後継者争い
昨日、財団キャンサー次期当主のノースから失礼な対応を受けたパルフェだが、怒りよりも面倒くささが前面に出てしまっている。正直なところ、こんなことでもなければ一生関わりたくない相手だ。
さて今日はどうするかと思ったところで久々にウィルネから話をしたいと連絡が来た。これからログインするので拠点で待っていて欲しいとのこと。ならばもてなしの準備をして待とうと色々と作り始めた。
最近はAFOでもリアルな料理の方に凝っている。現実と違いはあれど、高級食材を扱えるという意味で練習になるからだ。しかもちゃんと作れれば味も良い。現実で猫カフェを経営するためにも練習あるのみだと頑張っている。
ちょうどフルーツ盛りだくさんのパフェが出来たところでウィルネがログインしてきた。
「お久しぶりです、パルフェさん」
「うん、久しぶり。そっちの修行はどう?」
各メンバーは今度のイベントのために各自修行をしている。ウィルネはロニオスから剣技を学んでいるようで充実した日々を送っているとメールを貰っているが、実際のところはどうなのかと尋ねてみた。
ただ、ウィルネの答えを聞くまでもなく、その笑顔で大体のことが分かった。
「大変充実しております。普段、いい加減な感じのロニオス様ですが、今回に限ってはかなり本気のようでして指導にも熱が入っていますね」
「あのロニオスさんが」
「自分が本気を出すと物事が失敗するから私に任せるとも言ってましたけど」
「難儀な人だよねぇ」
財団ジェミニの当主に対してそんな風に言ってはいけないのだろうが、普段が普段なのでかなり砕けた言い方をした。
ロニオスは優秀なのだが手を抜いている方が物事がうまくいく。逆に本気を出すと状況が刻一刻と悪くなり、最終的には失敗するという因果をもっている。
なので、ロニオス本人は領地争奪戦にはまったく手を出さず、ウィルネに全部任せるという形になっているようで、その指導に熱が入っているとのことだった。
パルフェとしてはその指導に問題がでないかかなり心配ではあるが、ウィルネを見ている限りは大丈夫そうではあった。
近況報告を済ませた後、テーブルの上にお菓子や飲み物、そして渾身の作品であるパフェを置く。そしてそれぞれが一口食べてからパルフェの方から切り出した。
「ところで話がしたいって何かな? 指導のことじゃないんだよね?」
「ええ、今回の敵とも言うべき相手と接触があったと聞きましたので」
「ああ、そのこと。財団キャンサーのノースさんって人に会ったね。正直、関わりたくない部類の人だったなぁ」
一言でいえば面倒くさそう。そして格下に対してあんな態度しかとれないとはどんな教育を受けたんだろうと心配になるレベル。実際にはなさそうだが、権力がなくなったらその日のうちに報復で危険な目に遭いそうな感じの人物ではあった。
一応、同格のブレイクに対してはそれなりの対応をしていたようだが、他の財団の血族かそうでないかの違いだけの様子。その割には財団統括のルナリアに対してはそこまで敬意があったようにも思えないので正直微妙というのがパルフェの評価だ。
「近くにブレイクさんがいらして本当によかったです。いなかったら圧力をかけて来たでしょうから。まあ、パルフェさんならそんな圧力を撥ね退けるでしょうけど」
「物理的な圧力ならいくらでも撥ね退けるんだけどねぇ」
攻撃をされたら反撃するまでの話。だが、権力を持ち出されたら微妙ではある。パルフェには多くの財団関係者がいるのでそれすらも撥ね退けられそうではあるが。
「もしかしてそれが心配で来てくれたのかな?」
「確かにそれもありますね。私はあまり詳しくはありませんが、ノースさんとやらはあまり評判が良くありませんので」
「それもある? ならメインはどんな話?」
「財団の話です。財団キャンサーが色々と面倒なことになっているのですが、それが今回の件を引き起こしているようでして説明しておこうかと。興味がなければやめておきますけど」
「興味ないというか関わりたくないけど、一応聞いておこうかな。聞いたところで勝ちを譲るようなつもりもないし」
「それがいいです。無駄な情報だとは思うのですが、当事者のパルフェさんとしては知っておいても良いかと」
そこまで言ったウィルネは一度紅茶で喉を潤してから、改めて口を開いた。
「簡単に言えば今回の件は財団キャンサーの継承者争いですね」
「継承者争い……財団の中でしかなさそうな話だね」
ウィルネの話では、財団キャンサーの次期当主はノースで決まりではない。あくまでも次期当主候補であって、確定しているわけではないということが今回の騒動を巻き起こしている。
ノースは財団本家の長男で継承権第一位であることは間違いない。だが、他の候補に本家次男、長女、そして分家の中でも最上位である血族の長男がいる。
候補の中で最も能力が低く、人望がないのがノース。このことで財団キャンサーは揉めに揉めている。今や財団が分裂しそうなほどの問題になっており、それぞれの候補を持ち上げる派閥に分かれている状況となっていた。
