表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロポーズはいらない  作者: 5’4”
15/34

15. アリサ発見

 ウナが背中を見せてすぐ、ケイファスは額に指を滑らせた。直後に体を硬直させる。ジェッドも倣って、それまでなにもなかった場所を見つめて息を呑んだ。


 二人は同じものを目にしている。


「アリサ……どうなってる」


「わからない」


「なんで第三(エキストラ・)の目(ヴィジョン)でアリサが見えるんだ?!」


 いるとしたら、幻獣だと思った。けれど幻獣などいなかった。


 両腕を、丸いものが間にあるように抱き抱える形をしている。座り込んで、右を見て、左を見て、なにかを探している素振りだ。でも、怖くて立ち上がることすらできない、という顔をしている。


「アリサ!」


 ジェッドがアリサの肩を掴むと、口を大きく開けて男の手を振り払った。悲鳴、だと思うが声になっていない。おそらく会話はできない。アリサには、こちらが見えていないし聞こえてもいないのだ。


「おいこれ、幻獣のせいか?」


 さきほどと同一の台詞を吐くことに辟易するが、不明なことが多すぎる。


「わからない……アリサは幻獣の世界に引き摺り込まれつつある、のかもしれない……」


「俺は近くに原因の幻獣がいないか探ってくる。この場はケイファスに任せるぞ、いいな」


 こういうとき、幻獣の討伐やら腕力の要りそうな場面は騎士が引き受けるし、状況整理や被害者の保護は魔法使いに委ねられる。


 わかった、という返事は届いたかどうか。聞こうとはしていなかった。ジェッドも動揺している。まぁ、歩き回るうちに冷静になるだろう。


「ウナさん?」


 呼びかけても、声が届かない場所まで行ってしまったのか応えはない。


 誰よりもアリサの行方を心配していた彼女へ知らせに行こうとして――目を離した隙にアリサがどこかへ移動してしまっても困る。ケイファスでなくともこの場を離れたジェッドが、ウナにも失踪した本人を見つけたことだけは伝えるだろう。問題はどうやってアリサを違う世界から連れ戻すか、だ。


 アリサの目の前に膝をついた。


 触れられることはわかった。おどかしてしまったから、彼女の警戒をときたい。ケイファスと彼女の、繋がりを示せるものがあるといいのだけど。


 見えない。話せない。けれどジェッドがしたように、こちらから触れることはできそうだ。ただし、アリサは透明人間に掴まれて怯えている。


 怖がらせない、かわいいものを。


 材料はひとつだけ。そんなに多くは要らない。握り固めるから、手のひらからこぼれるくらいでちょうどだ。ぽつぽつと一部だけに降る雪は、アリサの視線を奪う。


 細長く形取った雪に魔力を込めて、動かしてやる。

 耳を立てた真っ白なうさぎが、ぴょこんと跳ねた。残念ながら目はないけれど、アリサには伝わった、と思う。


 それと目が合うと、縮こませた体をほっとほどいた。


 まっすぐ顔を上げて、濡れたまつげが瞬きをする。音はなくとも「ケイファス」と読めた。


 よかった。わかってくれて。


 うさぎは喜びに跳ねた。差し出したアリサの手に乗る。その上から被せるように手を置いた。南国果実色の瞳が見張られた。


 ゆっくり、とん、とん、とん、と手首、腕、二の腕、肩、と叩いていく。触れているのがケイファスだと信じているアリサはじっとされるがままだ。


 最後に、気になっていた額へ指を当てた。


 赤粘土色(テラコッタ・クレイ)の前髪をよけて、ケイファスは額を合わせる。自然と眉間にしわが寄る。


「半分以上もってかれてる……!」


 体も、感覚もあちら側へ渡してしまっていた。意識はかろうじて抵抗している。しかしそれも時間の問題だ。


 第三の目が開きかけていた。どんな幻獣がこんなことをできる。きっかけはいつどこで、なんて聞いてられない。とにかく余計な目を塞がなければ。幻獣との縁を断ち切らねばならない。


 真正面から目を合わせようとしたけれど、南国果実色の目は(うつ)ろに避ける。


「アリサ。意識をしっかり保って」


 伝わらないとわかってはいても言葉にしてしまう。ケイファスが悩んでいる間にもアリサの目がぼんやりと光を失っていく。焦点が合わないのがより不安を掻き立てる。


「だめだ、起きていて!」


 雪うさぎが赤褐色の髪のうえで跳ねるも、感じていないようだ。


 アリサの額を何度撫でて閉じさせようとしても、第三の目はかたくなに開いたまま。第三の目は普通の人間には宿すことができない。適性がある者ですら開眼には肉体的苦痛を伴う。適性がない場合、無理に開眼すれば精神が破壊される。精神が崩壊すれば、身体を蝕む。――やがては死ぬということ。


 死なせてはいけない。むざむざ目の前で死なせるわけにはいかない。


 アリサの後頭部に手を当てて、再び額を密着させた。


 第三の目は力の源。力押しなら、負けない……、と思う。


 直接視界を繋いで共有し、人間(こちら)の世界へ誘導する。わずかながら第三の目が閉じようとしていく。


 ぼんやりと、薄暗い景色が見えた。


 震える手の間には空っぽのカゴがあった。小さな薄紅の爪は、ケイファスの手ではない。――これは、アリサが経験している視界だ。


 次いで視界の端に入ってきた、これは、鹿?

 その遠くに座っているらしき、人影がふたつ。

 じわ、じわ、とゆっくり目が閉じる速度が遅くなってきた。


 幻獣の力が強いせいか、アリサは人間の世界へ戻りたがっているはずなのに、第三の目は閉じようとしてくれない。


 下がっていくまぶたは半分から進まなくなった。


「これ以上どうすれば……っ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