気心知れた友人たち
一時的とはいえ拠点を放棄することになったクラン「モンブラン」。イベントが終わったら同じ場所に拠点を建てることになっているが、今日はこの拠点での最後の宴会を予定している。
現在、パルフェ、ナツ、クリス、リックの四名がいるが、この後に同じクランのメンバーであるジニー、ウィルネ、そしてアベルの三人が来る。その後に他のクランのメンバーが集まるという予定になっていた。
まだ本格的に始めるのは早いと四人は飲み物を飲んでいたのだが、そこへジニーがやってきた。喫茶店エリアに来た時点ですべてが浄化されそうな笑顔になっている。
「とうとうやりました! お小遣いが元に戻ったんです! 課金! 課金しかない! いや、ここは全ぶっぱで行くべき! カザトキさんとリオンさんに私の愛を伝えないと! シンシアさんには負けませんよ!」
「ジニーちゃん、いらっしゃい」
「……すみません。テンションが上がってしまいました。冷静に課金しないといけませんね」
「いつも通りだから大丈夫だよ」
完璧なお嬢様とも言うべきジニーだが、その正体は漫画やアニメやゲームを極めんとする剛の者。息をするように推しに課金をすることもあり両親からお小遣いを減らされた経緯がある。それが元に戻ったのでテンションが高いと言っているが、普段からこんな感じなので問題はない。
ジニーはメンバーとも挨拶を交わすと、空いている椅子に座った。そしてパルフェに勧められるがままに紅茶を一口飲む。
「お小遣いが戻ったんだ?」
「はい。ミカン姉様や両親との修行により悪魔召喚の免許皆伝となりましたので、そのご褒美に。人生にいくつかあるという実績が解除されたということでしょう……!」
「実績解除はともかく免許皆伝?」
「簡単に言えば公爵級の悪魔を一人で呼び出せるように召喚スキルをカンストまで上げました。MP回復用にココナッツジュースを飲みながら悪魔を呼び出しては戻し、呼び出しては戻し――さすがは悪魔王ミカン姉様。やらせることがえげつない……!」
短期間でのスキル上げは結局のところ単純作業が最も効率がいい。そもそもAFOはスキル上げがカンストしてからが本番とも言われているので、スキル上げの方法はそれなりに確立している。
パルフェの修行はスキル上げというよりもルナリアやイヴァン、それにベニツルやシモンとの実戦形式なので難易度が違い過ぎる。なので、ちょっとだけもやっとする。
それもこれもキャンサーの次期当主候補のせいだと思ってはいる。ただ、怒りよりもそのことで皆が手を貸してくれることの喜びの方が上なのであまり気にしてない部分はあった。逆に手を借りている分、負けられないとプレッシャーも感じているが。
「ちなみに両親はお仕事が忙しいので手伝うことはできませんが、ミカン姉様は直接協力してくれるそうです。毎回というわけにはいかないようですが」
「前も言ってたね。毎回じゃなくてもすごく助かるよ」
「ミカン姉様は一騎当千ですからね。大手クランでも一つくらいなら一人でやれそうです。さすがは悪魔王と言わざるを得ません……!」
「普段は悪魔召喚師ギルドの受付嬢なのにね」
なぜかミカンは悪魔召喚師ギルドの受付嬢が本職で悪魔王は副職だと言っている。悪魔たちの王は副職でいいんだと思うこともあるが、悪魔王と戦うクエストが発見からして高難易度ということもあって暇という理由がある。
そんなミカンではあるが召喚する悪魔のクロタコは非常に強力で倒すことはほぼ不可能。弱いミカンを直接狙うしか勝つことができない。ミカンに勝つにはクロタコを召喚できない悪魔城パンデモニウムでの戦闘が必要になるが、魔王城での戦いであればその制限はないので確実に無双できる状況と言える。
「ミカンさんには魔王城を防衛するときに手伝ってもらった方がいいかもな」
「リック君? その心は?」
「ミカンさんが召喚する悪魔のクロタコは外の方が効果的だからだ。たしか巨大なんだよな?」
「小さくもなれるけど本当は大きいらしいね」
「なら魔王城の三つある城門の一つを守ってくれた方が良いような気がする。暴れやすいだろうし、それにジニーも公爵級の悪魔を呼べるなら外の方が強いような気がするんだが」
リックの言葉にジニーが頷く。
「それはそうですね。ですが、私としては召喚スキルが100になったので人型の執事悪魔と共に戦いたいのですが。ちなみに名前はアシュレイ様で固定です。姿も一番近い造形で登録しました。容姿がランダムでしたので何度も呼びだして……スキル上げよりも大変でした……」
「公爵級の悪魔の方が強いからそれを呼び出してくれ。城門の一つを任せるから」
「致し方ありません。これもパルフェさんのため……! ちなみに勝利のあかつきには皆でコスプレパーティをする予定――いえ、決定です。現実で。あ、ちゃんとシンシアさんに衣装を頼んでおきました。抜かりありませんから安心してください」
「たまには抜かりあってくれ」
リックの言葉に全員が頷くが、完全なアウェーでもまったく気にしないのがジニーだ。
「そのコスプレパーティには自分も含まれているのでしょうか?」
「ウィルネちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、パルフェさん。皆さんもお久しぶりです」
財団ジェミニの次期当主であるウィルネが二階へ続き階段からおりてきた。
