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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
34/39

34. デートする

本日は33話および34話を同時投稿しております。

読み飛ばしにご注意ください。

「アリサ待って。聞いて」


 腕を引かれて、転けると思った瞬間には閉じ込められていた。これまでの彼にない強引さで、熱を分けるように、ぎゅうううっと抱きしめられている。春の匂いに包まれた。


 なんで怒っていたのか吹き飛ぶくらいにはびっくりしたし、心臓が変な動きをしている。


 やわらかなため息が聞こえた。


「アリサ、ごめん。調子に乗った。アリサが僕の好みを考えて合わせてくれるのが嬉しくて。か、彼氏面……して、払いたくなっちゃったんだ……」


 ふるふる、と額を胸にこすりつけるようにした。


「……アリサ?」


 こわごわと名前を呼ばれ、しぶしぶ顔を上げる。


「ごめんなさい。だってあたしからデート誘ったのに、払ってもらうのは違うと思ったの。お金目当てなんて思われたくない……」


 三倍も五倍も年収に差があろうとも、付き合ってもいない男性に金銭面で頼るつもりなんてない。しかも大恩がある人物に。かわいげがないと言われようとも、それはけじめだ。


「そんなこと思うわけない。現に僕が払ったこと怒ってるくらいだ、し。それに僕からもデート誘ったよ。僕だってアリサから頼られたい、……わかる?」


「今日のは趣旨が違うの。ケイファスありがとうの日だよ」


「それなら、僕のやりたいことをさせてくれるんじゃないの?」


「……。言われてみれば?」


 それもそうだ。ケイファスのやりたいようにさせるのが、彼への感謝にもなるのでは。


「ええ? ううん、でも……」


「じゃあこうしよう。今回はアリサに任せる。そして、次回は僕に任せて。 これなら公平?」


「うん、いいね、それなら……」


 公平、と言えるのかも。


「「……!!」」


 たったいま次のデートの約束を取り付けたのだ、と同時に気づいて同じくらい顔を紅潮させた。


「ねぇアリサ、新しい服すごく似合ってるっ、かわいいっ、僕嬉しいっ」


 真っ赤になりながらも、精一杯の褒め言葉がくすぐったい。


「ん、ありがと……。ごめんね、せっかくのデートなのに雰囲気壊しちゃって」


「僕がアリサの意思を尊重できなかったのが悪いから」


 ケイファスの同僚は、ケイファスは恋人を引っ張ったりはできないと言ったけれど。一方的に怒ったアリサを受け止めてくれるし、ぶつかってでも自分の意見を落ち着いて述べてくれる。


 男性側から告白してきたりキスしてくるより、そちらのほうが重要に感じられた。アリサはたぶん、恋人を振り回したいほうなのかもしれない。これまで恋人がいたことがないのでこれまで自分の好みの傾向もわからなかったけれど。


 ケイファスに対しては、なにかしてあげたいという思いが強い。それはアリサから仕掛けたり行動を起こしたり、という形で出てきている。


「あのね、いまからケイファスの服を買いたいの。そこからはあたしに払わせてくれる?」


「え?……うーん……」


「ね?」


 つま先立ちで上に迫る。


「うう、わかった……」


 完全には納得していないものの、ケイファスは押し負けてくれた。


 再び大通りを歩きながら、お店を見ていく。


「あたし男の人の服ってあまりわからなくて。よく行くお店ある?」


「僕もわからないよ。決まった店もないかな」


「じゃあ、気になるお店あったら入ってみよ?」


 ケイファスの温もりから抜け出すのを名残惜しく感じながら、代わりに彼の手を引いて歩き出した。


 「あ」と呟いた彼に「なあに?」と聞けば「あそこ」と指差す。


 店内にはシンプルなデザインのものが多かった。ケイファスの印象と合っている。そのぶん生地は厚めで質はいい。


 喉で突き合わせた立ち襟のシャツをケイファスに見せた。士官の襟(オフィサー・カラー)を見て、彼はきょとんとしている。


「ごめん。なんか制服の印象が強くて」


 軽く笑いながら、試着室へ歩いていく。


「ふだんは軍服でしか会わないからね」


「私服に選ぶのは違うよね、戻してくる」


 一歩引いたアリサからするりと服を取り上げて、腕にかけた。


「着慣れてる形のほうが肌馴染みがいいし、これも着てみるよ」


 律儀に着てくれるなんて優しい。


 試着室のカーテンが開かれるまでアリサはまったく無防備だった。わかっていなかった。背が高いつまり手足が長いということは、服をなんでも着こなせるということ。


 いつもと変わらないようでいて、わずかな装いの違いが格段に男を上げる。


 困る。だって。


「かっこいい」


 ほわんと恍惚の最中で告げると、ケイファスはアリサ以上に赤い頬で「アリガト……」と試着室にそっと消えた。


 その後も浮かれたアリサは新しいアクセサリーに新しい靴と荷物を増やした。全部ケイファスが手に持つと譲らなかったため、預けている。たぶん力が必要な仕事は甘えていいところだから。


 そしてそろそろおやつ時だ。


「ここからなら私の家近いから、あたしの荷物、家に置いてきてもいい?」

(軽い前日譚)


 デートの前日、ケイファスはウナへ質問をしていた。


「もしデート中にアリサに不愉快な思いをさせてしまったら、どうすればいいですか」


「まるで不愉快にさせることが決まっているとでも言いたげですわね」


「でも、なにがあるかわからないじゃないですか。万が一っ……」


「そんなときは、ぐいっとしてぎゅっ!……ですわ」


 ………………。


「……引き寄せて抱きしめる、と?」


「正解ですわ〜!」


 答えを聞いたケイファスは眉間を揉みはじめた。ウナを信じていない。


「好きな人に抱きしめられて嬉しくないはずがありませんわ。女の子が拗ねてしまったときはそういうものですのよ!」


「……はぁ……好きな人であればそうでしょうけど。見極めがかなり難しいです」


「まぁ、本気で怒っているときは逆効果ですけれど」


「え」


「健闘を祈りますわ、ケイファスさん」


「ちょ……っ?!」


 崖から突き落とされた気分だった。






 (あとがき)

 作者はファッションにどえら鈍いのでティッシュで作ったハリセンほどのお手柔らかなツッコミお待ちしてます……、恐れ入りますすみません。

 


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