情報収集クラン
味方になってくれるクランメンバーを集めて行った決起集会では、多くのクランリーダーが集まり、改めてパルフェの味方をすると表明してくれた。
パルフェの状況を知って憤慨している人もいれば、魔王城を手に入れるというAFOでは誰も成し遂げていない偉業に関われると言う理由もある。どちらにせよパルフェのために一肌脱ごうという理由が多い。
両親の伝手で手を貸してくれる人もいる。そして同年代としては明らかに異常な強さを持っているクランメンバーがいる。そんな状況にパルフェは士気がかつてないほど高揚していた。
準備はほぼ整った。というよりも取捨選択をした結果、予定よりも早く整った。
まずスキルの上限解放に関しては取りやめることにした。上限解放のクエストはできても、やってもスキル上げが上限までできないという理由だ。中途半端なスキル上げはマイナススキルのデメリットが大きすぎるということで見送られた。
装備のバージョンアップだけは実施することになった。それはあと一つを残してすべての素材が集まっているためだ。最後の一つは魔王城の地下にあるということで、それは魔王城を一度支配して、防衛をしながら手に入れるということになっている。
そしてイベントの残りがあと二週間となったところで動きがあった。
「魔王城がクラン『イージス』によって支配されました。繰り返します――」
クラン「イージス」は、財団キャンサーの次期当主候補であるノースのクラン。そのクランが動いたということになる。
パルフェはそのワールドアナウンスを拠点で聞いた。
今日は完全に拠点を放棄するためにやってきていた。魔王城を手に入れたらすぐさま放棄してまた拠点を元に戻すとしても、ちょっとだけしんみりしていたので一人でお菓子パーティを開いていたのだ。
やはりイチゴは最高と思っていたところでアナウンスがあったので色々な感情が混じりあったが、かなりやる気になっている。
「パルフェ、いたのか」
「リック君」
拠点の自室ではなくアズマにある宿でログアウトしているクランメンバーだが、その一人であるリックが拠点までやってきた。
「さっきのアナウンスは聞いたか?」
「うん。二週間防衛できるって自信があるのかな?」
「どうだろうな。イージスのリーダーは浅はかなところがある。それに人の意見を聞きそうにもない。何も考えていないと思うぞ」
「だよねぇ」
パルフェはイージスのリーダー、つまり財団キャンサーのノースに会ったことがある。ほんの数分の会話であったが、人となりはある程度分かった。正直なところ関わりたくない相手だと思っている。
思い出すだけでも嫌な気分になるので、パルフェは話題を変えることにした。
「ところでリック君、なにか忘れ物? そろそろ拠点は閉じちゃうけど」
「実はレイブンにここのことを伝えていなかったから、来るかもしれないと思ってな」
「ああ、情報収集クランの?」
「前の決起集会でも来なかったから伝えてないんだ」
「名前は有名らしいけど、秘密主義で、かなりのコネがないと情報が買えないってクランなんでしょ? いつも手紙は貰っているけど、今日は来るかな?」
アサシンギルド並みに秘密主義の情報系クラン「レイブン」。リックの両親がレイブンのクランリーダーと知り合いということで情報を得ることができている。
口頭でも情報を貰えるが、その場合でも顔は隠されており誰だかは分からない。また、基本的に手紙が多く、ここ最近もパルフェ宛に敵クランの情報が届いていた。
「ここが一度放棄される情報も知ってはいると思うが念のために来てみたんだが――ああ、ロアナさん、いたんですか」
リックの言葉にパルフェが驚く。リックが自分の背後を見ながらそう言ったのだ。
「久しぶりだね、リック。それにパルフェちゃんも驚かせて申し訳ないね」
「あ、いえ……」
リックにロアナと呼ばれた人物は声からして女性のようだが、黒装束に覆面をしていて顔は一切分からない。ただ、その目から優し気な人だとは分かる。
ただ、それよりもパルフェは全く気配を感じさせずに背後にいたロアナに驚く。それはベニツルやシモン並みの技術であり、それができることに驚いていたのだ。
その驚きに気づいたのかロアナは首を横に振った。
「言っておくけど、気配を感じなかったのはスキルの恩恵でね。ベニツルさんみたいに素の技術で気配を消したりはできないから安心して」
「そうなんですか?」
「忍び足とか気配遮断のスキルを200まで上げているからね」
モンスターとの戦闘ではあまり強くないスキルだが、こと対人戦に関しては相当な強さを誇るスキルというものがある。ただ、AFO全体でみると対人戦ができる場合が少なく、あまり人気はない。そんなスキルでも上限突破した上にカンストしているのはロールプレイのこだわりが強い人だけだ。
「それでロアナさん、レイブンのクランリーダーが自ら来てくれるなんてどうしたんです?」
