37. 次元の違うデート
本日は36話および37話を同時投稿しております。
読み飛ばしにご注意ください。
人が座れるほどの大きさのキノコを発見して、お散歩を休憩する。硬めの座椅子のようで、家に持ち帰ってしまいたいくらいアリサは気に入った。
隣にぴったりくっついて座って、手を繋いでもケイファスからほどかれはしないけれど。
「ケイファスは、なにをためらってるの? なにか怖いの?」
アリサから好きとは伝えたけれども、ケイファスはいまいち乗り気じゃない。恋人というにはもどかしいものがあった。例えばキスひとつとっても、いつもアリサからだ。しかも触れるのは表面だけで、深いところまで追ってきてはくれない。
手を握りしめての問いに、観念したように息を吐いた。
「僕は人と違うから……」
「それって、幻獣たちの世界を自由に行き来する力があるからってこと?」
ケイファスが目を細めれば、こちらまで切なくなってくる。
「……僕はね、歳を取れないんだ」
予想だにしていなかった答えだけれど、アリサはすぐに浮かんだ疑問を尋ねていた。
「いつから?」
「えっと……もう、数えてはいないんだけど、軍の前身が “ Aberrant Troop ”――『苛烈隊』って呼ばれはじめたころかな。いまは廃れてしまった名称だけど」
「夢譚夫婦が言ってたの、それ?」
――いわく「古い幻獣ほど知っている」と。彼らにとっての古い、が十年二十年のことではないことはわかる。夢譚夫婦は千年を生きるそうだから。でもそうすると、外見年齢二十代前半のケイファスは一体何百年生きていることになる? 軍は、だって、大元を遡ればこの国の起源とほぼ同時期なのだから。千年近くなんて想像もつかない。
「自分たちでは、戦闘狂の面が強いから『精神異常者』って意味で使ってた。幻獣からはそう呼ばれてたしね」
残忍非道な苛烈隊から精神異常者への変化。
悪いが、幻獣と戦っているときのケイファスを見ればそのあだ名がついてしまうのも仕方ないかも、と思ってしまった。
「ずっと軍にいるの……? 周りに気づかれない?」
「最初に歳を取らないことに自分で気づいたときに一旦離れたけど、入り直した。軍は数年ごとに異動があるからそこまで怪しまれない。あとはいろいろごまかしながら、時期を見て軍を辞めたりまた雇われたり」
へぇー、とアリサは感嘆の声を上げた。
「そうやって国を守り続けてくれてるんだね。かっこいいなぁ。ありがとう」
「え?」
「え? 違った?」
給与がいいから、危険があるため高待遇だからという答えでも説得力はあるけれど、ケイファスはそこらへんに固執しなさそう。装飾品は身につけていないし、服にも食にも贅沢の色は見えない。
「すごくすんなり受け入れてくれてるみたいだけど、僕は化け物だって話をしてたんだよ」
「長く生きてるのが、どうしたの?」
いつもと変わらない調子でそう尋ねると、わずかに彼の声が低くなった。
「……ほんとに信じてくれるの」
「ケイファスのことは信じてるってば」
ぐっと体を近づけて、うつむきがちな顔を覗き込む。うららかな春の緑がふらふらと泳ぐ。
「歳の差がありすぎるからあたしとは付き合えないっていうなら、悲しいよ? 泣くか怒るかはまだ決めてない」
「歳の差のことは言ってないけど……」
アリサは押しすぎたかもしれない。ケイファスがもっと心を開いて打ち明けてくれるのを待とう。
「恋人じゃなくても、あたしのこと友達以上って思ってくれてるならそれでいいよ。これからもケイファスのこと、いろいろ教えてね」
とりあえず、いまは無理をさせて関係を破綻させてしまうよりも現状維持したい。
街に戻れば日の沈みかけた夕方だった。
食事処に普通に入って、普通に注文して美味しく食べた。キスも食べさせることもしない。ケイファスと深い仲になりたいと目論むアリサだったが、いくらなんでも人目があれば、アリサだって常識的に行動する。痴女ではないのだから。一応これでも、恥じらいは備えているつもりだ。ケイファスと二人きりになってしまうと、勇み足になりがちだけれども。
日も沈んで、あとは家まで送ってもらうだけだ。
「こんな感じになってしまったけど、少しは楽しめた?」
「とっても楽しかった!」
まっすぐケイファスを見て、満面の笑みを浮かべる。
「よかった。あまり僕がアリサにお金を使ってほしくなさそうだからどこに行こうか悩んだんだ」
「お金を使ってほしくないとかではないの。恩があるのに、これ以上なにかもらっても、それに見合うものをあたしじゃお返しできないから困るの」
「僕は、あげたものを受け取ってもらえたら嬉しい。お返しをもらおうだとか考えてない」
「そうだろうなぁとはわかってるんだけど、……ね」
気を抜いて下がっているケイファスの腕の先、指をそっと掴んで、上目づかいをする。
「今日はありがとう。またデートしてくれる?」
ひとしきり葛藤したものの、こくんとうなずいてくれた。




