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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
33/39

33. Have a Romantic Meeting

 待ち合わせは “ Steamy Bean Bistro ”で。


 と決まっているので、お店の定休日にアリサは早めに家を出てケイファスを待――たなかった。ケイファスがすでに店先に立っている。集合予定の十分前だ。


「ごめんね。お待たせ、ケイファス」


「いえ、あの木の葉を数えてたらあっという間でした」


 街路樹を指差す。


 花占いの代用にしても、数が多すぎる。何千か、はたまた何万まで数えるまで待たせるつもりはなかったけれどどうして数えるにしろ木の葉を選んだんだろう。


 たまに思うけれど、彼はどこかずれている……。そんなところを面白いと思いはじめているアリサも、どこかズレはじめているのかもしれない。


「ケイファス、今日はあたしに甘えてね」


「甘え、とは?」


「幻獣の件のお礼も兼ねてるから、任せて」


「あれは、軍人としての仕事で」


「それでも、あたしなりの方法でありがとうを伝えたいから付き合ってね?」


 困惑気味の了承が返ってくる。ケイファスには押せ押せの姿勢で向かっていかないとダメっぽいので、アリサなりの計画を立ててきた。


「手始めに “ Saw(ソウ) Pretty(プリティ) “ っていうお店に行きたいんだけど、いい?」


 なにを隠そう、マスターと奥さまの娘さんのお下がりとしていただいた服のブランドだ。ウナに知っているか聞いたら、彼女も何着も持っているとのこと。デザイナーを複数抱えているため、デザインに幅があるとか。


「もちろん。それ、洋服のお店?」


「そう。ケイファスの好みが知りたくて」


 気のせいか、会うたびに彼の赤面率が高くなっているような。面積という意味でも、頻度という意味でも。


「いらっしゃいませ。ご要望がありましたらお気軽にお申し付けくださいませ」


 ちょうど声をかけてくれて助かった。


「普段使いとデート用の服を探しています。

 ……あたしが着る、彼好みの」


「これはこれは。お任せください」


 店員さんは入店の挨拶時より深くした笑みで、案内してくれた。式典用やら冠婚葬祭用のドレスの脇を通り過ぎ、着いた棚にある服を引っ張ったりめくったりしながら、アリサは後ろを振り返る。


「ケイファスはあたしが着てた服で印象に残ってるものとかある?」


 ぐるぐるとすごい早さで目を泳がせて、いよいよ心配になりはじめたとき、口を開いた。


「アリサが……故郷で着てた……」


「え? あれピーザント・ドレスだよ?」


 農嫁の服(ピーザント・ドレス)、農作業に着るゆったりめのドレスである。そう、作業着。首から肩を露出しているのが特徴だけれど、田舎の女性は老いも若きもみんな着ているものだ。なにが刺さるのか、都会の人のセンスっていまだにときどきわからない。


「そっか。あたしも自分でいくつか選ぶから、ケイファスもいいなって思った服選んでくれる?」


「えっ……と。僕の好みで選んでいいの?」


「そのために来たんだから」


 お願い、と言うと神妙にうなずく。そこまで真剣にならなくたっていいのだけれど。


「お嬢様はボタンダウン・スカートにサンドイッチ・ボード・ドレスをお選びですね。わかりました」


 上下にストンと切ったような形の服を店員さんが試着室の壁に掛けてくれる。次いでケイファスへ手を差し出す。


「こちら拝見いたしますね。フィット・アンド・フレア、スウィング・スカート……なるほどなるほど、お好みの傾向は把握できたかと存じます。ならばサーキュラー・スカートも加えておきましょう」


 見た目や動きがひらひら、ふわふわとした形のものが多いというかぜんぶその系統だ。


 試着して自分に似合うか不安になってきた。


「こちらのブラウスと合わせてみてくださいませ」


 身頃(みごろ)が膨らんだもの、腰と袖口が絞られたもの、襟が変わった形のものなど数種類のブラウスを持ってきてくれた。


 退屈している様子は見せなかったけれど、待たせるのは悪いと思いつつ、ケイファスが選んでくれた服は全部試して見せた。仕切りカーテンを自分で引くのにこんなに緊張することはない。


 なんとなく、ケイファスの目がひときわ輝いた(ように見えた)ときの服を何着か店員さんに渡した。


「預けたぶんと、いま着てる服を会計に回してください」


「ありがとうございます」


 まとめ買いに店員さんも満面の笑みである。


「これはこのまま着て行きたいんですが、いいですか?」


「では値札などお取りしましょう、どうぞ試着室へ」


 鏡の中のいつもと違う服装の自分は見慣れないけれど、新しい服というのはそれだけで楽しい。


 試着室を出ればケイファスが店のロゴの入った袋を複数持ってくれている。買いすぎたかもしれない。


 財布を持って会計を訊ねると、店員さんは笑顔で首を横にした。


「お連れ様がお済みでございます。ありがとうございます、またご利用くださいませ」


 ……え。


「あ……はい。お手数おかけしました」


 自分でも気分がどん底に落ちたのが声に出てしまったのがわかって、一瞬頭を下げて逃げるように店の外へ出た。追いかけてくるケイファスを睨んで。


 すぐ角を曲がって横道へ入った。


「アリサ? どうし――怒って、る?」


「貢ぎ癖があるなんて聞いてない」


「ないよ、そんなの!」


「いちおう、一旦はありがとうと言っておくけど。いやだからお金返すね。

 どうしてこんなことしたの?」


 なぜ、アリサが着る服の支払いをしたのか。


「僕の好きな服を着てくれるんだから、支払いくらいは……と思ったんだけど……」


「今日は、あたしが、ぜんぶ払うの。言ったでしょ? ケイファスを甘やかしたいの。こんなことやめて」


 明らかに期待外れの反応をしたと思う。ケイファスは雷に打たれたみたいな顔をしてる。


 だって恩人にお金を出させては、お礼にならない。アリサなんて好みの女性じゃないかもしれないけれど、服装だけは好みに寄せて。顔とか体型は、想像してもらえばいい。それからケイファスが美味しいと言ってくれるようなご飯を食べて、……。


 一日彼を笑顔にしたかったのに、早々につまづいてしまった。アリサのせいで。……アリサの不手際、だ。


「ごめんね、次行こう」


 ぷいと背を向けて歩き出す。どれだけ早歩きしても、脚の長いケイファスにはすぐ追いつかれてしまうけれど。


「アリサっ」


「次のお店行くから」


「アリサ待って。聞いて」


 ケイファスの言葉で、アリサの世界は一変した。

区切りが悪い気がするので次話も同時投稿しております。どうぞ二人のデートをお見守りください!

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