もう一人の次期当主
シンシア、カザトキ、リオンへ協力を依頼した数日後、パルフェはウィルネから拠点で待っていて欲しいとお願いされた。
会わせたい人がいるとのことだが、誰なのかは教えてもらっていない。ネイとの素材集めは順調であり、ルナリア、イヴァンとの修行も順調であるため、今日一日くらいは休んでも平気かとウィルネのお願いを聞くことにした。
それにパルフェはそろそろ一度休みたいと思っていた。
仮想現実でも修行という名の戦闘はかなり厳しい。そもそもルナリアもイヴァンも人の枠で収まっていないと言うほどの動きなので参考にならないことが多い。むしろ目が疲れるだけという気すらする。
その上、AFOで修行していると聞きつけたベニツルとシモンも本物の師匠や姉弟子ということで修行に参加してくれている。たまにルナリアとベニツルの模擬戦を見せてもらっているが、これまた参考にならないレベルだ。
一応、イヴァンとシモンがきちんと解説をしてくれるので理解はできるのだが、どう考えてもそんなことしてくる相手はいないので、本当に役に立つのかと疑っている。
とはいえ、異常な速度に慣れたのか、最近では周囲の動きが遅く思えてしまう場合もあり、動体視力が上がったのかと思えるほどにはなった。
また、修業とは別に戦闘訓練はネイたち黒龍との素材集めでも行われている。
ルナリアたちの修行が実践タイプだとすればネイたちとの素材集めの修行はゲーム的な戦闘の修行。ウェポンスキルなどの効率的な使い方やアイテムなどの使い方なども教えてもらえている。
領地争奪戦での対人戦は団体戦であり、戦闘方式はヴァーチャル。ゲーム的な戦闘も学ぶのは対策を学ぶということもあって、パルフェとしてはかなり参考になっていた。ゲームの仕様に基づく、現実とはまた違った戦い方に感動する場合もあるほどだ。
それらは順調であり、あとはクラン「ナイツ・オブ・スイーツ」と「バンディット」に挨拶に行く必要はあるが、そちらの予定も決まっていた。
なので今日は一日休暇と割り切り、パルフェは拠点でもてなしの準備をしながらウィルネとその相手を待っていた。
準備が整ったところで拠点の外からウィルネの声が聞こえた。
「パルフェさん、すみません、遅くなりました」
パルフェは「大丈夫だよ」と言いながら拠点の入り口のドアを開ける。
外にはなんだか疲れた感じのウィルネと銀髪の男性が立っていた。
サラサラの髪を後ろで少しまとめてた二十代後半の男性。初期装備ではないが、戦闘向きの装備ではなく防御力の低い服を着ている。またパルフェから見ると隙だらけで一瞬で勝てそうな印象を受けた。
こちらから話しかけていいのかどうか迷っていると、ウィルネが口を開く。
「こちらは財団タウロスの次期当主オズさんです」
「初めまして、オズです。今日はウィルネさんに無理を言って連れてきてもらいました」
丁寧な挨拶ではあるが、パルフェの警戒度が一気に上がる。
渦中の財団キャンサーとタウロス。一方的に迷惑をかけられている二つの財団のうち、その一つが拠点までやってきたのだ。同じ次期当主のウィルネに紹介を頼んでいるようなのでそれなりの礼儀ではあるのだろうが、パルフェとしてはなんだかなぁと思う相手だ。
追い返すのもウィルネの顔を潰すような気がしたパルフェはなんとか笑顔を作った。
「パルフェです。ええと、よろしければ中へどうぞ」
そう言って促すと、ウィルネがオズに向かって「分かっていますわね?」と言い、オズは「もちろんだよ」とにこやかにしている。
何の取引があったのかは不明だがウィルネがいるなら大丈夫だろうと、二人を椅子に座らせ、準備していた菓子や飲み物を用意する。
パルフェから見て全く強そうに見えないオズだがその所作は美しい。一般人には見えないその動きから次期当主であることはウィルネの言った通りなのだろうと納得する。
ただ、なんでここに来たのかは全く分からない。財団キャンサーのノースみたいに権力を振りかざすようならどうしてくれようと思うほどだ。
それに気づいたのか、ウィルネが口を開いた。
「オズさんがどうしてもパルフェさんに謝罪したいとおっしゃってまして」
「謝罪?」
「ええ、実は――」
「ウィルネさん、ここからは私が」
そう言ったオズは椅子に座ったままだが、パルフェに頭を下げた。その行動にパルフェの方が慌てる。
「今回の件、父のせいで変なことに巻き込んでしまった。本当に申し訳ない」
「ああ、いや、オズさんのせいじゃないので頭を上げてください」
今回の件の問題は財団キャンサーと財団タウロスがやらかした結果だ。その次に悪いとすればパルフェを後継者にすると普段から言っているルナリアであり、オズはむしろ巻き込まれた側と言ってもいい。同じ被害者として謝ってもらう必要はない。
頭を上げたオズは申し訳なさそうな顔をしてからもう一度「すまない」と言った。
「君みたいな若い子を巻き込んで何をしているんだと父を怒ったよ」
「そうだったんですか」
「それにね、父には紹介していなかったが私には将来を約束した婚約者がいる。今回のことでどれだけ婚約者に頭を下げたか……」
「それは、その、なんかすみません」
「いやいや、パルフェさんには全く関係ないことだよ。微塵も悪くないから気にしないで欲しい。これは父の失態だ。いくらキャンサーとはライバル関係だとはいえ、ろくに調査もせずに脊髄反射で統括に話を持っていくなんて――そろそろ隠居してもらうしかないね」
オズは優し気な表情を見せているがかなりの怒りがある模様。漫画なら背景に「ゴゴゴゴ……」という演出がされるだろうなとパルフェは思う。
