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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
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28. ケイファスを捜索する

「――アリサ!!」


 ハッと目を開ける。姉が呼んだのだ。上半身を起こすと、シーツがくしゃくしゃになっている。洞窟にいたはずなのに、離れのベッドに乗っていた。


「あんた家の前で倒れてたのよ」


「え?」


「怪我はなかったけど、びっくりさせんじゃないわよ!」


 アリサよりも濃く茶色に近い南国果実色の目は潤んでいた。顔を掴む手はやわらかく、やさしくて、指先が震えていた。


「ごめんね、お姉ちゃん」


 そろそろと首を動かす。部屋には姉とアリサだけだ。


「お姉ちゃん、ケイファスは……いる?」


「あの軍人さん? なんなのあいつ、アリサを守るために付いてきたんじゃなかったの?! どこいるの!」


 では、いないということだ。

 コンコン、とノックの後に義兄の声がする。


「デイジー、アリサは起きたのか?」


「いま起きたとこ。どうかした?」


「ジェッドがアリサを訪ねてきてる。軍人さんたち連れてな。話せるようなら会わせていいか?」


「ハァ? なによもうこれ以上……わけわかんないことやめてよぉ。アリサを連れていくの?」


「違うよお姉ちゃん。あたしが、みんなを巻き込んでる側なの」


 姉にはぶつくさ言われたけれど、洞窟に行ったときの着の身着のまま、外へ出た。


 第一声をかけてきたのはジェッドではなかった。後方に控えているが、彼は一隊員として他と並んでいる。


「あなたが、アリサさんですか?」


 帽子の(つば)を上げて、見下ろしてくる。


「私はケイファスくんが所属する第五部隊の隊長です。現状をうかがっても?」


 記憶を辿りつつ、アリサに関わる幻獣を見つけたこと、つけられた印を消してくれたことを話した。


「気を失ったので、その後のことはわかりません。あたしは家の前で倒れてたみたいです。……すみません」


 ふむ、と隊長は納得したようではある。その両の目で、ではなく、額の第三の目でつぶさに観察されているのを感じた。


「いるとしたらケイファスはまだ、山の洞窟だと思います」


 ぴくりと片眉を上げた隊長の背後で、ジェッドだけが振り返った。故郷を同じくする彼はアリサの言う山を知っているから。




 山道には進むごとにリボンで目印を残していたから案内に役立った。


 コケコケコケコケ、コッケッケ。

 コォッケーーーーー。


 なかなか間の抜ける鳴き声に包まれながら、見慣れない仲間と共に登山している。アリサと第五部隊はありったけ持てる限りの黒いニワトリを連れていた。軍服と合うのか合わないのか、悩ましい。


「不気味なくらい見事に黒いな、こいつら」


「ほんとにコレが幻獣に効くの?」


 疑問にしつつも、軍人たちは(つつ)いてくるニワトリを両脇に抱える。一般人なのだから追ってくるなと言われるかと覚悟したけれど、アリサもニワトリを連れていくための要員として立候補したら受け入れられた。


 たぶん、ニワトリは効果がある。村を散策しているとき、ケイファスは黒いニワトリについて興味深いことを証言していた。


「幻獣……というか、悪いものを追い払う……ってことを言ってました」


「ケイファスがそんなことを知ってたなんてなぁ」


「ニワトリに真っ黒な種類がいたとは世界は広いぜ」


 いよいよニワトリ談義が始まってしまった。


 コケ、コケケ。

 コケーーーーーーーッ!


 近くに隠れていた鹿が走り回って逃げた。確証は持てないが、老婆が鹿を飼い慣らしていたことを思い出すと、ニワトリが追い払ってくれたとか……かもしれない。




「ジェッド、どうやってゴウラ市まで来たの? カーケント港で連絡船は使えなかったでしょ?」


 こちらもニワトリを抱えて、ひたすら前を向いている。ここまで美丈夫だとなんでも似合うから面白い。


「個人的な伝手(ツテ)があってな。港でお前らを拾えるかと思ってたら、さっさとゴウラ市に着いてやがる。

 泳いで渡るはずないだろ、どうやったんだ?」


「ケイファスが渡してくれたよ?」


 どうしてそんなこと訊くのだろう。


「軍人さんは、道が見えるんじゃないの?」


 人でないものを見る力があるのだから、と額を指差すと、怪訝な表情が返ってきた。


「なんだそりゃ」


 では軍人ならみな、幻獣がつくる世界の歪みを利用して移動できるわけではないのか。ケイファスはできていたけれど、もしや全員ができることではない?


 疑念は頭をもたげたが、移動についてはどうも合法な気がしなかった。黙っていたほうがケイファスのためなのかも。


 一羽がコーケッとくちばしを突っ込んできた。


「海を凍らせてむりやりにでも道作ったんじゃね? ケイファスならできそうじゃーん」


 天然の海上道路。その手もあったのか、とハッとする。自分には魔法が使えないから発想がなかった。とりあえず乗っかっておこう。


「むりやりはむりやりなやり方でしたねぇ……」


「やっぱりィ」


 両肩と頭にニワトリを乗せてゆらゆらしているのは、体幹が弱そうな、おそらく魔法使い。いや、ケイファスはそんな大それたことをできそうと思われてるのか。隊の中でひょろひょろの彼は評価が高いみたいだ。




 洞窟まで来ると、辺りは砂ぼこりが舞っている。


 奥は戦場と間違うほど惨憺(さんたん)たるありさまだった。よく空間が潰れていないなと感心するほど瓦礫だらけで、どれほど凶暴な幻獣だったのかと軍人たちは話している。


「やっべぇぞ、アイツ相当ぶちギレてんじゃん……」


「 “ Aberrants(アベランツ) “ の代表のような男だな」


「こんなキレ方する奴だったのか……怒らせないようにしねーと」


「つーかニワトリ要らんかったんじゃんねコレ」


 ケタケタと笑って、ニワトリの黒い頭を撫でる。すっかり手懐けられたニワトリはコケケ、と小さく肯定した。


「幻獣とケイファスの捜索にとりかかりなさい」


 隊長の号令でぴしりと空気が変わる。


「危険なのでアリサさんはここで待機です」


「はいっ」


 つられて気が引き締まったが、やることはニワトリのお守りである。


 地道な瓦礫撤去が始まった。素手で軽々しく岩を移動させているが、魔法の身体強化で何百キロまで持てるのだろうと気になるくらい大きな岩がころころ転がっていく。


「見つけたぞ」


 ジェッドが肩に担いでぐったりとしているケイファスを運んできた。言葉の出ないアリサに、聞きたかった答えをくれる。


「生きてる」


 寝かせるが、うめきもしない。切り傷などはなさそうだけれど、ここは冷えるし、岩に直で寝かせると体に良くなさそう。かといって敷くような毛布もない。


「鼻血が出ているかもしれん。頭を高くしといてくれ」


 一般人のアリサに任せて、幼馴染はまた瓦礫撤去に戻ってしまった。


 そうは言っても、岩なんて痛そうで使えないし、あたりにはなにもない。迷った末に、アリサはケイファスの頭を太ももに乗せた。


 ――ごめんね、寝心地は悪くないはずだから。

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