脅威となる人
パルフェとディーテは魔王城周辺までやってきた。
この辺りは普段から空を黒い雲に覆われ、雷が鳴り響き、大地には草木の一本もないぬかるんだ大地。この世の終わりを連想させる場所ではある。
ただ、パルフェからするとあまりそんな感じはしない。ルナリアが支配していたというだけで、ただの演出なのかなとも思っている。そういうところにこだわりがあるのがルナリアだと信じて疑っていない。
「ここってルナリアさんがこうしてくれって言わなかった?」
「よく分かるね。まだルナリア君が魔王だったころの話だが、魔王が住む場所としてこれは譲れないと言っていたよ。色々話し合った結果、こうなったわけだね。花畑ではイメージに合わないので言われた通りに作っておいたよ」
パルフェは予想が当たったが特にうれしくはない。そんなことよりも魔王城ではどう戦うかも重要な要素となるので、色々と思案中だ。そもそも魔王城を攻略するときと防衛するときでは戦い方が違うと聞いている。
まずは攻略するときの戦い方になるが、そもそもどういうルールなのかもよく分かっていない。リックあたりに聞けばすぐに分かることだろうが、リーダーというかトラブルの当事者として任せきりなのは良くないとディーテに聞くことにした。それはそれで攻略サイトを見ているようなものだが、背に腹は代えられない。
「魔王城はどうすれば所有できるようになるのかな?」
「誰も支配してない状態なら魔王城の玉座の間、そこの玉座に座っていればいい」
「え? それだけ?」
「それだけでも難しいんだ。誰も支配してないなら玉座の間には悪魔系のモンスターがいるからね」
領地争奪戦のイベントでは一日に三回、一時間だけの戦闘が発生する。その戦闘が終わったときに玉座に座っていたプレイヤーが魔王城を支配することになる。
ただ、次の戦闘からは防衛戦が発生するため、無計画に魔王城を支配してしまうとその後の戦闘でボコボコにされるというのが、ある程度ゲームをやっているプレイヤー達の常識となっていた。
「誰かが支配している場合は、その相手を倒した上で戦闘が終わるまで玉座に座っていればいいんだ」
「ということは支配者を倒さずに玉座に座っていても意味はない?」
「その時点で支配者がどこにいるかによるね。玉座の間にいなければ支配者は倒されたと見なされる。その間に玉座に座られたらアウトだ。なので支配者は常に玉座の間にいて、さらには侵入者に勝利しないと防衛したとはいえない」
「なら玉座の間に来させないことができれば防衛は成功ってことでもいいの?」
「その通り。だが、玉座の間までのルートはいくつもあるし、玉座の間の手前は大勢で戦えるほど広い通路でもないんだ。玉座の間に来させないという戦略はルナリア君たちにも出来なかったからおすすめはしないね」
「そっかー」
ルナリアが魔王として何年も君臨できた理由の一つに玉座の間で一度も負けなかったと言うのもある。たとえ相手が複数人だろうと攻撃が一つも当たらない形で勝っていた。
玉座の間までの主要ルートには黒薔薇と黒騎士が陣取っており、よほどの精鋭でしか抜けることはできない。それをなんとか抜けても玉座の間にいるルナリアがチート級なので無理ゲーと言われていた。なので強制的に魔王を辞めさせられた経緯がある。
「パルフェ君の場合、ルナリア君たちと違ってかなりの人員がいる。毎回全員が参加できるわけではないだろうけど、玉座の間まで相当減らすことはできると思うよ」
「それはそうかも。ならどこで防衛するべきか調べておこうかな」
「それも含めてロザリエ君は魔王城の『掃除』をしているんだろうね」
パルフェは掃除という言葉にに「なるほど」と頷く。主要な目的はプレイヤー達をおびき寄せる囮ではあるが、徘徊している悪魔系のモンスターたちやプレイヤーたちが多くいると魔王城の見学もままならない。そういうことも含めてロザリエ達は魔王城で暴れている。
そしておびき寄せる作戦は功を奏しているのか、多くのプレイヤーが魔王城へ入ったり、遠巻きに見ている。
「なかなか大手のクランが集まっているじゃないか。これは過去最大の争奪戦になりそうだね」
「あんまりうれしくないなぁ」
「そうでもないよ。協力されたら困るけどほとんどが潰し合いだ。それにタウロスも味方のようなものだからね。すくなくともキャンサーと協力することはないし、まず間違いなく敵対する」
「あー、そうなるのかな?」
「なるね。タウロスは今回の件を継続はしているけど、キャンサーに継承権問題に巻き込まれた感がある。すくなくともタウロスの当主は怒り心頭でね、ガズ君にノース君を叩きのめせと指示しているようだ」
「……それ、どこ情報なの?」
「……パルフェ君が知るにはまだ早い情報源とだけ言っておこう」
どう考えても違法な情報源のような気はするが、そこに踏み込まないのが大人だと自分に言い聞かせるパルフェ。ディーテはコロニーを止めることさえやぶさかではない感じなので、情報くらい簡単に知ることができるのだ。
情報源はともかく、それはそれでありがたい話ではある。タウロスのガズも魔王城を狙ってくるのは間違いないが、ノースの邪魔をしてくれるというなら助かる。
その話題でパルフェはガズが言っていたことを思い出した。
「そういえばタウロスのガズさんが生産スキルを極めているみたいなんですけど」
「そうらしいね。なかなか見所があるよ」