ただ、オズの謝罪も本当に気持ちがこもっているような感じだったのでパルフェとしては全く問題ない。どちらかといえば巻き込まれたオズではなく、問題を起こしたタウロスの当主が謝りに来るべきだと思っている。とはいえ、その当主は各方面に謝罪にいっているらしい。なので自分の方にはオズが来たのだろうと解釈した。
「あの、謝罪の気持ちがあるのは分かりました。謝罪を受け入れますのでお気になさらずに」
「ありがとうパルフェさん、そう言ってもらえると助かるよ。ただ、今回の件、タウロス側が引くことはなくなったよ」
「といいますと?」
「こちらが勝ったらパルフェさんとお見合いをする話を継続するってことだね。ああ、もちろん、結婚を前提にとかいう話じゃない。さっきも言った通り私には婚約者がいるからね。勝負だけは続行と言う形だ。お見合いの方は断ってくれていい」
「ええと、ではなぜ?」
「ハヤトさんとエシャさんの娘であるパルフェさんと戦ってみたいからだね」
パルフェとしてはなぜ両親を強調する形で私と戦いたいと言ったのかが分からない。確かに両親は有名ではあるが、それはゲーム内の話であり、財団の次期当主がそれを気にするとは思えないのだ。
大量の銃を装備して戦う財団アリーズのルティの件もあるので、絶対にないとは言えないが、パルフェにはオズの事情が全く分からなかった。
「あの、私の両親を知っているんですか?」
「そうだね、私くらいの年齢でハヤトさんとエシャさんを知らない財団関係者はいないと思うよ。AFOをやっているかどうかは関係なくね」
「それはどういう……?」
「二十年以上前――財団リーブラがAFOの出資、開発を隠していた頃だ。AFOの技術を狙った財団スコーピオンの使者をエシャさんが返り討ちにしたって話がある。あくまでもAFO内での話だけどね」
「ええ……?」
「おっと、知らないのかな? なら簡単に説明するけど、当時の財団はまだ統括がいなかったから、各財団はかなりの権力を持っていた。財団関係者とそれ以外では王と平民くらいの差があっただろう。にもかかわらず、エシャさんはハヤトさんを守るために躊躇することなく使者を撃ったらしい。下手をすれば今はもうない最果てのコロニー『デッドエンド』送りになっていたかもしれないのにね」
オズはその説明を楽しそうにしている。詳しく聞くと、AFOの開発にハヤトが関わっていた可能性があると誤解されたとのこと。当時のハヤトとの関係は不明だが財団リーブラの次期当主であったネイのクランに所属していた経歴もあり、クラン戦争と呼ばれるイベントで上位に入り、さらには賞金を受け取っていたということもあって開発者の一人ではないかと疑われた。その引き抜きのためにハヤトに圧をかけたため、それを不満に思ったエシャが返り討ちにしたという。
というのが表向きの話であるが、それは情報操作の結果である。
実際にはAFOの正体を知っているスコーピオンの当主が過去の犯罪者であるレリックなどを言葉巧みに操り、ハヤト達を襲撃、人質にしようとした。スコーピオンはハヤトがAFOを管理しているAIのディーテと何かしらの関係があることを掴んでおり、ハヤトの身柄を確保してからディーテと交渉する予定だったのだ。
ただ、スコーピオンの使者がハヤトに言うことを聞かせようと傲慢な態度をとった。AFOの正体を知らないただの遣い走りだった使者は、ハヤトの生活や命を脅かすほどの圧をかけたことで、エシャがブチギレてベルゼーブで撃ったというのが真相だ。その事態を重く見たネイがAFOは自分が出資、開発したものだと公表し、その後も色々あって今に至っている。
オズは表向きの情報しか知らないが、結果的にエシャが使者を撃ったことは間違いない。そのため、当時のハヤトやエシャが財団に逆らったということが大きく印象に残った状態になっている。
「私は当時、五歳とかそこらだ。それでも衝撃的だったよ。まさか労働階級の人間が財団関係者に逆らったんだからね」
「聞いたことがあるような無いような……でも、すごいことをしてたんですね、うちの両親は」
「そうだね。そしてそんな二人を両親に持つパルフェさん、君とは状況関係なく戦ってみたいと思っていたんだよ。だから今回の件、そのまま続行ということにさせてもらったよ。もちろん、私が勝ったからと言ってお見合いみたいなことをする心配は不要だ。断ってくれていい。私は純粋にパルフェ君と戦ってみたいだけだからね」
「心配は不要とのことですが、すでに勝ったつもりなのですか? どう見ても強そうには見えませんが」
ウィルネが紅茶のカップを持ちながらそんな風に言うとオズはニヤリと笑う。
「私じゃパルフェさんに勝てないだろうね。でも、領地争奪戦は団体戦だ。私がパルフェさんに勝つ必要はない。勝利条件は魔王城を手に入れることだからね」
「それはそうですが……そもそも貴方は弱そうな装備しかしていません。AFOをしたことはあるのですか?」
「もちろんAFOはしているよ。もう十年近くね」
「え?」
パルフェとウィルネが同時に驚く。
二人の表情に気を良くしたのか、オズはテーブルの上に何かを置いた。武器かと思えばそれは包丁だった。
「これは『アダマンタイトの包丁・極』。ハヤトさんの持っている包丁と同じものだよ。この世界に五本とないレアアイテムだ」
「ええ? お父さんと同じ包丁……?」
「それだけじゃない。実はハヤトさんと同じスキル構成で生産系スキルを極めた。私自身は強くないが、私の仲間達の装備やアイテムは相当なものだと言っておくよ」
そう言ってオズはパルフェに笑顔を向けるのだった。




