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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
12/14

12. アリサの異変

「ジェッドさん、ケイファスさん」


 “ Steamy Bean Bistro “ からの帰り、十歩も離れていないところだった。


「少々お時間いただいてもよろしいでしょうか」


 姿勢のいいウナが立っている。


 ジェッド達は了承して、三人は裏道に引っ込んだ。

 ウナはカフェの従業員で、他人よりは近しいが友人とも断言できない距離を保っていた。そんな彼女が接触してきたからには、ただごとでない予感がする。


「アリサちゃんの様子がときどき心配なのですわ。

 なにかお気づきのことはありますか?」


 ジェッドはほとんど即答した。


「ウナほどそばにいないからな。俺はとくにないぞ」


「僕は……少し心当たりがあります」


 弾かれたように魔法使いを振り返る。


「ケイファス、なにを知ってるんだ?」


「ジェッドこそ、言ってないことがあるんじゃないの?」


 向き合って、お互いを疑うように睨み合う。ウナが手を叩いてやめさせた。


「どうかわかることをなんでも教えてください。アリサちゃんになにかあったんじゃないかと不安ですわ」


 あくまでアリサのため――とは言うが。


「なぜそう思う」


「アリサちゃんと遊んでいるときに、ぼんやりすることがだんだん多くなってきているな、とは思っていましたわ。それが仕事の日にも夢想するようになってしまって」


 ほう、とやわらかいため息をついた。


「不真面目というわけではないのですわ。ずっと一緒に働いてきたからわかります」


「そういえば俺も、見たことがある。うたた寝しそうになってたから、疲れてるんだろうとしか……」


 あれは一人でカフェに行ったときのことだった。新しい生活に慣れてきて気が緩んだのか、と訊けば本人は肯定したものの。異変の一端だとしたらどうする。


 だから、ジェッドは気が利かないと言われる。もやもやしながら自らを律するように腕を組んだ。


 隣のケイファスは心当たりがあると言ったわりに、話そうとはしない。もともと強く自分の意見を主張してくる性格ではなかった。はっきり確信があるまでは言えない、と自分の中で話すことを整理しているのかもしれない。


「アリサちゃんは、ゴウラ市にいるときどんな子でしたか?」


「性格か? そう変わらん。いまみたいにおしゃれでもなかったけどな」


 顔をしかめて、後頭部を掻く。ひとつ思い出した。


「大きな事件、というか。あったな」


 ウナが続きを、と促す。


「アリサは一度、山で行方不明になった。結果的には無事に見つかったが」


 幻獣討伐のために、騎士と魔法使いが近隣に滞在している時期だった。アリサは山へ野いちごを摘みに行って、迷子になったらしく騎士に保護された。それは騎士と魔法使いが追っていた幻獣とは全く無関係だとされていた、と記憶している。


 もし幻獣と関係していたとしたらどうだ?


 第三(エキストラ・)の目(ヴィジョン)を持たない少年の頃は幻獣が見えなかった。視覚できないにしろ、剣を振り幻獣を倒す姿はこの上なくかっこいい。騎士に憧れたのはそれがきっかけだ。ジェッドはまもなく上京したから、それからのアリサの様子を知らない。


「迷子の経験が、トラウマになってる?」


 おそるおそるケイファスから訊かれて、ジェッドはいや、と否定した。その後当人は劇的に性格が変わったわけでもなく、精神的には平常といえる。


「俺たち外野がなんやかや言っても解決しないだろ。本人に聞くのが早いんじゃないか?」


 結局のところそこへ行き着く。


「それが、アリサちゃんは症状に自覚がないみたいですわ。指摘することで怖がらせたり傷つけることになりませんか?」


 なにか病気だとしたら、アリサはショックを受け止め切れるだろうか。


「俺は能天気だし単純だ。お前みたいに細かい気配りはできん」


「ジェッドはアリサ、の幼馴染だから、気づいてて様子見してるんだと思ってたよ」


 これは否定しておく。そんな芸当は習ってもできない。そして自分が試みていないとあることに思い至った。


「『第三の目』をアリサに使ったか?」


「使った。別になにもなかった。でも、アリサは……」


 途中で止めて、うつむいてしまった。優しさゆえか、ケイファスはものごとをためらう癖がある。敬語しかり。幻獣にはガンガン行くのに、人間には一歩も二歩も引いているというか。いまはアリサのことを勝手に第三者に話していいのか、葛藤しているところだろう。


「言えよ。なにか感じたんだろ」


「僕の憶測でしかないよ」


 前置きしても、ジェッドは先を言えと急かした。


「アリサは、彼女自身を幻獣なんじゃないかと疑ってる節があった。だからこそ第三の目を使って確かめたんだ」


「ないな。あいつは人間で俺の幼馴染だ」


「うん……それで、どうしてアリサはそんなふうに考えたんだろうって不思議だった」


「昔はそんなことなかった。俺が首都に来てからか……?」


 三人で話しても解決はできず、頼りにならない情報交換で終わった。


 もし、山で行方不明になったときに幻獣に囚われていたとしたら。


 どうして軍人にまでなった昔馴染みのジェッドには一言も相談してくれなかったのか。ジェッドの前ではおくびにも出さなかったことを思い出すと腹立たしい気もする。


 自分の切り捨てるような物言いがいやだったのなら納得はするが。だが困っていて、ウナやケイファスを頼るのならそれでもいい。


 アリサから言ってくれればなにか力にもなれる方法を考えることができるものを、言えぬのはジェッドの鈍さのせいか。

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