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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
3/13

3. Hunting

 森、海、草原、洞窟。

 自然の深い場所には人ならざるものが住む。病気・災害・不自然な死ーーといったものをもたらす生き物は、力がない者には見えないため、不可解な現象としてとらえられていた。


 その現象を視ることが可能な者たちは、それらが生きていることを認め “ Mythical() Creature() “ と呼びはじめて久しい。


 地方から報告を受けて、一個隊がコーナの町へ派遣された。


「今回の幻獣はどんなヤツだと思う?」


 歩きながら、チームの一人が尋ねる。剣を差しているため、騎士だ。


 昔から軍隊は国や市民の危機に対応するために存在した。もちろん他国との戦争で活躍することもあったが、それは過去のこと。現代では安定した国交が成り立っている。


 太古には軍人たちは騎士と魔法使いと呼ばれていた。国の守護であった騎士と、国の発展に寄与してきた魔法使いが協力してはじめて幻獣を倒したときから存在は続いている。騎士と魔法使いは統合されて軍となった。能力によっていまでも騎士と魔法使いと呼び分けられることはあるけれども、どちらも国が抱える軍人だ。




「もともと干魃(かんばつ)が続いてた地域だろ。作物は枯れて、感染症患者も増えてるって。これまた邪悪だな」


「海から上ってくるやつか、山から下りてくるやつか」


「さてな」


「どれでも。でかけりゃいい」


 剣を持たない男が舌なめずりをする。ケイファスと同じ魔法使いにくくられるが、騎士並みに血の気が多い。一応彼も支援役のはずだが。




 海が見える町の端でケイファスたちは異変を探り、待ち構えていた。


 指先で額を横に撫でる。第三(エキストラ・)の目(ヴィジョン)を開眼させれば、世界の色味が変わった。


 どちらが幸せだろう。


 軍人となり幻獣たちを見る目を得て、死と隣り合わせの名誉を得るか。


 第三の目が開眼せず、屈辱を抱えてたとしても穏やかな日常へと戻るのか。


 開眼する過程で精神を病んでしまう者もごく少数ながら存在する。ケイファスは相性がよかったのかさして苦痛もなく額に目が開いていた。軽々と試練に耐えることができてしまった枠なので、化け物寄りだ。


 第三の目を宿せば、人外の力に目覚める。幻獣を倒せる特殊な剣を振るう力や速さだったり、並外れた魔力や自然への干渉だったり。


 自分は人間よりも、幻獣に近いとさえ感じる。もとから友人と言える友人もいなかったけれど、ケイファスは、人と親しくすることをためらうようになっていった。見えるものが違いすぎて、一般人には話せないことも多い。話しても分かり合えるかどうか。ゆえに軍人の性格が押し並べて歪みやすいのもわかる。

 



 遠くの水平線をオレンジ色が走っている。紺色の空には散らした星が輝いていた。砂のような塩気を含んだ風が吹き抜ける。もう夜が近い。チームは警戒を強めた。


 ざばりと海から飛び上がった、人形(ひとがた)は全体が赤い。ヒタヒタと砂浜を踏むのは馬の四肢だった。一頭の巨大な馬の背から生えた、のっぺりした人間の男の上半身。ケンタウロスとは違う。あれは馬の首部分から人に生えかわっている。いま目の前にいるのは、完全な馬の体から、人間が生えていた。その頭は、人間の十倍は大きい。


「……赤馬の紳士」


「うわぁ、ナッケラヴィーだ」


「これまたグロいな」


「やった、でっけーぞ」


 次々につぶやきが溢れる。幻獣の中にはこれとは違い美しさを誇るものもいる。人間でないものを人間の美的感覚に当てはめるのは無意味だが、これは見ていて気持ちのよい姿ではない。


「口を閉じさせろ! 毒を吐き散らすぞ!」


 そんな情報も目撃情報にあったか。

 その毒が、畑を枯らし人を病に陥らせるのだ。


「口って、馬と人、どっちだよ?!」


「あー、とりあえずやりやすそうな馬のほうから!」


 つまりはどちらもやれ、ということだ。

 頭に直接飛び乗った騎士が、細長く突き出した口を上から串刺しにする。てらてらとした真っ赤な体を覆うものはなにもない。毛皮も皮膚さえもなく、筋張った筋肉がありのまま晒されている。幸いにも刃は通った。ただ、巨大すぎるために急所や奥まで届かない。


 黄色く浮き出た血管が脈打つたびに、黒い血が傷口から噴き出す。


 ケイファスは毒が広がったり仲間に降りかからないよう、風を操っていた。全体を見ながら魔法での支援を担う。


 幻獣を斬っても斬っても決定打にはならず、この人数でかかっても足止めにしかなっていない。


 人間のほうの頬の筋肉を切り裂けば、曇った空気が漏れいでる。


「おい、毒出てんぞ! どうやって閉じさせんだ!」


「凍らせるぜっ!」


 魔法使いが海のほうから引き出すように腕を振って、ナッケラヴィーに海水を被せる。口だけでなく鼻を覆って冷気をくゆらせながら閉じた。ーーが、


 ギ、ギ、ギ、と鉄を伸ばすような軋む音が響く。


 敵の赤い筋肉は見せ物じゃなかった。ボリボリと氷を噛み砕いている。


()り、あんま意味なかったわ」


 軽い謝罪に、騎士たちが再び動きを激しくさせた。


「ちょぉぉぉぉ! 代替案!」


「もっかいやれ! もっかい! 時間稼げ!」


 剣を抜いて攻撃し続ける騎士たちばかりなのに、ひとりが厳しいものを浮かべながらも、剣を下ろして立ち尽くしていた。いくら獲物が巨大だからといって、まさかこの程度で戦意を消失しているわけでもあるまいし。


 彼の名前はたしか――


「ジェッド! どうしました?!」


 急に剣を高く上げて、仲間たちの注目を集める。


「…み…だ……」


 叫んだが、幻獣の咆哮にかき消された。氷とともに毒霧が撒き散らされる。


「水だ!」

幻獣/Mythical Creatures は主にスコットランドのものを参考にしています。

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