「なに、今日がこの拠点を閉じる日だと聞いてちょっと見に来ただけだよ。それと今後の情報をどこへ持っていくべきかパルフェさんに聞いておこうと思ってね」
「ああ、すみません。俺のミスです。拠点を放棄するならどこへ情報を持っていくか伝えておくべきでした」
「しばらくはアズマの宿を拠点代わりにするみたいだけど、そこへもっていけばいいのかな?」
「パルフェもそれで構わないか?」
「ああ、うん、もちろん」
ロアナがレイブンのリーダーだとか、自分のことを知っているような言動に、少なからず驚いている。そしてリックとロアナの会話が淀みなく進んでいくので、色々と頭が追い付かないパルフェだ。
そしていつの間にか色々なことが決まっていて、リックの「それでいいか?」にパルフェは「うん」としか答えられなかった。
「それじゃ私は帰るよ。どうやら魔王城が占領されたみたいだから、改めて情報を手に入れないと」
「いつもすみません。助かります」
「なに、リックのご両親からも頼まれているからね。これくらいはしてやらないと。それじゃ――」
「あ、あの!」
リックとロアナの会話に割り込むパルフェ。
リックの両親と知り合いならば、自分の両親とも知り合いなのかもとパルフェは思い、ロアナを呼び止める。
「ロアナさんはうちの両親とも知り合いなんですか?」
「ああ、知らないのか。一応知り合いだよ。喫茶店も何度か行ったことがある。リックの両親であるオックスとかミリアラと一緒にね」
「すみません、全然覚えがないです……」
「そりゃそうさ、行ったと言っても数回だし、知り合いとはいっても前は敵対関係だったからね。今でも仲良く話すって感じでもないんだ」
「敵対関係……?」
「最終的には利害が一致した協力者って感じだね。オックスたちはすぐに打ち解けたみたいだけど、私はあれ以降も私生活で色々あったからハヤトさんたちとはそこまで仲良くなったわけじゃないんだ」
詳しく聞くとかつてAFOのサーバーがあった宇宙船に父親のハヤトが乗り込んだ話であった。その宇宙船の場所を調べるための情報をリックの父親であるオックスやロアナたちが教えたと言う。
「ハヤトさんには感謝しているよ。私やオックスたち、それに今はもう遠くにいる友人たちと同じ悪だくみをしたんだが、その悪だくみをこちらの狙い通りにやってくれたハヤトさんには感謝しきれないほどさ」
「そんなことがあったんですか……」
「そうそう、あの頃もね、領地の奪い合いみたいなイベントがあったんだけど、ハヤトさんは強かったよ。あれで生産職が戦えないなんて話は払しょくされたと言ってもいいね」
当時ハヤトはルナリアとは別の魔王に監禁されていたという。それを救い出してからの快進撃は目を見張るものがあったらしい。特に救出直後の戦いで、空に大量の飛行船が浮かんでいた時は驚いたという。
「私も私なりの戦いをしたんだけど、どれもハヤトさんに潰されたと言っても過言じゃないよ。敵対していたクランの装備品を壊そうとしたんだけど防がれてね」
「ロアナさん、今回もそれで助けてくれませんか?」
リックがいきなりそう言うと、ロアナの目が驚いた感じになった。
「おいおい、リック。情報収集以外で私を雇うなら高くつくよ?」
「ええ、でも、万全を期したいので」
「……それは確かにそうか。分かった。今は武具を盗んだり壊したりするような仕様はなくなったけど、料理やポーションには色々できる仕様は残ってる。直接戦うわけじゃないが、嫌がらせくらいはしてやるよ――ちょうどイージスとやらが魔王城を占領したみたいだからね」
「あと二、三日は様子を見るつもりです。本格的な戦闘はその後になります」
「分かった。やっていい時は連絡してくれ」
「はい、分かりました」
「それじゃパルフェさん、お父さんたちによろしく伝えて」
「はい。今度また喫茶店に来てくださいね。私が奢りますので」
「それはずいぶんと価値がある提案だね。それじゃおつりが出ないように頑張らせてもらおうかな!」
ロアナはそう言うと、右手を軽く上げてから拠点を出て行った。
それを見送った後、リックが「さてと」と言った。
「それじゃここを放棄してアズマへ行くか。向こうが動いたことだし、準備もほぼ整った。あとは戦うだけだからな。ナツたちと作戦の共有もしておきたい」
「そうだね。リック君には参謀としての活躍に期待してるから」
「俺よりもはるかに優秀な人達の方が多いけどな。パルフェは余計なことを考えずに敵を倒すことだけ考えられるようにしておくよ」
なんとも頼りになる言葉だなぁとパルフェは思う。
そして大きく深呼吸をして、システムメニューから拠点の放棄を選んだ。
一瞬で建物がなくなり、更地となった。ちょっとだけ寂しさがこみ上げたが、次に戻ってくるときは魔王城を放棄してからだと心に誓い、リックと共にアズマの宿へと向かうのだった。