財団ジェミニの現当主であるロニオスに修行をつけてもらっていたウィルネだが、その表情は暗い。
「もしかしてコスプレパーティが嫌だった?」
「そんな馬鹿な! ウィルネさんの分もちゃんと用意してありますから! ウィルネさんのために作ら得た服なのに、本人が着られないとなったら服が可哀想ではないですか!」
「いえいえ、コスプレは問題ありません。ジニーさん、喜んで参加させていただきます。何事も経験ですし」
「イエス! 言質を取りましたよ!」
経験でコスプレをしなくてもいいのだが、何事も経験と言うのがウィルネの信条のようで、色々なことに積極的に参加している。
本人が良いならいいかと思うパルフェだが、暗い顔をしている理由が分からない。パルフェはウィルネを見つめるとウィルネは大丈夫だと言わんばかりに笑顔になる。
「ウィルネちゃん、何かあったの?」
「ロニオス様と四六時中一緒でしたから、まあ、色々と」
「ああ、そういうことかー」
「半分は冗談です。大変素晴らしい修行で贅沢な時間を過ごせました。ただ――」
「ただ?」
「最後にパルフェさんを裏切って私が魔王になってしまえば面白いのにと何度も言ってましたね。それを聞かされる方が大変でして」
「ああ、そういう。大丈夫? 洗脳されてない?」
「大丈夫です。今回の件に便乗して私が魔王になればパルフェさんをジェミニに取り込めるかもしれないという魅力的な提案ではありますが、他に多くのものを失いそうで。ロニオス様なら確実にやるでしょうけど」
提案を魅力的と言ってしまうウィルネに少々危機感を覚えるが、ウィルネの性格からしてそれはないとパルフェは思う。知り合ってまだ一年未満。だが、少々世間ずれしている部分はあっても信用できる友人だと思っている。
「ウィルネちゃんを信用はしているけどロニオスさんは危険だねぇ」
「さすがに本人は参加しないので大丈夫だと思います。財団リーブラのネイ様がロニオス様に絶対に参加するなと釘をさしているようですので。ロニオス様が本格的に絡むとややこしい結果になるのは全財団の常識ですから」
「常識なんだ?」
ロニオスは優秀なのだがそれは興味のないこと限定であり、興味があることが絡むと途端にポンコツになる。それは全財団が知っていることであり、いかにロニオスの興味を引かないかが事業の成功のカギを握るという。
AFOにも絡んではいるがそこはネイが目を光らせているのである程度は防衛できているというのも全財団の常識であり、ロニオスで困ったらネイに相談するというのは共通の認識でもあった。
皆がロニオスを想像しつつ、ため息をつきそうになると、二階から急ぐような足音が聞こえてきた。
「悪い、遅れた!」
「アベル君、いらっしゃい。忙しいのが普通なんだから急がなくても良かったのに」
「全員揃うのは久々だろ? それに今日は拠点で最後の宴会、打ち上げみたいなもんだ。そういうのには参加しねぇとな!」
アベルに言われてようやく気付いたが、確かにクラン全員が集まるのは稀だ。というか俳優の仕事をしているアベルがなかなか来れないと言うのもあるが、久々に全員が揃った。
「それに後からレン姉さんも来るから」
「忙しいのに来てくれるんだ?」
「おう。それに今回の件、レン姉さんが結構キレててこえぇからな……」
「え? なんでキレてるの」
「権力を使ってお見合いを強制しようなんて恋バナの風上にも置けないって憤慨してんだよなぁ……」
「ああ、そこに怒ってるんだ?」
「当然、パルフェのことも心配してたぞ。今日来るのもそっちがメインだし。それに初恋もしてるかどうかわからない女の子にそんなことをするなんて、ドラゴンに食われても文句言えないとかなんとか。ちなみに初恋はしたのか? 失恋もしてんの?」
「……アベル君、ノンデリって言葉知ってる?」
「親父とお袋がレン姉さんに良く言われてる。そっか、これはデリカシーがない質問だったか……」
言葉を知っているのか、とか、両親が言われているのか、とかどのあたりにツッコミを入れればいいのかは分からない。わざと言っていないだけまだマシかと、とりあえずその質問はなかったことにして先に進めることにした。
「それじゃ、まずはクランメンバーが全員揃ったってことで乾杯しておこうか。一時間後くらいに他のクランの人達も来るから、まずは私達だけね」
パルフェがそう言うと、それぞれが立ち上がりジュースが入ったコップを手に持った。
乾杯するようなことでもないのだが、打ち上げでもあり、決起集会みたいなものでもある集まりなので、勢いに任せてやりたくなったというだけだ。だが、そこで冷静に何かをいうメンバーはいない。
「それじゃ皆で魔王城を手に入れよう!」
パルフェがそう言ってコップを掲げると、皆も同じようにコップを掲げ、「おー!」と声を上げる。
「フハハ、ダークサイドの神髄を見せてやるぞ!」
「誰にも気づかれずに何人倒せるだろうか……目標は百だな」
「お前ら宴会の後で作戦会議をするから全力で遊ぶなよ」
「すでに準備は進めていますが、やりたいコスプレの要望も聞けますよ!」
「パルフェさん、どれくらい強くなったか確認したいのでちょっと戦ってみませんか?」
「なんかレン姉さんが現実で藁人形を作ってんだけどあれって罪に問われないよな?」
気心知れた友人たちとカオスな宴会。パルフェはそんな状況を見て、絶対に魔王城を手に入れると心に誓うのだった。