ノースを推しているのは現当主の夫人。ノース本人もその気ではあるのだが、派閥の中では弱小。他の当主候補はほぼ均衡している。そして現当主が推している人物は不明とのことらしい。
「へぇ、次期当主って現当主が決めるものだと思ってたよ」
「当主の鶴の一声で決める財団もあります。ウチなんかそうですね。ロニオス様が私を指名して、それで決まりです。本家が絶対のところもありますし、血族から最も優秀な者を選ぶ場合もあります。各財団で違いますが今のところ問題はありませんでした。ですが今回は大きな問題となってまして」
「財団が分裂するとなったらそれは問題だね」
パルフェからすれば完全に他人事なのだが、財団のバランスが崩れるのはまずいというのがある。キャンサーは防衛技術が優れた財団であり、そこが分裂状態になるのは他の財団が危険になる可能性もある。
「そして今回、一発逆転を狙った内容というのが次期財団統括候補ともいうべきパルフェさんとの婚姻ですね。現当主の夫人による暴走と言えばいいでしょうか」
「私とお見合いするだけで結婚できると思ってるの?」
「こういう言い方は良くありませんが、現当主の夫人とノースさんは少々、いえ、大きく視野が狭い――つまり馬鹿なので、お見合いをしてしまえばパルフェさんが結婚しないわけないと思っているようです。本当に馬鹿ですね」
二回も言うとは相当なのだろうとパルフェは思う。とはいえ、そのノースに会って話をした限りではパルフェも同意見だ。
「そして一番の問題は――」
「まだあるの?」
「はい、問題はこれからです。実を言うとこれが分かったのがつい昨日なのです」
「え?」
「おそらくパルフェさんがノースさんに会う少し前。ブレイクさんが知っていたかは微妙なところですね」
「きな臭いとは言っていたけど、そんな状況だったんだね」
「それで一番の問題ですが、財団キャンサーの後継者争いに多くの財団と財団統括が巻き込まれた形ということです。各財団はそれはもう怒り心頭でして、下手をしたらコロニーの一つや二つ消えていたかもしれません」
「いやいや、怖いってば。ディーテお姉ちゃんじゃあるまいし」
「ディーテさんは事情云々に関わらずパルフェさんを巻き込んでいる時点で怒ってますから大丈夫です。ただ、事情を知った財団タウロスは相当お怒りです。AFOに関係していなかった財団ということで、後れを取ってはいけないとキャンサーの後にパルフェさんへの縁談希望を伝えてきましたからね。これが分かっていたら各財団から怒りを買うような行為をしなかったと言っています」
当事者よりも他が怒っているので意外と冷静になれたパルフェ。パルフェとしてはこれが判明したことでどうなるのかという疑問が当然でる。
「となると、今回のことってどうなるのかな? もしかして縁談の話はなくなった?」
「いえ、それは継続のようです。事情は判明しましたが、今更それを取り下げることはできないと通達があったようで」
「そうなんだ」
パルフェとしてはちょっと残念ではあるが、多くの財団を巻き込んでいる以上、いまさらやっぱりなしというのはないと言うことになった。色々と準備もしているのでいきなり梯子を外されても困るのはパルフェも同じなのでそこを残念とは思わない。
ただ、巻き込まれた方はどうなるのか。財団タウロスの次期当主とは会っていないが、その心中を思うとパルフェは同情する。話を聞いた限り、完全に巻き込まれた立場というほどでもないが、不本意であったことは間違いない。
「財団タウロス側は怒っているって言ってたけど、どんな感じなのかな?」
「現当主はそれを見抜けなかった自分が恥ずかしいという状況のようですね。どこも知らない情報であったので立場的には他の財団と同じなのですが、今回の件で各財団に頭を下げに行っているようです」
「あー、そうなるんだ?」
「はい。ただ、パルフェさんと勝負に関しては全力で挑ませるとも言っているようです。そのお詫びでもありますね」
「転んでもタダじゃ起きないってことかなぁ」
諦めてくれても良かったのだが、勝負は続行の様子。ここまできたら何かしら元を取らないとやってられないという意識なのかもしれないとパルフェは思う。
「私からの情報は以上です。事情は説明しましたが基本的には何も変わっていません。正々堂々ぶちのめして魔王城を手に入れましょう」
「ちょっと過激だけど気持ち的にはそうだね。どれだけ暴れても許される気がしてきたよ。いや、むしろ暴れるね!」
タウロスの方はともかく、キャンサー側に同情する要素は何もない。むしろ必要以上にボコボコにしてやろうという気持ちの方が上だ。継承者争いというパルフェにとって何のかかわりもないことに巻き込まれたのだからそれくらいは許されるはず。
事情を聞いて、逆にやる気が出てきたとパルフェはちょっと悪い笑みを浮かべるのだった。




