気心知れた仲
財団タウロスの次期当主オズと話をした三日後、パルフェは拠点で二人の人物を待っていた。
一人はAFOで最大規模を誇るクラン「バンディット」のリーダー、イングリッド。もう一人は百鬼夜行のイベントでよく一緒に戦うクラン「ナイツ・オブ・スイーツ」のリーダー、バルバラだ。
どちらも二十歳前後であり、パルフェからすれば姉のような存在。そんな二人がどんな関係なのかは不明だが、精霊祭のイベント時に二人が知り合いであることを知ったばかりだ。
そんな二人を同じ日に呼んでしまって大丈夫なのか心配ではある。仲が良いのか、それとも悪いのか、イベント時にはかなり本気で戦っていたのでよく分からないのだ。
時間が合う日が今日しかなく、さらに午後は修行が控えている。本来ならこちらから出向いて頭を下げてお願いする必要があるのだが、パルフェが忙しいのを分かっているのか、相手側から拠点へ行くと言ってくれたのでそれに甘えた状況だ。
また二人はパルフェの修行とやらに興味があるらしく、良ければ参加させてほしいという話もあった。もともとイングリッドはイヴァンに戦闘技術を教えてもらったこともあり、連絡を取ったら問題ないとのことで許可が出たという理由もある。
それは午後の話なのでまずはもてなしだとパルフェは準備を開始する。
その準備をしながら、一時間が経った頃、イングリッドとバルバラの二人が仲良くやってきた。実際に仲良くというよりかは一緒に来たというだけだが。
「イングリッドさん、バルバラさん、いらっしゃい」
「お招きいただきありがとうね」
「こっちもありがと。そこで会ったから一緒に来たよ」
挨拶を交わしてから二人を拠点へと招き入れる。
開店していたわけではないが、喫茶店のような造りに二人は「おー」とか「いいね!」と笑顔で言っている。いつかは猫カフェをやりたいという話もしているので、それを踏まえた上での評価にパルフェはちょっと嬉しくなった。
二人はある程度店内を見てからパルフェに促されてテーブルについた。そしてテーブルの上にこれでもかとお菓子や飲み物が置かれると、三人で食べ始める。
「それにしてもパルフェちゃんはいつも大変だねぇ。財団絡みで一番苦労してるのってパルフェちゃんだと思うよ。ロニオスさんの件とかさ」
「あはは、ロニオスさんの件はともかく、今回は本当に面倒ですよね」
「今回は前回のような無様な結果にならないように頑張るよ」
ロニオスがパルフェに絡んだとき、イングリッドは護衛としてその場にいたことがある。ただ、そのときはロニオスに瞬殺と言ってもいいほどの速さで負けた。
そんなこともあって改めて修行をしたイングリッドだが、今回はかなりやる気になっているとのことだった。さらに今回は単身の護衛と言うわけではなく、クランとしての参加なので負けられないとのことだ。
「財団絡みのトラブルなんて普通の人にはほとんどないんだけどね。そもそも接点が少ないから」
「でも、バルバラさんはイングリッドさんとお友達ですよね?」
「確かにそうだけどイングリッドが財団関係者なんて高校卒業まで知らなかったよ。そもそも一般の学校に来る財団関係者の方がレアだし」
「私はジョルト叔父さんにあこがれていたし、AFOのスタッフになりたいって思ってたから財団の教育を受ける必要がなかったんだって。それをわざわざ言う必要もなかったからなぁ」
「ああ、お二人は同級生ってことですか?」
パルフェがそう聞くと、二人は同時に頷いた。そしてバルバラが続けて口を開く。
「同級生でもあるけど、幼馴染でもあるね。小中高とずっとクラスも一緒だった」
「へぇ! そうだったんですね!」
パルフェにも幼馴染がいるので何となく親近感がわく。その幼馴染たちもパルフェのために頑張ってくれていると思うと、ちょっと泣けてくるが、色々終わったらお礼に何かしないとなーと色々計画を立てている。
「ならお二人ともずっと仲が良いんですね。精霊祭の時はかなり本気で戦っていたのでびっくりしましたけど」
パルフェがそう言うと、バルバラはなぜか暗い顔になる。イングリッドの方は苦笑いだ。
「パルフェちゃん、幼馴染だからと言って仲がいいとは限らないんだよ……!」
「バルバラさんはなんでそんなに怨嗟のこもった声を……? もしかして好きな人を取り合ったとか……?」
そんなドロドロな青春もあるかもしれないが、それは杞憂のようでバルバラは首を横に振った。そして睨むようにしてイングリッドの腹部を見る。
「見てよ、パルフェちゃん、このイングリッドのお腹を!」
かなり失礼な感じではあるが、バルバラがイングリッドの腹筋を指さす。
とても素晴らしい腹筋ではある。筋肉にはうるさいクリスがイングリッドを「筋肉の女神」と言うほどなので、相当なものなのだろうなとパルフェは思っている。
「ええと、それが……?」
「現実でもこれなんだよ!? 私とお菓子を食べる量がほとんど一緒なのに太らないの! 敵じゃね!? 女の子の敵じゃね!?」
