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プロポーズはいらない  作者: 5’4”
11/16

11. Winter Gift

「いらっしゃいませ! お久しぶりですわ」


 ウナの声かけで、彼が来たのを知った。のっしのっしとアリサのもとまでやってくる。身のこなしは軽いのだけれど、体格が大きいからそんな歩き方の印象になってしまう。


「遠征帰りだ。土産を持ってきたぞ」


「お土産なんて珍しい……」


 任務で行くのだからと、これまでどこに行ったとしてもジェッドが贈り物を用意してきたことはない。カフェでいつもお金を落としていくのだから気にしたことはないけれど。


「俺からじゃない」


 ジェッドがぐいっと押し出したのは、青年だった。

 体の前で合わせた両手がなにかを内包しているように膨らんでいる。ケイファスはじっと自分の手を見ながら毎度の挨拶をした。


「こ、こんにちは。星辰(せいしん)冴え返る空の下で過ごしてきました。山頂に白いものが広がっていて、冬の訪れを感じました……」


「もう初雪が? すぐこのあたりも寒くなりそうですね」


 こっくん、と子どものようにうなずいて、アリサへ手を広げて見せる。


 パッと見て、人形かと思った。


 楕円形で、細長い葉が二本刺さっているのは耳を表す。赤い小さな木の実は瞳。――雪うさぎだった。愛らしく見える絶妙な部品配置である。ひとつひとつの部品が少しでもずれていたらこの愛くるしさは出せない。やはりケイファスは芸術的なセンスを持っている。


「かわいい! よく溶けずに形を保ってますね」


 雪に直接触れるケイファスの手は冷えた様子はないし、平気そうにしている。むしろ血色はいい。ずっと手で守って歩きながらカフェまで来たのか。大きな成人男性が。想像するとなんだかおかしかった。微笑ましい、という意味で。


「ええとその、ま、魔法……で……」


「魔法ってそんな使い方もできるんですね。人を笑顔にする素敵な力……」


「よよよかったら差し上げますすす」


「いいんですか? 嬉しい! お店に飾らせてください。そうしたらお客さまにも見てもらえます。みんな癒されますよ」


 そっとケイファスからアリサの手に白いウサギが移される。たしかに冷たくもない。ほんのりと光が輪郭を縁取っていて、なめらかな陶器のよう。なんとも不思議だ。この子はケイファスの両手にはすっぽり収まっていたけれど、アリサの両手からははみでていた。


 雪うさぎはすっくと後ろ足だけで立ち上がり、お辞儀をするようにまた座り直す。

 動く! かわいい。


「ケイファスさん、素敵なお土産をありがとうございます!」


 返事の代わりにふるふる、と首を振るが、ほっとしたように表情をやわらげた。


「よかった。あたしが失礼なことしたから、もう話してくれないかと思いました」


 ケイファスはぎょっとした。


「失礼だなんて思ってませんっ」


「あの、でも……」


 かろうじて挨拶はしてくれるけれど、避けられていた。


「緊張して、……」


「緊張? あたし相手に?」


「……はい……」


 いかにも申し訳なさそうなので、こちらが意味なく責めているような気分になる。


「お客さま扱いするからだめですか? 敬語じゃないほうがいいかな?」


 ケイファスは答えづらそうだったので、これはジェッドに聞いたつもりだった。案の定ケイファスより先に幼馴染が答える。


「そうしろ。まだるっこしい。アリサの敬語は聞いてて気味が悪い」


 違和感がある、ではなく気味が悪いとまで言われると引っかかるが、ジェッドはこんなやつなので矯正は諦めている。幼馴染が「こいつと友達になってやってくれ」というのなら。


「じゃあそうしまーす。ケイファスさん、敬語なしでお願いね」


 にこっとするとかわいそうなくらい硬直していた。


「ハイ」


「……堅いね」


「スミマセン」


「変わってないってどゆこと。聞いてたよね……?」


 幼馴染も同席しているせいか、内心に留めておくべき声が出てしまった。けっこう会話が続くようになってきたのに、まだ心の距離は遠いのか。


 友達、なれるかな。


「ジェッドが連れてくるほど仲のいい同僚なら、あたしにも友人のように話してくれたたほうが嬉しい。めったにないのだもの」


「ア、ハイ」


 名前を出されて黙っていられるほど、幼馴染は辛抱強くはなかった。


「おい。俺の友人が少ないみたいな言い方するな」


「あら、ほんとは友達多いの? あたしには紹介してないだけ?」


 軽くにらむようにしたジェッドは言い返す代わりに大きなため息をついた。まるで嫌味を飲み込んで大人の対応をしてやった、みたいな態度を取る。言いたいことはなんでも言える間柄だと信じていたから、なんだかこの対応には納得がいかない。


「……面倒だから紹介してないだけだ」


 あらぬ方向を見ながら、ムッとしている。


 面倒だとは、アリサのこと? アリサの性格がそうさせているというの?


「アリサさん、ジェッドは――」


「ややこしくなるから言うな」


「どんだけ面倒くさがりなの? いいよ、もう」


「いえ、彼はアリサさんを気にかけてるんで、……これでも」


 「気にかけてるんです。」を言いかけた口調だったが、進歩があったのでよしとしよう。


 腕組みをしたジェッドは、肘でケイファスを小突いた。


「アリサだ」


「うん、アリサさんがなに?」


「アリサって呼べ」


 なぜジェッドから言い出したのかは謎だが、悪くない提案だった。ケイファスの顔に「だめですよね?」と書いてある。


「いいよ? アリサで。それならあたしもケイファスって呼べるし」


 笑い出したのはウナだった。ずっと黙っていたが、抑えきれなかったらしい。


「ふふふ、とっても仲がよろしいですわ〜。楽しませていただきましたわ」


「ウナちゃんも敬語じゃなくていいんだよ?」


「この話し方は私のアイデンティティですわ。それに特定の男性と親しくしていると見られると、危ないことがありますから。ごめんなさい」


 胸を張ってさわやかに言い切る。なるほどウナほどモテる女の子なら、勘違いした男がジェッドやケイファスを疑って迷惑をかけてくるかもしれない。


 雪うさぎはマスターの許可をもらってカウンターの角に飾っている。たまに動けば目を引くし、話題にしてくれるお客さまもいた。


 魔法で保たれているとは聞いたが、いつまで保つのかきいておくべきだった。溶けるのはもったいないなぁ、と惜しい気持ちになる。

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