「ディーテお姉ちゃん的には見所があるんだ?」
「ハヤト君と一緒という個人的な理由ではあるけどね。でも、そこまで脅威には感じないかな」
「え? そう?」
「別に一人が生産スキルを極める必要なんてないんだ。クランメンバーが生産スキルをそれぞれを分割して極めても結果はかわらないよ。いや、むしろ一人が極めたらデメリットの方が大きいね。ちなみにハヤト君を貶しているわけではないよ」
「うん、それは分かっているけど」
生産スキルを一人で極めることは可能だが、あまりメリットはない。複数の生産スキルを使用するレシピが存在するのでまったく必要ないとは言えないが、複数の生産スキルを使うと言っても多くて三つであり、全てを一人で極めるのは確実に戦力外になると同意だ。
「相手が脅威かどうかは生産スキルを極めているかじゃない。ハヤト君かどうかだ。敵にハヤト君がいると言うなら脅威だろうね。おそらくパルフェ君や私でも勝てないだろう」
「え? そうなるの?」
パルフェはここ最近、父親であるハヤトはすごいと良く聞くが、実際にはあまりピンと来ていない。普段、家ではのほほんとしている感じの穏やかな父親がそんな大層なことをしたとは何となく思えないのだ。
だからと言って評価が下がるわけではなく、自分にとっては良い父親なので尊敬もしているが、なぜか皆が言うイメージと合わない。本人も評価に変なフィルターが掛かってると言うほどだ。
もし戦いになった場合、パルフェは父親に勝てるとは思っている。だが、目の前のディーテはハヤトが敵なら勝てないとまで言った。
「ハヤト君の脅威は手を貸してくれる人が多いということだ。仮にだけどね、パルフェ君とハヤト君が戦うことになったらどちらに多くの人が付くか、と言う話になる。戦う事情にもよるだろうが、間違いなくパルフェ君よりもハヤト君の方を助ける人は多いと思うね」
「それは確かにそうかも」
今回、手を貸してくれる人たちは自分だけの知り合いもいるが、かなりの戦力になっているのは父親であるハヤトの伝手の方だ。純粋に伝手でチーム分けがされてしまうと、間違いなく戦力的に負ける。
「それにね、一対一での戦いだったとしてもだ。一回だけの勝負であればハヤト君が勝つ可能性が高い。私もハヤト君と一対一で戦って負けたことがある」
「ええ!?」
父親のハヤトと一対一で戦ったことがあるのも驚きだが、この世界の管理者で世界最高のAIであるディーテに勝っていると言うのも驚きだ。
パルフェが目を見開いているとディーテは優し気に微笑んだ。
「この話もしたことはあると思うけど、昔、私はハヤト君をこの世界に閉じ込めようとした。振られたけどね」
「あー、うん、それは聞いたことがあるよ」
「振られた腹いせにエシャ君たちを人質に取って消すと脅したり、二度とログインできないようにしたり、今度は逆にAFOからの排除を試みたんだけどね、ハヤト君はネイ君たちに力を借りて、私のいるところまで乗り込んできたんだ。ああ、あの時も魔王城だったな。本当に懐かしい」
本当の人間のように昔を懐かしむような表情をするディーテ。何をどう思い出しているのかは不明だが、とても大切な思い出なのだろうなとパルフェは思う。
「最終的にハヤト君と一対一で戦うことになった。ハヤト君は生産職らしい戦い方をしてね、私に一撃を入れた。あれはかなり痛かったよ」
「その割には嬉しそうだけど、そんなことがあったんだ?」
「ハヤト君を弱いと決めつけて情報収集を怠った上での敗北だ。絶対に辿り着けない状況にもできたのに、人間に負けるわけがないと思っていた驕りもあっただろう。あのまま私は消されてもおかしくはなかったが、ハヤト君はそこまでする気はなかったみたいでね、エシャ君たちを解放してくれと言ったよ。あの時のエシャ君たちはハヤト君にとってただのNPCでしかなかったんだけどね」
なんとなく説明を受けたことがある話ではあったが、事細かに聞いたのは今回が初めて。パルフェとしてはなぜか誇らしく感じた。その時の行動次第では今の状況はないのだ。
「ハヤト君は弱い。だが、それを本人が理解した上で相手の虚を突く戦いが上手い。スキル構成が同じだとしても、ハヤト君と同じことをガズ君はできないと思うね。だから脅威には感じない」
「なるほどー」
娘のパルフェとしては、父親を褒めすぎでは、と思うほどだが、そう言われて悪い気はしない。そして父親と同じスキル構成でアイテムも似たような物を持っていても、確かに脅威ではないのかも、と思えるようになった。
「それにね、ハヤト君が脅威になる理由はもう一つある」
「え? それは?」
「どんな事情があってもね、エシャ君は間違いなくハヤト君の側に付く。それはハヤト君以上に脅威だよ」
「それはすごく理解できる」
パルフェはエシャの戦いを見たことはないが、AFO内では伝説的なことばかりしていて、母親であるにも関わらず得体が知れない。イヴァンとルナリアを同時に倒したとか、財団のプレイヤーを躊躇なく撃ったとか、わけのわからないことをしている。
「おっと、昔話が過ぎたね。そろそろ魔王城へ乗り込もう。参加している大手クランを調べながら防衛時の配置なんかも考えようじゃないか」
「そうだね。難癖をつけられないように完全勝利しないと面倒なことが増えそうだしね。情報収集は大事だよ」
パルフェはそう言うとディーテと共に魔王城へと足を踏み入れるのだった。