バルバラの口調が変になるほどのことなのだろうが、当のイングリッドはまったく気にしてないのか、呆れた感じの目で紅茶を飲んでいる。
「私だって何もせずにこうじゃないんだけどねぇ」
「こちとらAFOで甘い物を食べて現実では食べないように頑張ってんだ! 毎日腹筋もしとるわい! それを、お前はよぉ……! 高校の時、私の前でアイス三段重ね食べたときはマジで殺意湧いた……! しかもチョコ、ストロベリー、メロンの三色……刑務所に入る覚悟したね!」
「あの、今、作りましょうか……?」
「……うん、お願い」
普段、頼れるお姉さんと言う感じのバルバラが砕けたというか壊れた感じになるのはある意味新鮮だ。そして口では仲は良くないと言っているが、パルフェからすれば仲良しに見える。
おそらくこちらがバルバラの素なのだろうとは思う。さらに、そういうのを見せることができる相手は貴重だよね、と思いつつ、パルフェもナツたちのことを思い出す。
(まあ、なっちゃんたちはもう少し素を隠した方が良いと思うけどさ)
それとも自分が知らないナツたちがいるのだろうかとちょっとだけもやっとすることを考えながら、バルバラのアイスを作り、それをバルバラに手渡した。
バルバラは何かが浄化されたのか、「おいしい……」とつぶやきながらアイスを食べている。
そしていきなり雑談が始まったが、まだちゃんとお願いをしていなかったことを思い出して、パルフェは佇まいを直した。
「イングリッドさん、バルバラさん、その、ちょっといいですか?」
いきなり雰囲気が変わったパルフェに、二人がぽかんとしているとパルフェは改めて口を開いた。
「では、改めまして。領地争奪戦でどうか手を貸してください」
そう言ってから頭を下げると、イングリッドが「頭をあげてよ、パルフェちゃん」と言った。
言われた通りに頭を上げると、二人とも少し照れ臭そうにしている。
「私の場合はさ、ジョルト叔父さんに頼まれたってのもあるけど、友人として手を貸すつもりだからお願いなんかしなくていいって」
「いい、パルフェちゃん。女の子ってのはね、同じテーブルで同じお菓子を食べたら血の契約を結んだと一緒だから。そんな契りを交わした仲間が困っているなら助けるに決まってるよ」
冗談なのか、本気なのか、それとも照れ隠しなのか、二人は照れ臭そうに言った。
友人や仲間と言ってくれた二人にパルフェは改めて感謝するように頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「ああ、頭を上げてよ。それにさ、ゲームで勝ったら縁談を申し込むって私の乙女心がギルティって叫んでる……! 男なら当たって砕けろ……!」
「それはバルバラに同意だね。パルフェちゃんは景品じゃないんだ。まあ、ルナリアさんもあまりにしつこいからそういう条件を出したんだろうけど、それに同意したキャンサーとタウロスにはがっかりだよ。そんなことはできないって言った方が好感度は上がるのにねぇ」
なにやら自分よりも怒っている感じの二人にちょっとありがたいと思ってしまうパルフェだ。
確かにルナリアが出した条件ではあるが、自分のことを考えて断ってくれた方がむしろ良い結果になった可能性が高い。それを考えると、二つの財団は初手から失敗しているような気がしないでもない。
「ところでパルフェちゃんは、困ってない?」
「困る? まあ、こんなことになって面倒だなって思いましたけど」
「そうじゃなくて、好きな男の子とかいないの? 縁談なんて話が出てたら彼氏が嫌がるんじゃないの?」
バルバラの問いにパルフェは飲みかけの紅茶をちょっと噴き出す。
「い、いえ、彼氏とかいませんから」
「ああ、そうなんだ? 好きな人とか彼氏がいるのにこんなことになってマジ許せんとかそういう感じではないんだ?」
「あー、そういうのはないですね」
実際にない。いまだに初恋もまだのお子様だと自認しているパルフェだ。なのでそういう困りごとは全くない。高校生なのにそれでいいのかと思うことはあるが。
「そっかー、今日はそういう話も聞こうと思ってたんだけど……残念」
「ははは、すみません。ちなみにお二人に彼氏とかは……?」
なぜか室内の温度が下がったような気がする。仮想現実なのに。
「パルフェちゃん、大人にはね、色々あるんだよ……!」
「はあ、確かに色々あるんでしょうね」
「確かに色々あったなぁ。あ、ならバルバラの高校生時代の話をしようか? 好きな人が出来た時に食事が喉を通らず、甘いお菓子しか食べられないって時期があって体重が臨界点を――」
「喧嘩か? 喧嘩売ってんのか? 私は相手が財団関係者だろうがやるときはやる女だぞ、くらぁ!」
「バルバラさん、口調口調」
仮想現実なのに温度差が激しく風邪を引きそうな感じではあるが、二人の知らない一面を見れてちょっと嬉しいパルフェだ。
そんな間違いなく仲が良さそうな二人が力を貸してくれるならかなりの戦力になる。パルフェは二人の気心知れた会話を聞きながら、そんな風に思うのだった。




