38. 遠征前
「遠征があるの?」
注文通りのコーヒーとおまけのクッキーを席まで運んでいったら、ジェッドとケイファスがそう話してくれた。
「じゃあ、遠征の前にみんなでご飯食べに行こ?」
マスターと奥さまにも声をかけると、「若者だけで楽しんで来ぃや」と一度は遠慮されたがぜひにと誘った。
人数がいると多数の料理を楽しめて、盛り上がった。全員お酒が飲める年齢だったけれど、示し合わすことなくお酒は避けた。それでもみんな笑顔で話は尽きない。
「ほんなら気ぃつけるんやで」
「遠征がんばってね」
店を出たところでマスターと奥さまと別れる。帰りにはジェッドがウナを送って、ケイファスがアリサを送っていってくれることになった。
家の目の前になって、アリサは室内を指差す。
「ちょっとした相談があるんだけど、いい?」
「うん、どうしたの?」
中ではうさぎたちがいつもより元気に出迎えてくれた。忙しなくケイファスの匂いを嗅ぐ仕草をして、ズボンの裾を引っ張る。
「すごい元気だ。大切にしてくれてるんだね、ありがとう」
「ううん、生みの親に会えて嬉しいんだよ」
じゃれてくるうさぎたちに合わせて、床に座った。ケイファスから構ってもらえて満足したようで、今度はアリサの膝に擦り寄ってくる。
「相談っていうのはね。ケイファスからもらったこの雪うさぎたちね、名前がまだないの。一緒に考えてくれる?」
「……ちなみに名前の候補はある?」
「そうだねぇ、『ケイ』と『ファス』とか?」
意図に気づいたケイファスは眉尻を下げた。
「他の候補も訊いてもいい?」
「うーん。じゃあ、『オー』と『チー』」
「それはどこ由来?」
「おおきい と ちいさい」
微妙な顔はよしてほしい。名付けの才能がないなんて自覚はちゃんとある。だからこそ相談しているのだ。
「……『ダー』と『シャオ』にしてみる?」
「なにそれ?」
「イーユァン国の公用語で、大きいと小さい。大と小だよ。アリサの発想からそう変わらないけど」
外国語に明るいなんてのも、長生きしているからかな。まだまだ知らない部分がたくさんある。
それは置いておいて、アリサが二匹を目の前に並べる。
「ダー、シャオ? お名前気に入った?」
揃って頭を大きく上下させている。生みの親だからか飼い主以上に懐いている気がする。ケイファスが家にくるとこれでもかと飛び跳ねるし、突進していく。小さい(ように見える)うさぎたち、たわむれる長身の男、まるごとかわいいけれども。
ケイファスがそばにいるとほっとするし、うさぎたちには癒される。
「ケイファスが来るとすごい喜びようなんだよね。やっぱりママだから?」
伸ばした耳を白い背中ごと撫でていると、「……そこはパパとか、親じゃ……」と肩を落としている。
「うーん、まぁケイファス優しいから動物に好かれそうだしねぇ」
「そうでもないよ。ダーとシャオの場合は僕の魔力の影響……かも」
「会って魔力を供給すると元気になるってこと? でもいままで魔力が尽きたこともないと思うし、病気に見えるとか元気がなさすぎるってところも見たことないよ」
「魔力の供給はしてないし、必要ないよ。僕が近づくとこの子たちは僕の感情に引っ張られる、んだと思う」
アリサは小首をかしげる。
「僕が、アリサと時間を過ごせて幸せだってこと」
言った直後にアリサの髪を一房とって毛先にキスをしてきたのは、顔を見せないように、だったと思う。きっと、赤くなってかわいいのに。
でも、ここは誤魔化されてあげよう。
「この子たち、寿命ってあるの?」
「僕が生きてる限りは半永久的に動いてると思うよ」
「なら長生きするねぇ」
ふんわりと笑った。
「じゃあ、遅くなったし僕は帰るね」
「うん、来てくれてありがとう。気をつけてね。おやすみなさい」
おやすみ、と返すケイファスの首に腕を伸ばし、引き下ろして、つま先立ちをする。
背後で二羽がはしゃいでいた。
努力しないと埋まらないこの身長差は、ちょっぴり不便かも。




