚めてからのケイファスはアリサが魔力を抱えることを許した。アリサから魔力を奪っても取り返されるだけで、その永遠の追いかけっこから脱却する解決策がないとわかったからだけれども。

 加えてケイファスは遠征で二ヶ月は戻らないと言った。




 早めに出勤して、アリサは更衣室でウナを待つ。


「ウナちゃん――あのね」


 首都から離れるつもりだと話すと、ウナはアリサの背中を支えて寄り添った。


「マスターと奥さまにもお話ししませんとね」


「うん、それは仕事終わりにしようと思ってるの。ウナちゃんにはもっと詳しい話をしたいけど……」


「ええ、いつでも。喜んで聞きますわ」


 その日を乗り切って、夕方にはマスターと奥さまにアリサの意向を伝えた。嘘をつくのは心苦しいけれど、もっともらしさが出たと思う。


「病気になったので、仕事を辞めさせてください。今月いっぱいは働かせていただきたいのですが、そのあとは田舎に帰って療養したいと思ってます」


 契約で辞職の申告は最低二週間前だから、一ヶ月あれば人員補充するにも余裕があるだろう。


「そりゃ今日もしんどかったやろ、気づいてやれへんですまんな。病気て、なんのや。聞いてええ?」


「いえ。まだ特定には至っていないんです。症状はなんだか目がおかしくて……」


 もっともらしい言い訳をして、笑みで不安を隠す。


「ご実家に帰るのね?」


 いえ、と否定する。


「地元の病院の周辺で住める場所を探すつもりです。実家のすぐ近くにはなにもないので」


 夫婦はアリサの体を気遣うばかりで、急に辞める不義理を責めたりなどしなかった。


「まぁ焦らず治して、またその気があったらうちに戻ってきてくれやんか?」


「そうよ。アリサさんのこと、私たち待ってますからね。いつになってもいいから」


「はい、辞めるまでお世話になります。最後までしっかり勤め上げます」


 ありがとうございます――と、深く頭を下げる。

 



 直近の休日に、ウナを家へ招いた。


 カフェでは見せなかった悲しげな表情に対して、アリサも同じものを浮かべる。ダルデュアはともかく、ナイトレイヴンとの関わりでアリサは変異してしまった。これ以上姿が変わってしまう可能性を恐れて仕事は辞めると決めたけれど、ウナとの縁はどうしても切りたくない。


「ウナちゃん、お手紙書いてもいい? 家が決まったら」


「もちろんですわ。近況を逐一教えていただきませんと。病気が治ったら、たくさん遊びに出ましょうね」


 輝くような笑顔でウナは応えてくれた。アリサには過ぎた素晴らしい友人だとひしひし感じる。これだけ気を許せる女友達は、他にいない。


 夜更けまで話し込んで、明け方にやっと寝て。

 仕事に戻れば、にこにこと頑張った。


 そして一ヶ月が過ぎる。


 身辺整理は終わり、合鍵はさよならの手紙とともに置いておいた。


 最後、ケイファスに会わずに家を出ると決めていたから。顔を見てしまえば決心は揺らいでしまう。彼にはあまりにも甘え過ぎた。守ってもらう申し訳なさばかりが積もりに積もって、でもそばにいられることが嬉しくてずっと離れられずにいた。でももう振り回したくない。


 黒ニワトリのエサの量にだけ気をつけて用意しておいた。


 彼がくれた雪うさぎのダーとシャオにもお別れを告げる。いつも仕事へ出かけるときも見送るくらいでいたところ、なぜか体にしがみついて離れない。置いていくことを勘付いているのか。


「もしかして、一緒に来てくれるの?」


 問うと、二羽ともが穴を開けてきそうなほどじーっと見つめてくる。


「ケイファスが寂しがっちゃわないかな」


 生みの親の名前にも動じず、ひっしと抱きついてくるので根負けした。


「じゃあ、お願い。来て。ほんとはね、あたしが寂しいの。わかっちゃった?」


 力なく笑って、二羽を胸に抱きしめる。


 素直に実家に帰って、変わってしまった姿を家族に見せることはできない。だから目指すのは紛れやすい幻獣の世界だ。もし幻獣に遭遇しても、触れることさえできれば魔力を根こそぎ奪って弱体化できる。逃げるための時間稼ぎくらいはできるはずだ。


 幻獣の世界に入るのは、何回目だろうか。


 とぼとぼ歩き、獣の叫び声と聞き覚えのあるような人間の声が聞こえた。


 こっそり茂みから覗くとジェッドが剣を振るっている。少し距離をとって、ケイファスもいた。


 幻獣と戦闘中だ。アリサなんかがいたら混乱させてしまう。


 あわてて引き返したアリサはうさぎたちに注意する。


「ダメだよ、ケイファスのとこに連れて来ちゃ……」


 いつの間にか幻獣の世界からも出てしまっていた。

 彼から離れようとして首都の家から出てきたのに、これでは見つかってしまう。見つかったら、連れ戻され……るだろうか。それはアリサの自惚れだったりしない?


 連れ戻すなんて、対象が愛しい人だからこそ。アリサは厄介ごとを持ち込むから迷惑なだけだ。ケイファスはやさしいから、そうは言わないけれど。


 そこはアリサがわきまえていなければならない。

本日は続いて次話(51話)を同時投稿しております。

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